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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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136 勇者オライエの石碑


 奥の扉を開けたところは小部屋だった。


「こちらの扉を閉じると、自動的に奥の扉のカギが開きます。そうしたらいつでも進んでいただいて構いません」


 管理者が扉を閉じて出て行くと、小部屋には僕ら4人だけが残された。


「話せば長くなるんだけど」

「そりゃァそうだろォ。だがさっきも言ったろ。話は帰ってからだ」


 声はほとんど変わらないんだけど、僕の中でモラは金色のカエルだからね。銀髪の美女になっているのを見るとものすごい違和感がある。

 袖のないコートであるクロークは、黒い革を使ったものだ。シルバーのブレストプレートに関節部分だけにはレザープロテクター。魔剣士のくせに剣を持ってない。

 どうやってそんな装備を調えたんだか……。

 僕なんかよりよほど熟練の冒険者に見えるよ。モラと別れたときは当座のお金しか渡さなかったはずなんだけど。

 かちゃり、と小さな音が鳴って奥の扉のカギが開いた。


「モラ、ひとつだけ先に言っておきたいんだ」

「をん?」

「この先にいる人……僕らが戦わなきゃいけない相手は、僕の父親かもしれない」

「————」


 モラの口があんぐりと開く。

 僕は驚かされっぱなしだったからね。胸がちょっとだけスッとした。


「行こう」


 扉を押し開いたそこは——円形の広間だった。

 天井の高さは3メートルほどと低い。ただ広さは半端ない。直径100メートルくらいの円だ。

 そう、オライエと戦った場所によく似ていた。


 円の中央にはひとりの男がいた。

 彼はこちらに背を向けていた——旅人が着るような厚手の服に、足下はブーツ。左手にラウンドシールドを持ち、腰には幅広の剣を吊っている。

 オライエのようなスタイルであるところも同じだ。


 近づいていく。

 ノーランドに、近づいていく。

 こめかみからじんわりと汗が伝っていくのを僕は感じていた。

 この人物が何者なのか。聞けば答えてくれるのか。

 もしもこの人物がほんとうに僕の——。


 ——関係、ない。


 僕の両親はいない。

 僕が育てられたのはあの孤児院だ。マーサおばさんだ。

 この世界は僕にとって優しくはなかったけど、それでも生まれてきたことを恨んでるわけじゃない。


 モラに出会えた。出会って、冒険の可能性を教えてもらった。

 リンゴに出会えた。出会って、無償で奉仕されることの息苦しさと、こそばゆいような温かさを教えてもらった。

 エリーゼに出会えた。出会って、山の天気みたいに変わりやすい女性の感情と、触れれば壊れてしまいそうな繊細さを教えてもらった。

 他にも多くの人に出会えた。

 冒険は僕にとって生きるすべてになった。


 だからもう、この人物が誰であれ関係ない。

 モラが帰ってきたんだ。

 僕は遺跡への好奇心を隠さない。神の試練が「面白そう」と思ってしまう気持ちにフタをしない。自分に正直になる。自重なんてしない。


「あなたを倒せば『勇者オライエの石碑』は突破ということですね」


 手前10メートルで立ち止まる。

 僕が言うと、その人物は振り返った。


 白い仮面をつけていた。

 目の部分がくりぬかれている、のっぺらな仮面だ。

 感情も人相もわからない、不気味な仮面。


 こくり、とその人物がうなずく。


「じゃあ始めましょう」


 僕が腰に差したパチンコを引き抜く。

 もっと他に言わなくていいの? という表情のエリーゼはそれでも大剣を構えた。

 リンゴは黙って僕の横にいた。

 モラはすでに戦闘に向けて集中していた。


 仮面の男が剣を引き抜いた瞬間、戦いは始まった。




 走り出そうとした仮面の男。その顔面に向けて僕は最速の一撃を放った。

 鋼鉄製の弾丸だ。

 それを男は盾で弾く。ガィンとかなり大きな音が響く。弾丸自体は小さいけど、軽い一撃じゃない。鋼鉄製で重たいし、なにより速度がある。男の足が一瞬止まる。

 一瞬で、十分だ。


「せえええええええいぃぃ!!」

「はあああああ——」


 左右に展開したエリーゼとリンゴ。

 小さな身体の、全身をバネにして繰り出されるエリーゼの剣。

 スカートをはためかせながら放たれる、岩をもうがつリンゴの蹴り。

 どちらが当たってもふつうの人間なら重傷コース。運が悪ければ死ぬ。


「…………」


 男は、意外な行動に出た。

 エリーゼの剣を剣で受け止め、リンゴの蹴りを盾で受け止めようとした。

 だけどそれはいちばん選んじゃいけない選択肢だ。

 剣と剣がぶつかる。エリーゼのほうがパワーで勝っている。

 蹴りは受け流せそうではあったけど、その力に負けて盾がはね飛ばされる。


 エリーゼもリンゴも仮面の男に攻撃自体は届かなかった。

 だけど、男はエリーゼに押し込まれて背後へと吹っ飛んだ。同様にむしられた盾が地面を滑っていく。


「命じる。酷寒弾丸(ブリザードバレット)よ、起動せよ」


 3発の弾丸を僕は構えた。

 魔法弾丸は数が少ない。魔法を使えるのはエリーゼだけだから、弾丸に魔力を込める作業はエリーゼ頼みになっちゃうからね。

 それでも出し惜しみはしない。

 僕が放った弾丸は、仮面の男の周囲に展開する。

 男のブーツが凍りつく。回避行動を取ろうとした男はその場で固定される。


「……おいおい、俺っちの出る幕がねェじゃねェか」


 言葉とは裏腹に、モラがうれしそうに言った。

 エリーゼが男に剣を突きつけ、リンゴもまたその横にいた。


「あたしたちの——」

「勝ちですわ」


 ずいぶんとあっけない勝利宣言だった。




「……まだだ」


 仮面の男がぽつりと言った。

 直後、エリーゼとリンゴが回避行動を取る。

 ばんっ、と音が鳴るや男の周囲に小さな爆発が起きた。


「な、なによこれ! 爆弾!?」


 違う。原理はわからないけど、火は見えなかった。火薬の類じゃない。

 距離を置いた僕らの前で、男はゆっくりと歩き出す。

 凍らせたはずのブーツ。氷を、爆発で無理矢理剥がしたようだ。


「なにか……ふわふわしたものが漂ってない?」


 男の周囲を紫色の——煙? みたいなものが漂っているように見える。


「おォ、ノロット、よくわかったじゃねェか。ありゃァ憑魔だ」

「————!」


 僕は驚いてモラを見る。


「憑魔ってェのはな、身体の周りに……」

「魔力を漂わせるんだろ?」

「なんでェ、知ってンのかィ」

「オライエがやってた」

「…………」


 モラが変な顔をした。たとえるならお菓子を出されて甘い味を想像して食べたらしょっぱかった、みたいな。


「オライエってェのは……」

「勇者オライエ」

「…………ったく、お前ェさんの話を先に聞いておくべきだったな」

「でも、オライエの憑魔とは違う気がする」

「そうね。あのときは魔力が漂ってる感じなんてなかったもの。これじゃあダダ漏れじゃない」


 エリーゼが口を挟んできた。

 オライエと戦ったときは皮膚のぎりぎりで刃が弾かれた。ほんのりと薄く魔力を漂わせていた。こんなふうにはっきり見えなかった。

 もうひとつわかったことがある。

 ここで僕らが神の試練の話をできるのは、仮面の男が神の試練の当事者だからだろう。


「——エリーゼ、気をつけて!」


 立ち止まった男は、腰から何かを手にしたと思うとエリーゼへと放った。

 投げナイフだ。


「大丈夫よ、このくら——いぃっ!?」


 大剣で弾こうとしたエリーゼは、剣を思いっきり上げた。

 小さな投げナイフが大剣を跳ね上げたんだ。


「魔力をまとってやァがる。気をつけな」


 それだけ? それだけでそんなに威力が上がるの?

 エリーゼの剣だって強化して、魔力が籠もっているはずなのに。


「ッ! 命じる! 地殻弾丸(クラストバレット)よ、起動せよ!」


 仮面の男がこちらに突っ込んでくる。

 僕はとっさに地殻弾丸を起動させる。パチンコを使うまでもない。男と僕を結ぶ直線上に現れる岩の防壁。


「はぁっ!?」


 男の振るった剣は、粘土でも斬るようにすぱすぱと防壁を切り裂いてしまう。

 僕へと突っ込んでくる眼前に、リンゴが滑り込む。


「はあああぁぁぁぁぁ……」


 男の剣閃を紙一重でかわし、ボディに蹴りを撃ち込む。直撃した。「63番ルート」に出現するモンスターを一撃で葬ったリンゴの蹴りだ。


「…………!」


 男は、微動だにしなかった。

 吹き飛びもしなければ痛がるでもない。

 横薙ぎに剣が振るわれ、リンゴは横っ飛びで回避。その間に僕も距離を取る——。


「これじゃ、負けはしないけど倒せないよ」

「攻撃が通らないとは……」


 リンゴが悔しそうに唇を噛む。それなりに装備も強化してきたし経験も積んできた。なのに、攻撃が通じないんだから悔しいよな。

 オライエのでたらめな強さに比べれば……まあ、僕なんかはまだ希望があるような気もしちゃうんだけど。ここは絶望経験があるかどうかが大きいかもしれない。


「——さァて、と」


 男の前にやってきた、モラ。


「そろそろ俺っちの出番ってェことでやらしてくんなィ」


 僕は——僕だけじゃない、リンゴも、エリーゼも、目を疑った。

 モラの周囲に紫色の光が漂っていたからだ。

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