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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第2章 黄金の煉獄門

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34 黄金の煉獄門 第2階層(1)

 最初の部屋は「正方形」だった。

 僕らがいるのは正方形の角、対角線上に部屋の反対側の出口がある。

 その出口がぎりぎり確認できるくらいの――明かりが届く広さだった。


 ウウウウウ……となんか妙な音が聞こえている。

 不気味だ。


 ガラハドさんのマップにはトラップの詳細についても書かれている。

 だけれど、そのほとんどは「左」「右」ルートであり、「正面」ルートについてはないにも等しかった。

 もちろん、タラクトさんたちもこの部屋に来るのは初めてだ。


「物理トラップだな」


 ラクサさんがすぐに判断する。

 狭い入口。僕らが集まってのぞき込むと、ラクサさんは床を指差した。


 床は20センチ程度のタイルで埋め尽くされている。

 色は深いグレー。

 ラクサさんがダガーを抜いて、刃先でこつんと手前のタイルに触れた――。


 シャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコン


「うおわ!?」


 びっくりした。

 や、だって、タイルとタイルの隙間から刃が飛び出してきたんだよ!

 しかもめっちゃ速い。殺す気満々。


 出た瞬間消えて、次は違うところに刃が出てきて、というのを繰り返していく。

 その刃の出方に法則性はなく、出てくる刃の数もバラバラだった。

 ただ――刃の出る場所は決まっているみたいだった。


「タイルに足を載せている間は何度も出てくる。刃の出てくる場所を覚えて、そこをまたがないように行くしかないな」


 と、ラクサさんの結論。


「無理」


 と、僕の結論。

 いやさ、無理じゃない?

 出てからシュッて消えるのも一瞬だし。

 刃の出てくる場所は覚えればいいって言っても出てくるタイミングがわからなければ「お、ここは出てこないよな~」って渡ろうとしたら下から出てきた股ブスーッてことがあり得るわけですよ。


「無理と言ってもやるしかない」


 ラクサさんはすでに刃の出てくる場所を数えている。

 刃の出てくる高さは1メートル強だから、まあ、よほど足の長い人なら全部またいで行けるかもしれない。


「どいて、マッピングするよ」


 タラクトさんと位置を入れ替わる。ラクサさんとタラクトさんは部屋の床を模写してタイルの枚数を再現した。

 そうか、記憶しなきゃいけないってこともないもんね。記録すればいい。


「無理じゃねェよ無理じゃァ……」


 呆れたようにモラ。

 いやいや、違うって。もっと簡単な攻略方法があるならそっちのほうがいいじゃないか。

 バカ正直にトラップをクリアしなくても。


 でも、そんな方法あるかなあ……。

 天井を見る。高さは5メートルくらいか。結構高いな。


「をん? なんでェ、一足飛びに跳ぼうだなんて考えちゃいねェよな?」

「さすがにそれこそ無理でしょ」

「ならいいがよォ」


 うーん。

 うーん……?

 なんでこの部屋だけ天井が高いんだろう。天井の高さはバラバラなのかな?

 まあ、ともかく。

 刃の上を通っていくっていうのはそう悪くない発想じゃないような気がするんだよねえ。

 鳥なら飛べるわけだし。


 そんなことを考えているうちにマッピングが終わったみたいだ。


「このルートで行こう。俺が先頭を行くので、みんなついてきてください」


 タラクトさんが見せてくれたマップによると、まずまっすぐ行って左に折れ、部屋の中央を経由する。部屋の中央に「休憩スポット」みたく刃の来ないエリアがあるのか。へえー。

 その休憩スポットで残りのルートを確定させる、ということみたいだ。

 それにしてもこの部屋に設置された刃の数は、推定2,000本以上あるらしい。恐ろしい……。刃の無駄遣い……。


「じゃ、行くよ」


 タラクトさんが足をタイルに載せた――。


 シャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコンシャコン


 うるさい。

 うるっさい。

 とにかくうるさい。

 誰かがタイルに足を載せている間は延々音が鳴る仕組みみたいだ。


「ついてきて」


 目の前に刃がシャコンと飛び出す恐怖にさらされながら、タラクトさんはすでに脂汗をかいていた。

 慎重に歩を進めていく。

 切れ味も良さそうだし、なにせ速度が速い。誤って足先でもタイルの境界に載せてしまった日には、足の指とはおさらばだろう。

 僕らは後からついていくからまだマシだ。

 それでも、フラッとして転んだりしないよう気をつけなきゃ。

 武器が長ければ杖代わりにしてもいいんだけど、あいにくそういうのはないんだよね……。



 慎重に。一歩一歩。進んでいく。

 先頭のタラクトさんが一番慎重だった。当たり前か。

 1メートル進むのに1分かかるくらい。

 足を切り落とされるよりマシだからね。


 シャコンシャコンが延々鳴り続けているから耳もおかしくなっていった。モラがリンゴになにか言葉をかけたみたいだけど聞こえなかった。僕の肩に載ってるモラなのにね。


「ここから壁伝いじゃなくなるぞ!」


 タラクトさんが振り返って叫んだ。

 壁から手を離さなければいけなくなるのは正直怖いけど、仕方ない。

 前を行くラクサさんにつかまりたい欲求が込み上げてくる。そんなことやったら、どっちかがバランス崩した途端ふたりともあの世行きになっちゃうからできないけどね。


 慎重に。一歩一歩。進んでいく。

 僕のすぐ横をシャコンと剣のような刃が飛び出しては引っ込んでいく。河原の葦原を歩くような感覚かもしれない。葦はかき分けられるからいいけどさ。


 第1階層壁面に、第2階層についての説明もあった。


 ――仲間と力を合わせ●●●を踏破し、次なる階段を目指せ。


「●●●」はジ=ル=ゾーイの造語みたいで、解読できなかった言葉だ。試練とかトラップとかそんな感じかもしれない。

 あまりに慎重に歩きすぎた。ずっと同じ音を聞きすぎた。

 足下がふらつきそうになる。


 そういうときは足を止め、目を閉じる。深呼吸。すぅぅぅはぁぁぁぁ……。よし。再出発。

 急がば回れということわざがあるけど、それに近い。追い込まれたときほど冷静になれ。僕はただでさえ場数を踏んでないからね。すぐにテンパっちゃう。


「中央だ!」


 タラクトさんの声が聞こえる。足下に集中していた僕は前に視線を投げる。

 中央――同じようにグレーのタイルが敷かれているけれど、そこは確かに3メートル四方でまったく刃が出現しない休憩スポットだった。


「ふぅ……やっと半分かぁ」


 タラクトさん、ラクサさんに続いて僕も休憩スポットに到着する。


「最初の部屋でそんなに消耗していたら、続かないぞ?」


 軽い口調で言ったタラクトさんだけど、その顔は汗まみれだ。ありがとうございます。一番危険なところを行っていただいて。


「……おィ」


 モラの声が聞こえた。

 小声の、押し殺すような声。

 視線の先には休憩スポットのタイル――黒々とした汚れ。血痕? かなり古い。


「ん……この休憩スポットに来るまでにケガをした冒険者がいたのかな」

「ちげェな。ここまで来るタイルに、ほとんど血痕はなかった」

「そうなんだ。それじゃあ傷口がここで開いたとか――」


 ――あれ?


 そのとき僕も違和感に気づいた。

 なんでモラの声が聞こえるの? さっきは聞こえなかった――。


 シャコンシャコンが止んでいた。


 ウウウウウ……と唸るような音に戻った部屋。

 刃がない。なにもない部屋に戻っている。

 まだ部屋の半分しか来ていないのに、なんで?

 背筋が冷たくなる。

 これが悪い予兆でなくてなんていうのだろうか――。


 シャコン。


「あ……ああっ!」


 ラクサさんが指差した。

 部屋の壁面沿いのタイルに、一気に刃が立った。

 一分の隙もなく。

 シャコン。

 もう一度刃が立った。

 最初の刃は出たまま。

 次の刃はタイル1枚分内側。


 シャコン。


 シャコン。


 トラップの本質を僕はようやく理解した。

 この休憩スポットに向けて、刃の包囲網が迫ってくる。

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