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25 黄金の煉獄門 第1階層(5)

 ストームゲートの公文書館に通い続けていたとき、僕とモラはその日の発見を毎晩話し合ってたじゃない?

 そのとき、僕らはひとつの仮説を立てたんだ。


「黄金の煉獄門」は宗教施設である。


 遺跡と言うには大きいし、洞窟と言うには整備されすぎている。

 第1階層には教義を記した壁もあったしね。


「黄金の煉獄門」を踏破するのに手助けとなるのが、「黄金の煉獄門」を真に理解することなんじゃないか――そう考えたってわけ。

 創造主であるジ=ル=ゾーイが、ここでなにをしようとしていたのか?

 壁の模写は、ガラハドに頼まれたのもあるけど、この「理解」のためにやってるところがある。

 ほとんどの冒険者が模写をしなかった壁。

「すべての絵を模写しよう」なんて言ってるのは今までに僕たち以外いなかった。


 まあ、あとは遺跡を進む前に時間がもうちょっと欲しかったというのもあるよね。

 攻略不可能と言われている第3階層をどうやって突破するのか。

 考えなきゃいけない。


 考えて……まだ答えは出てないけども……。


 ともかく、僕は模写を進めた。

 タラクトさんの手は止まっていた。やっぱりつらさが勝るんだろうね……恋人が死んでしまって、その人を置き去りにして、今、その人はアンデッドとして遺跡を徘徊している。

 つらいに決まってる。

 でも直視したくないのか、ずっとしゃがみこんでうつむいたままだった。


「……タラクト」


 ラクサさんがタラクトさんのところに言ってなにかを話しかけている。

 そうして紙束を受け取っていた。

 言語部分の模写はラクサさんがやるらしい。


 ゼルズさんとレノさんはどんどん離れていく。

 死者を連れて入口へと向かっているから「生命の燭台」に近づいている。そのせいで死者は燭台へと引き寄せられる。

 そっちじゃない、とか、こっちに来い、とか、そんな声が切れ切れに聞こえてきた。

 ちらりと僕が見たときには、ゼルズさんたちのかつての仲間は群れる死者に紛れ込み、上空に掲げられた「生命の燭台」を見上げていた。



「……終わり、か」


 3時間が経っていた。

 僕の目の前にはつるりとした壁。

 この先にはもう絵がない。

 怪しげな文字もない。

 模写はここで終わり――のはずだ。


「こっちも、なんとか」


 慣れないことですっかり憔悴したラクサさんがつぶやく。


 予定よりかなり早く仕上がった――って言っていいと思う。

 考えていたよりも絵が少なかったことがひとつ。あと、途中から模写のスピードを上げたんだよね。

 多少崩れても、時間を短縮しようと。


「結局、残り全部やらせてしまったな……」


 タラクトさんがやってきた。目が赤くなっているけど、足取りはしっかりしてる。


「悪い。ラクサ」

「いや。いいよ」


 紙束を渡すラクサさんは相変わらず言葉少なだったけど、ふたりはそれだけでわかり合えているふうなところがあった。

 いいなあ、昔からの友だちって……。

 僕は孤児院にいたから、そのときの友だちはいても、しばらくしたら里親に引き取られてバラバラになっちゃった。


「それで――発見はあったのかい?」


 タラクトさんが僕に水を向ける。


「ええ。ありました」

「どんな?」

「それを説明したり検討したりする前に……この第1階層を突破したいと思います」


 資料の検討は、落ち着いた場所でやったほうがいいと思わない?

 いくら「生命の燭台」が安定しているとは言っても、ふとしたはずみで光が消えないとも限らない。

 ……別にモラを信用してないわけじゃないよ? ほんとだよ? ただちょっと不安なだけ。ね?


「まず荷物を第2階層まで運びましょう。確か、第2階層に降りてすぐ、なにもない部屋があるんですよね?」

「ああ」


 言って、ちらりとタラクトさんが背後を振り返る。

 ずいぶん遠くにいってしまった「生命の燭台」。

 そこにいるであろうゼルズさんを見たのか、あるいはもう亡くなってしまった――。


「わかってます。……ゼルズさんたちを連れ戻しましょう」


 言うと、誰よりも早く反応したのは、


「ノロット様。本気ですか? あの方々は文句を言うだけ言って――」

「リンゴ」


 僕がたしなめると、タラクトさんも、


「……いや、でもリンゴさんの言うことはもっともだ。ゼルズは和を乱したんだ。君がそこまでフォローすることはない……と、思う」


 そう言った。

 今すぐにでもゼルズさんたちの――かつての恋人のところへ行きたいのをぐっとこらえて。

 僕はそんなタラクトさんを見て、うなずいた。


「タラクトさん。やっぱり、連れ戻しましょう」


 そう、確信したんだ。


「僕らはパーティーです。たとえ急造だとしてもパーティーを組んだんです。連れ戻しましょう。ゼルズさんとレノさんを置いてはいけません」


 タラクトさんの目が見開かれて――じわりと、うるんだように見えた。


「――っ、ありがとう。恩に着る。君たちには助けられてばかりだっ……」

「気にしないでください。リンゴ、先に荷物を第2階層に下ろそう。それから――」


 ゼルズさんたちを連れ戻す。


 そう、言いたかった。

 でも状況は一変した。


 かちゃん。という小さな音。

 レノさんがクロスボウで「生命の燭台」を撃ち抜き――燭台が落下し、死者に揉まれて消えた。

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