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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第7章 事実と真実

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127 夕刻の検討会(後)

「あとは憑魔のこともね!」

「あー、そうだったね。エリーゼはどんなふうに感じたの? オライエのことだよね?」

「攻撃が当たったと思ったのに、皮膚に触れるかどうかのところでカキーンって弾かれちゃうのよ。ヴィリエは、身体の表面に魔力を這わせる? みたいなことを言ってた」

「それってやってみた?」

「もちろん」

「できたの?」

「……できない」


 ずうんと沈み込むエリーゼ。

 そんなに期待していたんだろうか、その技術。

 確かに憑魔ができれば軽い防具で戦えるしね。


「さて、ともかく――これで女神ヴィリエから聞いたことのすべてです。そこで、解決されてない疑問について考えてみたいんです」


 僕はそれから――黒板に書こうとして書けないことに気がついて、口頭で説明した。


 (1)6人のサラマド村出身者が創世神話になった経緯は?

 (2)神の試練なるものを彼らが残した理由は?

 (3)「救世主の試練」ってなんだ?

 (4)「女神ヴィリエの海底神殿」なのに勇者オライエが出てきたのには理由がある?

 (5)神の試練に、順番が決まっているのはなぜ?

 (6)神の試練と冒険者協会のつながりは? 組合(ギルド)魔法とはいったいなにか?

 (7)ノーランド以外にも神の試練の突破者はいそうなのに、なぜ場所を誰も口外しないのか?


「こんなところかな? なにかある?」


 僕がたずねると、リンゴが控えめに手を挙げた。


「あのゲオルグという男はなぜご主人様についていきたいと言ったのでしょう? ご主人様が魅力的な男性であるのは否定できないのですが……」

「後半はどうでもいいけど、前半については――なんとなくだけど推測はできるよ。ゲオルグさんにとってグレイトフォールに残る意味がないんだよね。あの人はひとりじゃ『女神ヴィリエの海底神殿』を突破できない。だから仲間を募りたいけど、腕に自信のある冒険者はプライアさんのパーティーに行くでしょ? そうなれば、ゲオルグさんがなにを考えるか」

「……ご主人様に取り入ってパーティーに入る?」

「まあ、それも可能性としてはある。ただどっちかと言えば僕らが次にどこに行くのか気になってるんじゃないかな。ゲオルグさんは僕らが神の試練を突破したことを疑っているけど、もしほんとうに突破していた場合、僕らが次の神の試練に行くものだと予測する。ついて行って、単独で突破できそうならする。できなさそうならその地で仲間を募る。少なくともグレイトフォールよりかは仲間を集めやすいだろうし、ゲオルグさんは予測が外れても損をするわけじゃない」

「あの人のマジックアイテム、尾行向きだもんねえ」


 エリーゼがほおづえついてため息交じりに言う。


「リーダー、ちょっといいかな?」


 今度はタラクトさんが手を挙げた。


「6番目の疑問、冒険者組合と神の試練の関係だけど――本部に来いっていうのがその答えに当たるんじゃないか?」

「あっ」


 なるほど。

 僕らが神の試練を1つ突破したことで、冒険者組合が注目した、と。そしてなにか情報をくれるのかもしれない。

「女神ヴィリエの海底神殿」に入るのに必要な冒険者認定証。解明が進んでいない組合(ギルド)魔法。やっぱり怪しいよね。


「そうなると……『4.冒険者協会本部』っていうのが一番最初の行き先になるのかな。ちなみに本部ってどこにあるんですか」


 僕が聞くとタラクトさんは苦笑した。

 なんで苦笑? と思っていると、その理由は簡単だった。


「ルーガ皇国の皇都ルーにある」

「ルーガ皇国、って……」

「そう、ヴィンデルマイア公国の隣」


 ああ、これはもう決まりですわ。行けということですわ。


「あともうひとつ、いいかな?」

「いくつ言ってくれてもいいですよ、タラクトさん」

「ありがとう……」


 そしてタラクトさんは、今度は寂しそうな顔をした。


「俺たちはここでリタイアだ。ストームゲートに戻る」


 タラクトさんが言うと、ラクサさんも、ゼルズさんも、レノさんも黙りこくった。

 たぶん、昨日決めたんだろう。4人で。

 わかってた。

 だって、まだタラクトさんたちはアンデッド化した仲間を浄化できていないはずだ。

 だからストームゲートに戻るんだと。


「ありがとうございました。ほんとうに……タラクトさんたちがいてくれなかったら、神の試練は突破できませんでした」

「……俺たちこそ、感謝だよ。史上、初めて『女神ヴィリエの海底神殿』を突破したパーティーの一員になれたんだ」

「覚えてるのは俺だけだけどね!」

「てめえレノ! あんだけ昨日頭殴ったのに記憶残ってんのか!」


 なにそんな危険なことやってんの!?


「そんなんやって忘れんのはゼルズみたいな鳥頭だけだって」

「殴られたりねえようだ」


 でも、そんなふうにレノさんとゼルズさんはおどけながらも、寂しそうだった。


「……リーダー。リーダーがストームゲートを発ってから、もういっしょに冒険をすることはないと思ってた」

「ラクサさん……」

「だが、運良く、また同行できた。こんなにうれしかったことはない。リーダーは俺の誇りだ」


 真正面から言われると――胸の奥から込み上げるものがある。

 差し出された右手を握り返す。


「僕だってラクサさんから教わった解錠の技術を感謝してもしきれないですよ……勇者オライエとの戦いでも、ラクサさんがいなければ勝つことはできませんでした。ラクサさんは僕の師匠です」

「そうよ。すごかったわ、ラクサさん」

「4人組の中でいちばんの常識人でしたわ」

「リーダー……エリーゼ嬢、姐さん……」


 そう言えばリンゴのこと、みんな姐さんって呼んでたなって今さら思い出した。


「また、ストームゲートに寄ることがあったら、話を聞かせてくれ」


 タラクトさんが僕に右手を差し出す。


「もちろんです。助けていただいたぶんは、いずれお返しします」

「止してくれよ。リーダーが俺たちにしてくれたこと……。悲願だった『黄金の煉獄門』の踏破に比べれば、まだまだ俺たちが恩を返してない。――忘れないでくれ。俺たちはリーダーがピンチだったら、地の果てでも駈けつける」

「タラクトさん……」


 僕が右手を握り返す。

 温かく、頼りになる大きな手だった。

 ラクサさんも、ゼルズさんも、レノさんも優しく笑っていた。


 今生の別れじゃない。

 わかってる。

 それでも――ストームゲートを発つときに「もう二度と会わないだろう」と思っていたからこそ、再会した喜びが大きくて――今また離れるのがつらい。


「おいおい泣くなよリーダー!」

「な、泣いてないですよ! まったくゼルズさんは……僕を子ども扱いしないでください。あと2週間で僕も成人なんですよ!」

「おお、それじゃあもうしっかり大人だな。――次会うときはお互い一人前だ」


 相変わらずのゼルズさんと握手した。


「俺はせいぜいこいつらに女神ヴィリエと会ったことを自慢して余生を過ごすぜ!」

「もう引退するんですか!?」


 突飛なジョークを言うレノさんと握手した。


 こうして「女神ヴィリエの海底神殿」を突破したパーティーは、元の通り、2つに分かれることとなった。

 次に会える日がいつなのか――それはわからない。

 もしかしたら、もう2度と……。




 ……とか思ってたら、グレイトフォールを発つ船便でいっしょになったという。

 もうね、笑えてきた。

 僕らは記者から逃げるように船に乗ったから同じような行動パターンになったんだよ。

 ちなみに、プライア救出作戦の報奨金は7人で均等に分けました。


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