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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第8章 混沌の魔王と冒険者たち

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170 光神ロノア 

 翌早朝。日の出と同じくらいに起きた僕らはいつもどおり旅支度を整える。


「ほんとうに、もう行ってしまうの……?」


 未練たらたらという体で聞いてくるルビスを、ランスが、「母様、笑顔で見送らないと」と言っている。


「それじゃあ、僕らは行きます」


 すでにリンゴとエリーゼは外に出ている。なんとなく気を利かせてくれたふうだけれど、なんだか気恥ずかしいのでありがた迷惑でもある。


「いってらっしゃい、ノロット」

「いってらっしゃいませ、お兄様」

「えーと……はい。い、いってきます」


 ルビスもランスもすごい笑顔だった。

 ああ、これはもう、またここに来なきゃいけないってことか……。モラを取り戻して、僕自身も無事で帰ってくる。かなり難易度高めだけど、やるしかない。もとより混沌の魔王は倒さなきゃいけない相手だし。

 外に出るときりっと冷えた空気が頰をなでる。エリーゼとリンゴと合流し、馬車の停留所に向かう――。


「ノロット、ほら」

「ん?」


 振り返る。

 もう、遠目になっている屋敷の前に立って、こちらを見送っているランスとルビス、それに執事の姿が見えた。僕が振り返ったのに気づいて、大きく手を振っている。


「…………」


 は、恥ずかしいな、これは……。

 僕は小さく手を振って、早足で歩いた。


「ノロットのレアな顔が見られてあたしは満足」

「ご主人様はほんとうにお優しい」


 エリーゼもリンゴも喜んでいるようです。なんだこれ。




 その日のうちに「光神ロノアの極限回廊」のある辺境の地ルガントに到達した。

 すごかった。

 いや……だってさ、冒険者だらけなんだもの!

 ルガントは町、というか、村、というか、ほんとうに小さな集落だったのだけれど、野営をする冒険者たちが住人の5倍くらいはいて、それを目当てに行商人たちがやってきていて、大変なカオスだったよ。


「誰か試練をクリアしたやつはいないのか?」

「まだみてぇだぞ。どうもめちゃくちゃ長い迷路のようでな」

「協力して地図を作ればいいじゃねえか」

「いや、それがな、どうも他の人間と話し合いができない、妙な魔法がかかっているようでな……」

「なんでえ、そりゃあ」


 冒険者たちの話を聞きながら、僕らはルガントの集落を抜けていく。神の試練の場所は、集落の裏手にある小さな祠らしい。

 祠の前で、「試練に挑む」とか「ロノアに挑戦する」とか意思表示をすると、巨大迷路に転移するのだとか。

 アノロもこう言ってたっけ。どんなバカでも時間をかければクリアできる、と……。

 ただ、まだ突破者が出ていないのはこの場所が公表されてからそう時間が経っていないせいなんだろうな。


「あそこの祠のようですね、ご主人様」


 僕らは祠へとやってきた。

 僕の腰の高さくらいしかない、小さな祠だ。だけれど周囲の草は踏まれて倒れている。多くの冒険者がやってきているからだろう。

 今この場に他の冒険者がいないのは、今が夕暮れどきだからというわけではなくて、単にここに留まっていても意味がないからだろうね。挑戦するならさっさと迷路に入ればいいし。

 僕はアノロの言葉を思い出す。


 ――ちなみにロノアのところは正面入口から見て真南に進みなさい。そこに小さい……ほんとうに小さい紋章が地面に埋め込まれているの。魔力を探知できれば発見できるはずよ。


 魔力の探知は僕にはできないけど、エリーゼが多少できる。


「ここね」


 草を分けて進んだ先、胡桃程度の大きさの丸い石が埋め込まれてあった。

 うっすらと紋章が刻まれているーーまだ見たことのない紋章。きっと、ロノアの紋章だろう。


「闇よ散れ、光よ来たれ」


 僕が口にした瞬間――目の前の風景が溶けるように消えた。




「……いや、それズルでしょ? ズルイよね?」


 呆然としている僕らの前に現れた青年がいた。

 ひょろりとして頰は青白い。


「あなたが……ロノアですか? それにここは……」


 周囲はだだっ広い、草ひとつ生えていない荒れ地だった。

 こぶし大の石が転がっていて足場は悪い。


「いかにも俺がロノアだけど……誰に聞いたの、ここに来るための短縮語(ショートカット)

「アノロさんに」

「…………」


 瞬間、すごい顔をした。

 まるで親の仇にでも会ったかのような。

 半歩後じさる僕の前で、ロノアは表情をまた変える――優しげな笑みに。


「はあ……」


 なんだろう、ものすごい深いため息をつかれた。笑顔で。


「なんだかすみません」

「君たちが悪いわけじゃないよな。すべてはあの女が悪いんだ……」

「アノロさんと仲が悪いんですか」

「いや、姉は昔からそうだってだけだよ。理不尽で、俺の嫌がることをピンポイントでやってくる。大体さ――」

「あ、あの! 姉弟……なんですか?」

「ああ、そうだよ。あの女はそれも言わなかったのか」


 チッ、という舌打ちの後に、「仕返ししてやりたいけどもうこの身体じゃ無理だな……」と心底残念そうに言う。

 ま、まあ、姉弟ゲンカはよそでやってもらおう。


「アノロさんはこれでクリアだって言っていたんですが、やっぱりダメですか」

「ダメじゃない。というか、もうクリアになっているよ」


 ちょいちょいと指差された僕の手。

 右手の甲にさっき地面に埋め込まれていたのと同じ紋章が光っていた。


「これで……あとは『救世主の試練』か」

「え!? まさか君たち、全部の試練をクリアしてたの? うっそ。マジでか。いや、ほんとだ、全部クリアしてるな。ほんとだわ」

「その試練の場所なんですけど、どこにあるのでしょうか?」

「気持ちを集中すれば見えてくるよ」

「……気持ちを集中? すみません、よくわからないのですが」

「紋章をじっと見つめてごらん。意識を集中するんだ」

「…………」


 紋章……僕の右手。

 僕がじっと見つめていると横からエリーゼとリンゴもまた視線を送ってきた。

 エリーゼは自分の手にあるんだからそっちを見たらいいと思うんだけど――。


「あ」

「ああっ」

「!」


 僕らはその瞬間、ある光景を目にした。

 海に浮かぶ小島。

 うっそうとした森に囲まれた中にある、建造物――。


「見えたかい? そこだよ。方角もなんとなくわかるだろ」

「……西の方面ですね」


 理屈じゃない。ただその遺跡の位置が「わかる」んだ。

 不思議な感覚だった。


「さ、それじゃいってらっしゃい~。俺はもうしばらく寝ていようかな。押しかけてきてる連中がここまで来るのにはもう少し時間がかかりそうだし……」

「あの、ロノアさん」

「ん?」

「あなたは、6人のうち誰が裏切ったのか、ご存じではないんですか。誰が混沌の魔王の欠片を持ち帰ったのかを……」

「ああ、知ってるよ」


 ……え?

 あっさりと答えたロノア。


「だけどそれを知っても仕方ないだろう? 俺たちを罰するにしたところで、俺たちはとっくの昔に死んだんだ」

「…………それは、そうですが」

「そいつは巧妙に欠片を隠した。だから俺以外に答えを知っているヤツはいないだろう。――さ、もう無益な犯人捜しは止めるんだな」


 無益、かもしれない。

 だけれど心のどこかで納得できないところがある。

 僕はなんと言うべきかわからなかった。

 迷っているうちに――周囲は様変わりしていた。

 もとの草むらに、戻っていたんだ。

 日はすっかり暮れていた。


「……行こうか」


 モヤモヤしててもしょうがないや。

 モラを取り戻す。

 そうしたら全部、すっきりする。




 僕らは西へと向かった。「光神ロノアの極限回廊」へは、ただ立ち寄っただけという感じになってしまったけれど、ともかくも神の試練を6つ突破したことになる。前人未踏の快挙なんだろうけれど、今のところ僕にとってはどうでもいい。

 さて、「救世主の試練」がある、小島に渡るための船を都合した僕らは、6時間ほどの航海でその小島にやってくることができた。お金はだいぶかかったけど、背に腹は替えられない。次の満月まであと20日を切っている。サラマド村の位置がまだわからない以上、移動になるべく多くの時間を用意しておきたい。20日は、余裕とは言えなかった。


「さて、それじゃあ『救世主の試練』だけど……」

「どうやらここ、みたい?」

「そのようですが、しかしこれは……」


 僕、エリーゼ、リンゴの3人は浜辺に突っ立っていた。

 確かにここが――ロノアの言ったとおり「意識を集中」したら見えてきた場所だ。

 直感的にわかる。

 でも、これは予想してなかった。

 絶海の孤島。

 そんなに広いわけじゃない。

 なのに――村があったんだ。


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