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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第2章 黄金の煉獄門

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40 黄金の煉獄門 第2階層(6)

 ここから先はマップは要らない。生活に必要なあれこれも持っていかなくていい。僕はなるべく身軽にするべく、少々の保存食と水筒、それにパチンコや小物だけを装備した。

 ゴーレムは、黒の壁を破るのが無理だと察したのか、先ほどから攻撃は止んでいる。とはいえ油断できるわけじゃないけど。


 意識を失ったモラは弱々しく息をしている。

 リンゴの肌はただでさえ白いのに、今は蒼白だ。かすかに生命の反応があるだけだ。


「……ほんとうに行くのか」

「ええ」

「無理をしなくていいんだぞ……お前もいっしょに帰るという選択肢だって」

「……ありがとうございます。ラクサさんの言うことももっともだと思いますよ」


 ほんとにそのとおりだ。

 モラとリンゴを助けるためにすぐさま帰るという選択だってできる。

 でもね。


「モラは言ったんです。最奥に行け、って。そして魔法宝石を持ってきてくれ、って。僕を信用してくれたんです。だから、行かなきゃ」

「……そうか」


 ラクサさんは、腰に吊った道具袋からなにか金属の棒をいくつか取り出した。


「解錠ツールだ。最奥に行くのなら必要になるだろう」

「ありがとうございます」


 使い込まれた真鍮製のツール。ラクサさんにとっても思い入れのあるものに違いない。でも渡してくれた。


「気をつけてな、リーダー」

「はい。タラクトさんも、ふたりをよろしくお願いします」


 タラクトさんから手渡されたランタン。

 通路の先に待ち受けているのはただ、闇だ。


 ――さっきみたいにゴーレムが出てきたら……。


 ダメだ。ダメダメ。悪い事態を想像したら足がすくんじゃう。

 僕は一歩を踏み出した。

 コトリ。コトリ。足音が通路に響いていく。どれくらい歩いたのか、すぐにわからなくなる。しばらく歩いて振り返ると、もう、モラたちのいる場所のランタンは遠くにぽつりと小さな光になっていた。

 角を曲がるとその光すら見えなくなった。


 僕はモラといっしょにこの遺跡について検討した。

 その結果が、今こうして僕が単独で行動することにつながっている。


 この遺跡、「黄金の煉獄門」は宗教施設だ。

 第1階層に描かれていた壁画のとおり、この施設は人々――死者のためのものだと思う。


 最初の絵――建物に集まってくる人々の絵は、この遺跡にやってくる死者を指している。


 僕が「ダンス」と表現した人々が群れている2枚目の絵は、第1階層を示している。この施設を訪れた死者たちが集う場所だ。

 人々の上に描かれていた大きな人間は、施設の偉い人間――たぶん、だけどジ=ル=ゾーイその人だ。


 そこから続く戦うようなシーン。剣と魔法で戦う25ものシーンは、第2階層だ。

 あの絵には「敵」がなかった。どうしてなかったのか――それは第2階層にはモンスターがいないから。

 まあ、ゴーレムがいたけど、これは単に魔力が溜まった結果生まれた魔導モンスターなわけで。この施設ができた当時にはいなかった。

 第2階層は試練の場なんだ。ジ=ル=ゾーイの教えを受けるにふさわしい者かどうか、試される場所なんだ。


 そして第3階層は――。


「……最後の部屋だ」


 僕はようやく、小部屋にたどりついた。

 部屋の中央には祭壇のようなものがあるけど、それだけだ。どこにも出口はない。

 他に生き物やモンスターの気配はなかった。


 とりあえず僕は祭壇へと近づく。

 僕の胸くらいの高さである台。

 六本の金属製の棒が立っていて、上に屋根が架されている。

 中央にあるのは金属製の壺みたいだった。ホコリをかぶっている。


 僕は台の周囲に文字が彫られているのを確認した。ジ=ル=ゾーイの置換文字だ。置換の文字表は手元にある。僕は表を使って内容を確認する。


『すべての試練を成し遂げた、道を求める者よ、よくぞここまでたどりついた。壺にある●●●は●●と●●●を配合したもので、さらなる徳を高める効果がある。まず下の把手を回し……』


 ●に入る言葉は判別不能だった。なにか特殊な用語みたいだ。

 ともかく僕は指示に従って台に取り付けられていた把手を回す。ゴリ……ゴリゴリ……と力を込めるとゆっくり動く。


「あ……」


 ボワ、と火が点いた。壺の中だ。

 把手から手を離しても火は消えない。

 よく見ていると壺から煙が出る。もくもくと――。


「……このニオイ、やっぱり――お香だ」


 僕は覚えていた。ストームゲート公文書館にあった文献のいくつかに、香のかおりがついていたことを。ほんとうにかすかだったけどね。

 その記憶と、このニオイは、一致している。


 壺からの煙は小さな部屋に充満する。僕の身体も煙まみれになってお香のニオイが身体に染みつく。だんだんと火勢は弱まっていって――やがて火が消える。

 と同時に、壁の一部が地響きとともに開いた。

 奥へと続く通路が出現した。


 ここまでは僕らの推論通りだ。

 ここからも推論通りに行くのか――それが肝心だった。


 僕は小部屋を出る。

 すぐに、左右に分岐が現れるけれど、これらは、一番最初の分岐からやってくる残り2つのルートのはずだ。

 僕らが通った「一番難しい」ルートを選ばなくてもここまで来ることはできる。

 ただ、その2つのルートにはあるものがない。それは――僕がたった今通ってきた「香」を焚く部屋だ。


 僕は進む。

 やがて見えてくる。

 下りの階段が。


「第3階層だ……」


 空気の通り抜ける、オオォォ……という音が僕の耳に聞こえていた。


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