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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第8章 混沌の魔王と冒険者たち

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180 赤と白

 昼下がり、僕らはサラマド村にやってきた。

 先頭が僕たち、次にトルメリア帝国兵、最後に冒険者だ。

 冒険者には略奪などは厳禁、という指示が出ているけれども、実際どうなるかはわからない。まあ、サラマド村に略奪できるなにかがあるかも僕にはわからないんだけどね。


「……!」


 僕が立ち止まると一行が立ち止まった。

 先方に見えた——木の柵。みすぼらしい柵だ。裏を返すと、辺境の農村にふさわしい、なんの変哲もない柵とも言える。

 その向こうにいた……オートマトン。

 僕も、兵士たちも臨戦態勢に入る——。


「?」


 しかしオートマトンは、僕らに一瞥くれると、なんの関心も持たないようにふいっと向こうへ歩いて行ってしまった。


「……なんなんだ?」

「ご主人様、あの者が持っていたもの、ご覧になりましたか?」

「うん」


 手にはカゴがあった。

 カゴに載っていたのは赤色の果物。


「……あれってもしかして、林檎?」


 僕がリンゴの名前の元にした、果実。

 その疑問はすぐに裏付けされた。

 民家の向こうには、赤色の果実をぶら下げた林檎の木が数本生えていたのだ。


「この村の特産だったということかな……やっぱりリンゴは」

「はい。わたくしはこの村の出身だったのでしょう」

「ねー、ノロット。そんなことより、どうしてあのオートマトンは襲ってこなかったわけ?」


 エリーゼの疑問に、背後の兵士たちもうんうんとうなずく。


「農作業用だった……とか?」

「はあ?」

「戦闘用と農作業用と、分かれているんじゃないかな」

「なるほど……」


 その証拠に、僕らは次々にオートマトンを目にしたけれど、彼らは襲ってこなかった。

 なぜオートマトンだとわかったのかと言うと、着ている服がぼろぼろだったからだ。そのくせ顔色は生きているようにつやつやしている。女性のオートマトンとかだと、機械だとわかっていても、目のやり場に困ることもあった。

 僕らは村の中へと進んでいく。

 石を積んでできた壁。木の屋根。木々は朽ちていたけれども、家としての体裁は保たれていた。オートマトンが修繕しているからだ。その代わり、生きている人間はここにはいない。

 見たことがある——と思った。

 それは僕らが最初に挑んだ神の試練。「女神ヴィリエの海底神殿」。その最奥にいたヴィリエ。彼女のいた部屋の風景だ。

 ああ——今になってあのときのことをありありと思い返す。

 木窓からは日の光が注いでいた。窓の外には赤い実をつけた樹が生えている。

 室内は広くない。木製の床は毛羽立っていて、ボロイ絨毯は薄汚れていた。

 壁に取り付けた棚にはくすんだ水差しや食器が並べられている。

 今にも傾きそうな丸テーブル。

 イスは6脚あったけど、そのうち2つは背もたれがなかった。


 そう、窓の外には赤い実をつけた樹が生えていたのだ。


 林檎を、僕はあそこで見ていたんだ。それなのに気づかなかった。

 今、僕らの周囲には林檎がもたらす甘やかな香りが漂っている。けっして人を不快にさせるニオイじゃない。


「……オートマトンのおかげでなんとかなっているが、ひどい有様だな」


 タレイドさんが言う。


「はい。人間はいなさそうですね」

「無人の村を守り続けるオートマトン、か……」

「なぜサパー王国はこの村を封印したんでしょうね?」

「わからん。だが、サパー王国が直接管理していたとは思えんな。あるいは、サパー王国も手を焼いていたのかもしれん。あれほど戦闘力の高いオートマトンが守っている場所だ。なんらかの重要なものを守っているに違いない、とそう思うだろう。であれば他国や冒険者からの無用な接触も断ちたいはずだ」

「トルメリア帝国兵を見てすぐに引き返したのも、オートマトンの存在を知っていたせいかもしれませんね」

「……あやつらは信用ならん」


 師団長が鼻を鳴らした。

 とりあえずここで一度休息となった。

 ずっと緊張のし通しで、みんな疲れている。

 とはいえゆっくりしている時間的な余裕もないから、僕らは村内の散策を始めた。


 まず、家に入ってもオートマトンは襲ってこなかった。

 ほこりひとつ落ちていない家だったけれど、時間の経過による劣化はいかんともしがたいようで、壁は風化しつつあるし屋根は穴だらけだ。

 僕らが家に入っていくと、その家を担当しているらしいオートマトンが、眉をひそめてこっちを見てきた。「汚すなよ」とでも言うかのように。


「……なんで、村を捨てたんだろう」


 エリーゼがぽつりと言った。

 わからない。林檎を栽培していた村。混沌の魔王を輩出した村。そうか、混沌の魔王になにか関係があるのかも。世界に大きな被害を与えた混沌の魔王。だから村人も他の人間の報復を恐れて村を捨てた……。

 それとも逆? 混沌の魔王は先にこの村を襲い、住民を殺してしまった、とか。

 いや、そうなるとオートマトンの説明がつかないか。このオートマトン、すごく高性能だから今の時代だって大金を積んで欲しがる人は多いだろう。

 あと、結界だ。ここに村人がいなければ結界を張ったのは誰か、ということになる。ましてやサパー王国でもなければなおさらだ。

 ——ま、僕の中ではひとつの仮説が成り立っているんだけど。


「ねえ」


 僕は一体のオートマトンに声をかけた。

 オートマトンは無言でこちらを見ている。


「……ルシアって人、知ってる?」


 その瞬間、オートマトンの目に光が点った。


<<ルシア様は我らが創造主。この村を永年、守るよう指示なさいました>>


「やっぱり……」

「ちょ、ちょっと、ノロット? なにがやっぱりなの?」

「村が捨てられたあとに、ルシアがオートマトンを連れてきたんだよ。村の状態を維持するために。たぶん結界も彼の仕業じゃないかな。魔法に詳しいんだろうし」

「どうしてそんなことを……」

「混沌の魔王復活をにらんで、とか、あるいは他の意味、とかはわからないけどね」


 単に感傷かもしれない。

 自分たちの育った村が……自分たちと師匠をつなげる村が、朽ちていくのが耐えられなかった。


「仮説にしか過ぎないよ。さあ、なにかないかもう少し探してみよう」




 探索を始めて3軒目に、それはあった。

 そこは——訓練場、みたいなものだろうか。

 広々とした土間があって、壁には磨り減った剣が立てかけてある。磨り減っているのは、オートマトンたちが錆を研ぎ続けたせいだろう。中には折れてしまっているものもあった。

 僕らが注目したのは、訓練場の奥にぽつんと自立している——杖だ。

 杖、でいいんだと思う。

 金属の光沢を持っていて、周囲1メートルくらいにほんのりとした光が振りまかれている。

 上部には金色の輪っかが6つ、ついていた。


「これだけ魔力を持ってるみたいだけど——あれ?」


 僕が手を伸ばしてみると、光の壁に阻まれた。ぺたりと手がくっついてしまう。

 叩いてみても割れない。

 パチンコでも撃ち込んでみようか——と思ったところ、


「ノロット、あたしの手……通るんだけど」

「ほんとだ」


 エリーゼの手は素通りした。


「っていうか手の甲、エリーゼ」


 紋様が浮かび上がっている。

 それはヴィリエの紋様だ。それが反応しているということは……。


「女神ヴィリエの持ち物、ってことかしら?」

「かもね。とりあえず持ってみたら?」


 そのままエリーゼは足を踏み入れて杖を手に取った。


「ふむ……軽いわね」


 ヒュンヒュンヒュンと振り回している。リングもそれに応じてチャリチャリチャリと鳴るのだけども。


「ご主人様。やはり魔力的な反応がありますね」

「わかるの?」

「多少は。持ち手の魔力によって変化しているようです」


 エリーゼは手に魔力を込めたようだった。


「うわ」


 ぼう、と杖が光を増した——白っぽく。その色はエリーゼの髪の色に似ていた。


「……これ、あたしが使ってもいいかしら?」

「使えそうなら、いいと思うけど」

「大剣代わりになるかもしれない」


 なるほど。確かに長さはエリーゼの背の高さと同じくらいだ。

 僕はエリーゼが杖を持って振り回している姿を想像してみた。

 ……違和感の塊だよ!


「ま、まあ……ちょっと使ってみてダメだったら止めたら?」

「大丈夫だと思うけど、それもそうね」


 こうしてヴィリエの(?)杖はエリーゼが手にした。

 もちろん、他に持ち主がいたら返さなきゃいけないけどね。

 エリーゼは僕が思っていた以上に、大剣が使えなくなったことを気にしていたみたいだ。




 村の奥に、僕らはやってきた。

 山の麓——ひときわ大きな木が立っている。

 なんの木だろう。豊かに葉が垂れている。直径は2メートル以上もあるだろうか。高さは見上げるほどで、風が吹くとざわざわと音を立てている。

 不思議なことに、そこには鳥の姿はなかった。そしてオートマトンも近寄らないようだった。とはいえ掃き清められているところを見ると、掃除はしているのだろう。

 石材で組まれたテーブルは、角が丸くなってぴかぴかだ。ちょっとした宴会ができそうな場所だと僕は思った。

 ここだ——間違いない。

 僕の背中、オライエの紋様があるあたりがむずむずする。同じようにロノアの紋様がある手の甲もむずむずする。

 ついに、やってきた。

 混沌の魔王の指定した場所——すべての始まりであるサラマド村。

 6人と、1人の、絆が結ばれた場所に。

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