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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第2章 黄金の煉獄門

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21 黄金の煉獄門 第1階層(1)

 全身をひんやりとした冷気が包んだ。

 目が慣れるのに時間がかかる。

 ニオイは――かすかだ。ふつうの人間なら「無臭」と思ってしまう程度。

 でも僕は嗅ぎ取っていた。


 死のニオイ。


 これは、間違いようのないニオイだ。

 生物は死ぬと独特なニオイを放つ。

 中でも人間は特別だ。特別、臭い。嗅ぐと、身体中の細胞が拒否反応を起こすような――そんなニオイを放つ。


「……来たか」


 暗い通路ではゼルズさんたちが待っていた。

 両手を広げれば届いてしまうくらいの細い通路。

 足下は固く、壁面はつるりとしている。

 材質は石だろうか? 案外、砂岩かもしれない。

 触れると、ひんやりしている。

 天井はアーチを描いている。

 美しく整えられた坑道のような印象を受けた。


 ラクサさんが先頭でランタンを持っている。

 僕とリンゴを先に通すとタラクトさんが最後尾でランタンを持つ。

 このふたつが光源だった。

 ちらちらとしか光の当たらない、影みたいになったゼルズさんの顔に両目だけが異様に白く浮かび上がっている。


 誰も、なにも言わなかった。

 もう僕らは遺跡の内部にいるのだ。


 先頭のラクサさんが歩き出すと、僕らは前へと進んだ。

 一瞬、振り返ると背後も、同じように暗く闇に沈んでいるだけだった。



 ほんのかすかに傾斜があるように感じられる。

 降りていく感覚。



 この通路について書いている冒険者はあまりいなかった。

 それだけ特筆すべきことはない、ということだろう。

 思っていた以上に長い通路だった。

 僕らは数分歩いた――いや、ひょっとしたらそれほど長くもないのかもしれない。

 単に、感覚が狂っているだけかもしれない。

 降りていく感覚も、ひょっとしたら勘違いかもしれない。



 入る前に散らされていた白夢幻の結晶……。

 そしてこの、感覚を狂わせられるような感じ……。



「そろそろだ」


 乾ききったラクサさんの声で我に返る。

 ゼルズさんが背負った大剣の柄に手を伸ばし、レノさんがクロスボウに矢をつがえる。

 もう、誤魔化しきれないほどのニオイ――。

 死者のニオイ。

 死んだ人間の肉体が放つニオイが色濃く漂っていた。




 広い――。

 広い広いとは読んでいたけれども、これほどとは。


 通路から出た僕の目の前に広がっていたのは、巨大な闇だ。

 ランタンの光は天井にも届かない。

 どれほど広いのだろう。

 このまま真っ直ぐ行けば壁に突き当たるらしいけど、ほんとうにこの闇に終わりはあるのだろうか。


「…………ん?」


 僕は右のほうに、うっすらと白い石柱を見た。

 そう言えば広間には巨大な柱が立っていると聞いた。

 天井を支えているのだろうか。

 その柱のさらに右手、壁に沿ったギリギリにもう1本立っているようだ。

 2本の柱……。


「来たぞ!」


 ゼルズさんは完全に戦闘態勢に入っていた。

 来るまでの道中、モンスターを切り伏せてきた大剣を構えている。



 闇から……ゆっくりと、彼らはやってきた。



 左手をこちらに伸ばす者。

 両手をだらんと下げた者。

 腕がない者。

 地べたを這う者。


 死者だ。


 共通しているのは、やせ細り、眼窩がくぼんでいることだ。

 そのほとんどが鎧であったり武器であったり、なんらかの戦闘用具を装備している。

 冒険者たちの死体だとわかる。


「連中の動きは遅い。正面突破と行こうじゃねえか」


 ゼルズさんの目はすでに死者に向けられている。

 レノさんもうなずいて、いつでもゼルズさんのサポートができるようにしている。

 ふたりが動き出す――。


「いえ、戦いません」


 ぴたり、とふたりは止まった。


「……今、なんつった?」


 僕を見ている。

 信じられない、とでも言うふうに。


「戦わない、と言いました。すぐにあそこに行きましょう」


 僕が指したのは石柱だ。


「柱があるのは好都合です」


 ふたりの反論を聞く気はなかった。僕が先に走り出すと、まずリンゴがついてくる。あわててラクサさんが走ってくると、他のメンバーもついてくる気配。

 石柱まではすぐだ。

 2本の柱は、ただの石でできた柱だ。

 だけれどこの太さには見覚えがあった。


「……ご主人様、これは入口にあった黄金の柱と同じくらいの太さですね。それに距離も……」


 リンゴが言ったことは、まさに僕が考えていたことと同じだった。

 でもそれについて考える時間はない。


 ゼルズさんたちが追いつく前に、僕は行動する。

 バックパックを下ろし、中からロープを取り出す。

 ベルトに差していた武器を取り出す。

 僕の武器――二叉に分かれた金属の棒。

 二叉の先には弾力のあるヒモを結っている。

 投擲武器、パチンコだ。

 ロープを金属の輪に通す。この輪は、先端に重い刃をとりつけた特別製だ。


「この柱がなんなんだ!? 連中、すぐにやってくるぞ」


 ゼルズさんがあわてた声で言う。

 背後から、ずるり……ずるり……と近づいてくる足音も聞こえてくる。

 僕はロープを通した刃をパチンコにつがえた。

 力を込めて引き絞る。

 狙いを定めて射出。


 びゅうっ――ロープを引っ張って飛来する刃は、石柱の上部に突き刺さった。


 ロープをぐっと引っ張る。

 大丈夫、かなり深く刺さったみたいだ。固定されている。


「お、おい、リーダー! なにやってんだよ!?」

「黙って」


 僕だって落ち着いているわけじゃない。

 実は手に汗もすごいし、頭がカッカしている。

 でもこういうときこそ冷静に動かなきゃ――。


 びゅうっ――2射目は、もう一方の石柱へと飛んでいき、突き刺さる。


「リーダー! 聞いてんのか!?」

「そろそろほんとうにやばいぞ」

「チッ、レノ、やるぞ」


 ゼルズさんとレノさんが戦闘態勢に再度入る。

 今、僕の手元には2本の石柱を結ぶロープがあった。

 このロープはかなり長い。

 一方に留め金をつけて放り投げる。


「大丈夫、これで完成ですから」


 僕は言った。

 一方のロープを引っ張る。たぐり寄せる。どんどんたぐり寄せる。やがてたるんでいたロープは宙へとひるがえる。最後には――ピンッ、と2本の石柱を結んで上空に張られた。


「なにが完成なんだよ!?」

「おい、あっちからも来てる――」


 タラクトさんの声に絶望が混じる。

 逃げてきた僕らの方向に死者がいるのは当然ながら、石柱の向こうからも死者が押し寄せてきたのだ。

 僕らをぐるりと取り囲むように――その数は、100以上。


 ロープの中央に僕は、あるものを引っかけておいた。

 それはランタンのように見えるかもしれない。

 針金でぐるりと固定され、中にはロウソクがある。

 ただ、ロウソクに火は点っていない。


 モラが今眠っている原因。

 それは、ありったけの魔力を込めたからだ。

 あのロウソクに。



『魔剣士モラの代理人として命じる。「生命(いのち)の燭台」よ、その光を顕せ!!』



 僕の声とともに、周囲一帯は光に包まれた。

 ロウソクから火花がほとばしり、渦を巻いてロウソクの周囲を飛び回る。

 オレンジ色のような、白いような、そんな色が入り乱れる。

 思わず僕も声を失う。


 効果はてきめんだ。


 死者たちはすいよせられるように燭台の下へと突き進んでいったのだから。


「え!? お!? な、な、なん、なんなんだ――」


 武器を構えたゼルズさんたちなんてお構いなしに、横をすり抜けていく。

 そして死者は燭台の下に集まり、ぼんやりと上空を見つめる。


 最初の強烈な光は収まったものの、まだまだ十分に明るい。

 それもそうだ。効果が5日以上は続くとモラは言っていたからね。


「……それで、なにが起きたのか、教えてくれるのかな?」


 呆れたように、苦笑交じりにタラクトさんが言った。

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