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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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137 ノーランド

「モラ、それって——」

「まァあとは結果をご覧じろってェところよ、ノロット」


 余裕綽々のモラに、仮面の男が視線を投げる。


「…………」


 無言、からの、


「モラッ!!」


 彼女の眼前へと投げナイフが迫る。

 ドンッ——爆発。

 直撃した。

 額に。


「……たいしたこたァねェな」


 そこには平然と突っ立っているモラがいた。

 え、いや? 今、直撃したよな? どうして——。

 憑魔か。モラの周囲を漂う光はゆらいだように見えたけど、それだけだった。


「次はこっちの番だ。——来たれ、炎剣園塔(フレイトゥウェリア)


 モラが空中でなにかをつかむようにした。まるで指の体操でもするみたいに。だけどそこにはしっかりとした剣の柄が握られていた。

 ぬるりと、なんの抵抗もなく、どこからともなく、灼けた鉄のような刀身が現れる。


「ちッたァ楽しませろォッ!!」


 踏み込みが早すぎて見えなかった。

 すでにモラは仮面の男の間合い。振り下ろされた一撃。刀身が炎をまとっている。

 男は全力で横に飛ぶ。


「まだだァッ!!」


 着地する男へとモラはすでに迫っている。

 男が幅広の剣で防ぐ。聞いたこともないような軋む音。金属が悲鳴を上げているようにさえ聞こえた。


「!」


 男がぎくりとする。

 刀身が——溶け始めてる?


「——・・—・・・ーー—」


 ぶつぶつぶつと男がつぶやいた。

 詠唱にしては短い——短縮詠唱(ミニマムスペル)だ。

 莫大な魔力が必要だけど、即座に発動できる魔法。

 剣だけでなく、憑魔だけでなく、魔法まで使えるなんて。

 モラの周囲に突如として現れる氷の矢は、20を超える。


「——こんなもんか?」

「!!」


 だけど、モラはまったく動じない。

 あわてて離れる男と、入れ替わりに飛来する氷の矢。

 矢は、モラには届かない。

 彼女の身体に触れる前に爆散するからだ。

 砕け散った氷は、割れたガラスのように光を反射して床に落ちる。


「これで(しめ)ェだ——」


 急な魔力の消費で、膝をついた仮面の男。

 死刑執行人のように炎の剣を掲げたモラが、振り下ろす——。



「そこまで!!」



 待った、がかかったのは、剣先が男の頭髪を焦がしたところだった。

 僕らが入ってきた扉からやってきたのは先ほどの管理者だ。


「——ぎりぎりでしたね。殺されてしまうのは避けたいのです」

「ほォ? お前ェさんがたはどこかでこの戦いを見物してたのかィ?」

「いえ。彼から『警告』が発せられたので、すぐにやってきた次第です。私はあくまでも管理者。彼がこの試練の執行官ですから。……もう試練は終わりました。もちろんあなた方の勝利です」


 モラが剣を消す。

 ……その剣、初めて見たんだけど?

 どういうことかあとで話してもらおう……そんな意味を込めてモラを見ると、モラは肩をすくめただけだった。ちなみにリンゴもエリーゼも僕と同じ目をしている。


「大丈夫? 立てる?」

「……ああ」


 ふらつきながらも仮面の男は立ち上がった。

 管理者に支えられるようにしている。


「お前たちは神の試練に挑む権利を得た。ここは『勇者オライエの石碑』。資格ある者を試す場所」


 男の声を……初めて、まともに聞いた。

 エリーゼとリンゴがちらりちらりと僕を見る。

 僕にはわからないけど、言わんとしていることはわかる。……声が似てると言いたいんだろう。


「ここを突破した次は、『光神ロノアの極限回廊』だ。場所は——」

「待って、ノーランド」


 管理者がそれを遮った。


「あの少年は……あなたに関係があるかもしれない、と」


 仮面の男が僕を見る。僕もそれを見返す。

 仮面で表情が隠れているからわからない。だけれど、目がかすかに見開かれた。


「まさか……お前は」


 僕は首を横に振った。


「ただの冒険者です。次の試練の場所を教えてください」

「ちょっ、ノロット!?」


 エリーゼが抗議の声を上げたけど、こればかりは僕の問題だ。


「……『光神ロノアの極限回廊』はルーガ皇国内、辺境の地ルガントにある。注意深く調べれば行くべき場所がわかるだろう。以上だ」

「ノーランド……あなた」

「黙れ」

「でも」

「黙れと言った」

「…………」


 管理者と、仮面の男——ノーランドの親しげな感じに、僕はなんだか胸がもやもやした。

 なんだ、この感覚。

 それを振り切るように僕は口を開く。


「わかりました。それで全部ですか?」

「……ご主人様」


 リンゴの目が、話さなくていいのか、聞かなくていいのか——そう、心配そうにたずねてくる。

 ……僕はヴィリエと会ったときに父のことを知りたいと思った。

 でも今は、違う。

 孤児院でマーサおばさんに再会して吹っ切れたから? そうかもしれない。

 あるいは……目の前にいるのが実の子だとわかったにもかかわらず、それを表に出そうとしない、父親に怒りを…………いや、違うか。僕はなにを期待していた? 最初から、なにも期待していなかったじゃないか。


「管理者さん」


 僕が呼びかけると、彼女は驚いたふうだった。きっと僕が話しかける相手はノーランドのほうだと思っていたんだろう。


「女神ヴィリエは言いました。長い歴史を経て、神の試練は情報不足になったのではないかと。つまり、間違った理解のされ方をしている可能性があるということだと思います。またこうも言いました。僕らは『勇者オライエの石碑』に向かうべきだと。そこでなら神の試練が示す方向性を知ることができるから」

「め、女神ヴィリエが!? いったい、どこで女神ヴィリエの声を——」

「もちろん『女神ヴィリエの海底神殿』です」

「しかし、遺跡が発見されたというだけでしょう?」

「——まあ、いろいろ情報が錯綜して伝わっているようですから知らないのは仕方ないですね……。僕らは『女神ヴィリエの海底神殿』を突破しました」

「!」

「話を聞いたのは、遺跡の最奥でです」


 管理者だけでなく、ノーランドもまた僕を凝視しているようだった。


「神の試練について話すべきことはそれで全部ですか? 僕らが聞くべきことがあるのだと女神ヴィリエは示唆していました」

「…………」

「……どういうことだ? 俺が知っているのは次の試練の場所だけだぞ」


 ノーランドが管理者にたずねる。


「こ、これ以上は、私には判断できません。情報の公開範囲はヴィンデルマイア公爵が決めていることですから……」


 僕は心の中でため息をついた。

 女神ヴィリエが憂えるわけだと思った。

 きっと、彼らがこの試練を遺したときの目的や思いは失われている。だからこそ場所もわからなくなり、幻とされているんだ。他の場所がわからなくてもせめて「勇者オライエの石碑」についてだけは公開するべきだ。そうでもなければ神の試練そのものが忘れ去られかねない。

 でも、公開していない。

 神の試練に関する情報を口にできないから? であれば「腕に自信のある冒険者はヴィンデルマイア公国の殿堂に来い」と告知するだけでいい。ピンと来る者はわかるはずだ。

 でも、それすらもしていない。

 どうしてそんな状態になったのかはわからない。

 もしなんらかの制限があるにしても……たとえば公爵が情報を搾っているのだとしても、神の試練を名乗るのであれば神の言葉に忠実であるべきじゃないだろうか。公爵がどう言おうと、管理者は言うべきだ。女神ヴィリエは神の試練の方向性についてここで聞けと言ったんだから。それを、「判断できない」だなんて。

 神の試練を4つ突破したノーランドは貴族に目をつけられて身の危険を感じたという。それが今や神の試練の試験官?

 なんなんだ。神の試練は。あまりにもきな臭い。


「なら、もういいです。ここで聞かなくても構いません。また女神ヴィリエに会いに行けばいい。次は、ちゃんと『聖者フォルリアードの祭壇』を突破してから行きます」

「……そうか。祭壇の絵は、やはり必要だったか」


 ノーランドがわずかに感情を見せた。喜びのような、安堵のような。

 だけど僕は、それに答える気はなかった。

 管理者とノーランドに背を向けて歩き出すと、エリーゼとリンゴがついてきた。モラは管理者になにかをささやくと僕らを追ってくる。


「——ノロット」


 ノーランドの、声。


「ルガントに行くのなら、近隣にラーマという小さな町がある。その領主をたずね、俺の名前を出すがいい」

「——なんでそんなことを、僕が」


 振り返った僕に、


「お前の母がいる。それと……弟も」


 ノーランドの告げた言葉は、瞬時、僕の頭から思考能力を奪うのに十分だった。




 気づけば、僕は宿に戻っていた。あれから逃げるように走って帰ってきたらしい。

 僕らは、モラを交えて話し合いをした。

 話さなければならないことはあまりにも多かったからだ。


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