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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第4章 3人のダイヤモンドグレード
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48 到着、海中都市グレイトフォール!

「すっご……すごい、すごい、すごい!!」


 僕は興奮して叫んでいた。

 甲板の上、手すりから身を乗り出す。

 潮風が吹いてきて僕の髪をかき上げていく。


 僕らの乗っている大型交易船は海のど真ん中を走っていた。帆を広げて、風をいっぱいはらんで。

 向かう先に、陸はない。

 だけどそこに町があることはわかった。


 なぜなら——巨大な円を描いて、海水が吸い込まれているからだ。


 威容を誇る大瀑布(グレイトフォール)

 滝の中心には縦に縦にとそびえ立つ立体都市が展開している。

 どうも広範囲にわたった円形が、一段——とは言っても数十メートル——下がって、その下にも同じように海がある。

 とんでもなくデカイ巨人が海に拳を叩きつけて、そこだけ凹んでる感じ?

 で、凹んだところ——「内海」へは海水がどばどばと滝のように落ちている。

 内海には複雑な海流があって、どこかに海水は排出されるので滝が止まることはないようだ。この辺のメカニズムは解明されていない。

 実際内海にはいくつもの渦が巻いていて、どんな船でも入り込めば吸い込まれて二度と出てこられない……そんな場所もある。


 内海の中心に陸があって、その陸を使って建物が建てられている。

 土地が限られているから上に伸びるしかないのだ。

 最高で、地上30階まであるというから驚きだ。


 まるで複雑に絡み合ったツタが、多く集まって巨木を形成しているみたいだ。

 人工の世界樹。

 こんな狭い土地に、6万人もの市民が生活しているという。

 トタン屋根と板だけでできた家もあれば、石造りのタワーもある。種々雑多な建築様式が入り乱れている。


 そんなグレイトフォールに進入するには、滝を下るしかない。滝は、3カ所だけ侵入口があり、同様に3カ所だけ出口がある。

 斜めに切れ込むように水路ができているのだ。

 逆に、出口では海水は上へ上へと流れていく。


「す、すごーい!」


 僕の横ではエリーゼもはしゃいだ声を上げている。たまに思うけど、この人ほんとうに二十代なんだろうか? 僕とやってることそんなに変わらないんだけど。


 僕らを乗せた客船は、海の坂を滑り降りていく。その横を、逆に登っていく船とすれ違う。

 もうね、違和感しかない。


「おーい!」


 向こうの船でこちらに向かって手を振っている人たち。僕が手を振り返していると、エリーゼもちぎれんばかりに腕を振っていた。やはり子どもか。


 船が降りていくと、今度はピィーと高い音が聞こえる。

 それこそがグレイトフォールの遺跡、「青海溝」へと冒険者を運ぶ列車。

「海中列車」だ。


 海中列車は海上を走っている。

 車輪は石炭による熱と蒸気、それに魔力で運行している。

 線路は海上を渡され——固定されず、浮かんでいるらしい——軽量化した海中列車は走っていき、大瀑布の切れ目、そこにある洞窟に吸い込まれていく。

「青海溝」遺跡へ団体様ご案内〜ってなもんだ。

 この海中列車は8本、稼働している。




「ここか……」


 僕はついにグレイトフォールに降り立った。

 地面はほとんど露出していない。

 すぐに階段があり——数十人がすれ違えるとんでもなく広い階段——町の奥へ奥へとつながっていた。

 少額、両替しておいたので、売っていた町の案内図を購入する。1,000ゴルド。グレイトフォールが所属するリンメイ公国の統一通貨で、1ゲムは20ゴルドくらいだ。

 僕らはまず冒険者協会へと向かった。


 そびえる建物に圧倒されながら、立体迷路になりつつある街中を移動していく。

 大通りの他は、とにかく狭い。そして人が多い。

 馬車なんかがほとんどいないからまだマシなんだけど、かといって歩き回るのも大変だ。

 グレイトフォールは遺跡と鉱物の町だ。この町で食料や製品を製造していることはない。だから町行く人も、冒険者然とした人たちが多いね。


 グレイトフォール冒険者協会は、町の中心に位置していた。

 とんでもなくデカイ……。

 建物は円柱状になっていて、外側をぐるりと大通りが囲んでいる。


「グレイトフォール冒険者協会 鉱石・鉱脈部門」

「グレイトフォール冒険者協会 遺跡部門」


 建物は半分で分かれているらしく、入口も別だった。

 もちろん遺跡部門に向かう。


「はいはーい。なにかご用ですかー……っと、これまた小さいお客さんだねー!」


 受付のお姉さんにいきなりそんなことを言われる。

 ストームゲートよりずっと広い(僕から見たらストームゲートの冒険者協会だって十分広かった)。

 しかもこれと同じ建物がもうひとつあるのだ。


 1階はロビーになっていて、ストームゲートみたいに飲食は提供されていないけど、テーブルやイスがある。

 そして大量の張り紙……遺跡や依頼に関する情報だろう。


「あのー、オークションのことを聞きたいんですが」

「はいはい。やってるよ。でもねー、ごめんね。参加できるのは特別に招待された人か宝石(ジュエル)グレード以上の冒険者だけなんだよね」


 ほんとうに申し訳なさそうに言う。

 長髪をバンダナで覆っている。

 よく見るとバンダナの中でぴくぴく動いているものがある。

 亜人なんだろうか。動物耳の。

 耳も、髪に隠れてないだけかと思ったけど動物耳があるから人間と同じところに耳はないのかも……。


「あ、はい。大丈夫です。一応宝石グレードなので」

「え?」


 お姉さんは僕を見て、後ろに立っているメイド姿のリンゴを見て、その横で物珍しげにきょろきょろしているエリーゼを見る。


「誰が?」

「僕が」

「え?」


 今度は僕をまじまじと見る。

 や、やだなあ。

 移動中、ほとんど身体も洗えなかったから、正直汚いんですよ、僕。


 いちいち確認が面倒なので冒険者認定証を差し出した。


「どれどれ、ムクドリ共和国発行——」


 お姉さんが凍りついて、3秒後、


「ダイヤモンドグレードぉぉぉおおおおおおおおおおお!?」




 ものすごい視線が集まった。

 フロア中の冒険者がこっち見てる。

 でもってお姉さんはものすごいのけぞって、のけぞったまま硬直している。


「ししししかもストームゲートのダイヤモンドグレードまで記録されてるじゃないの!? あああ! あなたもしかして——」

「もしかしなくても認定証に名前書いてあるんですけど……」

「そうだった! ノロット! 冒険者ノロット! 2つの伝説級遺跡『魔剣士モラの翡翠回廊』と『黄金の煉獄門』を立て続けに踏破した!!」


 これはトドメだった。

 半信半疑でこっちを見ていた冒険者たちは、一気に集まってくる。


「マジかよ」

「まだ子どもだな……」

「『黄金の煉獄門』って踏破されたの? いつ?」

「最新の新聞に出てるぞ」

「偽造じゃねえのか、その認定証」

「だよなあ」


「ごほん。お静まりください、皆さん」


 いきなり偉そうにお姉さんはそんなことを言うと、両手を挙げて見せた。


「この冒険者認定証は本物です。断言します。こちらのお方は冒険者ノロット様です」


 おお〜〜……と声が上がってぱちぱちぱちと拍手。

 さっきまであなたが一番疑ってませんでしたっけ?


「なんなのこいつら」

「ご主人様を表面でしか理解できないとは……愚かな」


 エリーゼとリンゴがなんか言ってる。お願いだからケンカは売らないで。エリーゼも加わってそういうリスクが2倍になった気がする。


「それでノロット様、グレイトフォール冒険者協会へようこそおいでくださいました。ご用件をうかがいます——」

「あのー、だからオークションに……」

「——と言いたいところですが、実はちょうど5日前」


 聞けよ。僕の話。


「『青海溝』の伝説級遺跡『63番ルート』は踏破されましたのでございます」


 へえー。

 と思ったけど、僕の目的はオークションなんだよ……。




 それからいろいろ話が錯綜してようやく、僕はオークションへの参加権を手に入れた。

 ちなみにタレイドさんからもらったキンキラキンのプレート——「小切手」と呼ぶらしい——は、もちろんここでも換金可能ということだった。

 200万ゲムは、当然4,000万ゴルドになる。

 よんせんまんて。

 金貨にしても重いだけなので、お金が必要になったら換金してくださいと言われた。


 で、肝心のオークション。

 すでにオークションは始まっているみたい。

 で、運がいいことには「魔女の羅針盤」は今夜出品されるということだった。いや、あんまりぎりぎりだったから運が悪いとも言えるかな……。


「では、ご主人様ひとりで参加なさいますか?」


 宿の1室に僕らはいた。冒険者協会が薦めてくれたところで、結構なお値段がする。でもダイヤモンドグレードともなるとこれくらいの宿に泊まらなくちゃいけないらしい。

 広いのはもちろん、大瀑布を眺められる部屋になっている。


「そうだねえ……なんか、オークション前のパーティーに参加しなくちゃいけないみたいだし、正装してこいってことだからモラも連れて行けないし……」


 他にも冒険者がいっぱい来るみたいだけど、どうも宝石グレードの冒険者は特別扱いみたいで、冒険者自身にもそういう振る舞いが求められるみたい。

 すりきれた旅装をしていちゃダメなんだとか。

 不安だ。


 ちなみにダイヤモンドグレードは僕以外にも2人、滞在しているらしい。

 僕は都市スケールで減算されるかと思ったけど、ストームゲートとグレイトフォールは友好都市らしく、減算ナシだった。


「じゃあ、あたしついてく!」

「——ひとりは心細いけど、がんばるよ」

「——ご主人様ならおひとりでも立派に『魔女の羅針盤』を落札できますわ」

「だからー、あたしがいっしょに行ってあげるって!」

「——ありがとうリンゴ」

「——当然のことを申し上げたまでです」

「え、なんで華麗にスルーされてるの?」


 エリーゼがむすっとした顔をする。


「だって……エリーゼを連れて行ったらなにするかわからないしさあ……」

「むむむむ! どーゆーことよ! いいわよ、それならノロットひとりで行ってきたら!?」


 エリーゼは肩を怒らせて部屋から出て行ってしまった。


「おィ、ノロットォ……一応エリーゼも女なんだからよォ……」


 モラが呆れたように言った。

 フォローしなかったくせに。




 夕方になった。

 僕はひとりで案内状に書かれた場所へと向かう。


「うぇ……こ、ここ?」


 そこはとんでもないところだった。

 夕闇に沈んでいく町の中で、この場所だけは光が途切れない。


 煌々と照らされる明かりは魔法宝石から抽出される光魔法だ。

 彫像がエントランスを支えていて、中からはさらに明るい光がこぼれている。

 この町にはほとんどないはずの馬車がやってきては、タキシードを着た男性が降り、イブニングドレスに身を包んだ女性をエスコートする。

 人間だけじゃなく、亜人も多い。ネコミミイヌミミウサギミミ。


 アレだ。場違いだ。僕浮きすぎ。


 くるりと回れ右して帰ろうとしたとき、


「ノロット様……でいらっしゃいますか?」


 ぎくりと立ち止まる。

 オークション会場から出てきた係員が僕を呼び止める。


「……ひ、ひゃい」


 変な声が出た。


「おお、やはり! 皆様、道をお開けください。冒険者ダイヤモンドグレード、ノロット様がご到着です。……ささ、ノロット様。お着替えは中に用意してありますので」


 すんごい注目された。

 いまだ冒険者然とした格好のままだった僕は、肩身の狭い思いをしながらきらきらする光に飛び込んだ。

 やっぱりひとりで来なきゃよかったかも……不安で胃が痛くなってきた気がする……。


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