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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第8章 混沌の魔王と冒険者たち

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183/186

182 vs 混沌の魔王

 悪魔たちとトルメリア兵、冒険者たちが戦う中、僕らは混沌の魔王と対峙する。


「……人間は群れることしかできぬ」


 見た目はモラなのに、中身が違うことがはっきりわかる。

 ニオイだって違う。

 モラのニオイじゃない。もっと……腐ったような、吐き気を催すニオイがかすかに漂っている。

 それは消すことのできない死臭だ。


「その、群れることしかできない人間に封印されたのは誰だっけ?」

「…………」


 僕の挑発に、露骨に機嫌を悪くする混沌の魔王。


「それが今生最後の言葉か?」


 ふくれあがる混沌の魔王の魔力。

 夕焼けが大樹にかかり、シルエットになる中、掲げられた右手に集まる光が僕らを照らし出す。


「死ね」


 放たれた紫色の光は、おそらく、トルリアンを焼いたという魔法攻撃。


「任せて!!」


 僕らの前に飛びだしたエリーゼ。

 彼女が差し出した杖の先に現れた——魔法障壁。


「ぬッ……?」

「あたしだって、ちょっとは魔法が得意になってるんだから——ね!!」


 光が障壁にぶつかった瞬間、四方に弾け飛ぶ。ごりごりごりと障壁の削れる音が響き渡り、爆風が僕らの服をはためかせる。

 だけれど、エリーゼは引かない。

 いつの間にこんな魔法を使えるようになったのかと思った。

 エリーゼはもともと治癒魔法が使えたのは知っているけど——そうか、これは憑魔に近いものなんだ。エリーゼは憑魔を使って海中に潜ることまでできた。そして彼女の魔法は、ヴィリエの紋様によって増幅され——。


「!?」


 一瞬、エリーゼの横に誰かが立っているように見えた。

 そう、ヴィリエが——女神のように凜とした表情で。


「小癪な……」


 魔法が解ける。

 次の攻撃を待つような僕らじゃない。


「はああああっ!」

「命じる! 爆炎弾丸(フレイムバレット)よ、起動せよ!」


 真横からリンゴの跳び蹴り。

 正面からは僕の放つ魔法弾丸——あれ? 弾丸がいつもより輝いているように見える。


「ちっ」


 混沌の魔王は左手でリンゴの蹴りを防ぎ、僕の弾丸を魔法障壁で防ごうとする。

 しかし、


「!」


 リンゴは蹴りが触れた瞬間、背後に飛びのいた。

 僕の魔法弾丸は障壁にぶつかる——食い破る、紅蓮の炎が混沌の魔王を包む。


「ぬ——がああああああ!!」


 あ、ヤバイ、モラが焼けちゃう! っていうかいつもよりすごい威力が出るんだけど!?


『な、なかなか、こ、効率のいい魔法攻撃なんだな』


 僕の右に立っていたのはルシア。


『ふーん、なるほどね、これならうちの迷路をショートカットしてクリアしてもまあ許せるかな』


 僕の左に立っていたのはロノア。

 気づけば僕の手に浮かび上がった紋様が光を放っている。


「な、なんで……?」

『それは、も、もちろん、このときのための、し、試練だから』

『師匠を倒すのに俺たちも力を貸せるようにしたってだけだよ——さあ、師匠はこんなもんじゃないぞ。気を引き締めろ』


 炎が消えると、そこには服の表面を多少焼かれただけの混沌の魔王がいた。


「……少し、見くびりすぎたか」


 両手両足に紫色の光が漂う——と思ったときには、


「!?」

「消えろ」


 僕の目の前に混沌の魔王がいた。

 薙ぎ払われる右手が僕の側頭部に激突する。視界が一瞬ブラックアウトする。身体が地面に叩きつけられて転がっていく。


「ノロット!?」

「心配している場合か?」

「くっ」


 ぎいいん、と金属音が聞こえる。エリーゼと混沌の魔王が激突したらしい。

 僕はぐるぐると回転する視界の中、両手を地面につく。襲い来る吐き気——くそ、憑魔をしっかり使っていてこれかよ……。


「ほう、もう立ち上がるか」


 僕が両足に力を込めて立ち上がると、かすかに感心したような声で混沌の魔王が言う。

 すでにエリーゼは遠くにはね飛ばされている。


「ならば今の倍の力で行かせてもら——」

「ノロット様に……なにをしやがりますかぁああああああ!!」


 そこへ飛び込んだリンゴが蹴りを放つ。岩すら砕くその一撃を、受け止める。すぐさま二撃目、三撃目と続いていくのを、かわし、いなしていく。

 僕はリンゴへの影響を考えてダマスカス製の弾丸に切り替える。今回の戦闘のために用意した30発だ。


「ちっ」


 僕が放つ弾丸を軽くはたき落とす。やっぱり弾丸は重量がないから、そこまでの威力にならない。でもそれで十分だ。目的は混沌の魔王の手数を減らすこと。


「あたしだっているっつーの!!」


 混沌の魔王とやり合い、吹っ飛ばされていたエリーゼが復帰する。杖を、まるで大剣のように振り回す。


『私、こういうのは得意ではないのですがっ』


 杖にあわせてヴィリエの幻影が現れる。

 いつものエリーゼのスイングよりも、ずっと速い。

 混沌の魔王はそれを片手で防ごうとして、両手を差し出す。インパクトと同時に衝撃波が周囲に走りエリーゼの髪の毛がはためく。


「ぐっ、ぬぬぬぬ……」


 力比べ——とはならなかった。

 混沌の魔王の背後からリンゴが迫っていた。


「はあああああっ!!」


 水平に放たれた蹴りが混沌の魔王の背中を打つ。混沌の魔王は前方に吹っ飛ぶと3回バウンドして転がっていった。


「り、リンゴ……すごいんだけど、一応身体はモラのだからね!? モラまで死んじゃうからね!?」

「はい、それはわかっているのですが——どうも、加減ができなくて……」

「え」


 僕はそのときリンゴの背後にちらりと人影を見た。

 フォルリアード——。

 彼は、確かにリンゴに紋様を与えた。

 こんな言葉とともに。



 ——その人間らしさを捨てない限り、師匠には勝てないよ。


 ——オートマトンだろう。わかっている。だけれど、ぼくの力ならば問題ない……人間性に左右されない、罪を罪として冷静に捉える断罪の力だから。



 断罪の力。

 どういうことだろう。

 フォルリアードは僕らがモラを前にして……本気を出せないと推測したのか?


「……なるほど、なかなか、やる」


 混沌の魔王はゆらりと立ち上がった。

 正直、少しほっとした。モラの身体がめちゃくちゃになっていたら、混沌の魔王からモラを取り戻すところじゃない。


「だが、ここからが本番だ」


 瞬間、混沌の魔王の周囲に魔力が満ちていく。その魔力は薄い皮一枚となって混沌の魔王の身体にまとわりつく。

 憑魔だ。

 それも、格段にレベルの高い。


「上等よ!! こっちも本気で憑魔使うからね!!」


 え? エリーゼさん、今までのは本気じゃなかったの?

 エリーゼの周囲の魔力密度が上がっていく——う、ウソ……いつの間にエリーゼこんなに強くなってたの?


「……手加減はできなさそうですが、わたくしも憑魔を使わないと今度はまずそうですね。


 え? リンゴさん? 今まで憑魔使ってなかったの?

 それでさっきの蹴り……?


「せえええい!」

「はああああ!」


 エリーゼとリンゴが飛びかかる。とてつもない破壊音が響き渡って混沌の魔王はなすすべなく吹っ飛ばされる。

 ……あ、あれ? なんか、あのふたり強すぎない?


『おい、なんかおかしくね?』

『し、師匠が本調子じゃない、ということもある……で、でも、あ、あのふたりが強すぎるんだ』


 僕の左右でロノアとルシアが話し始めた。


『あれ……? 僕と前にやったときには憑魔も使えなかったんじゃなかったっけ? ねえ、これどうなってるの』


 すると背後にはオライエが現れた。


『わかるか。だって俺んとこの迷路クリアしてないんだもん』

『お、思うに、僕らの時代とは……ずいぶん変わったんだと……思う。ぼ、僕の作ったオートマトンにもあっさり勝っちゃったし』

『あのオートマトンにか? そうか……師匠が極大魔法を放つにしても時間がかかるし、これは打つ手なしだな』

『た、戦い方も違う』


 なんか3者会議を始めた!


「えっと、ということは僕らが勝てるってことですかね?」

『だな』

『そ、そう』


 マジか! 拍子抜けだよ!

 ていうかやっぱりあのオートマトンはルシアが作ってたのか。混沌の魔王を封印した後のルシアが作ったオートマトンに勝ってしまうんだから、あれが強さの基準だとするとエリーゼもリンゴもたいがい規格外になっているのかもしれない。


『でも、安心してはいられないぞ、少年』

「どうしてですか?」

『あの女性の肉体を取り戻すんだろう? であればここからが大変だ』

「あ——」


 そうだ、モラを取り戻さないといけない。


「あの! 混沌の魔王だけを討伐したり、あるいは封じる方法はないんですか?」


 すると3人は顔を見合わせた。


『こういうのはルシアの担当だろ』

『……う、うん。できるよ』

「できるんですか!?」

『で、でも、ちょっと問題があって……』

『ああ、そうだね。大きな問題があるね』


 オライエがため息をついた。


『彼女の身体にアノロの刻印があるだろう?』

「ええ。そうですね」

『師匠の欠片を持ち帰ったアノロだ。きっと彼女は邪魔をするよ』


 さらっ、とオライエは爆弾発言を残した。

 アノロが——混沌の魔王の欠片を、師匠の欠片を持ち帰ったってこと?

 僕たちに、最初にそのことを教えてくれたのは他ならぬ彼女なのに!?


『ともかく、まずは分離をすることだ——元の人間と、混沌の魔王を』


 ロノアが言った。


「分離……?」

『……俺たちは、師匠と混沌の魔王を分離しようとした。だが、できなかった。師匠は生まれたときから混沌の魔王と結びついていたから。そのときの魔法を使えば——今の状態なら、上手くいくと思う』

『そ、そうは言っても、ロノア……も、問題はアノロだよ』

『はー……わかってる』


 そこでロノアが声を張り上げる。


『おいクソ姉貴! 今から混沌の魔王を分離する! 邪魔すんじゃねえぞ!』


 リンゴとエリーゼの攻撃を防いだ混沌の魔王の背後に、アノロの幻影が浮かび上がった。


『邪魔なんかしないわ——師匠を殺させはしない』

『そいつは混沌の魔王だ。混じりっけなしのな!』

『……違う。師匠のニオイを感じる』

『いい加減信じろ! 俺たちの愛した師匠は死ん——』


 びゅおうっ、と風を切られる音がした。

 混沌の魔王から放たれた衝撃波が僕の横を駈け抜けていく。

 あ、危なっ! とっさに飛ばなければ食らってたよ!


『バカ姉が! ——しょうがねえ、俺たちだけでやるぞ!』

『5人で、かい? それは不安定になるだけじゃないか』

『そ、それでも、魔法、起動はする……』

『不安定なまま発動したらどうなるのかしら?』

『——簡単なことだよ。不安定に分離するだけだ』


 アノロをのぞく5人が——ロノアが、オライエが、ルシアが、ヴィリエが、フォルリアードが言う。


「ちょ、ちょっと! 不安定に分離ってなに!?」

『後は君がなんとかすればいい』

「え、僕!? オライエさん、どういうこと!?」

『彼女のために命をかける覚悟は?』

「————」


 眇められた、オライエの瞳。

 それは僕の心の奥底を透かし見るようで。


「——覚悟はあります」

『いい表情だ。じゃあ、頼むよ。彼女も君が来るのを待ってる』

「モラが……?」

『ああ。いくら復活して間もないとはいえ、混沌の魔王がこんなに弱いわけないだろう? モラ、というのかな。彼女が混沌の魔王の能力を押さえ込んでいるんだ』


 あ……そうなんだ。そうだよね。ヴィリエの試練のときにオライエと戦ったときはとんでもない強さだったもんな。


『……たぶん』


 たぶんて!


『よし。それじゃ、始めよう——アノロがこっちに来ないよう、食い止めてくれないか。レディーたち』


 レディーたち、と呼ばれたエリーゼとリンゴが反応する。


「とりあえず精一杯戦うだけよ!」

「できうる限りで努力しますわ」

『上出来だ』


 オライエたちは、瞳を閉じた。




 ——我が呼び声に、応えよ。我らが刻みし傷は絆。我らが癒しし傷もまた絆なり。




 絆の魔法——サラマド村の7人が、守ろうとした、絆が生み出した魔法。

 彼らの足下に魔法陣が浮かび上がる。

 青白い光の柱となる。


『うぅ、ぐっ……』


 アノロが苦しげな顔をする。彼女のところだけ、魔法陣はできあがったものの光が立たない。


「……邪魔だ!!」


 混沌の魔王が魔力を放射状に飛ばす。暴風のようにエリーゼとリンゴをはねのける。だがその身体には幾何学的な紋様が浮かび上がっている。


「こんな魔法、前回は、か、簡単に取りのけたというのに——またしても、お前か!!」


 混沌の魔王は握り拳で自らの鼻を叩きつける。衝撃で鼻から血が噴き出る。口も切ったのか唇の端から血が出ている。


「お前っ! モラの身体を勝手にするな!!」


 僕は走った。


「モラ!! がんばって! あと少しだから!!」


 そのとき——僕の足下にも魔法陣が浮かび上がった。

 僕の身体が光に包まれる——。

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