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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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152 訣別

 魔境を出るまで、僕らはいろいろと考えた。

 主に、情報の公開についてだ。

 僕らの存在を明らかにせずに、世界に神の試練の場所を公開するにはどうしたらいいか?

 最初、僕が考えていたのは冒険者協会を通じて公開する方法だ。

 キッシンさんなら真面目に聞いてくれるような気がする。


 でも、キッシンさん以外がどう受け止めるかわからないし、なによりヴィンデルマイア公国に近い。話をしに行ったらヴィンデルマイア公国に捕まるとか、すごくありそうだ。

 あるいはタレイドさんを通じて公開する? グレイトフォール冒険者協会は今、冒険者にとって最もアツイ場所であることは間違いない。唯一公開されてる神の試練の場所だしね。タレイドさんの言葉なら聞いてもらえる可能性が高い。

 まあ、タレイドさんにめっちゃ迷惑かけそうな気がするけど。それくらいかな、問題は。


「じゃあ、一度グレイトフォールに行くってことでいいかな?」


 ちょうど魔境から出るところで僕は聞いた。

 その方向で意見はまとまりつつあった。



「誤報だと思っていたが、事実であったか」



 森を抜けた僕らが目にしたのは——100人の軍勢だった。

 黒色のプロテクターに身を固めた兵士たちが馬にまたがっている。

 旗印は2頭の馬に騎士という、ロンバルク領の紋章。


「お前が帰ってきたとはな……エリーゼよ」


 先頭の男が、言った。


「お兄様」


 エリーゼが驚いたように、返した。




 ヴァレイ=リーグ=ロンバルクだと、男は名乗った。

 父であるランバートの、ミドルネームを引き継いでファーストネームにしているのだとか。

 エリーゼと同じプラチナブロンドの髪を短く刈り込んでいる。

 でも顔立ちはあまり似ていない。

 鼻下にあるヒゲのせいだろうか。

 こちらを見下ろして、不機嫌極まりないとでも言うようにしかめ面だ。


「今さら魔境になんの用だ。父上が迎えに行けと言うから来てみたが……」


 エリーゼの動きは捕捉されていたのか? 関所でエリーゼの顔はバレていたのかもしれない。


「お兄様には申し上げられません」


 エリーゼが拒絶をする、と——、


「バカ者がァッ!!」


 額に青筋を立ててヴァレイが怒鳴りつけた。


「お前が、お前ごときがこの私に拒否をするだと? お前のような、婚姻の役にも立たない行き遅れのゴミは正直に答えればいいのだ!! 秘密主義の父上から情報を引き出すチャンスだろうが!!」


 エリーゼの顔からスッと血の気が引く。

 あ。

 これはきましたわ。

 僕の頭に、カチーンと。


「おい」


 僕がエリーゼの前に立ったとき、右にはモラが、左にはリンゴが立っていた。

 見るまでもない。

 ふたりとも怒りを身に纏っている。


「なんだお前は。エリーゼの護衛か?」

「仲間だよ」

「仲間? はあぁ……ついに平民と行動をともにするようになったか。哀れだ。血筋だけはロンバルクのものを引いているから、多少は使えるはずだが……おい、エリーゼを傷物にしたか? だとしたら余計に価値が下がる」


 なるほど。

 うん、なるほど。


「エリーゼ」


 僕は彼女を振り返らずに聞く。


「こいつら全員ぶちのめしていい?」

「え……ダメ、ノロット、そうしたらあなたにまで迷惑が——」


 エリーゼが言うよりも先に、ヴァレイが笑い出した。


「あっはははははは! はははははははははは。たかだか4人でなにを抜かす? ここにいる軍が見えないのか。ロンバルク領きっての精鋭を集めた専用の軍だぞ」


 兵士たちが腰の剣に手をかけた。


「それに騎馬と歩兵の戦力差もわからないようだな。いいか? 平地での戦争において歩兵と騎馬は圧倒的に騎馬のほうが——」

「命じる 雷撃弾丸(サンダーバレット)よ、起動せよ」

「——有利なのだ。これは初歩中の初歩。しかもここにいる100人は……ぎょああああああああ!?」


 無視して魔法弾丸をぶち込んだ。

 ヴァレイの身体に触れた瞬間ほとばしった電撃は、ヴァレイの身体を感電させる。彼は馬上でのたうち回ると落馬した。


「なっ——」


 兵士たちが、驚愕する。


「さすがに僕も頭にきたよ。エリーゼ、君をバカにするような連中はまとめて吹き飛ばす」


 それは戦闘開始の合図だった。




 突っ込んでくる100騎は、なかなかに迫力があった。

 地響きを立てて馬が駆ける。

 だけれどこちらだってそれを黙って見ているわけじゃない。


「はあああああっ」


 最初に飛びだしたのはリンゴだ。

 ふだんエリーゼとケンカばかりしてるけど、さすがにこれは腹に据えかねるのだろう。

 リンゴの跳躍力は異常だ。

 馬上の兵士がぎょっとしたときには遅い。

 繰り出された蹴りは兵士の胸を直撃し、身体は背後に飛ぶ。

 後続の騎馬を3騎ほど巻き添えにしていく。


「人間相手じゃァ俺っちの魔法は過剰になっちまうからなァ」


 モラは、ヴァレイの使っていた馬に飛び乗っていた。ヴァレイの電撃は鞍によって防がれていたようだけど馬は動揺している。でも、暴れようとした馬をあっという間に落ち着かせたモラは、


「来たれ、鉄剣浮撃(ソードピア)


 虚空から、異様に長い剣を取り出す。

 銀色に鈍く輝くそれは、長く細いのにしなりもせずピンと直立していた。


「ほォらよッ」

「なんだその太刀筋は! 剣とは——」


 ひゅんっ、と軽く振っただけの一撃だった。

 軽くしのげるとばかりに剣で受け止めようとした兵士の判断はごくごくふつうのものだ。

 だけど——相手はモラだ。

 ただの剣であるわけがない。


「!?」


 スパッと切れたのだ。

 兵士の手にした、剣が。

 そしてモラの長い刀身は兵士の身体に入り込んでいく——斬って捨てた、と見えた。


「? ……な、なんだ?」


 兵士の身体からは血も出ていない。


「——っぐ!? ぎゃあああああ、痛い、痛いいいいいいい!?」


 直後、襲いかかる激痛に、落馬する兵士。


「命じる。地殻弾丸(クラストバレット)よ、起動せよ」


 僕だってぼーっと眺めていたわけじゃない。

 一度に5つの魔法弾丸を起動する。

 放射状にぽいぽいっと投げると、地面が隆起して、僕らを守る土壁が現れる。

 騎馬は確かに機動力が高い。

 だけどそれは、なだらかな平地に限る。

 こうして壁があればかわしていくしかない。


「くっ」

「どうっ、どうどうどう」


 急ブレーキをかけた馬たちがいななく。

 そこを、通常弾丸で僕は撃っていく。

 撃つのは、額だ。

 頭は鉄製のヘルメットで防御されてる。だけど強い衝撃を与えれば脳しんとうにつながる。

 そうすればすぐに無力化できる。

 瞬く間に、5人撃って落馬させる。

 まあ——魔法弾丸を撃ったほうが早いんだけどさすがに大量殺戮まではしたくない。もちろん、落馬の衝撃で数人は死ぬだろうけど。


「魔法だ! 魔法を使うぞ!」

反魔法(アンチマジック)の防御式を起動しろ!」


 後方にいる数人が魔法の詠唱を始める。

 だけど彼らは勘違いしている。

 僕の射撃は物理攻撃だ。モラの剣はわからないけどね。

 魔法に対抗するらしい防御魔法が発生しても、リンゴは跳び蹴りを入れるし、モラは兵士を斬って回り、僕は兵士を撃ち落としていく。


「……ノロット、あたし。あなたにこんな迷惑をかけたくなかった」


 ちらりと、振り返る。

 今にも泣きそうな顔のエリーゼがいた。


「エリーゼ。今しか言わないよ。——エリーゼが僕らパーティーのためにしてくれたいくつもの協力を思えば、こんなの、迷惑のうちにも入らないから」


 出会ったときの化け物じみた厚化粧からはほど遠い、エリーゼによく似合ったナチュラルメイク。

 エリーゼの瞳が大きく見開かれて——、


「……そこは、『君を愛してるから困難だって乗り越える』とか言うものよ?」


 そんな冗談が、一筋の涙とともにこぼれた。




 戦闘はすぐに終わった。

 30人ほどが戦闘不能になると、負傷者を引き連れて彼らは引き下がり始めたのだ。

 それを追う理由もないので放っておくと、彼らは徐々に距離を置いてついには見えなくなった。


「エリーゼよォ、勢いでやっちまったがこれでよかったのか? 完全に実家とはケンカ別れになったってェことだろ」

「いいのよ。ほんとはあたし自身が戦いたいくらいだった」

「それをさしたら俺っちたちのカッコがつかねェからな」


 モラがからからと笑う。


「さて、それじゃあここを離れようか。目指すはグレイトフォールだ」


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