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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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141 ニルハ(1)

 隣町に着いた僕らは、盗賊に襲われたことを自警団に報告した。僕らが倒した証明とかになると面倒なので単に場所の報告だけ。近いうちにロープで縛られた盗賊が発見されるだろう。取り逃がした2人が助けに来るかもしれないけど、そのときはそのとき。そこまで面倒は見ないつもり。僕らはトレジャーハンターであって賞金首(バウンティ)ハンターじゃないからね。


「をん? 報告は終わったのかィ?」

「ん。すんなり行ったよ。それよりなにか変わったことはあった?」

「特にないわね。乗合馬車はあっち。そろそろ出発みたい」

「乗車の旨は伝えてあります。ご主人様さえよければすぐにでも出発ができます」

「その前に腹が減ったのじゃ。食事にせんかの?」

「……なにすんなり溶け込んでるの、この子」


 ニルハ、という少女。女神ヴィリエの末裔だと言っていたけど、実はこれ、詐欺師のテンプレなんだよね。「有名人の娘」「貴族の隠し子」「神の血を引く物」この3つ。


「言っとくけど、僕ら騙されたりしないからね? ここまでついてくるのはまあ、許してあげたけど、ここからは自力で生きなさい」

「こ、こんな、小さなニルハを市井に解き放とうと言うのか!? それでも人間の血が流れておるのか!」

「君何歳?」

「ひゃ――14歳じゃ」


 ひゃ、ってなんだよ。百歳? んなバカな。


「14歳ならもう成人だよ。冒険者にだってなれる」

「やっぱり13歳じゃ」

「年齢は自分で選べないから。それじゃあね」

「ちょちょちょちょーい! かんたんに切り捨てすぎじゃぞ!」

「盗賊から食い物を奪ったんでしょ? 僕らを裏切らないなんて保証がどこにあるの?」

「女神の末裔じゃぞ。ニルハを連れて行けばいいことたっぷりあるぞ。お前たちは冒険者じゃろう? 興味はないのか?『女神ヴィリエの海底神殿』に」

「ないよ」

「ウソをつくなウソをつくなぁ。ほんとうは興味津々じゃろ~? ニルハは『海底神殿』がどこにあるのか……」


 彼女は小さな声でささやいた。


「実は知っておるのじゃ!」


 うん。そっか。


「興味ないって。ていうか、新聞読んでないの?」

「新聞? 新聞がどうした?」


 きょとんとしてる。

 あれ……知らないの?「女神ヴィリエの海底神殿」が発見されたことを。

 新聞で知ったってわけじゃないのか? で、僕らが新聞を読んでなさそうだからその情報をだしにしようとしたのかと思ったのに。

 なんか変だな、この子。


「ほれほれ、どうした。ニルハは女神ヴィリエの末裔じゃぞ~?」


 僕はモラたちを見る。モラだけはニヤニヤしてるけどエリーゼもリンゴもちょっとウンザリしているふうではある。


「それじゃ女神ヴィリエの末裔かどうか確認させてよ」

「ほぇ!? お、おぅ、上等じゃ……」

「エリーゼ。左手出して」


 言われたエリーゼはニルハに左手の甲を見せた。

 ここにはぼんやりと光の文字が浮かんでいる。「女神ヴィリエの海底神殿」を突破したときのものだ。


「これ、わかる?」

「……ふむ、おもしろいの」


 あら?

 わかるの?


「禍々しい手じゃ」


 ぶほっ。

 思いっきり噴いた。禍々しいって。

 エリーゼの顔がやばいことになってる。ニルハもそれに気づいてガクガク震えてる。


「こ、言葉を間違ったんじゃ! そういう意味じゃない! 意味じゃないからぁ!」

「ノロット。このガキは置いていきましょ」

「最初からそのつもりだよ」

「ちょい! ちょーい! 待って待って待って待って、もう1回、もう1回チャンスを!」


 はあ……。


「これで最後だよ?」


 こくこくとうなずくニルハ。


「女神ヴィリエが育った村はどこ?」


 ニルハは驚いた顔をした。


「サラマド村じゃが……お前たちは知っておったのか?」


 今度は僕らが驚く番だった。




 乗合馬車に揺られてヴィンデルマイア公国の国境を過ぎていく。ルーガ皇国方面でもないので、これでヴィンデルマイア公爵から逃げることもできたと言えるだろう。


「はむっ、あむあむ、んまー」


 さっきから馬車の中でむしゃむしゃとパンやハムやチーズや果物を食べているのはニルハだ。

 結局、連れてくることにした。

 ヴィリエたちの出身地、サラマドについて――サパー大図書館でも発見できなかった情報。

 その村の名をニルハが知っていたのだ。

 女神ヴィリエの末裔というのは眉唾だとしても、不可思議な点はある。サラマドについて知っていること、彼女がやたら軽いこと、ニオイがまったくないこと。


「ねえ、サラマド村はどこにあるんだ?」


 ニルハがある程度食べ終わったところで僕は聞いた。


「ん? ニルハは知らないぞ?」

「……末裔なんじゃないのかよ」

「サラマドはもう残っていないとだけ聞いたけども……はるか東方じゃとか。――それよりお前たちはなぜサラマドの名を知っておるのじゃ」

「質問しているのはこっち。君は答える義務がある」

「むう~! ニルハを怒らせると『女神ヴィリエの海底神殿』の場所を教えない――」

「『青海溝』の『63番ルート』の最奥だよ。知ってるから」

「……ほぇ?」

「新聞に出てる」

「ちょちょちょちょ! それはマジもんのことか?」

「ほんとだよ」

「ちょい……」


 呆然としてる。表情がころころ変わるな、この子。

 ていうかほんとに知ってたのか? ゲオルグが最初に発見して、プライアと僕が追跡発見した「女神ヴィリエの海底神殿」の場所を?

 あ、ちなみにゲオルグとは「勇者オライエの石碑」以来会ってない。相棒になれる冒険者を探してるみたいだ。


「え、えっと。それじゃあ、女神ヴィリエにゆかりの遺跡はどうじゃ?」

「ゆかりの遺跡?」

「そうじゃ。そこは未発見じゃぞ~。お宝たんまりじゃぞ~」

「…………」


 なんか……この子、うさんくさいんだよな。


「ちなみにどこにその遺跡はあるの?」

「詳しい位置はそこに着くまで教えんぞ!」

「わかったから。どっち方面かだけでいいけど」

「それはのう……ロンバルク伯爵領じゃ」


 あちゃー。


「却下ね」


 実家の名前を聞いて、エリーゼが即断した。

 鬼門中の鬼門じゃないか。


「なんでじゃ! 東方に行くのならどのみちロンバルク伯爵領を通るじゃろ?」

「ダメなものはダメよ」

「むうー! アレもダメこれもダメと、狭量なヤツらよ!」


 ばくっ、とパンにかぶりつくニルハ。いや、それ僕が買ってあげたヤツだからね? 狭量とか言うけどちゃんとご飯買ってあげたからね?

 まあ、僕らの事情を、他のお客も乗ってるここで説明できるわけもないんだけどね。


「しようがない。ではニルハをロンバルク領で下ろすがよい」

「え?」

「それで手を打ってやろうというわけじゃ」

「いやいや、通らないから」

「……ほぇ?」


 僕はこれからの乗合馬車ルートを説明した。


「な、なんでじゃ!? 東に行くのに大回りすることになる! それほどイヤなのか、ロンバルク領が!」

「イヤよ」

「この女が原因か! ならばこの女を下ろしてニルハを連れて行くがよい! 光栄に思――」


 ごちん、と、なんかげんこつじゃないみたいな音がしたけど間違いなくエリーゼの拳がニルハに振り下ろされた。


「痛いのじゃーっ!? この暴力女はいきなりなにをするのじゃ!」

「ぷ。暴力女。言い得て妙ですわ」

「助けるのじゃノロット!」


 狭い乗り合い馬車で、ひしっ、と僕に抱きついてくるニルハ。

 ごちん、と、またもげんこつが落ちた。今度はリンゴだった。


「暴力女がふたりもいたのじゃぁっ! ここは地獄じゃ!」

「なに勝手にご主人様にくっついてるんですか……?」

「ひ、ひぇっ!?」


 ゆらりと黒いオーラがリンゴから立ち上っている。


「はあ……」


 もともと騒がしかったパーティーだけど、騒がしさが加速したな。



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