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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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125 嵐の記者会見

 そして僕らは記者会見場の2階に戻ってきた。

 用意されたイスは150脚。

 すべてが埋まって、立ち見もいる。


「本日はグレイトフォール冒険者協会主催、記者会見にお集まりいただきありがとうございます。では定刻になりましたので、ダイヤモンドグレード冒険者プライア、そのパーティーメンバーセルメンディーナ、ダイヤモンドグレード冒険者ゲオルグの3名による会見を始めます」


 司会が声を発すると、室内に入場してくるプライアたち。

 ささささとペンの走る音がする。中には木炭でスケッチを始める記者もいる。ん……あの水晶玉みたいなのはなんだろう。マジックアイテムかな? そう言えば聞いたことがあるな。影を遠隔地に映したり、風景を記憶させたりするとか……。

 そんなすごいもの、あるんだろうか。

 でもあるかもなあ。なんだかんだで魔法は庶民の娯楽に合わせて進化している気がする。新聞の印刷技術もそうなんだよね。本の複写は手で書き写すのがいまだに主流だけど、新聞は大規模な魔法を軸にした印刷になってる。

 聞いた話だと、決められた文字を金属板に彫り込み、それで刷るんだとか。文字やレイアウトを決めたあとは全部魔法による自動化が進んでいる。


 席に着いた3人は記者と対面している。

 司会が、今回の経緯を説明していく。


 ゲオルグの「63番ルート」踏破。

 踏破の再確認の意味で派遣されたプライアとノロットパーティー。

 2パーティーは最奥の設計室で奥に通じる通路を発見する。そこで、密かに追ってきたゲオルグと合流し、「女神ヴィリエの海底神殿」へと到達する。


 その後ノロットパーティーは帰還。

 ゲオルグとプライアパーティーは神の試練に挑んだ。


 その後、ゲオルグたちの連絡が途絶えたが、セルメンディーナが海上で発見され、大きな問題となる。

 急遽呼び戻されたノロットパーティーがセルメンディーナと合流し、「63番ルート」の最奥へ向かう。これにはソイ、ミートン、ペパロニパーティーが同行した。……冒険者協会の会長が逮捕されたことについてもさらっと触れられた。さらっと。


 プライアパーティーのメンバーがランダムで転移した可能性があるので、ここで冒険者協会にあらゆる「ルート」の踏破・メンバー捜索依頼が出され、海上も再捜索となった。


 ノロットたちは「63番ルート」の最奥から神の試練に入り、ゲオルグと、プライアパーティーのニャアさんと合流した。

 その後、プライアパーティーの神の試練への挑戦が終わるのを待って、帰還した――。


 うーん、なるほど。確かにそういう感じだったね。

 僕らやペパロニパーティーも神の試練に挑んだことがすっぽり抜け落ちてるけど。

 ああ、あと他に冒険者の死体があったこともね。……あの冒険者の死体は誰だったんだろう。これもわからないな。冒険者認定証でもせめて残っていればよかったんだけど。


 記者たちは当然これらの内容を知っていたので、おさらいみたいなものだ。

 説明が終わると――記者たちが一斉に手を挙げる。


「神の試練の内容を教えてください!」

「『海底神殿』の様子はどうでしたか!? どんなモンスターがいたんでしょうか!」

「最初の発見者はゲオルグさんということですが、ゲオルグさんはプライア様に第三者として立ち会ってもらいたかったということですか?」

「『63番ルート』の最奥からどうして神の試練が始まるんですか!?」


 わーっと質問が押し寄せる。

 それを司会者が抑えるのにたっぷり10分以上かかった。

 そりゃそうだよね。結局、どこの新聞社も独占インタビューを取れなかったみたいだし。


「あれシンディじゃない?」


 エリーゼが指差した。ほんとだ、最前列のイスに座ってる。偉くなったね、シンディ! 変な記事書いたことを僕は許さないよ!


「えー、皆さん質問が多いことは重々承知していますが、先に冒険者3名からお話があります」


 まず最初に発言したのはセルメンディーナだった。


「……私が海上で発見され、多くの人に迷惑と心配をかけてしまいました。申し訳ありません。そしてプライア様の捜索を希望した私を、軟禁していた前協会長の更迭に尽力してくださった皆さんに感謝いたします。今はプライア様を始めパーティーメンバー全員が無事であったことをただただ喜んでおります」


 ううむ、なんか中身のない言葉だなあ……。

 だけど記者たちはすごい勢いでペンを走らせている。


「ねね、ノロット。あの人、話した意味あるのかな?」

「エリーゼは無意味だと思うかもしれないけど、一応あると思うよ。セルメンディーナさんはこの町だと有名人なわけでしょ? 彼女の言葉で『元気です。みんなありがとう』と言えば、それで満足する人もいるんじゃない?」

「そうかなあ……。本音のところでなに考えてるのか知りたいって考えるけど、あたしなんか」

「下世話な女」


 ぽつりとリンゴが言った言葉は幸いエリーゼには聞こえなかったみたいだ。ここでケンカとかマジで止めてね?


「続いてプライア様です」


 司会が促した。

 っていうかナチュラルにプライア「様」って言ってるね。最初はそんなふうじゃなかった気がするけど。


「神の試練についてお話ししたいと思います」


 おおっ、と記者が前のめりになる。


「神の試練で、私は自らの治癒魔法を試されました。そして私は、未熟であることを思い知らされました」


 どよめきが大きくなっていく。

 そりゃそうだ。僕だってプライア以上に治癒魔法を使える人を知らない。

 それを当の本人が「未熟だ」と言ったのだから。

 どんだけ神の試練はすごいんだってことになるよね。


「ですが近いうちに、必ず再挑戦します」


 おおっ、とまたも記者たちが前のめりに。


「そのためにここで発表したいことがあります」


 ……ん? 発表? なんだろ。


 すると――会見場に入ってくる人影。ロンを先頭に、14人。

 見たことのある人たちだ。

 っていうか、


「ご主人様、あれはペパロニとソイのパーティーメンバーですね。全員いるわけではないようですが」


 そのとおりだ。ペパロニとソイがロンの左右にいる。彼らはプライアの後ろにずらりと並んだ。


「エメラルドグレード冒険者ソイさん、ルビーグレード冒険者ペパロニさん、彼らのパーティーメンバー合計13人を私のパーティーに吸収しました」


 え? 吸収?


 今日いちばんのどよめきが会見場に満ちる。

 プライアパーティーのメンバーと合わせると22人になっちゃうよ……あ、でもプライアのところのローグさんは2人とも「雇われ」だって言ってたっけ。

 それにペパロニたちのメンバーも全員じゃない。合併がイヤで抜けた人もいるってことかな。


 にしても。

 20人前後か。

 そんな大所帯になっちゃうのか。


「なお、あと3名募集します。我こそはという冒険者は私の元にやってきて欲しいと思います」


 もっと大所帯になるのか。

 記者たちはどよめきっぱなしだ。


「これがさっきロンの言ってた『火を点けた』ってことなのか……?」

「そうじゃないの? ノロット、やっちゃったわね」

「僕が悪いの? これ。っていうかこれだけ仕込みがあったなら僕の言葉なんて関係なくない?」

「あたしならあんな大人数のパーティー、めんどくさそうでイヤだけど……すごい数の応募があるんでしょうねー」

「そうかな?」

「そうよ。だって、ダイヤモンドグレードよ?」

「……そうかな?」


 そんなにすごいのかな、ダイヤモンドグレード。

 や、すごいか。最上級だもんな。

 僕にはやっぱり「モラからもらった認定証」という気持ちがまだあるんだよね。

 っていうかモラはまだグレイトフォールに来てないな。魔女アラゾアとまだもめてるのかな。


「……あのエルフは『覚悟』の試練に行く気でしょうか、ご主人様」

「ありそうだね。純粋な戦闘でいいなら人数も物を言うし。数人脱落してもいいや、っていう作戦は強いよ」


 事実、僕らだってオライエと戦ったときはラクサさんの捨て身アタックで勝ってるしね。あれは「死んでも大丈夫」という前提があってできた作戦だから、本来は下策なんだよな……でもあのときはあれしか手段がなかったしな。

 僕らもまだまだ力不足だ。


 それから記者たちはプライアに質問をぶつけた。しかしプライアは言質を取られないようのらりくらりとかわしつつ、それでもなんとなくぼんやりとわかるような回答をした。

 欲しい人材は純粋に戦闘力が高い人――「覚悟」の試練ですね、わかります。

 海底神殿の様子については細かに語っていた。そのあたりはライバルの冒険者に知られても問題ないからだろうね。

 試練の内容については「殉ずる」の試練内容も彼女は明らかにしなかった。


 記者たちは猛烈にメモを取ってた。

 プライアがそれ以上、貴重な情報を漏らさないだろうというところで司会はそこで質問を打ち切った。

 気づけば会見が始まってから2時間が経っている。立ちっぱなしで疲れてきた。

 さて、終わるか……。


「最後はゲオルグさんです」


 あ、忘れてた。

 記者たちも数人、プライアの番が終わった段階で帰ろうとしてたよ。


「……俺から言うことは特にない」


 相変わらず不機嫌そうに言った。それって忘れられそうになったから怒ってるってことじゃないよね?


「だが、ひとつだけ言うなら――」


 言うのかよ。

 思わず心の中で突っ込んでしまった。


 そう、このときの僕はのんきに構えていたんだ。

 キャットウォークで、完全なる傍観者として。


 ゲオルグはすっと指差した――僕を。


「冒険者ノロットは、誰よりも先に神の試練――『女神の知識に挑む』試練を突破した。俺は、ヤツに同行してグレイトフォールを離れるつもりだ」


 ……は?

 はあ!?

 な、なに!? なに急にバラしたの!? それに同行って――。


「ノロット……」

「ご主人様……」

「言ってない言ってない! なにか約束してるとかそういうんじゃないから!」


 1階の記者たちが僕に気がついて騒ぐ――いや、大声を上げてる。特にイヌミミの亜人記者が「きゅあああああ!  昨日食らいついてインタビュー取るべきだったああああ!」と叫び、隣にいた上司らしい記者からげんこつを食らっていた。

 僕らは飛んできた係員の手引きで記者会見場から逃げ出した。


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