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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第8章 混沌の魔王と冒険者たち

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177 会議の結末

◆◆◆ タレイド ◆◆◆


 大国会議の2日目が始まろうとしている。

 私たち冒険者協会はこの会議のオブザーバーとして呼ばれているが、実質、こちらで握っている情報と、各国首脳が持っている情報に大差はない。それもこれも本部に情報を横流ししているヤツがいるからなのだが、それはともかく……。


「……はあ」

「どうした、タレイド。ため息が深いな」


 円卓に座っているこの方こそ、冒険者協会のトップ、本部会長だ。

 過去のダイヤモンドグレード冒険者であり、そんじょそこらの王侯貴族では話にならないようなオーラを放っている。

 60を超えているはずなのに、胸板も厚く、白髪も交じっていない。

 超人である。


「昨晩にまた厄介事が増えまして」

「ああ、君が目をかけている冒険者か」


 そう、ノロットくんのことだ。

 サパー王家と接触したらしい。私になんの相談もなく、だ。なんらかの取引をしたというウワサが立っているが、ノロットくんは今の今まで私の目の届くところに現れなかった。

 ああ、いったいなにをやらかしたんだ!


「どのみち1日や2日では情勢は動かぬよ」

「はあ、そうでしょうが……それはそれで困りますな」

「そのとおりだ。この会議は協力の場を作るためのはずが、結局のところ互いのあらを探す場に終始している」


 話していると各国首脳が入ってきた。

 サパー王は……ん? 昨日連れてきていた第1王子じゃないな。


「第2王子だ」


 本部会長はご存じのようだ。


「珍しいな。表に出てくる性格ではないと聞いていたが……」


 議長が会議の開会を宣言した。

 それぞれが昨日サパー王家が持ち出した条件案の文書を取り出す。そのどれにも栞が挟まれ、ツッコミどころをメモした文書がくっついている。

 さあ、サパー王家をボコボコにする時間だ——。


「あいや、少々待たれい」


 ——と、だいぶ年のいっているサパー王が片手を挙げた。


「昨日提出した我々の案は、撤回しよう」

「!?」

「なに!?」

「!!」


 参加者全員に衝撃が走る。


「バカ言うのもたいがいにせえよ、このもうろくジジイ! てめえの出してきたこのすっとこどっこいプランをこっちは徹夜で検討してきてるってんだよ!」


 切れっぽい、グレイトフォール自治都市の首長が啖呵を切った。

 他国もそうだそうだと同調している。

 だがサパー王は平気な顔だ。


「短気は損気というだろう? まあ、最後まで話を聞きなさい。——今回の発端は混沌の魔王だ。これを倒せばすべての問題は解決する」

「んなこたあわかってるんだよ。それを、てめえらが妨害してるんだろうが」

「妨害? ほっほ。これは心外。このたび、我々は協力の提案に来たのだぞ? ——混沌の魔王は次の満月に、サパー王国領内に出現するという確かな情報が手に入った。そして混沌の魔王を討伐できる力を持った冒険者も見いだした。彼らを我が王国内に案内し、討伐させようというのだ」

「…………」


 自治都市首長が今にも爆発しそうな目でサパー王をにらむ。

 私だって「なに言ってんだこいつ?」という思いだ。

 次の満月、サラマド村に混沌の魔王が現れる、という情報は暗黙の了解だ。しかも、「討伐できる力を持った冒険者」はノロットくんたちのことだろう。ノロットくんがこの会場に来ていることは、おそらくほとんどの首脳が知っていることだ。

 それを、邪魔していたのがサパー王だったのだ。


「……ジジイ、なに企んでる」


 事と次第によっちゃぶん殴るぞ、とでも言いたげな自治都市首長。


「おい、あれをここへ」

「……はい」


 ん? サパー王が第2王子になにかを言う……と、会議室の扉が開かれ、そこには、


「エリーゼ嬢!?」


 きらびやかなドレスを身に纏ったエリーゼ嬢がいたのだ。

 エリーゼ嬢のことを知っていたのは私だけだったようで、本部会長を始め他の参加者は「誰だ?」という顔だ。


「ほっほ。彼女こそ、混沌の魔王を倒せる力を持った冒険者のひとり。エリーゼ=レティカ=ロンバルク。混沌の魔王を討伐したあかつきには、我が国に迎え入れ、ここにいる第2王子ズラードと婚姻する運びとなっておる」

「なっ——」


 これか!

 これが昨日、ノロットくんとサパー王家が結んだ取引か!


「……チッ」


 本部会長が舌打ちをする。

 私も内心で舌打ちしていた。

 すべてがサパー王家の手のひらの上ということだ。

 混沌の魔王討伐に最も貢献した国として名乗りを上げられるのだ。しかも討伐した冒険者のひとりを娶るとなれば、その事実を裏付けするに十分だろう。

 弱体化したトルメリア帝国ならばこの騒ぎが片付いてから接収しても、問題ない。今回の会議で是が非でも取らなければいけない土地ではなかった——いや、むしろ先にトルメリア帝国の話を出したことで参加者の目をそちらに向けさせ、本命である混沌の魔王討伐という果実を取ったのだ。

 もし仮に、討伐に失敗してもサパー王の申し出は記録に残る。サパー王を讃える者こそあれ、非難する者はいないだろう。


「ほっほ。混沌の魔王を討伐できるのだから、誰も反対はするまい?」


 得意げなサパー王。「チッ」とまた本部会長が舌打ちする。よほど気にくわないのだろう。

 私だって気にくわない。気にくわないが——そんなことより、それでいいのか、ノロットくん? 正直……君がこういった取引のようなことをするとは思わなかった。確かに、今は手段を選んでいる場合じゃないかもしれんが……。

 見なさい、エリーゼ嬢を。

 うつむいた顔はちっともうれしそうではない。

 このままでいいのか、この結論で……。


「沈黙は賛成とみなそう。議長、決議をとれ」

「あ、え、あ、しかし」

「議長! はようせんか!」

「は、はい。申し訳ありません。では、サパー王の提案をもって本件を各国同意のものと——」


 そのとき、だ。


「ちょっと待ったぁー!!」


 扉が、開かれた。

 肩で大きく息をついている少年——ノロットくんと、彼を止めようとしていたらしい警備騎士はリンゴくんによって組み敷かれていた。



   ■   ■   ■



 間に合った。ぎりぎり、間に合った。

 僕が扉を開けたときには、予想通りエリーゼの姿もここにあった。ふだん見たこともないようなドレスに身を包んでいた。


「くせ者だ!」

「捕らえろ!!」


 室内の数人が立ち上がるけれど、誰も動かない。動けない。そりゃそうだ、この部屋に入っていいのは各国、団体の代表者2名だけ。武芸に覚えがあるのは冒険者協会本部会長くらいだろうけど、腕組みして面白そうにこちらを見ている。タレイドさんは——よかった、両目はちゃんと顔に収まってる。


「——てめえ、ひょっとして冒険者のノロットか?」


 がらっぱちな言い方をしてくるのは自治都市の首長だろう。僕はうなずいて、


「はい。混沌の魔王を討伐するパーティーのリーダーとして、ここにやってきました」

「ほう! そいつはいいや。だが——ただのそれだけでこの部屋に入ってきたんじゃあるめえな?」


 眼光鋭くこちらをにらんでくる。

 問答によっては殺す、とでも言いたげだ。

 だけど、そんな視線くらいじゃいい加減僕だってびびらない。


「ええ。そちらにいるエリーゼ=レティカ=ロンバルクは僕のパーティーメンバーです。決戦の前にさらわれてしまったので連れ戻しに来ました」

「さらわれただと——」


 視線がサパー王に集中する。サパー王はうざったそうに第2王子を見ると、第2王子は、


「……彼女が自分の意志でこちらに来たんだ」

「そうでしょうか? 妙な取引があったように記憶していますが」

「……取引なんてない……そうだろ?」


 第2王子がエリーゼをつつく。エリーゼはどうしていいかわからないように——僕を見て、第2王子を見て、


「えっと、あの——」

「取引がない、それならそれで結構です」


 エリーゼがなにかを言う前に、僕は引き取った。


「ならば善意で、サパー王国は僕らを領内に入れてくれると、そういうわけですね? であればエリーゼが婚約を破棄するのも彼女の自由意志というわけです」

「…………」


 明らかにむっとした顔でサパー王が黙りこくる。


「で、でもあたしは」

「エリーゼ」


 僕は息を小さく吸った。


「僕のワガママだ。僕についてきて。僕といっしょに冒険して。これから先どうなるかわかんないけど、エリーゼがいない冒険なんて、想像できないんだ」

「ノロッ、ト……」


 みるみる、彼女の目に涙があふれる。


「あたし……あなたの、邪魔になってるんじゃないか、って……ウザがられてるだけなんじゃないか、って……ずっと、ずっと不安で……」

「いっしょにいてくれてありがとう。何度も助けてくれてありがとう。一度も、ちゃんと伝えたことがなかった……ごめん」

「ううん」


 首を横に振ったのと同時に、涙が宙に散る。


「戻ってきて……くれるね?」

「うん!」


 エリーゼが走ろうとした——ときだった。


「……待て」


 第2王子がエリーゼの手をつかんだ。


「……そんな簡単に約束が覆るわけないだろ。彼女が僕のところに来ると言ったのは、神聖な誓いで——」


 ごねると思っていた。

 だから、


「第4王子の邪法……」

「!?」

「!!」


 僕は、言ってやった。


「ああ〜、口が滑りそうだなあ。第4王子の……」

「わかった! わかった!! エリーゼ嬢は自由の身だ、いいな!!」


 あわててサパー王が入ってくる。


「それだけじゃないでしょ? 今からサラマド村に案内する、そうでしょ?」

「ぐっ……ぐぬぬぬぬ」

「確かサパー王家には王子が……」

「わかった! そうする! それでいい!」

「議長、今の内容の議決を取ってください。サパー王は“見返りなしに善意で”混沌の魔王が君臨する元サラマド村に案内してくれると」

「あ、え、はい?」


 きょとんとする議長に、


「やってやれ。蹴りがついたってことだろーがよ」


 自治都市の首長が促し、そして僕らはサラマド村への足がかりをつかんだ。




「どういうことだ」


 会議が終了してすぐに、タレイドさんが走ってきた。


「第4王子がなんのというのは……」

「ああ、あれは……ナイショです」

「ナイショ!? 今さらそんなことが言えると思っているのか!」

「しょうがないでしょう。そういう約束なんですもの」


 実は、僕がここに来るまでにひとっ走りしてきたのだ。

 王都へ。

 単に「エリーゼを返せ」と言っても、エリーゼが納得しても王家はうなずかないだろうとは思っていた。

 だから、なんらかの切り札が必要だった。

 そのためのネタが欲しかったんだ。

 それで向かったのが、グレイトフォールタイムズの記者たちのいるところだ。彼らがなにかをつかんでいないだろうか——と思っていたら、ビンゴ、すごいネタを持っていた。


 ——都市トルリアンに混沌の魔王を引っ張り出したのは、サパー王家第4王子の仕業らしい。


 クーデターがあったというサパー王国。その中でも第4王子は反体制派の急先鋒だった。

 その彼は復活した混沌の魔王を利用しようと考えた。そして、呼び出した。本当は自らの親を倒すために。

 だが制御は失敗し、矛先はトルリアンに向いた。トルリアンが滅ぼされたのはようはとばっちりだ。

 第4王子はその後、王家の手の者によって捕まり、王家はこの事実を知った。

 記者たちは、第4王子の派閥から聞いたらしい。王家は混乱を利用してトルメリア帝国を得ようとしている。それを防ぐために、情報をリークしたのだ。第4王子のなしたことならばサパー王家のやったことも同じ。サパー王国は孤立する。

 僕は、ある条件を引き替えにそのネタを仕入れた。そしてネタの公開を1日待ってもらった。そして会議場へと走ってきたというわけだった。


「約束で、言えない、か……」

「すみません」


 どうせ明日になればみんな知るところとなりますから。

 とはいえ、僕が知っている以上他にも知っている人間がいるに決まっているとサパー王は考えるだろう。この1日の間に第4王子をどうするか決めるはずだ。おそらく処刑し、「サパー王国はトルリアン崩壊を防ごうと努力した」とか言うに違いない。

 あとあとこのネタが出てきても「反対派のホラだ」と言えたかもしれないけれど、大国会議の最中である今は、まずかった。各国は真相を追及しようとするだろうし、そうなれば会議は長引き、サパー王家は主導権を握れなくなる——。

 ま、その辺は僕には関係ないか。


「ノロットーっ!」

「エリーゼ……うわっぶ」


 思いっきり抱きつかれた。

 あ……あれ。軽いな。もっと重いのを想像してたのに。


「エリーゼ、ちょっと、くっつかれると……」


 向こうから警備騎士をのしていたリンゴがやってくる! 背中に炎を背負って!


「……エリーゼ?」

「ありがと、ノロット……あたし、バカだね。前のめりに突っ走ることしかできないくせに、くよくよ悩んだりして……」


 がば、とエリーゼが離れる。僕の肩に手を置いたまま。


「誰にも負けない! あなたが振り向くまで——ずっとがんばるんだから!」


 す、と彼女の顔が近づいたと思うと、僕の頰に柔らかななにかが押し当てられた。


「今はこれで満足するから……今は、ね!」


 ドレスの彼女はくるりときびすを返すと走り出した。

 そんな格好で走ったら危ないじゃない、とか、はしたないじゃないか、とか、突然のことに僕はぼんやりとしか考えられなくて——、


「ノロットくん、完全に惚れられてるね。いやうらやましい」


 タレイドさんがそんなことを言った。

 向こうではリンゴがエリーゼに飛びかかり、エリーゼはスカートの裾を翻して華麗にかわしていた。

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