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33 条件

「条件……ってなんですか」


 聞いた僕の声は少しかすれていたと思う。

 にっこり笑ったコーデリアに、悪寒すら覚えた。



「遺跡から帰ったらエリーゼとノロットくんが1日デートすること!」



 ほらあああああ! やっぱそういうヤツ!

 もう確定じゃん。僕が拉致られるの確定じゃん!


「おォ、お安いご用だァ」


 安くないよモラ!!

 なに安心したようにため息ついてるのタラクトさん!

 見てよ! 絶対エリーゼは大喜びで――。


「…………」


 あれ?

 エリーゼが固まっている。化粧が半分しかほどこされていない残念な顔で。


「あ、あのっ、でもあたし、デートなんかっしたことないし」


 顔を真っ赤にしてコーデリアの服をつかむ。


「大丈夫ですよー。寝込み襲うよりデートのほうが簡単ですからー」

「で、ででで、でも」


 いやいやいやいや。

 なに照れてんの。「寝込み襲う」とか物騒なワード混ぜて! 確かにムクドリにいたときには僕の寝室にやってきたけども!


「……やっぱり殺しましょう」


 リンゴが暗い目をして言った。

 怖い! でもありがとう! リンゴだけが今は頼り!


「なァに言ってやァがる。どのみちストームゲートに戻ったらトウミツがいんでェ。ここで遺跡をあきらめねェならこれしか道はねェ。水を持ってンだから頼るしかねェだろォが」


 くっ。

 モラは敵。敵だ!


「殺して奪えばいいのでは?」


 もうリンゴさんの発想がぶっ飛んできた。

 そのうち僕を殺したりしないですよね? リンゴさん?


「やれやれ……あのなァ、ちっと耳貸せ」


 モラが小声で僕とリンゴに言う。


「まずは遺跡だァ。約束はするがいつ果たすとは言ってねェ。空約束ってことでいいじゃァねェか」


 うわあ、このカエル相当悪い奴。悪人ならぬ悪蛙。

 ううむ。

 確かに……遺跡は踏破したいんだよね……

 仕方ない。


「そ、その条件でいいです」


 僕が言うと、エリーゼはコーデリアの陰に隠れてこっそりとこちらをうかがっていた。

 耳まで真っ赤だった。




 ともかく。

 僕らは条件を呑んだ。

 結果、いろいろと問題が片付いた。


 今、第2階層の小部屋には僕、モラ、リンゴ、タラクトさん、ラクサさんの5人(4人と1匹)がいる。

 エリーゼはなんとなくここに残っていっしょに遺跡を踏破したいオーラを漂わせていたけど、いてもらうと非常に効率が下がる(僕が純潔を奪われないよう警戒するため)ので、速やかにお帰りいただいた。


「デートコース考えましょうねー」


 とコーデリアが言っていたけど「デートコース」ってなんて物騒な言葉!


 レノさんはゼルズさんについて、エリーゼたちとともにストームゲートへ帰った。

 第1階層の死者の群れは、エリーゼとリリーが薙ぎ倒し、ゼルズさんはリンゴが抱えて行ってくれた。

 リンゴはその後ひとりで第2階層まで戻ってきたんだけど……このオートマトンちょっと優秀過ぎない? ひとりで遺跡も踏破できるんじゃないの?


「よっしゃ。行くかァ」


 モラの言葉に、みんながうなずく。

 いざ、第2階層攻略――。




 第2階層はガラハドからもらったマップがある。これさえあれば迷わない――と言いたいところだけど、実はマップは役に立ちそうで立たない部分もある。


 第2階層は通路と小部屋で構成されている。

 で、トラップがあって、自然発生したモンスターがうろついている。

 この通路は迷路化しているんだけど……進める分岐と進めない分岐があるようなのだ。


 意味がわかりにくい?

 冒険者の記述によれば、同じ分岐なのに、2度目に見たときには以前通じていた通路がふさがっていて、新たな通路が開いていた――そういうことらしい。


 時間帯によって分岐が変わるのか?

 あるいはなにかの条件を満たすと分岐が切り替わるのか?

 解明されていない。

 マップがあっても、分岐の条件がわからないので、地道に調べていくしかないんだ。



 狭い通路の先頭はラクサさんだ。夜目が効くのと、トラップに詳しいから。

 次にとモラ。ニオイを感じられるからね。

 次にリンゴ。僕のそばにいると言って聞かないので……。

 次にタラクトさん。一番後ろからマップの指示を出してくれる。


 きっちりと測ったような美しい通路だ。

 壁は相変わらずつるつる。足下の破損も少ない。

 天井はアーチになっている。リンゴがジャンプすれば届くくらいだけど僕には無理。


 第1階層入口は魔法によって保護されていたけど、ここの保護はないみたい。

 モラに言わせると、


「遺跡全体を魔力で守るなんてェのは魔力がどんだけあっても足りねェ」


 ということらしい。

 一番人間がやってくる入口付近は魔法で保護しておいて、奥の方はそういうのナシ、というのは遺跡を作る人間からするとスタンダードな発想らしい。


 ランタンの明かりが通路を照らす。でも20メートル以上先は闇だ。


「最初の分岐だ」


 ラクサさんの声は小さかったけれど、はっきり聞こえた。

 ここから先はガチンコの試練。

 緊張感が高まる。


 十字の交差点だ。

 壁面にはジ=ル=ゾーイの置換文字ではない、ヴィリエ語の文字が刻まれている。



  正面「最も難しい、志の高き者へ」

  左手「緩やかな成長を望む者へ」

  右手「気楽に歩みたい者へ」



 ガラハドのマップによると――。

 最初のこの分岐によって分かれた道が合流するのは、第3階層に至る階段の直前であるということだった。

 この先の分岐は様々な条件で変わるんだけど、この分岐は固定化されている。


「俺たち、左に進んだんだよな」


 ラクサさんが言うと、タラクトさんがうなずく。


「そうそう。物理トラップが多いっていう前情報だったし、実際にトラップは物理ばかりだったな……」


 そこで言葉を詰まらせた。

 前回の挑戦時を思い出したのかも。

 仲間を失ったときのことを。


「じゃあ……行きましょうか。正面の道へ」


 最高難度の分岐を僕は選ぶ。

 迷わず。

 なぜならそれが、第3階層をクリアするために必要だからだ。

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