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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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124 火を点けてしまった

 遅くまでタラクトさんたちは帰ってこなかった。僕らが朝食を食べていると、現れたのはラクサさんだけで、そのラクサさんも二日酔いに苦しんでいた。かなり呑んでいたらしい。


「お、俺は……3次会で切り上げたが、あの3人はそこからまた別の店に……たぶん女性の多い店だろうが……」

「…………」


 なにやってんだろ、あの人たちは……。

 町に戻ると酒、博打、女! という刹那的冒険者テンプレが頭に思い浮かぶ。うん、ゼルズさんのイメージにぴったり。


 つぶれているストームゲート組を放っておいて僕らは冒険者協会へ出かけた。今回の救出作戦の報奨金がもらえるのだ。

 そこで気になる情報を耳にした。


「え、記者会見? プライアさんたちが出るんですか」

「君たちは参加する必要はないがね。気になるかい?」


 ほとんど寝ていないというタレイドさんはくっきりクマの浮いている目をしょぼしょぼさせながら僕に告げる。

 グレイトフォール冒険者協会会長室で。

 タレイドさん。甥のタラクトさんは明け方まで遊んでいたらしいですよ? 仕事を手伝わせるのもアリでは?


「気にはなりますけど……記者会見って、内容は、今回の発見についてゲオルグさんが発表するってことですか?」

「それとプライアたちが無事であるというアピールだ。発言者はゲオルグ、プライア、セルメンディーナの3名。昨日から君たちへの取材もすごいと思うが、それだけグレイトフォールは注目されているんだよ。近隣だけじゃない、世界中の名だたる新聞社から記者が派遣されている」


 ま、発端は冒険者協会会長の更迭だけどな……とタレイドさんは付け加えた。

 どうやら冒険者協会の大々的な不正は珍しく、ニュース価値が高かったみたいだ。本部も重く見ているっていうのも大きそうだね。

 そこへダイヤモンドグレード冒険者3人が帰還し、神の試練を発見したとあれば――騒ぎにならないほうがおかしい。


「まあ、僕らのところに記者は来てませんでしたけど」

「そうか? ――ああ、確かにノロットの外見を聞いてくる記者は多かったが、『こちらも把握していない』と伝えろと職員には命令しておいたが、それが効いたのかもな。グレイトフォール・タイムズが似顔絵を載せたがっていたが昨日まで止めていたんだ」


 あの似顔絵は昨日が初出だったのか! また売れるんだろうな、あの新聞。


「ありがとうございます。頼れる専務理事――じゃなかった、会長」

「止してくれ」

「やっぱり大変ですか」

「……不正の処理ってのは気を遣うものだ。単純に職員だけで言えばストームゲートよりここのほうが優秀だ。ただ、どこまで彼らも信用できるか……」


 ため息が深い。

 とはいえ僕らにできることはなにもないけどね。

 がんばってください。


「えーと……じゃあ記者会見ですけど」

「おお、そうだったな。見学はできるぞ。正午から開始だ」

「そうですね、見学してみましょう」


 どうせタラクトさんたちは夕方まで死んでるだろうからね。




 記者会見の会場は、巨大な会議室としても使われる場所だった。冒険者協会の係員がこっそりと2階にあるキャットウォークみたいな通路に連れてきてくれる。柵が目隠しになって、1階の様子をこっそりうかがえるみたいだ。

 記者が集まり始めている。眺めていると、冒険者協会の係員がまた僕のところへやってきた。


「ノロットさん、お手数ですがご同行いただけますか? プライア様が話されたいということで」

「僕に?」


 なんだろう。断る理由もないのでついていく。

 プライアが試練から戻ってきてから、そんなに話してなかったな。僕が神の試練を突破したことはセルメンディーナからきっと聞いてるだろうけど……疑われてるのかな? まあ、ゲオルグが露骨に疑ってたからプライアだって疑うよな。


「ノロットさん。わざわざありがとうございます」


 通されたのは小部屋だった。プライアとセルメンディーナ、それに大盾のロンがいた。他のメンバーはいないみたいだ。

 ロンは、プライアパーティーでは隊長とか呼ばれてたっけ。神の試練ではなにもできなかったからか、帰り道もずっと渋い顔をしていた。今もだ。


「なにかお話があるとか」


 僕とエリーゼ、リンゴが入るとこの部屋はちょっと手狭に感じる。僕らにイスを勧めることもなくプライアは立ち上がる。


「これから記者会見なのです」

「ええ、僕もそう聞いてますよ。あの、そんなときになにか?」

「……ノロットさんは、ほんとうに神の試練を突破したのですか?」


 あ、やっぱり疑われてるね、これは。


「えーと、そうですね。突破しました」

「ほんとうのほんとうに?」

「はい。証拠はないですけど」

「そうですか……。試練の内容は口外しないんですよね」

「はい」

「理由をうかがっても?」


 話したらすぐに突破できてしまうようなクイズ形式のところだから――ということを言いたかったけど、なかなか言い方が難しい。そういうヒントすらも伝えられないんだよね。うまく言い回しを選んで言う。


「遺跡内のことを語ってはいけないと……そういう決まりです」

「話してしまうと私たちが簡単に突破してしまうからですか?」


 うん、とうなずくこともできない。曖昧な笑顔が浮かんでくる。

 よくよく考えるとやだなこれ。呪いみたいだよほんと。


「私たちの試練は教えることができますよ?」

「そうですね。種類が違うんでしょう」

「……ノロットさんは、突破したことを公表しないんですね」

「ええ、まあ。誰も信じてくれないでしょうし」

「でなければ、私たちが突破してしまいますよ? そして最初の突破者だと周囲は考えてしまいますよ?」

「それでいいと思ってますよ」

「なぜですか」


 プライアの言葉はどこか咎めるような口調ですらあった。

 ああ……そう言えば、1度目の「63番ルート」攻略時にもこういう感じになったっけ。僕をパーティーに勧誘したのに、そのくせ興味がなくなったようなふうになって。

 僕を勧誘したことが単に社交辞令なのかな、って思ってたけど――今になるとわかる。プライアは、自分の価値観に合わない人間を認めたくないんだ。「冒険者ならば貪欲になるべき」だと思ってるんだ。だから、僕が目立たないように行動することをよしとしない。


「誰が最初かとか、どうでもいいじゃないですか」

「……どうでもよくありません。最初であることに命を賭けている冒険者も多くいます。彼らを侮辱する言葉ではありませんか?」


 ずいぶんと攻撃的だなあ。僕らが神の試練を突破した――ということを半分くらいは信じているのかな。先を行かれたからと、苛立っているのかも。

 リンゴが、じり、と動きそうになったので僕は彼女の前に上半身をずらす。牽制する意味で。


「侮辱する気はありません。もしそう感じたとしたら……ごめんなさい」


 僕がぺこりと頭を下げると、プライアはますます不愉快そうに顔をゆがめた。

 あ、でも一応言っておく。

 美人って特だよ。

 そんなふうに不愉快そうになってもキレイなままなんだもの。


「その余裕は……持てる者の余裕ですね。ノロットさん、あなたはほんとうに神の試練を突破したようです」


 そう言うと、プライアとセルメンディーナは僕らの横を通って部屋から出て行ってしまった。

 残ったのはロンだけだ。


「……プライア様に火を点けちまったな」

「火を?」

「俺は、お前らが神の試練を突破しただなんてこれっぽっちも信じてねえよ」


 そうしてロンもまた出て行ってしまう。


「結局、なんだったの?」


 エリーゼの問いに、


「さあ……?」

「負け犬が吠えただけでしょう」


 ぷりぷりしてリンゴが言った。


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