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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第8章 混沌の魔王と冒険者たち

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153 ぽーん、ふたたび

『昨日、ダイヤモンドグレード冒険者であるエルフのプライア氏が募集する、新パーティーのメンバーが決定したと発表された。このパーティーは先日発見された神の試練「女神ヴィリエの海底神殿」に挑むためのパーティーであり、伝説級遺跡「63番ルート」の最奥のさらに先にあるため、高い戦闘力が求められていた』


『「女神ヴィリエの海底神殿」発見後、グレイトフォールを訪れている宝石(ジュエル)グレードの冒険者数はついに100名を突破した。一方で冒険者を収容する宿の客室数が不十分であるという問題を受け、グレイトフォール冒険者協会会長のタレイド氏は新たな施策を実施するという』


『「63番ルート」での死亡者が、この1週間で10人を超えている。そもそもこの「63番ルート」を最初に攻略した冒険者ゲオルグのことをご存じだろうか? 彼は今、どこにいるのか』



 僕は斜め読みしていた新聞を閉じた。

 船は今、グレイトフォールに接岸しようとしていた。


「すごいな……人が増えた。もともと活気ある町だったのに、輪をかけてすごい」


 グレイトフォールは絶海の都市だ。食料品や生活用品、その他様々な物資は海運に頼っている。僕らの乗ってきた客船も搭載重量の半分は交易品だ。

 これを待っていた業者が貨物の出口に集合している。税関は船内で済ませるので出てきた荷物は引き取り証と引き替えにすぐにも手渡される。木箱が来た、来ない、取った、取られたでカオスになっている。

 乗客の出迎えは控えめなものだった。乗船していて気づいたけど、船にいる大半が冒険者なんだよね。みんな神の試練での一攫千金を夢見ていることは疑いない。中には冒険を始めたばかり、という感じの若い少年少女のパーティーもいたりして——ってまあ、僕も人のこと言えないんだけど、心配にはなるよね。


「3回目……また来ることになるとは思わなかったな」

「なにかと縁のある町ですわ」


 僕のつぶやきにリンゴが答えてくれる。

 すると、


「おいおい、んなとこに突っ立ってもらっちゃあ邪魔だろうが。どけどけぇ!」

「そうだぜ! この方が誰だと思ってる!? ゴールドグレード冒険者のルゴン兄貴だぞ! 宝石グレードは間近と大評判の!」


 後ろから騒がしい声が聞こえてきた。僕らに言われてたみたいだ。

「ゴールドグレード」という単語に、周囲の冒険者たちが「おおっ」と声を上げる。

 そのルゴンという人は、背の低い子分を引き連れた……なんていうんだろう、海賊? 胸元は毛むくじゃらで頬に傷痕のある冒険者だった。


「あ、すみません」


 僕がリンゴを引き連れて横にどくと、鼻を鳴らしながらルゴン一味が歩いて行く。


「おお、この船で到着したのか!」


 そこへ、向こうから見知った顔が走ってくる。

 僕が返事をするよりも前に他の冒険者が、


「おい、あれっ! ここの冒険者協会のタレイド会長じゃねえか!」

「え!? “クーデターのタレイド”って評判の?」

「俺は“怒れるタレイド”って聞いたぞ。なんせ前会長を内紛で始末したって話だもんな」


 …………。

 タレイドさん。変な二つ名がついてます。


「マジっすか。兄貴、わざわざ会長が迎えに来てますぜ!」

「あわてるな。俺くらいの人物になると当然の待遇だ」

「おおおお! すげー!」


 ルゴン一味が喜んでいる。

 あれ? タレイドさん、この人を迎えに来たのか。僕が知らないだけでこの人すごく有名なのかな。

 とか思っていると、タレイドさんはルゴンをスルーして僕の前にやってきた。


「いやあ、よく知らせてくれた、ノロット。今日か明日だろうとは思ってたけど、今日は今しか時間がなくてね。他の便だったら迎えを寄越さなきゃならんところだった」

「あ、え? あ、僕の出迎えにわざわざ?」


 そっちの人じゃないの? 腕組みした海賊みたいな冒険者ルゴンが顔を赤くしてぷるぷるしてる。なんか申し訳ない気持ちになる。


「な、なんだあのガキ?」

「今ノロット、って言わなかったか……?」

「ほんとうか。聞いたことがあるぞ、ここのダイヤモンドグレード冒険者のプライア、ゲオルグを踏みつぶしてのし上がった、“冒険者喰いのノロット”」


 ちょっと待って。聞き捨てならない妙なフレーズが!


「さ、行こう、ノロット。話さなきゃいけないことが多い」

「あ、は、はい、でもあの——」

「急ごう。すまんな、時間がなくて」


 訂正! 訂正させて!

 そんな余裕を与えてくれず、引きずられるように僕は港から去ることになった。




「まずこちらから情報共有だが、プライアくんのパーティーが今朝早くから『63番ルート』へ入った」


 冒険者協会の理事長室はこぢんまりとしていた。どうも前会長がかなり贅をこらした部屋を使っていたらしく、それは「冒険者の長としてふさわしくない」とタレイドさんは元々物置だったこの部屋を掃除して理事長室にしたらしい。


「パーティー結成については新聞で読みましたけど……もう遺跡に入ったんですか。早いですね」

「まあ、既存のプライアくんのメンバーが核となっているし、ソイやペパロニといった高いグレードの冒険者との連携ならば難しくないだろう。追加で3人募集をかけたんだが……すごかったぞ。応募が殺到して」

「でしょうね」


 ただでさえ神の試練を発見したという功績があって、しかもプライアはあの美貌だもんなあ。


「エメラルドグレード1人、サファイアグレード2人、これで3人の枠は埋まったんだが、ぎりぎりになって1人追加したようだ。グレードのない冒険者だったが、相当腕が立つとか」

「冒険者協会に加入してないってことですか?」

「そのようだ。あるいは身分を偽っているだけかもしれないが」


 へー。どんな人なんだろう?


「プライアくんについてはそれくらいだな。あとは——まあ、君たちにはもう関係ないが、前会長の処分が決まったよ。牢獄送りだ」

「まあ……そうなりますよね」

「うむ。余罪がかなりあってな。横領や、権力を盾に脅迫まがいのこともしていた。死ぬまで牢獄暮らしだ」


 そんなにひどいこともしてたのか。


「最後にひとつ。君たちのことだ」


 タレイドさんの表情が不意に曇った。


「ヴィンデルマイア公国が、冒険者ノロットの資質に疑義ありとして、ダイヤモンドグレード剥奪を求めている。いったいなにをやらかしたんだ?」




 僕はタレイドさんに一通り説明した。

 もちろん、神の試練の中身に関することは話せないので、外側のことだ。


「ふーむ、なるほど。ヴィンデルマイア公国は君のように優れた冒険者を子飼いにしたかったというわけか。それで君たちは強行突破した」

「簡単に言うとそんなところですね。それで、僕の冒険者認定証はどうなりますか?」

「実は、協会本部はすでに公国の訴えを退けている」


 あれ? そうなの?


「公国の動きを監視していたらしい。特にキッシン殿が強く、公国を非難したそうだ」


 おお、そうなんだ。

 あの人、趣味で仕事してるようなところがあったけど、実はちゃんとしてるんだね。


「まさか、公国から逃げるために私を頼ってきた——ということはなさそうだな。一体どうしてグレイトフォールまで?」

「タレイドさんに頼み事、というか、意見を聞きたいというか、そんな感じなんです」

「私に? なんだね、話してみてくれ」

「はい。残りの神の試練の場所がすべてわかったので世界に公開しようかと」

「ほう。神の試練の……」



 ぽーん、とタレイドさんの眼球が前方に飛んでいった。



「ばばばば場所が全部わかったああああああああああ!?」


 あれ? 目の錯覚か。両目はちゃんとタレイドさんの眼窩に収まってるな。


「あ、はい」

「それを公開するううううう!?」

「はい」

「まままさか全部突破したのか!?」

「いえ、さすがにそれはないですよ」

「だ、だよな……」

「あれから2つしか突破してません」



 ぴゅんっ、とタレイドさんの眼球が回転しながら宙を駈け抜けていく。



「ふふふふたつううううううううう!?」


 飛んでいった眼球を僕の視線は追っていたはずなのに、タレイドさんの顔に目を戻すとそこには眼球が収まっている。

 なんだ、なんなんだ、この不思議な感覚は!


「えーと、神の試練の中身については話せないじゃないですか。だから詳しくは話せないんですけど、それでも場所のことは伝えられます。あ、それと『救世主の試練』は6つの神の試練を突破したら行けるらしいので、その場所はまだわからないです」

「…………」

「タレイドさん?」

「…………ほ、ほんとうに、神の試練を突破してきたというのか……こんな短期間に……?」

「公開に当たっては僕らの存在は隠したいんです。それができるのかどうか——っていうのが今回の相談です」

「そうか。そういうことか。ヴィンデルマイア公国のことがあったからだな? それも神の試練がらみなんだな?」


 それだけでタレイドさんはピンときたようだ。

 さすが、仕事のできる会長。


「君たちの名前を隠すことはできるだろう。私が協会本部に連絡して、君たちの名前を伝えなければいい。そして本部通達で公開する。真実を知るのは私だけだ。ただ……本部も一枚岩ではないからな。私が急にそんな情報を伝えれば、君がここにいることと合わせて邪推する輩が出てくるかもしれない」

「そうですね……でも、その程度のリスクなら仕方ない——」


 と僕が言いかけたところだった。



「話は聞かせてもらいましたあああ!!」



 ばーん、と部屋の扉が開いて、入ってきた人物——亜人がいた。


「お久しぶりですノロットさん!」


 グレイトフォール・タイムズの記者、シンディだった。


「そして世紀の特ダネありがとうございます!! その発表、弊紙を通じて発表させていただきます!! 情報源の秘匿はもちろん、すべての矢面に弊紙が立つのでご安心——」

「タレイドさん、スパイですね」

「スパイだな」

「ください——え? え? え?」


 リンゴに首根っこをつかまれたシンディは、自分の立場に気がつく。


「い、いや、そこは『これで安心だ。グレイトフォール・タイムズに任せよう』ってなる流れですよね!?」

「なに言ってるんですか。冒険者協会の会長室を盗聴したんですよ。立派な犯罪ですよ。ね? タレイドさん」

「間違いなく投獄案件だな」

「い、いやあああ!? たまたまですよ! たまたま! たまたま通りがかっただけ! 私はなーんにも悪くない! 聞こえてしまった特ダネを記事にしてしまう! あー、よくある。よくあることだなー


 タレイドさんはため息を吐く。


「まったく……記者をここまで素通りさせてしまう、この協会も問題だな。さて、ノロット。確かに新聞を通じて発表するというのもひとつの手だが、どうする?」

「メリットはなんですかね」

「情報源の秘匿はできるだろう。私を通じて情報を与えたことにすればさらに安全だ。シンディ以外は君からの情報だと知らないわけなんだし」

「なるほど」

「記事になるとわかれば彼らは情報源を秘匿する。また公権力に屈することはない。屈してしまえばその新聞は終わりだからな、そこは信用していいだろう」


 なまじ新聞社に利益がある以上、冒険者協会より信用できるってわけか。


「しかし、デメリットもあるぞ。グレイトフォール・タイムズ一紙の発表となると、ただの飛ばし記事として埋もれる可能性がある。一気に広めたいと思うなら……そうだな、他の新聞社にも声をかけた方がいい」

「ええええ!? イヤですよ! ここはうちの特ダネにさせてくださいよおおおおお!!」

「……監獄からはもう記事を書けなくなるな。残念だな。名物記者シンディの記事をもう読めなくなるとはな」

「うぐぐぐ。それは脅しですよ、冒険者協会がいたいけな新聞記者を脅してる! ノロットさんもなんとか言ってやってくださいよ!」


 シンディはほんとに元気だな。相変わらずと言うべきだろうか。


「グレイトフォールの新聞社って何社あるんですか?」

「ちょっとノロットさん!? まさか独占を許さない気ですか!」

「質問に答えないなら別に——」

「答えます答えます答えます! 大手紙3社に、中堅1社、細かいところがいくつかありますけど、他地方からの通信員も駐在してますよ!」


 おお、そんなにいるんだ。


「よさそうですね」

「グレイトフォール・タイムズがいちばん影響力ありますからね!? だから独占インタビューをぉぉぉ……」

「いや、僕の名前出さないって言ってるじゃないですか」

「なんでですか!? 神の試練の発見ですよ!? ヤバイでしょ! すごいですよ! マジっすよ!」


 新聞記者なのに語彙が貧困だけど大丈夫かなこの人。


「こいつァほんとに懲りねェなァ」

「あれ? ……ノロットさん、誰ですかこの美人」


 あ、シンディはモラのことわかってないのか。

 でも説明してもしょうがないし面倒だな。


「えっと、冒険者仲間です」

「ノロットさん……」

「はい」

「実は女好きなんですね!」

「……はい?」

「わかりました! ではグレイトフォール・タイムズはノロットさんのハーレムパーティーに加入した謎の美女を特集させてください! それで手打ちとしましょう! 売れる、これは売れますねえ〜!」


 うわ……これ、たぶん「イヤだ」って言っても書かれるヤツだ……。


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