表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/186

145 ニルハ(5)

「ちょい! 今のはなんじゃ!? どうやった!?」

「え?」


 いきなり袖をぐいぐい引っ張られた。


「魔法弾丸のこと?」

「違う。あれは魔法を込めていたマジックアイテムじゃろ? それではなく——ノロットよ、一度に2発を撃たなかったか?」

「撃ったけど?」

「どうして両方当てられるんじゃ!?」

「えっと、練習したからかな?」

「練習したところでふつうの人間には無理じゃ!」


 そうかなー……パチンコばっかり僕使ってるからね。

 練習すれば誰でもできるんじゃない?


「そりゃァそォだ。ノロットはふつーじゃねェからよ」


 とそこへ、魔法でさくっとモンスターを倒したモラが帰ってくる。

 え、できないの?


「ご主人様はいつだって偉大です」

「なにげにノロットは攻撃力高いのよね。あたしも負けてらんないわ」


 リンゴとエリーゼも戻ってきた。

 いやいや。エリーゼの攻撃力のほうがはるかに高いでしょうが……あんな大剣振り回して。


「ちょ!? もう倒し終わったのか……」


 呆然として、ニルハがつぶやいた。




 僕らの強さをニルハはようやく認識したようだ。

 一応ね、伝説クラスの遺跡とか神の試練とか僕らクリアしてますしね?

 自慢するわけじゃないし、戦闘特化パーティーまでは行かないけど、それでもいい線いってると思うよ、僕ら。

 モラも加わったしね。カエルを卒業したモラの魔力、半端ないしね。


「そうかそうか。それでは目的地までは安心じゃのう」


 ニルハは機嫌が良かった。


「これだけ強い者たちなら……楽しみじゃ」

「楽しみ?」

「むふー」

「神の試練を僕らが突破できそうだから、ってこと?」

「むふー」


 ニルハはそれ以上言わなかった。言えなかったんだろう。神の試練に関することは言えない。

 なんか不穏な言葉だけどさ。「楽しみ」って。


 そんな僕らは、一晩の野営を挟んだ翌日——着いた。

 森が途切れたのだ。

 途切れた……途切れた、と言っていいのかな?

 僕らの目の前には高くそびえる崖。

 崖の高さは10メートル以上はある。

 崖の上には森がまたある。

 なんていうか、大地を、とんでもない力で持ち上げたような感じだろうか。

 それくらい不自然な崖だった。


「……道があそこにつながってンなァ」


 崖は、一箇所に切れ目が入っていた。

 僕らの歩いてきた「邪教徒の古道」はその切れ目に吸い込まれている。

 切れ目の前で立ち止まる。

 道は暗いけどまったく見えないほどじゃない。ぎりぎりランタンを使わなくても、まあ、大丈夫かな? というところ。


「あれ……石碑かな?」


 エリーゼが指したのは、切れ目の真横にあった腰高の岩。

 表面が磨かれて、言葉が刻まれている。


「んー……かすれてて読めないな」

「ちょい。確かに読めなくなっておるの。あとで描き直しておこう——なので、今教えてやろうぞ」


 ニルハは石碑の言葉を知っていた。


 ——志ある者よ、歓迎する。

   横を歩く仲間とともに、胸を張って道を進め。

   この道を抜けたとき、力の真なるは何かを知る。


「へえ……『力の真なるは何か』、か。なんなんだろうね——ってさすがにそれは今聞いてもしょうがないよね。……あれ、ニルハ?」

「ニルハはここまでじゃ」


 ニルハは僕らから離れた。

 切れ目の前に立っていた。


「ここまで連れてきてくれたことを感謝するぞ。願わくば……みな、何事もなく(ヽヽヽヽヽ)この試練を突破することを期待する。我が主の前で会おう」


 そうして彼女は切れ目へと消えていった。

 文字通り、消えたんだ。

 溶けるように。


「…………」


 僕らは唖然としてそれを見ていた。

 あまりに突然の出会い。あまりに突然の別れ。


「あの娘らしいと言えば、あの娘らしい消え方でしたね、ご主人様」

「そうだね……なんだかニルハは、僕らをここに導くためにだけ存在してたんじゃないか、なんて気がするよ」

「案外そうかもしンねェぞ? 邪神アノロが冒険者を引っ張り込むために派遣してるとかよォ」


 ありそうな気がしてきた。

「腹減ったから外をうろうろしてた」なんていう理由より、よほどしっくりくる。


「ねー、それでどうする? ここに入る? ここって神の試練なんでしょ?」


 エリーゼが言うと神の試練も途端に軽くなる気がするな。

 でも、確かにここは神の試練なんだ。

「邪神アノロの隘路」——確かに、道は狭い。




 地図上でこの場所を確認する。後日またここに来ることは可能だ。一応入口付近をチェックしたけど、「女神ヴィリエの海底神殿」にあったような冒険者認定証による確認もない。ノーランドだってひとりで挑戦したくらいだしね。

 一度休憩しつつ考えることにした。

 リンゴが煎れてくれたお茶は、屋外だろうと野営地だろうと美味しい。

 ビスケットをかじってお茶を飲んでいると、ここが魔境だなんてことを忘れそうになる。


「さァて……中に入るかどうか、どォすんでェ、ノロット」

「え、僕が決めるの?」

「お前ェ以外に誰がいンだよォ」

「そりゃみんなの意見とか……」


 ちらりと見ると、


「あたしはノロットが決めればそれでいいよ」

「わたくしはご主人様にすべて委ねていますわ」


 リンゴは委ねすぎだ。


「うーん……そっか」

「なんでェ。お前ェのことだから二つ返事で『行く』ってなるかと思ったんだが」

「僕のことなんだと思ってるのよ……」

「遺跡バカ」

「むっ、ちょっとモラがこんなこと言ってるんだけど?」


 エリーゼが腕組みしてうんうんとうなずいて、リンゴはさっと目をそらした。

 ここに味方はいない。よーくわかりました。


「……で? 遺跡バカさんよ、お前ェはなにが気になってる?」


 モラがすっかり見通したかのように聞いてくる。

 そう……僕が「行く」と即断できない理由。


「危険はないのかな、って……ニルハが言ってたじゃん。『無事で』だっけ?『何事もなく』だっけ?」

「確かにそうですわ。あの言葉を聞くと、危険があるように感じられます」

「でもさー、そんなに危険なところだったらさすがにもうちょっとなにか言うんじゃない? 神の試練の縛りがあるにしても、多少は伝えてくるだろうし、表情にも出るでしょ」

「俺っちもエリーゼに賛成だァな。ニルハはずぅっと変わらなかった。アイツァここがそう危険な場所じゃァねェと思ってる。魔境のことだってわかってなかったくれェだしよ」

「そっか……そう言われるとそうだね」


 納得した。


「じゃ、行こっか」


 言うと今度は、


「……お前ェ、神の試練をずいぶん軽く言ってくれるなァ。さすが遺跡バカだ」


 もう、どう言ったらいいんだよ?

 ちなみに軽く言ってるのは僕だけでなくエリーゼもそうだからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ