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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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135 グッド・タイミング 

 出て行ったゲオルグはものの1分程度で戻ってきた。


「無理だ。勝てるわけがない」

「早っ!」

「大体アイツは——」


 言いかけて、口をぱくぱくするゲオルグ。


「……ふむ、そういうことか。これも神の試練に関わることだから話せないというわけか」

「はい」


 ゲオルグのつぶやきに答えたのは管理者だ。


「俺はこれから仲間を募る。神の試練に挑戦するためだと言っても構わないんだろう?」

「もちろんです。しかし心から信頼できる仲間でなければ、鐘は鳴らないと思います」

「わかった。——ノロット」

「なんです?」

「ここまで連れてきてくれたこと、礼を言う。お前の性格は知っているが俺たちは冒険者だ。いずれ神の試練の場で会うことになるだろう。——さらばだ」


 そうしてゲオルグは去っていった。


「……負けたのにどこまでも偉そうですわ」

「リンゴ、そっとしておいてあげて」

「でもさー、あのゲオルグが扉の向こうでどうなったのかは想像がつくよね」


 と言ったのはエリーゼだ。

 まあ、僕も想像つくんだけど。


「マジックアイテムで姿を消そうとしたけど、バレたんでしょーね。でなきゃあんなにすんなり『仲間を募る』だなんて思わないもんね。あの人、ずっとひとりで活動してたわけでしょ?」

「僕もそうだと思う。……まあ、あきらめが早いというか見切りをつけるのが早いというのはいいことでもあると思うけど」


 管理者は言った。命の保証はできない、と。

 だったら確実に勝てると思える準備をしてからでないと挑まないほうがいい。


「ノロット、あたしたちは——」

「帰ろう」

「……やっぱりそうなる?」


 僕はエリーゼにうなずく。


「前回……」


 オライエと戦ったときのことを言おうとしたけど、うまく言葉が出てこなかった。

 管理者が目の前にいるからだろう。

 この人は、神の試練の関係者だけど当事者じゃないのかもしれない。ヴィリエとは神の試練に関する話ができたから、実際の試練に関する当事者なら神の試練について話ができるはずだ。


「前回……戦ってみて、わかっただろ。僕らの戦力は圧倒的に不足してる」

「ん、まあ……そうだよね」

「だから僕らはここで帰るべき——」

「しかし、ご主人様」


 珍しい、と思った。

 リンゴが口を挟んできたからだ。

 彼女は僕以上に安全を重視しているはずなのに。



「この試練で戦う相手は……ノーランド氏なのでは?」



 それは、僕も推測していたこと。

 だけれど考えないようにしていた。


「……どうしてそれを」


 唖然としたように声を漏らす、管理者。

 僕らの推測は残念ながら的中したようだ。

 沈黙が部屋を支配する。

 僕の言葉を、リンゴとエリーゼが待っているみたいだった。管理者もまた沈黙を破るのは彼女の仕事ではないと思ってる。


「……はぁ」


 小さく息を吐いた。

 どうやら、この問題を避けて通ることはできないらしい。


「……ノーランド“という人”が神の試練に関わっていることを僕らは知っています。冒険者協会本部でキッシンさんが、ノーランドのせいで10年以上うまくいっていない……というようなことを口にしていました」

「やれやれ……キッちゃんがそんなことを」


 え? やっぱり「キッちゃん」って呼んで欲しいの、あの人?


「本来、話すべき内容ではなかったと思いますが、神の試練にかけられた制限に当てはまらないことだったからでしょう、キッちゃんはあなたがたにそのことを伝えることができた。おっしゃったとおりのことで間違いありません。——この先にはノーランドがいます」


 言葉が、カナヅチのように形を変えて僕の心臓を打った。

 鼓動が早まるのを自覚する。


「……どうしました? もしかして……もともとノーランドのことをご存じなのですか?」

「そうかもしれません」

「? かもしれない?」

「……僕は孤児です。しかし、僕を捨てた両親が……ノーランドという人物である可能性があります」


 ひゅっ、と管理者が息を呑んだ。

 彼女の目が僕を映している。きっと、髪や、目元や、鼻や口の造形、これらを確認しているんだろう——ノーランドに、似ているのではないか、と。


「でも……今から会いに行くつもりはありません。僕ら3人で戦うには戦力不足です。だから僕らはここで——」


 言いかけた、ときだった。



「——戦力が増えたら?」



 その声は——その、女性の声は、部屋の入口から聞こえてきた。

 まさか、と思った。

 このタイミングで来るなんてずるい。卑怯だ、って思った。


「ちィッとばかし離れてる間によォ、お前ェらはおもしれェこと始めてやァがる。油断も隙もあったもんじゃねェや」


 だけどその人は——ずるくて卑怯なんだ。

 いつだって強くて、いつだって頼りになって、いつだって僕を助けてくれる——。


「……待たせたなァ、ノロット」


 美しい銀の短髪をさらりとかきあげた、稀代の魔剣士モラは、にやりと笑った。




 モラが帰ってきた——込み上げるうれしさを僕はぐっとかみ殺して、


「お帰り、モラ」


 とだけ言った。

 すると両腕を広げかけたモラは、


「なんでェ、喜びのあまり飛びついてくるかと思ったのに」

「僕は犬か」

「子犬がずいぶん成長したようじゃァねェか」

「モラこそ——もう、いいの?」

「ああ……問題ねェ。アイツにはけじめをつけさせた」


 モラの表情がわずかに曇る。だけれどそれ以上は言わなかった。

 アラゾアと、なにがあったのか僕にはわからない。

 必要になれば——あるいはそうしたいと思うようになれば、モラから話してくれるだろう。


「……もう、アイツと会うことも、アイツに困らされることもねェ」


 そっと、目を閉じた。




「こちらは……察するに、パーティーメンバーというわけですね」


 管理者の言葉で、魔女に向かっていた意識が引き戻される。


「しかし、どうやってこの場所がわかったのでしょうか?」

「おォ、そりゃァよ、ノロットたちがこの殿堂に来てるってェのは冒険者協会の言づてで聞いたからな。あとは鐘がカラーンと鳴れァ、ぞろぞろと修道士が現れて連れてこられたってェワケよ」

「……なるほど、あなたにも資格がおありのようですね。それも、単独で」


 管理者の目が細められる。

 今の話を聞くに、僕らのタイミングで鐘が鳴ったのは、僕らがパーティーとして認められたということなんだろうか? ひとりだったら鐘が鳴らなかった可能性もある?

 そうかもしれない。ゲオルグだってひとりで……ノーランドに挑んですぐに戻ってきた。単独でなら資格を認められない可能性がある。まあ、僕とゲオルグはパーティーじゃないんだけども。

 それをモラは、ひとりで鐘を鳴らした。

 すごいこと——だとは思うものの、まあ、モラだしなあと僕は苦笑する。


「ノロット……俺っちが戻るまで不自由させて済まなかったな」

「え?」

「難しい遺跡に潜るなってェ約束よ。悪かった」

「…………」


 い、言えない。まさか、「63番ルート」に潜ってたなんて、言えない……。

 すると、モラがばさりとテーブルに紙の束を置いた。


「この新聞にゃァ冒険者ノロットが神の試練に挑んだとか書いてあるが、ノロットは俺っちと約束したもんなァ。きっとこれァ誤報だ。(ちげ)ェねェ」

「…………」


 バレてる! バレてるじゃん!


「ごめん……悪かったよ。約束破って。いろいろ事情があってさ」

「くくく。わァッてらァ。その辺のことはまたあとで聞く。今は——」


 モラはくいっと管理者をあごでしゃくった。


「なにやら面倒事みてェだな? 俺っちが来たんだ。迷うこたァねェ。やるぞ。でもって、勝つ」


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