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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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147 邪神アノロの隘路(2)

一部残酷な表現があります

 なんだ……なにが起きてるんだ? 僕がモラの声を発してる?

 それにアラゾアがいる——モラはアラゾアとけりをつけたはずなのに。


 ダンジョンにいる、と直感した。

 剝き出しの岩壁。

 青白く光る広場。

 ふたり以外にいない——いや、死体は転がっていた。悪魔の死体だ。10や20ではきかない数。


 おかしい……ここはニオイがしないんだ。

 ふと、直感する。

 これはモラの「記憶」じゃないのか?

 アラゾアを追い詰めたときの記憶——僕はそれを追体験しているのか?


「これで(しめ)ェだ」


 僕が——モラが魔法陣から魔法を発動させる。

 魔法陣から出現したのは高濃度の魔力の塊だ。紫色に発光したその塊は15個。最初の3発が命中し、アラゾアの身体が宙に浮く。次々に命中する。腕が跳ね上げられ、身体は叩きつけられ、頬は打たれ、背後に吹っ飛ばされる。


「あ、あぐ……」


 倒れたままうめくアラゾア。ひどい光景だった。

 無抵抗の相手をなぶっているかのようだ。

 モラは——アラゾアに「けじめをつけさせた」というようなことを言ってた。それ以上は話したがらなかった。理由はこれかもしれない。あまりに一方的な暴力。その末の……殺害。


「……冥界、の、悪魔……に、アラゾア、の、名の……元に……」


 仰向けになったアラゾアは身体中から血を流しながらも不穏な言葉を紡ぐ。


「! まだお前ェはッ!!」


 モラが次の魔法を詠唱する。銀色の刃が宙に現れるとアラゾアの両手を貫き地面に突き刺さった。


「ああぁぁあっ!? あぐうううう」


 アラゾアは痛みに暴れるが刺さった剣のせいで身動きが取れないでいる。

 それは——あまりにも残酷な光景だった。


「……も、モラ様、わた、私が、なにをしたと……? あな、たの、寵愛、を……受け、たかっ、ただけ、なのに……」


 ぽろぽろと涙をこぼすアラゾア。

 だけどモラは動じない。

 底冷えするような声で、答える。


「お前ェはこれで、死ぬ」

「い、や……」


 モラがアラゾアに近づいていく。手にしているのはこれもまた魔法で取り出した刃だ。


「最後は俺っちがこの手でやってやる」

「いやああああああああぁっ! モラ様、モラ様、モラ————」


 アラゾアの声は、途切れた。

 モラが彼女の胸に剣を突き立てたからだ。


 感触が、はっきりと伝わってきた。

 驚くほどの切れ味の剣だけれど、それでも抵抗を感じないわけじゃない。

 服を破り、肉を斬り、心臓を貫き——最後は地面に刺さった。

 感触が……僕にも、はっきりと、伝わってきた。

 アラゾアの目から光が失われた。

 命が消えるのがわかった。

 殺人の経験——これが……。




「————」


 僕は目が覚めた。

 そこは地面の上だ。周囲はうっすらと霧に包まれている。

 広い。霧のせいで10メートル先も見えない。

 僕の身体……僕の身体だ。

 さっきのはなんだったんだ。僕が体験したのは……。


「——うっ」


 僕はその場で胃の中のものを全部吐き出した。

 生々しい感触が手に残ってる。

 人殺しの感触が。

 寒い。身体が震える。吐くだけ吐いても気持ち悪さは去らない。


「……ノロット」

「!!」


 声が聞こえ、僕は反射的にそちらを見る。


「モラ……」


 霧の中から現れた——その表情は、暗い。


「……俺っちがなにをしたのか、知っちまったみてェだな」

「どうして……それを?」

「記憶をのぞかれるような感覚があったからよォ」


 記憶をのぞかれる……やっぱり、あれはモラの記憶。

 実際にあったことなんだ。

 また吐き気が込み上げる。

 待て、待てって僕! こういうときこそ冷静になれ!

 モラは僕を冒険に連れ出してくれた存在じゃないか。

 アラゾアを、あそこまで一方的にねじ伏せたのだって理由があるはずだ。


「大丈夫、ちょっとびっくりしたけど……必要があってやったことなんだろ。モラだって殺したくて殺したわけじゃ……」


 なんとか冷静を装って僕が言うと、


「……いンや? 違うぜ、ノロット」

「ん……なにが、違うの?」

「アラゾアを殺すことは最初から決めてたことだし、アイツを殺せるのを俺っちは心待ちにしてたンだ」

「…………は?」

「おィ、ノロット。俺っちの記憶を見たんだろォ? だったらわかるはずだ、アラゾアだけじゃねェ、『翡翠回廊』に関わった魔導師どもを全員……」

「ぼ、僕が見たのはアラゾアとの戦いだけだよ」

「なにィ!?」


 モラが舌打ちした。


「ンだよ、だったら適当な理屈つけれァよかったじゃねェか……全部言う必要はなかったってェわけかィ」

「待って、モラ。どういうことなの? 他の魔導師? 全員、ど、どうしたの?」


 僕の頭が混乱する。パニックのあまり叫び出したいくらいだった。

 悪い予感がする。とてつもなく悪い予感だ。


「……殺したぜ、当然」


 にたぁ、とモラの口角が吊り上がる。

 モラの瞳に、今まで見たこともないような得体の知れない光が宿っている。


「そんなこと……一言も、言わなかった、じゃないか……?」


 ウソだよね? と聞けなかった。ウソじゃないと返されるのが怖かったからだ。


「当たり前ェだろ。言ってたらお前ェは俺っちについてこなかったろォ? 魔法の知識は抜群だが、どこか抜けてるカエル……そのイメージを保つのにァ苦労したもんだ」


 がらがらがらと今までのモラが崩れていく。

 崩れた向こう側にいたのは、黒く塗りつぶされた化け物のような存在だ。


「ウソだ、ウソだ……ウソだよね? モラ、ウソなんでしょ?」


 聞きたくなかった質問を無意識に投げていた。


「ウソじゃァねェよ」


 聞きたくなかった答えが当然のように返ってきた。


「信じない、僕は、そんなこと信じない。信じない信じない信じない信じない」

「ま、神の試練を一通りやってみるまではと思ってたンだが、こォなったらしようがあるめェ」


 モラが虚空から剣を取り出してこちらに近づいてくる。

 もう手を伸ばせば届くほどの距離だ。


 ウソだ。ウソだ。ウソだ。

 モラが、僕を騙し続けてたなんて……イヤだ、信じたくない。

 ふたりで軽口をたたき合ったことも、笑いあったことも、ぐっすり寝込んで寝過ごしたことも、ケンカしたことも——モラが人間に戻って喜び合ったことも。

 全部ウソだったの?

 僕の目から涙がこぼれる。涙腺がバカになったみたいにぽろぽろと涙がこぼれる。止まらない。頭もバカになったみたいでなにも考えられない。感情もどこかに消えてただひたすら僕は涙を流す生き物になってしまったみたいだった。ああ、アラゾアの最後みたいだ。彼女はそれから、剣で貫かれ、その瞳から光が消えたんだ。


「ノロット、俺っちとお前ェはこれで――(しめ)ェだ」


 モラが、剣を——僕の頭に振り下ろした。



「ご主人様ぁぁっ!!」



 そのとき、どんっ、と僕の身体は吹き飛ばされた。


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