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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第2章 黄金の煉獄門

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39 黄金の煉獄門 第2階層(5)

 現れたのはほぼ同型のゴーレム。

 僕はゴーレムを見たのも戦うのも初めてだけど――こいつが楽な相手じゃないってことはわかる。

 モラが魔法で出現させた岩壁をたやすく砕いたんだ。

 モラが得意としている地殻魔法なのに――。


「ど、どど、どうする……? 逃げるか……?」


 タラクトさんの声が震えている。

 逃げるという選択肢はもちろんある。僕らの背後、通路を引き返せばいいんだ。通ってきた道だから帰りも迷わない。

 でも……トラップが再稼働していたらアウトだ。その通路で追い詰められて終わりだ。


「戦うしかねェだろォ……」


 僕の考えを読んだようにモラが言う。


「とにかく1体は倒すンでェ! そうしたら奥に行ける――」


 ちらりとモラが僕を見る。

 なにかを言いたげに――その意図を僕は理解した。


 この先、おそらく第2階層最後の部屋。

 漂ってくるニオイで僕も、ほぼ確信している。

 トラップ部屋じゃない。


 もちろん第3階層までゴーレムが追ってこないとは限らないけど、とにかく1体を倒せば戻るのではなく先に逃げることができる。


「ラクサ! 1体引っ張れるかァ!?」

「や、やってみる」


 ラクサさんは奥から現れたゴーレムにひとりで対峙する。こちらの部屋に誘い込む作戦だ。

 一方でモラとリンゴは部屋にいたゴーレムへと向かう。


『大地の精霊よ、俺っちの呼びかけを耳ン穴かっぽじってよォく聞けィ――』


「ハアアアッ!!」


 モラが詠唱を始める。その間を埋めるようにリンゴがゴーレムへと走る。ゴーレムはリンゴに振り下ろしの一撃を放つ。横に跳んだリンゴは着地からスムーズに駈けるとゴーレムの軸足に鋭い蹴りを入れた。


「――っく」


 鈍く重い音が響き渡ると同時に、リンゴの表情が歪む。ダメージはほとんど入ってない。ゴーレムが軽く震えただけだ。

 リンゴの怪力は相当なものだ。おそらく今だって手加減していない。それなのにダメージが入らない――。


「リンゴ、避けてっ!」


 退こうとしたリンゴに向けて、薙ぎ払うようなゴーレムの一撃。あの巨体であるにも関わらず空を切る音が聞こえるほどの速度。リンゴのスカートの裾が引っかかる。力任せにぶん投げられたリンゴは10メートル以上転がる。


『――魔剣士モラの名の下に大地の憤怒を解き放てェ――――!!』


 詠唱完了。

 モラの身体が金色に輝くや――ゴーレムを中心に、地面に円状の亀裂が走る。

 瞬間、遠巻きに見守っていた僕の身体もぐらりと揺れたほどの震動。床が変形し、無数の針が――針と言っても1本が僕の身体くらいある――空へと突き出してゴーレムを串刺しにする。

 ガレキとガレキのぶつかり合い。身体の芯まで響くような重低音が部屋に満ちる。

 ゴーレムを構成するガレキが吹っ飛んでいく。まるで爆散したかのように見える。倒した……のか?


「リーダー、こっちだ!」


 タラクトさんの声。

 ラクサさんのぶんまで荷物を抱えたタラクトさんは奥へと続く通路を示す。ラクサさんはかなり上手にゴーレムを引きつけていて、どんどん離れていく。

 僕は走る。ぜえぜえと肩で息をつくモラをひっつかむ。リンゴが起き上がる。こちらに気づいて走り出す――足を引きずっている。さっきの攻撃でおかしくしたのかもしれない。それでもかなりの速度が出ている。

 タラクトさんとともに僕は通路へと入った。広い通路だ。さすがゴーレムが出てこられるだけはある。


 そして、あのニオイが濃くなる。


「ラクサぁっ! こっちに、速く!」


 タラクトさんが腕を振る。リンゴが通路へと入る。遠目に、うなずいたラクサさんがゴーレムになにかを投げつける。白い煙がぶわっと広がる――煙幕だ。一瞬の目くらましでゴーレムはラクサさんを見失う。その隙にラクサさんは逃げる。こちらへと走ってくる。


「大丈夫? リンゴ」

「申し訳ありません、ご主人様。かわせると思ったのですが――」


 そのときリンゴは振り返った。


 ラクサさんが走ってくる。

 ゴーレムはまだ煙幕にやられている。十分な距離を稼いでいる。


 なのに、どうしてだ?


 どうしてゴーレムが走るような地響きが聞こえてくる?


 リンゴが走り出した。通路から飛び出した。走り寄るラクサさんの腕をつかむとこちらへとぶん投げた。

 通路へ滑り込んでくるラクサさん。

 リンゴの前に現れた――ぼろぼろのガレキで構成されたゴーレム。


 倒し、きれなかったゴーレム。


 ゴーレムの一撃が横薙ぎに放たれる。

 走ろうとしたリンゴは足が動かない。さっきの攻撃で負傷しているからだ。

 リンゴは腕で防御するものの吹っ飛ばされる。

 僕らの横、通路の壁にぶち当たり、バウンドした身体はタラクトさんを巻き込んで倒れる。


 ゴーレムがこちらに照準を合わせる。


 ゴーレムがこちらに走ってくる。


黒の壁よチョールナヤクリムリャ!!』


 モラがとっさに発した短縮詠唱は、ゴーレムが通路に滑り込む鼻先に、黒い壁を出現させた。

 表面に艶のない漆黒の壁。ゴォォン……とゴーレムの衝突で揺れたけれど、先ほどのように一撃で破壊されることもなかった。

 強力な魔法なんだ。

 ということはそれだけ――多くの魔力を消費している。


「ゼエ、ゼェ、ヒューッ……」


 モラの小さな身体が震えている。身体全体で息をしている。

 ゴーレムは壁を回り込むようにやってくる。通路と壁の隙間からこちらをのぞき込む。


黒の壁よチョールナヤクリムリャ!! 黒の壁よチョールナヤクリムリャ!!』


 たちまち出現した黒の壁2枚が通路を完璧に守る。ゴォォン、ゴォォン、とゴーレムが殴りつけてくるけれど、壁は完璧に守っている。


「……ァ、ッガ、ク……」

「モラ!? モラ、モラ、しっかりして! 大丈夫!? 苦しいの!?」


 べしゃりと崩れたモラに近寄ったけれど、どうしていいかわからない。急性の魔力欠乏症なんだとは思うけど、回復させる方法がわからない。

 同じように、向こうではリンゴが倒れたまま動かない。曲がっちゃいけない方向に腕が曲がっている。うつぶせに倒れたまま動かないでいる。


 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。

 モラが死んじゃう。リンゴが死んじゃう。


「……ノロ、ット…………」


 息も絶え絶えでモラが言葉を絞り出す。


「…………魔法宝石(マジックジュエル)だ…………」

「な、なに? それが、なに!? どうしたらいいの!?」

「……遺跡の最奥に、絶対にある…………そいつを、持ってきて――――」


 モラが意識を失う。


 魔法宝石。魔力の込められた宝石。

 この遺跡の最奥に絶対にある――なんの根拠もなくモラは「絶対」なんて言わない。確信しているんだ。それを持ってこいということだろう。

 リンゴも魔法宝石によって命を吹き込まれた。だったらもう一度力を与えればいい。たぶん、そういうことだ。そう思いたい。


「――り、リーダー……?」

「僕、ひとりで最奥に行ってきます」

「ええっ!?」


 驚くタラクトさんとラクサさん。だけど僕の心はもう決まった。


「この先は第2階層最後の部屋です。おそらくトラップはありません。最後の部屋を過ぎれば第3階層につながる階段があるはずです。その手前で、簡単なルートと中間ルートが合流する分岐があります。そこから簡単なルートを経由すれば引き返すことはできるはずです」


 モラとリンゴが、身を挺して僕らを守ってくれた。


「だから……もし僕が、半日以内に戻らなければ、引き返してください。タラクトさんとラクサさんならリンゴを担いで行けるはずです。第1階層に着く手前で助けが来るのを待ってください。昏骸旅団は数日僕らが帰らなければ、きっと様子を見に来ます。……モラとリンゴのこと、よろしくお願いします」


 今度は僕が、ふたりを助ける番だ。


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