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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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149 邪神アノロの隘路(4)

風邪で週末やられてて寝込んでました……皆様も夏風邪は治りにくいのでお気をつけください。そして明日から出張で4日間海外なので、更新が滞るため、毎日更新の表記を外しておきます。

 あの幻影術師であるドルイドによる幻影で、リンゴは僕がふたりに見えていたみたいだ。だけど僕が剣を持って戦うわけがないのでそっちを攻撃した、と。

 僕が見せられたような「記憶」をリンゴが見なかったのは——リンゴがオートマトンだからだろうか? その辺はちょっとわからないな。


「それじゃ行こうか」

「ご主人様、大丈夫ですか」

「大丈夫じゃないけど、ここにはいたくない」


 ちらとドルイドの燃え尽きた痕を見た。

 僕らは歩き出した。すっかり霧は引いている。

 ここはちょっとした広場になっていた。だけど崖が周囲を囲んでいるのは変わらない。

 リンゴが来たのとは逆に出口があるのでそちらへ歩いていくと、またも小道だった。

 その小道はすぐに終わりを告げた。まるでこんなのは場つなぎなんですよとでも言いたげのように。

 さらに巨大な広場があった。


「広いな……でも、なにもない」


 草も生えていなければ木もない。不気味なまでに整地された広場だった。


「ッ! お前ェは何者だィ!」


 投げかけられた誰何の声に僕の心臓が跳ね上がった。

 ここへ通じる小道は僕らが来たところ以外もあるようで、


「ニセモノ!? 本物!? どっちよ!」


 モラとエリーゼがそれぞれ別々の道からやってきた。


「ふたりとも、無事だったんだ」


 正直に言えばほっとした。僕があんな目に遭わされたんだから、ふたりだってなにもなかったわけがない。この警戒っぷりを見れば明らかだ。


「ノロット!? ほ、本物なの? それにそっちの——」

「ご主人様。あの女はドルイドです。間違いありません始末しましょう」

「……リンゴさん? 目がマジだけど、根拠ないよね?」


 僕らは4人で落ち合う。


「…………」

「…………」

「…………」


 気まずい沈黙とともに。

 いや……これ、間違いなくなにかあったよね?


「あ、あのね、ノロット! あたし——うん、あたし、平気だから!」

「……え? なにが?」

「ううん、大丈夫、無理しなくて。いつか話してくれたらいいから! あ、あたしは、その、ノーマルだけど、できるだけがんばってノロットの好みに合わせるからさ!」

「ちょちょちょっと待って! なに!? なんなの!?」

「ほんとあたしちょっとびっくりしただけだから、うん」

「いや待って! なにかものすごい勘違いされてる気がする! アレだよね、見たんだよね、なんかの僕の記憶を。でもそれって一部だけだからね、誤解されるように見せられてるだけだからね」

「平気だから、うん、あたしが強くなれば……精神的な意味で」


 なんだよこれぇ! 誤解が解けそうにない!

 っていうかエリーゼは僕のなにを見たの!?


「エリーゼェ……お前ェさんよォ、いくら貴族だからってやっていいことと悪いことがあるんじゃねェか?」

「うぇ!? な、なに? あたしがなにしたの?」

「胸に手ェ当ててよォく考えてみるこった。ノロットが知ったら軽蔑もんだぞ……」

「待ってよモラ! あたし変なことなんて——そりゃまあちょっとくらいはあるけど、モラにそこまで言われるようなことはしてないよ!? ……あっ、そういうこと!? 記憶を、断片だけ見せられて……誤解させられてるってこと!?」


 自分の身に返ってきてようやくエリーゼは気がついたらしい。


「をん? するってェと俺っちの記憶は……ノロットが見たのか?」

「…………」


 僕は、小さくうなずいた。

 それだけでモラはわかったらしい。


「……そォか、見たんだな、ノロット。アラゾアの最期を」

「よく、わかったね」

「お前ェのつらそうな顔見りゃァよ。そんくれェしか思いつかねェ。だがな、ノロット。俺っちは自分がやったことを——」

「ごめんね、モラ」

「……をん?」


 僕の口を、謝罪がついて出た。

 ああ、もう、モラがきょとんとしてるじゃないか。

 ほんとはちゃんと話したかったのに、まずその言葉が出てきてしまった。


「あのね、モラ。僕はモラの相棒だよね?」

「お、おォ、そうだと……思ってるが」

「だったら! 僕は、モラについていくべきだった。ほんとは心のどこかでわかってた。決着をつけるっていうのがどういうことか」


 悪魔に手を借りてとんでもない力を手に入れていたアラゾア。

 そんな彼女と決着をつける——ただで済むはずがない。

 話し合いで解決するわけもない。

 どちらかが命を落とすことになると。

 心のどこかでわかってたはずなのに。


「僕は戦力としては不足だし、心の支えにもなれない。でも、だからこそ、モラについていくべきだった。ごめん、モラ。僕はまだ、モラのほんとうの相棒になれてなかったんだ……」

「もういい」


 モラが僕の前に立っていた。


「え——」


 モラが、僕を抱きしめたのだと気がつくのにほんの少し時間が必要だった。


「……泣くンじゃねェよ、男だろォが」

「え、僕、泣いて——」


 頬がすーすーする。まただ。また、泣いてたみたい。

 ああ……ダメだな。ほんとうに、僕は。

 ぐずぐずして、すぐに泣いたりして。逆にモラに気を遣わせて。こんなんで冒険者を名乗ってるんだから……。


「お前ェにつれェ思いさせちまったみてェだな」

「ち、違うよ、つらかったのはモラのほうで、僕は——」


 言いかけたときだった。



 ずぅぅぅぅううううううんんんんん————。



 僕らを地響きが襲った。

 巨大な広場——その中央に降り立ったのは、黒い霧を纏った巨竜だった。


『試練に挑みし冒険者よ。現れし魔物を倒せ。これが最後の試練である』


 声が聞こえてくる。

 心に直接聞こえてくるようなその声は、「女神ヴィリエの海底神殿」で体験したときのものに似ていた。


「これ……そういう、ことか」


 僕は気がついた。

 入口にあった石碑。

「横を歩く仲間とともに、胸を張って道を進め」——仲間との信頼を試される試練なんだ。

 だから、ひとりでやってきたノーランドには意味がなかった。


「どういうことでェ?」

「僕らのお互いの……記憶を見せ合い、信頼を揺るがす。そこに強敵を配置する。それでもなお仲間とともに試練を乗り越えられるかを試す、っていう試練——」


 言いかけた僕は、


「……ほォ?」


 言葉を続けることができなかった。


「ンなくだらねェことのために——ノロットを泣かしたのかィ、ここの邪神(バカ)はよォ」


 モラから立ち上る強烈な魔力が、僕の肌をなでる。

 僕に背を向けたモラを止めることさえためらわれる。

 それくらいの怒気が満ちていた。




 それは戦いとは呼べなかった。


「も、モラ! もう止めて! もうとっくに死んでるよ!!」


 僕は立て続けに魔法を唱えまくるモラを背後から羽交い締めにした。左右からエリーゼとリンゴも止めにかかって、ようやく止まった。

 すごかった。

 モラが本気で魔法を使ったのを初めて見た。

 巨大な魔力の塊が数十という数、巨竜に飛来した。

 一度たりとも相手に攻撃をさせなかった。

 あちこちの地面はえぐれて地形が変わってる。

 巨竜は……ちょ、ちょっと、正視に耐えない姿になってる。食欲が一気になくなるヤツ。

 王海竜にあれだけ苦労したのに。

 モラなら、王海竜にソロで戦えるんじゃないだろうか……。


「チッ、もうくたばっちまったのかィ」


 悪態をつきながらも結構息を切らしているモラ。額にも汗が浮かんでる。


「……モラ。ありがと」

「なんでェ。俺っちは自分でムカついたからやっただけだィ」

「それでもだよ。僕のために怒ってくれて」

「だから俺っちは……ああ、もうッ。さっさと行くぞ。この先にどォせアノロがいるんだろォ。一発殴ってやろうや」

「い、いや、さすがにそこまでしなくとも」


 僕がモラの後を追いかけていく——と、背後で、


「……ねえ、モラってもしかしてノロットのこと……?」

「……気がつきましたか。これは強敵ですよ。文字通り」

「……ヤバくない? 先に既成事実作る?」

「……くっ、まさかあなたと協力しなければならないとは。背に腹は替えられません」


 なんか、リンゴとエリーゼが話しているのがほんのり聞こえた。


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