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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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143 ニルハ(3)

「フードを取って顔を見せよ。これも確認のために必要でな」

「…………」


 エリーゼは、隊長に命じられてフードを取る。

 こういうこともあろうかと二段構えだ。頭には革製の帽子をかぶせている。

 特徴的なプラチナブロンドは縛ってマントの中に隠し、髪の毛を帽子でほとんど覆っている。

 そうなると——エリーゼって少年に見えるんだよな。


「……ふむ、わかった。通ってよいぞ」


 あら? なんだ、すんなり通れたよ。

 こうして僕らはロンバルク領に入った。




「ふ〜〜……緊張した」


 フードつきのマントを脱ぐと、エリーゼは長く息を吐いた。

 乗合馬車。エリーゼは懐かしそうに外を見ている。

 まあ僕からしたらこのあたりの景色はどの国もほとんど同じに見えるんだけどね。

 ともあれ無事にロンバルク領内を移動していく。

 乗合馬車を替え、ニルハが言う目的地にいちばん近い町では馬を4頭借りた。

 どうやらニルハの行きたい方角には馬車が出ていないから、らしい。

 ここまで移動が面倒だったとはニルハも思っていなかったらしく、さすがにニルハも「面目ない……」と恐縮していた。


「ちょっと待って」


 町を出て1時間ほどしたところで、馬を停めた。

 ニルハ以外は乗馬ができるのでニルハはエリーゼの馬に乗ってもらっている。

 ちなみに、乗馬の上手い順に言うと、


 エリーゼ>モラ>>リンゴ>>>>>僕


 こんな感じだ。

 エリーゼは貴族のたしなみとして教わっていたらしい。モラは、必要だから覚えたと。リンゴも自分ではよくわからないながら馬に乗れた。

 僕は……う、うん、疾駆させなければ乗っていられるよ。

 1時間ごとに休憩を入れないと体力がもたないけど……。


「どうしたの、エリーゼ」


 草原にあった岩にもたれて休んでいる僕。太ももがもう痛い。


「行こうとしてる方向って……魔境じゃないの?」

「魔境ってなに」

「モンスターが住み着いてる人跡未踏のエリアよ」


 ロンバルク領と、一部隣の侯爵領に入っている地域で、深い森と急峻な山がそびえている場所なんだとか。

 そこは大気中の魔力濃度が高く、凶悪なモンスターがうろついている。


「魔境……そんなふうに呼ばれているのか? ニルハは知らなかったのじゃ」

「知らなかったじゃすまないでしょ。のこのこ足を踏み入れたらあたしたちだって襲われるわ」

「そこをなんとか行けぬか?」

「なんとかしたいとは思っても、モンスターの都合だからどうにもできないわよ」

「うぬぬぬ」

「大体こんなところになにがあるの? 人間が住めるような場所じゃないわ」

「でも、確かに遺跡があるのじゃ」

「遺跡? あなたの実家じゃなくて?」

「実家?」


 あ、エリーゼが言わなくていいことまで言った。ハッとして口を手で押さえている。

 ニルハが家に帰りたがっているというのは僕らの推測だ。一方でモラは、ニルハが「精霊」だからと違う可能性を考えているっぽいけど。

 まあ、精霊って生態が知れないからこれもはっきりとは言えないんだけどさ。


「実家とは言っておらんが……まあ実家みたいなものか?」


 と思っていたらニルハがよくわからないことを言い出している。


「えーっと、ニルハ、ここまで送ったけどここから先が危険ならやり方を考えたほうがいいよ。あるいは僕らは引き上げるか」

「う、うむ……そうじゃな。ここまで送ってもらっただけでもよいと考えねばならぬかもな」

「ニルハはどうするつもりなの?」

「もちろん行くのじゃ」

「行くの?」

「行く」


 やっぱり実家があるから? ううむ、よくわからないな。


「エリーゼ。魔境っていうのはどれくらい危険なの?」

「んー……魔物専門冒険者(モンスターハンター)基準で言うなら伝説(レジェンド)クラスがいるみたい」


 遺跡の伝説クラスと、モンスター単体の伝説クラスは単純な比較ができない。

 でもトラップや行程を含めた難易度で測る遺跡の基準より、モンスター単体の討伐難度基準では、モンスター単体のほうがより難しいのがふつうだ。

 王海竜みたいなのがいるってことなのかな。あるいはそれ以上? 無理じゃない?


「ご主人様。安全を考えるなら引き返すべきです」

「うーん……まあ、そうかな。でもニルハは行くんだよね」

「行くぞ」

「どうして?」

「う? うむむ……」


 理由を聞くと言い淀む。んー。なんだろうな、これは。


「使役主がいるからじゃァねェのか?」


 とそこへ口を挟んだのはモラだ。


「おお、そうじゃ! そのように言えば通じるのか! ……ってちょちょちょーい! どうしてニルハが精霊だと知っているのじゃ!?」

「そンくれェわからァ」

「ちょっと待ってよモラ。僕知らないんだけど、使役主ってなに?」

「をん? なんだ、知らねェのか。俺っちが魔法を使うときに精霊使役による魔法が多いことはお前ェも知ってるだろ? 特定の精霊と契約を結ぶことでよォ、この使役能力を高めることができるンだ」

「モラはそれをやってるの?」

「俺っちはやらねェよ。やりたくても精霊からよほど好かれてねェとできねェな。だがまァ、これでわかったな。ニルハは使役主と契約がある。そこに戻る必要がある」

「そうじゃ! なんじゃ、わかっておったのか、やるのぉ」

「だがわからねェこともある。どうしてお前ェさんは使役主から離れた? 使役主との契約があるんなら離れることはできねェはずだが」

「ん……そうじゃな。これは話してもいいようじゃな。ニルハの使役主はもう死んでおる」

「ほう?」

「じゃが、契約はまだ生きている……この中途半端な状態なんじゃな。じゃから離れることもできる」

「ん、ちょっと待ってよ。まだわからないんだけど、ニルハが行きたいのは使役主のところなんじゃないの?」

「そうじゃよ。まだあの人の“心”は残っておるからな」


 ニルハは、大切なものを思い出すような——遠い目をした。


「なァるほどなァ。これで俺っちは全部わかったぜ」

「え!? なに、なにがわかったの?」

「ふゥむ。やっぱしなァ——ニルハ、お前ェも“当事者”ってェことか」

「? ?」


 僕もエリーゼもリンゴも全然わからない。モラはなにを言ってるんだ?


「なんでェ、ノロット。お前ェはたまに閃くくせに、こういうときはてんでダメだなァ」

「ちょっともったいぶらないで教えてよ」

「ニルハが連れて行くと言っていたのはどこでェ?」

「ん? 遺跡って言ってたっけ?」

「ニルハは最初、自分がどんなヤツだと名乗ってた?」

「えーと、女神ヴィリエの末裔……か」

「で、今、ニルハが実際に行こうとしている場所はどこだ?」

「実家みたいなもの、というか、使役主の心が残ってる場所?」

「そォいうこった」


 なんですか。

 まったく意味不明ですが。


「??」

「さっぱりわかりませんわ」


 僕がバカなのかと思ったら、エリーゼもリンゴもわからない顔をしている。


「ほら! モラが悪い!」

「ほらじゃァねェよ。ハァ……ったく、そんじゃもうイッコだけヒントをやらァ。ニルハは、自分が行くべき場所をはっきりとは言わねェ。なんでだ?」

「言いたくないから?」


 僕がニルハを見ると、彼女は首を横に振る。

 え、言いたくないんじゃないの?


「それじゃ、僕らを信用してないから?」


 また首を横に振られた。


「ええーっ? それじゃわからないよ」

「もう一歩踏み込んで考えろや。あのなァ、ノロット。あるだろォが。言いたくても言えない——このもどかしい感覚をよォ、お前ェは最近よォく味わってんだろ?」

「え……?」


 最近……確かに、味わってる。

 ハッとして僕はモラにたずねる。


「……神の試練?」


 モラは口の端をゆがめて笑った。


「よォやくたどり着いたか。ニルハが連れて行こうとしている場所だ」


 僕らが予想もしなかった、答え。


「『邪神ロノアの隘路』。そうだろォ? ニルハ」


 彼女は曖昧に笑って見せた。




 つまりニルハは神の試練を「行う立場」。

 僕らは神の試練について話すことができるのは、信頼している仲間、あるいは当事者を相手にしたときだけ——。

 ニルハが神の試練の場にいれば、きっともうちょっと話すことができるはず、というわけだ。

 ちなみにニルハが使役主から離れたのは、ずいぶん長いことひとりきりでヒマだったからおいしいものを求めて外をふらふらしてしまったのだそうで……その間、空腹に襲われてずいぶん精霊としての力が磨り減ったのだそうだ。

 空腹のあまり盗賊の食事を奪ったあと、逃げ出した彼女は、近くに女神ヴィリエの力を感じた——それが僕たちだ。


 さて、そこまでわかったところで——、


「でも、それと、ニルハを送るかどうかは別だよね」


 エリーゼがまっとうなことを言った。うーん、どうしようか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の段落のところ、邪神「ロノア」の隘路になってます。
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