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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第2章 黄金の煉獄門

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22 黄金の煉獄門 第1階層(2)

 死者たちの目を逸らすために僕がやったこと――。

 答えはそう複雑じゃない。


「どうして死者が人間を襲うかわかりますか? たとえば、モノを襲うことはないわけです」

「それは……そういうふうな呪術がかけられているからだろう?」


 タラクトさんが答えた。

 呪術。魔法。魔術。禁法。いろんな言葉があるけど、それぞれが意味するところは結構ふわっとしている。


「では、どうやって僕らが生者だと彼らは理解しているんでしょうか? 肉体は崩れてきているし、目もないんです。――それも呪術で? ではその呪術はどうやって生者を判別しているんでしょうか? その答えが――アレです」


 僕が指差したのは、上空で煌々と輝いている「生命の燭台」だ。

 もちろんマジックアイテムである。

 モラが、魔力をぶっ込んだ逸品だ。


「…………?」


 タラクトさんを始め、リンゴ以外の全員がきょとんとした顔をした。


「生者が発する生命の光を、擬似的に再現したものです。つまりは生命そのものとも言えます。本来は病気の患者のそばに置いたりして生命エネルギーを回復させたりする効果があるんですけどね」


 死者が僕らに襲いかかってくるのは確定的だった。

 戦って進むこともできたけれど、僕はこの第1階層でやらなければいけないことがあったんだよね。

 だから、彼らの視線を逸らす手段が必要だったわけ。


 で、考えついたのが「死者と俺っちたちの明るい我が家作戦(命名モラ)」。


 死者は、遺跡を訪れた冒険者たちを襲う。

 これだけ死者がいるところで冒険者は目立つ。真っ暗闇に光を灯せば、どんな弱い光だってわかるでしょ?

 この光――生命の光を消すことは難しいんだ。

 だってこの遺跡には他の生き物がいないんだから。

 隠そうとしても完璧にはできない。完璧に隠せるときは僕らが死んだときだ。

 だったら逆の発想。

 もっと明るい光を当てればいい。


「はあ~~なるほどねえ~~~~。そんな発想、まったくなかったわ」


 しきりにゼルズさんが感心している。


「いや……びっくりだよ。一度地上に戻って立て直す方法を考えてしまった」


 ラクサさんも驚いたふうだ。


「さすがになんの対策もなく来ませんよ。それじゃ……そろそろ始めましょうか」

「ん……始める、ってなにをだ?」

「やらなければいけないことがあるんですよ」


 ちょい、ちょい、と僕は指差した。

 そこに広がっているのは壁だ。

 壁は、「生命の燭台」のおかげで広範囲にわたって照らし出されている。


 巨大な絵が描かれていた。


 これが、ガラハドの言っていた第1階層に描かれているジ=ル=ゾーイの教義というヤツだろうね。


「……それがなんなんだ?」


 わからない顔のラクサさんに、僕は言った。



「書き写しましょう」



「書き写す……?」

「模写です」

「模写」

「はい」

「その絵を」

「はい。全部」

「全部?」

「全部」


 ラクサさんが光の届く範囲いっぱいに描かれている絵を見やる。

 暗闇に隠れた部分へもつながっているらしい。


「……全部?」


 ぽつりと言った。




 これにはものすごく反対意見が出た。

 まあ、当然っちゃ当然だよね。

 いくら「生命の燭台」に死者が集まっているからって、第1階層に長居は無用だとふつうは考える。

 ふつうは。

 でもなあ……モラがなあ……。


 ――ガラハドと約束したじゃねェか。


 と言ったんだ。

 逆に、ここで壁面の模写をするためにモラは「生命の燭台」を準備した。

 もし模写がなければ強行突破でよかったんだ。


「こんなとこ1秒も長くいたくねぇよ……」

「くっせぇなあ……服にまでニオイがつきそうだぜ……」


 ぶつぶつと文句を言っているのはゼルズさんとレノさんだ。

 タラクトさんは呆れながらもモラがそう言うならと納得してくれた。

 ラクサさんはよくわからない。リーダーの決定には従う、って感じ。


 僕は壁面に向かう。

 巨大な絵だ。

 脚立やハシゴを置いて書いただろう、僕らがランタンを掲げてぎりぎり見える程度の高さまでの絵。

 まず描かれていたのは、大きな建物だった。

 簡単なタッチで描かれている――というより壁面に彫り込まれている。

 周囲に塔が4つ立っている、半球形の建築物。

 そこに、多くの人が群がっているような図。

 絵柄自体はシンプルだから簡単に模写はできた。


「うーん……わからないな」


 問題は絵の下に書かれている文字だ。

 ■や●で構成されている独特の記号で、ずらーっと彫り込まれている。

 雰囲気的には上の絵の説明? になるんだろう。


「ヴィリエ語じゃないし、ヴィリエ古語でもないし……」

「古代ルシア語でもないな」


 言ったのはタラクトさんだ。


「古代ルシア語、読めるんですか?」

「いや、はは、ちょっとかじっただけだよ」

「ちょっとでもすごいですよ! 僕なんてからっきしですから」

「いやいや、ほんとうにちょっとかじっただけだから」

「それでもすごいなあ。僕も勉強しようかなあ」

「――わたくしも古代ルシア語は読めますが」


 僕がタラクトさんを褒めていたところへずいっとリンゴが入ってきた。


「あ、はは、すごいですね。リンゴさんは古代ルシア語まで――リンゴさん!?」


 タラクトさんが驚いたのにはワケがある。


 リンゴ、いつの間にかメイド服に着替えていた。


「どうしたんだよ、リンゴ……冒険者の服の方が動きやすいでしょ」

「いえ、ご主人様。メイド服は汚れてもいいようになっておりますし、機能的で動きやすいのです」


 リンゴは自分の荷物を結構持ってきたなと思っていたけど、まさか服の替えが一式入っていたとは……。


「ではご主人様。そろそろお茶を召し上がりますか?」


 お茶って。

 遺跡の攻略中にお茶って。

 アレか。明るい我が家作戦とかいうモラの戯れ言に付き合うつもりか。


 ……と思ったらそうでもないみたい。マジ顔だ。


「いや、模写を続けようかと思ってるけど」

「模写には時間がかかります。間違いをなく模写を進めるのでしたら適度な休憩も必要ですわ」

「あー……まあ、そうかな」

「ちなみにどれくらい時間がかかる見込みなんだい?」


 タラクトさんに聞かれて、僕は答えた。


「4日ですね」

「4日!? そりゃまた……遠いな」


 いそいそとリンゴがお茶を煎れ始める。

 なんだなんだとゼルズさんたちがやってくる。


「敵地の真ん中でお茶だってよ。なに考えてんだか」


 呆れを通り越して、怒りを含んだようなゼルズさんのつぶやきだった。


 こういうときに――僕はなにを言ったらいいんだろう。

 リンゴの言うことももっともだし、ゼルズさんの言うことももっともだ。

 頼りたいときに限ってモラは寝ている。

 や、モラのおかげでこんなにものんびりした時間を持てるってことはわかってるんだけどさ。


 パーティーのリーダー。

 メンバーをまとめる仕事。

 僕にはちょっと、荷が重いのかもしれない……。


 僕の不安は的中する。

 模写を始めて2日目、事件は起きる。

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