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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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133 公国の鐘の音

「ノーランドのせい……って?」


 僕は思わず言葉を口にしていた。

 ノーランド——それは、僕の、父かもしれない人の名。

 神の試練を4つ目まで突破したという人の名。


「それはな…………」


 言いかけたキッシンさんだったけど、口をぱくぱくと動かしただけで言葉が出てこなかった。

 神の試練に関わるなにかなんだ。


「……そうですか、ではこれ以上聞きません」

「ご主人様」

「ノロット、聞かないの?」


 僕は首を横に振る。


「これは意地を張ってるとか強情だとかそういうんじゃなくて……僕はいずれにせよヴィンデルマイア公国に行く。それでいいんですよね?」

「さよう。そこに行けば……わかることもあろう」


 そうして僕らは冒険者協会本部を出た。




 冒険者協会のあるルーガ皇国の首都ルーから、ヴィンデルマイア公国までは馬車で2日という距離だった。

 僕とリンゴ、それにエリーゼは、手に入れた情報を整理してみたけれど、結局のところ核心にはまだ迫れていない。勇者オライエを祀るというヴィンデルマイア公国に行く以外、なにもなかった。

 ……いや、行く必要は本来ないんだ。別に、神の試練を全部突破しようなんていう野望もなければ、僕は両親に会いたいという気持ちもない。

 それでも、周りの人たちは僕に期待をしているみたいだ。神の試練のことはどの町のどの新聞を読んでも少しは記事になっていたし、僕の名前も出ている。神の試練を突破したという記事もあれば、単に「女神ヴィリエの海底神殿」を発見したうちのひとりという扱いのものもあるけどね。

 プライアは、新たなパーティーとともに「海底神殿」へ向けて動き出したみたいだ。


 ——プライア様に火を点けちまったな。


 ロンはそう言った。火を点けたというより最初からプライアには炎のような野望があったような気もするけど……それはさておいても、プライアは僕にライバル心を燃やしているようなところがあった。たぶん、僕が一度、プライアからパーティーへのお誘いを断ったことや、神の試練を前に一度は帰ったこともあるんだろう。そのくせプライアを出し抜いて神の試練を突破した——そりゃ、頭にくるよね。

 ゲオルグもだ。たまに姿を現したと思うと世間話をしたり、どこに行くのかを確認したりしてまた姿を消す。彼も、僕が神の試練について調査していくのだと信じ切っている。

 タラクトさんたちや、タレイドさんはどうだろうか。僕が神の試練にどんどんチャレンジしていくと思っている……? どうだろう。そんな気もするし、そのうち挑戦してそのうち突破する、くらいに思っているのかもしれない。でも、僕が挑戦することは疑っていないようなところがある。


 周りの人たちは僕に、期待している——だから僕もヴィンデルマイア公国に行く。


 ……違う。

 止めよう、こんなふうな他人のせいみたいな言い方。

 僕は気になっている。遺跡のことが。創世神話と神の試練の秘密が。そして……少しは、父や母のことも。

 遺跡が気になるから調べる。

 それでいいよね。

 そのほうがよほど、僕らしい。


「……ご主人様?」


 昼下がり、馬車で移動していた。座席で眠りこけているエリーゼ。リンゴは寝る必要がないので目をぱっちり開いている。


「ん?」

「どうかされましたか」

「……ん?」

「吹っ切れたようなお顔です」


 僕は苦笑した。

 このオートマトンにはかなわない。たぶん僕より僕のことを知っている。……や、怖いんだけども。


「そうかな」

「はい。——けれど」


 にっこりと彼女は笑った。


「とてもよいお顔ですわ」


 この日、僕らはヴィンデルマイア公国の首都へとやってきた。




 勇者オライエを祀る殿堂は、市街地の中心部にあった。

 領主である公爵の館と同じくらいの大きさで信仰の本気度がうかがわれる。

 放射状に八本伸びる大通り。中心にこの殿堂がある。

 南向きの入口は巨大な柱によって支えられ、石材はすべて白色なので全体が白く輝いている。

 勇者を祀っているせいなのか、来場者は冒険者が半分と観光客が半分といった感じだ。

 日はまだ高い。来訪にはちょうどいい時間帯だ。


「へぇー、ここがねえ……」


 エリーゼが感嘆したような声を上げる。


「オライエの銅像でもあるのかと思ったけど、ないんだな……」

「どうしてここの人たちは勇者オライエを祀ってるのかしら?」

「ん……確かにそうだね。なんでだろ?」

「——オライエの血筋を引く者が貴族となってな、それでここを治めているのだと聞いた。先祖の墓みたいなものだ」


 いきなり口を挟んできたのはゲオルグだった。


「びっくりした……いたんですね」

「いたさ。それで? ここになにがある?」


 僕は肩をすくめる。


「勇者オライエの伝承があるんじゃないですかね」

「…………」


 ゲオルグは探るような目をするけど、神の試練に関することを僕は話せないんだからしょうがない。

 ヴィリエがここに来るよう言ったとか、そういうことを教えられないんだよな。


「ならば行けばよい。俺はついていく」


 なんでこの人はついてくるのに偉そうなんだろうか……とか思ったけど言ったところで聞いてくれなさそう。


「はいはい……じゃ、行こうか?」

「かしこまりました」

「おっけー」


 僕の左にリンゴ、右にエリーゼ。その後ろにゲオルグという形で僕らは進んでいく。

 10段ほどの階段を上がる。

 入口の鉄扉は大きく開かれていた。何十人もの団体がやってきても簡単に通れそうなほどの広さだ。

 僕らは殿堂内部に足を踏み入れていく。


 すると——鐘の音が響いた。


 澄んだ音色だった。

 石造りの建物内に反響する。その反響がまた心地よい。

 どこにあるんだろう? あ、あれか。はるか頭上、天井付近にあった。

 殿堂内にいる人たちも鐘の音に気づいたのか、天井を見上げている。

 鐘の音が止んだ。

 いい音だった。まだそのあたりに響きが潜んでいるような気がする。

 僕らは殿堂へと入っていく。けど、ここには見所がそうあるわけじゃない。


「……これ、もろに石碑じゃない?」


 エリーゼが腕組みして首をかしげた。

 殿堂の広さは100メートル四方だ。中央に、見上げるほどの巨大な石版があって、そこにオライエの伝説が刻まれている。

 石碑の足下は備えられた大量の花で埋め尽くされている。

 勇者が好きだったと伝えられている黄色い花弁の花ばかりだ。

 壁面には勇者の想像画がかけられてある。当然のように全部顔も姿も違う。想像で書いてるからね。


 それだけ。

 それだけの場所だ。


「うーん……これが神の試練っていうのも変だよね」


 と言いながらも僕らは石碑の前へとやってきた。


 ――魔の国の住人が、天の加護を受けし我らが大地を侵略した。

 ――我らと魔の国の住人との戦いは600日続いた。

 ――我らは倒れ、傷つき、息絶え、大地には絶望が満ちた。

 ――しかし天より遣われし勇者オライエが魔の国の住人を討った。

 ――大地には光が戻り、影は去った。


 僕が知っているものと同じだった。

 確かにこれ、まんま石碑だよな? でも石碑なんかない、みたいな話だった……うーん、アレか。神の試練には「勇者オライエの石碑」とあるのにオライエにまつわる石碑がここにあるけど、なんの反応を示すわけでもない。

 神の試練を探している人間にとっては「(勇者オライエの)石碑なんかない」っていうことなのか。


 僕らが石碑を眺めていると——、


「ご主人様」


 リンゴが、警戒心を込めた声で囁いた。

 僕も気づいていた。

 僕ら3人+ゲオルグは、囲まれていた。

 灰色の修道服……と言っていいのか、同じ衣に身を包んだ10人ほどに。


「なんだノロット。お前はこの町で早速なにかやらかしたのか?」

「冗談でしょ。ゲオルグさんのほうがやらかしてそうですよ」

「俺は姿を隠せる。バレるような悪事は働かない」

「……そこは悪いことをしていないと言ってくださいよ」

「そうだった。まだしていない」

「まだ、って……」


 僕とゲオルグがそんなことを言っていたときだった。

 囲まれた人たちの間から、ひとりの女性が現れた。

 同じ灰色の服だけれど、手には銀色の杖、頭には位の高そうな帽子をかぶっている。


「……私のあとについてきてください」


 僕らにしか聞こえない声で付け加えた。


「資格を持つ者よ」

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