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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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148 邪神アノロの隘路(3)

 地面に転げた僕は、涙に濡れた視界でなにが起きたのかを確認する。


「ご主人様、ご無事ですか!?」

「リンゴ……?」


 僕を突き飛ばしたのはリンゴだった。

 メイド服の袖から隠し刃を出現させたリンゴは、モラの一撃を防いでいる。


「リンゴ、僕は、僕は……モラとは、もう、僕は……」


 モラに言われたことを思い出し、また涙があふれてくる。

 どうしていいかわからない。このまま冒険を続けていいのかも。


「しっかりしてください、ご主人様!」

「でも、モラに言われたんだ……もうお終いだ、って……」

「モラ様? どこにいるんですか、モラ様は」

「いるじゃないか!? なに言ってるんだよ、リンゴ、目の前にいるじゃないか!」

「え……?」


 心底わからない、というようにリンゴは眉根を寄せる。

 そして彼女は、モラの剣を押し返してから距離を取り——僕を守るように立ち、


「ノロット様、わかりましたわ」

「……なにが?」

「そやつは幻影術師ドルイドです。モラ様の幻影を見せられているのでしょう。わたくしには、ノロット様に見えますもの」

「え……え?」


 リンゴには、モラが僕に見える?

 幻影を見せられている?


 今言われたことは——幻影……つまり、ウソ?


「ノロット様……そのお顔。ずいぶんとひどいことを言われましたのね。そこでお休みください。わたくしがあやつを倒しますから」

「待って」


 僕は立ち上がった。


「……ノロット様?」


 そうか。幻影か。


「ウソか……ウソだったのか」


 ぽつりと言うと、モラは——ドルイドは首を横に振る。


「おィおィ、お前ェが見た俺っちの記憶は本物だぜェ? 正真正銘俺っちは人殺しだ」

「だから、なに?」

「——な、なにってお前ェ、俺っちが怖ェだろ?」

「怖いわけないだろ」


 ふつ、ふつ、と怒りが込み上げてくる。

 記憶が正しかったとしても、だ。

 たったひとつの記憶をてこに、こいつは僕とモラの——これまで積み上げてきた思いまでも壊そうとした。

 許せない。

 モラがアラゾアを殺したかもしれないとは思っていた。だけど、モラだって苦しまないわけがない。

 ああ、そうだよ。

 記憶は、不自然なところから始まり、唐突に終わってる。

 モラが悪く見える部分だけを取り出したようにすら思える。

 よく思い出せ。

 記憶で見たのはダンジョンに散らばる悪魔の死体。アラゾアは悪魔を使って——あれだけ悪魔に恨まれてなお悪魔を使ってモラに抵抗しようとしたんだろう。

 最後の最後でもアラゾアは悪魔を召喚しようとしていたし。

 モラにはモラのやり方があったんだ。理由なく、アラゾアをなぶったりもしない。


 仮にも自分を好きだと言ってくれた人。

 モラは、迷惑がりながらも心底嫌いにはなれなさそうだった。

 そんな相手を——殺すしかなかったモラ。


「……怖いわけないだろ。怖いわけが、ないだろぉっ!!」


 僕の声が大きくなった。


「苦しんで決断した者を笑うのか、お前は!! 絶対に……許さない……!!」


 戦いの宣言なんかする必要もない。

 僕はパチンコに弾丸をつがえて、発射した。




 弾丸はドルイドの頭に命中する——瞬間、姿が消えた。


「わはははは、なんだそれは。ちゃんと狙っているのか? 怒ったせいで手元がくるったように見える」


 声は右から聞こえてきた。

 モラが高笑いをしている。もう口調はモラのものじゃない。


「モラの姿でしゃべるな!!」


 僕は再度そちらへ撃つ。だけど姿はかき消える。


「違う違うそちらではない」「いやいやこちらだ」「ほんとうにそちらか?」「なるほど、どこにいるのだろうな?」


 4箇所に出現する。僕はそれらに向けて順に撃っていく。すべて姿が消える。


「違うぞ、そんな腕では——」


 背後から声が聞こえた。だけど僕は、


「ようやくわかった。そこだな」


 右斜め前方にパチンコを向けた。


「なっ!?」


 初めてドルイドの声に戸惑いが混じる。

 僕は冷静に——声に怒りが籠もってしまうのはしょうがないだろ? ——短く詠唱する。


「命じる。爆炎弾丸(フレイムバレット)よ、起動せよ」

「ま、待て! ほんとうにそちらで合ってるのかな? 確認してみては——」

「黙れ」


 オレンジ色に輝く魔法弾丸を放った。

 霧に吸い込まれた弾丸は、確かに、なにかに当たった。どぉんと炎が霧の向こうに見えると——即座に霧は晴れていく。


「あ、あが、が……」


 そこに倒れていたのは緑色の皮膚をした、僕の腰くらいまでしかない魔物だった。ぼろぼろのローブを頭からかぶっていて、手には杖を持っていた。

 ローブは、炎で焦がされていた。

 僕はドルイドのそばまで歩いて行く。距離は3メートル。絶対に外さない距離。


「命じる。爆炎弾丸(フレイムバレット)よ、起動せよ」


 魔法弾丸は、5発。僕の手のひらでオレンジ色の光が放たれる。

 放ると、ドルイドに5発は着弾する。

 轟音とともに3メートルほどの火炎が立ち上る。僕の身体も熱くなった。

 炎が収まると、そこには炭化したなんらかの生き物の姿だけが残っていた。


「…………」


 僕とモラをコケにしたヤツを葬ったのに、心はすっきりしない。

 たぶん、まださっきのことを引きずってるんだ。……ダメだな、僕。モラを信じようと思ったのに、モラの姿で言われただけで信頼がぐらついてしまった。

 魔法の一種なんだろう。ドルイドが僕とモラの関係を知ってるわけがない。あんなえげつない魔法が、あるんだな……。


「ご、ご主人様」


 おそるおそる、といった感じでリンゴが近づいてくる。


「……ありがとう、リンゴ。僕を正気に戻してくれて」


 努めて冷静に、冷静に、答える。

 心がぐちゃぐちゃだ。もうちょっとしないと、まともな状態に戻れなさそうだ。


「とんでもありません! 驚きました……ご主人様の強さを疑ったわけではありませんが、あれほど圧倒的だとは」

「ドルイドのこと、よくリンゴは知ってたね」

「ほんのすこし聞きかじった記憶がありまして……ご主人様も、霧の向こうのドルイドの場所をどうやって?」

「ニオイだよ」


 そう、僕の武器だ。

 どれほど巧妙な幻影だとしてもニオイはない。

 逆に異質な生き物のニオイは漂ってくる。

 僕の頭がパニックだったからニオイの発生元が確実にわかるまで僕は幻影を相手にしていた。幻影に惑わされていると思わせておけば楽だったし。


「さすがです、ご主人様」


 リンゴはにっこりと微笑んだ。……このリンゴは、幻影じゃないよな?

 僕は手を伸ばしてリンゴの腕に触れた。

 うん、ちゃんと実在している。


「もしかして……わたくし、疑われていました?」

「あ!? う、うん、ちょっと、ね……」

「仕方ありませんわ。わたくしは霧の中を歩いていただけでしたが、ご主人様にはなにかショックなことがあったようですし」

「え? リンゴは歩いてただけなの?」

「はい。急に霧が濃くなったと思うと、ご主人様たちの気配がなくなりまして……。しばらく歩いてきたところで、ご主人様とドルイドにばったりと出くわしました」

「そうだったんだ……」


 ぎりぎり、運が良かったみたいだ。

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