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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第8章 混沌の魔王と冒険者たち

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178 そしてサラマド村へ

 次の満月まで、あと5日。

 僕らの乗り込んだ馬車はサパー王国の王都を出発していた。

 重装備の兵隊たちに囲まれている。旧サラマド村に混沌の魔王が降臨することはそろそろ周知されてきており、混沌の魔王を倒して一攫千金を狙おうとしている命知らずの冒険者は以外と数が多いようで、この移動に同行していた。サパー王家は冒険者たちに対してなんの制約も課していなかった。


「いきなりサラマド村に対してオープンになったよね……サパー王家は」

「王家にとってみたら混沌の魔王は邪魔な存在ですもの。倒してくれるなら倒してもらったほうがいいってことじゃない?」

「もう駆け引きの材料にも使えないから、か」

「そういうこと——ノロット、もうひとつ食べる?」

「あ、い、いや、だいじょぶ。っていうか——」

「ご主人様から離れなさいこの雌犬が」


 リンゴが冷気を帯びてそうな声音で言ってきた。

 そう、エリーゼだ。

 エリーゼが僕にくっついて離れない。今朝からずっと僕の左腕はエリーゼの所有物みたくなってる。

 で、軽食をつまもうにも「あ〜ん」をやってくるのである。

 リンゴが怒らないわけがない。

 まあ、サパー王家とのやりとりでエリーゼががんばろうとしていたから多少は遠慮したようだけど、いい加減堪忍袋の緒が切れたらしい。


「……君たちはほんとうに変わらないなあ!」


 同乗しているタレイドさんが呆れたように言った。


「緊張しないのかね? あの、混沌の魔王と戦うのだぞ」

「そういうこと言う割りにタレイドさんも来たんですね」

「若い君たちだけに任せて年寄りがのんびりしているわけにもいかないだろうに」


 その考えはなかなか珍しいもののようだった。

 だってね。兵隊と冒険者以外に来ているお偉いさん——各国の地位のある人たちは、ずばり、ゼロなんだ。

 むしろ若い人を「視察」という名目で派遣してきている。

 かわいそうに、彼らは顔面蒼白で全員遺言書を書いてきたらしい。


「しかし安心ではあるな。それほど余裕があるということは、勝つ秘策があるんだろう? ああ、いやいやそれを聞きたいというわけではない、ちゃんと隠して——」

「ないですよ?」

「——おいてくれて構わない。無理に聞き出そうという……なんだって?」

「秘策なんて、ないですよ」

「……秘策もなしにどうやって混沌の魔王に勝つのだ?」

「わかりません。やってみなきゃ」

「…………ノロットくん、この話、誰にもしちゃいかんぞ? 兵士はみんなノロットくんがとんでもない秘策を携えていると聞かされているし、私も当然そうだと思ってたんだからな!」


 え、えぇ……? 僕そんなこと一言も言ってないんだけど……。

 そうでもしなきゃサラマド村へ行く護衛なんて誰もやりたがらなかったってことなんだろうか。

 秘策、ね。

 7つの神の試練を突破した人が他にいないからだろうね、そんなウワサが広まるのは。

 神の試練を突破した者が混沌の魔王と戦う力を手に入れる……わかりやすい「希望」

 実際僕らは突破してきたわけだけど、最後にたどり着いた「救世主の試練」の村は、混沌の魔王と戦う秘策を授けるというよりも、混沌の魔王について正しく教える場所——みたいな感じだった。憑魔は役に立ちそうだけど。


「わ、だいぶノロットもうまくなったね」

「うん。ずっと練習してるし」

「ご主人様には魔法の才能もあります」

「いや……さすがにそれはないかな……」


 僕の体表を這うように魔力が展開される。

 憑魔も使いこなせてきた。

 あとは正面から戦うしかない。

 混沌の魔王が持つ「絆の力」を打ち破るための、その「絆」を僕らも手に入れた——この紋様が、証拠だ。


 次の満月は、明後日。


 だいぶ大きくなった月が昇っている。

 僕らはサラマド村跡地の目前までやってきた——。




 翌朝、ついに僕らはサラマド村へと足を踏みれる——はずだった。

 そこで僕らが目にしたものは、予想外だった。

 これはまったく予想していなかった。


「……ウソでしょ」


 サラマド村周囲を固めていた、軍勢。

 1000人ほどだろう。

 彼らの掲げる紋章は——トルメリア帝国。


 ——我らはトルメリア近衛師団!! 混沌の魔王は我らが手で討伐する!! この場を離れよ!!


 考えるまでもなかった。

 帝都トルリアンを破壊したのは混沌の魔王。その討伐のために、なけなしの兵士がここまでやってきたのだ。サパー王国の国境を侵して。

 なけなし、と言っていいと思う。彼らの装備は汚れていたし、傷を負っている人間も多い。

 でも目に力がこもっていた。

 必ず討伐する——同胞の仇を取る、という信念に満ちていた。


「これはまいったぞ……こっちは兵力で劣っているからなあ」

「どうしましょう。タレイドさん、交渉できます?」

「無理だ。ああいう手合いは交渉なんぞ望んどらん」

「ですよね……」

「サラマド村までは歩いて1時間ほどの距離だというのに」


 満月は明日だ。

 明日の夜までに着けばいいのだからもう距離的にはたいしたことないんだけど、トルメリア兵がどいてくれるとは思わない。


「……タレイド殿、我々の護衛はここまでということで」


 そこへサパー王国の隊長がやってきた。


「なんだと? 任務を放棄するというか」

「違います。人数で言えば我らはトルメリアの半分もいない。サパー王国とトルメリア帝国は敵国同士。トルメリアとの戦闘は命令にない」

「む、むう……」

「あの! トルメリアの人と交渉できませんかね!? あの人たち、サパー王国に不法侵入しているわけでしょう?」


 僕が間に入ったけど、隊長は渋い顔で首を横に振るだけだった。


「とにかく。我々の任務はここで終わりだ。撤退します」


 サパー兵はあっという間に撤退していった。

 彼らは——明らかに安堵していた。

 それに怒ったのは冒険者たちだ。「ここまでやってきて兵隊は逃げるのか!」「情けねえなあ」「ふだん偉そうにしているくせに」罵声を浴びせるけど、兵士たちの足は止まらない。


「——冒険者も帰れ。これは我らトルメリア帝国の戦いだ」


 いちばん立派そうな鎧を着た男が言う。

 だけど、はいそうですかと撤退するわけにはいかない。


「……仕方ない、話をしにいこうか」


 タレイドさんが長々とため息をついた。


「ありがとうございます。タレイドさん。なるべく穏便にお願いしますよ!」

「……なにを他人事のように言ってる」

「え?」

「ノロットくん、当然君も来るのだ。いいね?」

「え、あ、う」


 僕はタレイドさんに連れられてトルメリア兵のところへと連れて行かれた。

 まさか——この期に及んで最大の敵が協力すべき人類だとは。




 トルメリアの兵士たちはこちらが丁寧に会話したいという意志を伝えると、駐屯地の一角に通してくれた。ぎりぎり軍としての体裁が整っている形だ。それもこれもすべて、「混沌の魔王死すべし」という思いだけでぎりぎりつないでいるというところだろう。


「我はトルメリア近衛第2師団長を務めておる——」


 先ほどの立派そうな鎧を着た人が名乗る。こちらも名を告げると、僕やエリーゼ、リンゴを最初は奇異な目で見ていたもののダイヤモンドグレード冒険者だとわかると納得したようだった。


「トルリアン復興のために労力を割くべきではないかね」


 タレイドさんが水を向けると、


「非常時には防衛と攻撃と2手を取る必要がある。我々は攻撃を任された。やられっぱなしではトルメリアの民は納得しない」

「そうか……。ではこうしてくれ。ここにいる3名だけ通して欲しい」

「バカな。3人でなにができる? あれはまさに……魔王と呼ぶにふさわしい襲撃だった」

「この3人には混沌の魔王を倒す力を持っている」

「であればなおさらだ。ヤツを倒すのはトルメリアの剣だ」


 復讐に囚われてる。

 何を言っても通じなさそうだな……これは夜中にこっそり迂回して進むのがいいのかな。


「夜更けに突破しようと考えているかもしれないが、無駄だ」


 げ、バレてる。


「この一帯には特殊な結界魔法がかけられていることは、何年も前から我々もつかんでいた。サパー王国が秘密の研究をしているのではないかと推測していたが、違ったな。おそらく、魔王がかけたのだろう」

「えと、結界魔法がかけられていたら誰も入れなくないですか?」


 思わず僕が聞いてしまうと、


「満月が上がると解かれる」

「ああ……」


 ええー!!

 ってことはどっちにしろ待ってなきゃいけないってことか。

 当然この人たちもそれまで待つだろうし……同じタイミングで村に入る、しかないのかな。


「では団長殿、聞くが、そちらが入村後に私たちが続くのはいかがか」

「……まあ、よかろう。戦いの余波に巻き込まれても知らんぞ」


 一応納得は得られたらしい。

 うーん……でも、トルメリア兵はかなり被害が出るんじゃないのかな……憑魔、使えないだろうし。

 エリーゼが小声で話しかけてくる。


「ねね、ノロット。あたしたちと勝負してあたしたちが強ければ行かせてもらうってどう?」

「そういうの止めようよ……いやでも明日はおっかないのと戦うことになるんだし」

「でもさー、被害を最小限にするにはあたしたちが先に行くしかないんじゃない?」

「まあ、そうか……」

「なにをこそこそと話している?」


 師団長が咎めるように言うので僕とエリーゼは離れた。


「…………?」


 その彼の視線は、僕ら——の中でも一点で止まっていた。

 リンゴだ。


「わたくしが、なにか?」

「……もしかして貴殿は、オートマトンか?」

「はい」

「そうか……」


 なにか思うところがあるのか、師団長はうなずいた。

 だけれどそれ以上なにかを言うことはなかった。

 僕は「オートマトンに思い出でも?」という程度にしか思わなかった。

 できればもうちょっと聞いておくべきだった。

 そうしたら——違った反応もできたはずなのに。




 その日の深夜、僕は目が覚めた。トルメリア兵のせいでサラマド村に入ることはできないから、僕らは野営をしていた——まあ、野営なんて気取って言ってもただの野宿なんだけど。

 毛布にくるまって寝るだけ。冒険者なんて続けてきたから身体はすっかり慣れたけどね。

 タレイドさんは置かれていった馬車の中で寝ている。一応、年齢もあるから気を遣って。


「——ご主人様、これは……」

「変な音が聞こえるね」


 足音だ。多くの人間が歩いてくる。ただ、一言も声が聞こえない。整然としている。


「なんだあ?」

「兵士でも歩いてんのか」


 冒険者たちものそのそと起きる者も出てきた——ときだ。


「敵襲だ!!」


 声を放ったのはトルメリア兵。

 彼らの駐屯地から、飛びだしていく兵士たち。

 向かう方角は——サラマド村だ。


「エリーゼ、エリーゼ起きて!」

「ん、んう……なに?」

「トルメリア兵が戦ってる」


 剣のぶつかる音、喚声が聞こえてくる。

 冒険者の中には逃げ出す準備をしている者もあった。


「——誰と戦ってるの」

「わからない。様子を見に行こう」

「うん」


 僕らは荷物を片づけると駐屯地へと向かった。


「え……?」


 そこで見たのは——確かに、戦闘だった。

 トルメリア兵が押されている。

 戦っている相手は——、


「どう、いうこと……?」


 僕は隣に立つ彼女を見た。

 リンゴもまた目を見開いたまま止まっていた。

 トルメリア兵が戦っていた相手は、オートマトンだった。

 服がちぎれ、そこに駆動部の関節が見える。

 リンゴと比べればはるかにつたない造りのオートマトン。

 だけど、顔が。


「なんなのよ! あいつら、うちのポンコツにそっくりじゃない……!」


 リンゴによく似ていたんだ——100体を超えるオートマトンが。




「師団長! これはどういうことですか!」


 指揮を執る師団長を見つけて駈け寄ると、


「くっ、やはり貴様、敵の一味だったか!」


 ぎらりと剣を抜く。


「違いますよ! 落ち着いて——」

「問答無用!!」


 斬り掛かってくる師団長。

 その剣筋は鋭い——けど、


「!?」


 エリーゼの放ったショートソードの一撃で師団長の剣は弾かれる。そのまま取り落とした剣の切っ先が地面に突き刺さる。


「落ち着いてください。僕らは敵じゃない」

「く……」

「いったいなんの騒ぎだ!?」


 そこへやってきたタレイドさん。師団長も冷静さを取り戻したようだ。


「……あれは結界の向こう側にいたオートマトンだ。我らを監視するようにちょくちょく現れていた」

「村にオートマトンがいるってことですか」

「いるだろう。大量に」


 予想していなかった、その展開は。


「ということは、よ」


 エリーゼが言った。


「リンゴはこの村の出身ってわけ?」

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