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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第1章 トレジャーハントには調査と仲間が必要(凶暴なメイドを含む)

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19 なぜ遺跡にはトラップがあるのか?

「なあ……リーダー」


 ラクサさんは他のメンバーと比べて口数が少なかった。口べたというか言葉が少ない。

 でも冷たいんじゃなくて、単にそれくらいの他人との距離感なんだろうなって思った。


「なんですか?」

「……遺跡の最奥にはなにがあるんだろうな」


 それは難しい問いだった。

 答えるなら「わからない」だ。でも、もちろんそんな当然の答えは期待されていない。


「ちなみにラクサさんはどう思ってます?」

「……俺は、やっぱり財宝じゃないかと思う。煉獄門の門柱、あれは魔法で光ってるんじゃなくて黄金そのものなんだという気がするし」

「そうなんですか?」

「実際目で見てみればわかる」


 なるほど。

 それなら確かに、「入口に純金使えるんだから奥にはもっとあるよね?」という理屈が成り立つ。


「財宝があるかどうかは正直わからないですけど、マジックアイテムの類は多いと踏んでます。それこそ、入口にマジック門柱(?)を設置できるくらいですし」

「ん? もしかして君たちはマジックアイテムが目当てなのか?」


 僕がうなずくと、地図とにらめっこしていたタラクトさんも興味を示したようにこちらを見た。


 ちなみにモラは寝ているし、リンゴはゼルズさんとレノさんに話しかけられては完璧に無視している。

 馬車は軽快に進んでいる。


「とりあえずの目的は、マジックアイテムです」

「とりあえず……持って回った言い方だな」


 僕は寝ているモラをちらりと見る。

 うんうん、疲れてるんだよねー。モラ、昨晩はほとんど寝てないんだよね。それもこれも遺跡の準備のために。

 僕?

 ぐっすりですよ。気持ちよく。

 虫刺されでかゆかったけどね!


「あるアイテムが必要で、それを手に入れるために遺跡を巡るつもりです」

「……ふむ、ワケありか」


 ラクサさん、それだけでなんとなく察してくれたらしい。



 冒険者ってさ、お互い、こういうときにあまり突っ込んだ話題はしないんだよね。

 なんでか?

 理由は簡単で――僕らが欲しいものを知ってしまったら、たとえばパーティーでそれを見つけたとしても換金して分割できなくなるからなんだ。

 5人パーティーで、そのアイテムの市場価値が100万ゲムだった場合。

 ふつうならそれを売り払って20万ゲムずつもらう。

 ひとりが80万ゲムを現金として出して、アイテムをもらうこともあるかもしれない。


 でも、もしもそのひとりがそのアイテムをどうしても手に入れなければならなかったとしたら。


 その人にとっては市場価値以上の価格になるわけじゃない?

 価格をめぐってトラブルになるよね?

 ずっと行動をともにしているパーティーならいいけどね。僕とラクサさんたちは知り合ったばっかり。面倒なトラブルにならないよう、お互いのことはあまり話さない。それが急造パーティーの礼儀なのだ。……って「いち冒険家としての生き様」にも書いてあった。なんてすばらしい本。みんな読むべき。


 え? そのくせお前はタダでラクサさんから解錠教わってるって?

 心が広い人っている。

 つまりはそういうこと。えへん。



「大体俺の知ってる鍵のパターンはこんなところだな……」

「ありがとうございます。頭に叩き込みます」


 ラクサさんは解錠士だ。

 これは解錠専門ローグ、という意味で、町で商売をやっている錠前士とはちょっと違う。


 錠前士は、鍵と錠をセットで売る。

 解錠士は、鍵がないときに錠を破る。

 鍵がないと宝箱や宝物庫の鍵を開けられないからね。

 ん? 錠前なんてぶっ壊せって?

 それがね、そうもいかないんだよね。宝箱や宝物庫って結局のところ、大事なものが他人の手に渡らないようにしているわけ。

 無理矢理取られるくらいならどうする?

 なくなったほうがマシ、ってならない?


 実は、遺跡などに残されている財宝のほとんどには、錠とセットで罠がしかけられている。

 その罠は、財宝を奪おうとした冒険者に危害を加えることが目的じゃない。

 一番の目的は、中に入っているものを破壊する。

 罠ってのはずばり、強烈な毒薬、酸、魔法スクロールからの破壊などなど。


 苦労して遺跡を踏破したのにお宝はボロボロで無価値になった――じゃ、泣くに泣けない。

 だから解錠士は必ずパーティーにいる。

 ただ鍵を開けるだけじゃ、ほとんど手持ちぶさたになってしまうから、行程のほとんどはローグとして活躍するけど。


 ローグは……まあ「何でも屋」かな。

 料理したり、斥候したり、マッパーがいなければマッピングのまねごともしたり。

 そういう器用貧乏というか――あ、いや、バカにしてるわけじゃないよ?

 僕のほうがまるでなにもできないからね!


 ……胸を張って言えることじゃない。泣ける。僕も早く一人前の冒険者になりたい。

 僕の特技的にはやっぱりローグ的なところに収まりそうな気がする。

 才能は嗅覚。

 主な用途は危険回避!


「どうした? わからないところでもあるか?」

「あ、い、いや、大丈夫です」


 僕はラクサさんが見せてくれた5つの錠に集中する。


 錠前というのはパターン化されている。

 鍵のほうは、金属の棒、その先にギザギザがついている――そういうものだ。

 このギザギザが錠の中で噛み合うと、開けられる。

 ラクサさんが見せてくれたのは鍵と錠のセット。

 そこに細い金属の針を突っ込む。

 使うのはたいてい2本。こればかりは仕組みを理解して何度も練習するしかない。

 ラクサさんも練習したんだろうか? どの錠にもカギ穴に細かい傷がいっぱいある。


「ただ難度の高い遺跡は、この鍵だけじゃなく、鍵自体に魔法をかけていることが多い」

「錠に刻まれた魔法回路と、鍵の魔法回路が一致して開く、ということですか?」

「うん」

「こうして鍵をこじ開ける練習をしても意味がない……と?」

「いや、そうでもない。魔法回路は外側から干渉できるから」

「??」


 僕がわからない顔をすると、横からタラクトさんが入ってきた。


「魔法回路は錠の中にあるんだけど、高い魔法感知能力を持っている人なら外側からでも回路を読み取ることができるんだ。で、回路をコピーして外側から流し込むことができる」

「その間にこじ開ける、ってことですかね」

「理解が早いね。そのとおり」

「どれくらいの魔法感知能力が必要なんでしょう? というか、そういう能力って魔法の才能みたいなものですか?」


 この世界には魔法に適性の高い人間と、そうでない人間がいる。

 僕なんかは全然適性がない。

 逆にモラはすごくある。


 でも魔法が万能かと言えばそうでもない。

 強い魔法を発動するには大きな魔力が必要だし、魔力は眠ることでしか回復できない。

 魔力は体力に似ていて、使うと、ものすごい疲労があるみたい。

 前にタラクトさんを石化状態から救ったとき、モラはぶっ倒れた。モラの今の身体じゃ、石化を1回治すだけで気絶するほどの疲労があるってことだ。


「魔法回路をコピーして錠前に流し込めるレベルの人なら、それに相応の魔法感知能力があるから大丈夫だよ。つまり魔剣士モラならなんの問題もない」


 にっこりとタラクトさんは笑った。

 すごいなー。全幅の信頼って感じ。

 命を救ってくれたことから信じ切っているんだろうけども。

 カエルだよ?

 全盛期の1/100だよ?

 同じようにラクサさんも疑わしげな目を眠りこけているカエルに向けている。


「なあ……あれはほんとうに魔剣士モラなのか?」


 と思ったらそっちを疑っていたらしいラクサさん。

 ですか。

 やっぱり疑わしいですか。


「そうですね。間違いないと思いますよ」

「…………」


 きゅっ、と口を閉ざす。


「どうしました?」

「いや……」


 急に口が重くなる。なにか言いにくいことがあるんだろうか。今の会話の中で?

 ん、なんだろう。

 ああ……ひょっとしてカエルになったいきさつとか? いやー、それはそれは、ぷぷ、僕も言いたいところなんだけど、ぷぷぷぷぷ、なかなかこれが、ぷっ。


「……俺たちの仲間も、遺跡のトラップで死んでるからな。気持ちとしては複雑なんだよ」


 と思ったら全然違った。

 ああ、そっちか……なるほど。同じ、難攻不落(僕が踏破したけど)の遺跡を作ったヤツと、いっしょにいるのは、っていう感情か。


「気持ちは理解できます」


 僕は言った。


「でも冒険者は――誰かが大切に隠したものを盗もうとして入っていくわけじゃないですか。遺跡とかに」

「盗むっていうのは……」

「盗むんですよ。持ち主が死んでいても。そこから奪っていくことに変わりはないんです。奪われる側も必死なんです。奪われたくないから遺跡なんてものを作るし、トラップも作る。その覚悟がなければ冒険者なんてできない。そうじゃありませんか?」


 モンスターを討伐する冒険者も同じだ。

 モンスターにだって命がある。

 命を奪おうとする相手に、牙を剥く。当然だよ。死にたいヤツなんていない。

 モンスター相手では命のやりとりが当たり前なのに、トレジャーハンターは命の危険性は少なめに、なんていうのはおかしい。


「そうか……そうだな」


 まだ、納得できていない口調だけど、ラクサさんはそう言った。


 僕には、でも、話していないことがあった。


 モラは自分の遺跡の入口に「命の危険があるから入るな」と書いておいたし、設置したトラップもなるべく死なないものに限定していた。

 腕を折るだけで済むとか、呪いをかけられるだけで済むとか。


 ただ長い年月が経ったせいでモンスターが住み着いてしまった。

 そうなるとどうしても、死者が増える。

 モラは犠牲を悔やんでいたし、だからこそなんとかして、自ら遺跡を踏破したがった。

 踏破してしまえばそれ以上犠牲者は出ない。

 僕はたまたまモラと出会い、モラは僕の才能を見いだした。僕の才能――嗅覚があれば遺跡を踏破できると賭けた。そして賭けに勝った。


 ……まあ、こんな言い訳じみた話をしても、意味がない。

 死者からすれば「お前が遺跡なんか作らなかったら自分は死ななかった」ってなるでしょ。

 レジェンドクラスの遺跡へ挑戦することは誰にでもできる。

 ただし賭け金は、己の命。


「旦那たち、そろそろ遺跡に着きますぜー」


 御者台から声が聞こえてきた。


 僕も今、賭けに挑もうとしている。

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