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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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123 星の帰還

 グレイトフォールに帰還する、という考えはすんなりと受け止められた。

 プライアパーティーの残り全員が無事だった。彼女たちにも食料が必要だ。そして彼女たちの食料はほぼ底をついていたからね。僕らのぶんを分けるにしても心細い。

 王海竜のいた大空洞は静かなものだった。僕の放り込んだ「凍える竜牙ナイフ・オブ・フロストドラゴン」は着々と氷結範囲を広げていたようで、遠目にも水路はぱきぱきに凍りついていた。あるいは僕と戦うことを王海竜は恐れて……かもね!

 冗談です。


 プライアパーティーは、じわりじわりと進んでいったらしい。試練ではひとりしか傷つけられない仕組みだったので、ニャアさんが消えてからは慎重に慎重を重ねていた。

 でも、食料が少なくなり、プライアの集中力も段々切れていき、魔力回復もできなくなっていったところへ――「時間切れ」という声が響いてきたのだとか。

 最初から制限時間はあったんだろうか?

 ひょっとしたら……プライアたちの残りの食料を考えたのかもしれない。ヴィリエとか誰かが。地上まで帰り着けないと海底炭鉱内で死なせてしまうから……とかいう判断が働いていそうな気がする。


 転移魔法の修正についてはゲオルグたちから「どうやって知ったのか」「誰が修正したのか」という質問を受けたのだけど、うまく答えられなかった。その辺も「話してはいけない」範囲らしい。呪いみたいなものかもしれない。

「僕らが転移魔法の不具合を伝えると、オライエがルシアに言って直させた。タラクトさんの位置も教えてもらった」というところが、「僕らが転移魔法の不具合を伝えると、ほら、いるじゃん……彼が? 彼に? 直してもらって……ね?」みたいな感じ。ゲオルグがますます疑り深い目で僕を見てくる。


 で、変わったことと言えば、エリーゼだ。

 彼女の左手の甲に、ぼんやりと文字が浮かんでいたんだ。それはちょうど「知識に挑む」の最初の“部屋”で描いたあの文字だった。

 これが「女神ヴィリエの海底神殿」を踏破した証拠なのかな? と思ったけど、なんの意味があるんだろうか、これ……。

 ちなみに、僕らのパーティーメンバーはこの文字が見えるのに、ゲオルグたち他の冒険者は見えなかった。余計に疑われる要素になった。僕としては逆に、この文字が見えるのが「信用できる相手」なのかなって気がしてるけどね。神の試練について「話していい」相手。

 そう言えば……ヴィリエに関する神殿なのに、オライエとか出てきたのはなんでなんだろう?

 これも質問したかったな。


「あと少しで出口だね」

「長かったですわ……もうご主人様からは離れませんわ」


 リンゴが僕の背後にぴったりくっついて歩いている。足が当たって歩きづらい――ということはなくて、僕が足を出すタイミングでぴったりくっついて出すし、止まるときにはぴったりくっついて止まる。怖い。


「離れなさいよ、バカ人形」

「貧しい語彙しか持たない女性とは縁を切るべきですよね、ご主人様」

「ふふーん。言ってなさいよ。あたしは女神ヴィリエに選ばれたのよ。女神ヴィリエに!」

「……その左手、わたくしにくれませんか? この刃で斬れば一瞬の痛みで済みます」

「へえ? やってみる? アンタの手のほうが先に切れると思うけど?」


 エリーゼとリンゴも相変わらずやり合っている。


 ――おーい!


 声が、遠くから聞こえてきた。

 海底炭鉱の入口――海中列車の停車場から、こっちに手を振っているタラクトさんが見えた。




 グレイトフォールに戻った僕らはそれはもう歓迎された。

 町のスターであるプライアが無事に帰還したんだからそれは当然だよね。しかも神の試練を発見したというニュースとともに。


「きゅああああ! どどどどーしてそういう重要なニュースを他の記者たちもいるところで発表するんですかああノロットさああああん!」


 グレイトフォール・タイムズの記者であるシンディが恨み節を口にする。

 ちなみにグレイトフォール・タイムズは冒険者協会の不正を特ダネとして掲載して、その日の売り上げは近年まれに見る金額に達したらしい。


「ノロットさん! 代わりに独占取材、ね、独占インタビューさせて! よその新聞社には絶対させないで!」

「僕じゃないほうがいいですよ、それ」

「へ? どうしてですか」

「神の試練の発見者はゲオルグだから」


 そう。「女神ヴィリエの海底神殿」の第一発見者はゲオルグだ。だから、彼の名前だけを出すことになった。

 あくまで僕やプライアはその存在を確認したというだけ。

 これにはプライアも納得してくれた。


 ――第2発見者で、挑んだ挙げ句に救出パーティーを派遣させてしまった私の名前を出すなんて、恥ずかしくてそんな真似できません。


 プライアは落ち込んだ顔だった。

 まあ、救出しようとしたのは周囲の人間だから気にしなくていいと思うけどね……。


「わかりました! じゃあゲオルグさんとこ行ってきます!」


 しゅたっ、と敬礼するとシンディはさっさとゲオルグに貼り付きに行った。うーん、現金だなあ。

 僕らが「女神ヴィリエの海底神殿」を突破したことについては隠すことになった。まあ、証拠を出せないしねえ。

 もちろん、人の口に戸は立てられないから、どこかのパーティーの誰かが漏らすかもしれない。けど、そのときはそのとき。僕らはとっくにグレイトフォールを離れたころだろう。


 海中列車の停車場から冒険者協会まで、町の人たちが総出で歓声を上げていた。

 どこで知ったんだろう。僕らのことを……。

 そんな状態で戻ってきたものだから、冒険者協会の中もものすごい人いきれだ。

 衆人環視の中、僕らはタレイドさんに帰還の報告をしたところ。


「無事に帰ってくれてよかった。ご苦労様」

「あんまり……意味がなかったかもしれませんけどね。僕らは食料を運んだだけみたいなもので、皆さん無事でしたし」

「そうなのか? あとでじっくり聞かせてくれ。とはいえ……ごたごたが続きそうだからなかなか時間は取れないかもしれないが」

「冒険者協会はどうなるんですか?」

「はぁ……それがな」


 タレイドさんの顔に刻まれた皺がいっそう深くなる。

 それもそのはずだ。タレイドさんは、グレイトフォールの会長に任じられたのだから。




 タレイドさんの忙しさは放っておいて、僕らはグレイトフォールの宿の一室にいた。

 さすがに疲労が溜まっていた。仮眠を取ろうと思ったのがぐっすり眠っていて、気がつくと夜だった。


「お目覚めですか、ご主人様」


 リンゴが僕のベッド脇に腰を下ろしていた。

 相変わらず僕の寝顔は見られ続けている。いい加減慣れてきた自分が怖い。


「うん。……お腹空いたな」


 窓から外を見る。土地が限られているグレイトフォールは、いちいち狭い路地が多い。

 そして1階に飲食店が集中していて、僕らの泊まっている部屋――5階にも食べ物のニオイがうっすら立ち上ってくる。

 まだまだ夜更けには遠い。人々が通りを行き交っている。


「ご主人様も外で食事をされますか?」

「……も?」

「はい。タラクト様たちやあの女は外食に出て行きました。別々ですが」


 あの女……エリーゼのことだろうね。

 ふたりがわかり合える日はきっと来ない。うん。


「外に行こうかな」

「お供します」

「じゃあ、出よう」


 なんだかんだ、町に戻ってくるとほっとする。遺跡にどれだけ慣れたと言ってもいつ何時洞窟は崩落するかわからないし、物資が途切れたら死ぬしかない。町にそんな危険はないからね。

 屋台を冷やかしていく。カリカリに焼いた濃いめの味付けの肉や、ねじれた形の揚げパン、透明なつゆに泳がせた麺類の店もある。あれこれ食べた。雑多な町だと思う。いろんなところから人が来て、この町を形作っているんだろう。


「あれ、エリーゼじゃない?」


 僕は、とあるレストランの2階にあるテラス席に彼女を見つけた。

 ちょうど――座っているエリーゼに話しかけた青年がいた。エリーゼは僕に気がついて、


「ノロット、2階に上がってきて」


 と手をひらひらと振った。

 僕らが上がっていくと(もちろんリンゴは渋い顔をしていた)、ちょうど青年が離れていくところだった。遠目では気づかなかったけどかなり身なりのいい、いいところのお坊ちゃんのような雰囲気があった。


「あ~~~……助かったわ」

「なにかあったの?」

「もう、これで5人目よ。話しかけられたの。あたしはゆっくり食事がしたかっただけなのに……」

「すごいね。ナンパされたってこと?」

「半分はそれ」

「……残り半分は?」

「オークションのときのこと覚えてる?」


 それはたぶん「魔女の羅針盤」を入手するために行ったオークションのことだろう。


「あのオークションであたしのことを見てたんだってさ……で、ここで会ったが100年目と話しかけてきたって言ってたけど」


 それって仇の相手に言うんじゃないの? ま、いいか。

 僕は屋台で食べていたので、エリーゼと同じく飲み物だけを頼んだ。

 エリーゼは薄いブルーのグラスに、淡いピンク色の飲み物が入っている。カクテルらしい。僕はお茶でいいのです。お酒は成人してから。あ、あと2週間で僕も成人だ。16歳になる。


「あたしたちの顔が売れてしまったってことね」

「冒険者の顔が? そんなことないでしょ」

「そんなことあるわよ。これ見てないの?」


 テーブルに置かれていたのはグレイトフォール・タイムズの紙面だった。

 新聞は印刷機で印刷されるようになっている。

 ……似顔絵が出てますね。

 ……期待の若手冒険者がグレイトフォールの星であるプライア様を救出に行くと……。


「僕、なんか犯罪者っぽい顔で描かれてない?」

「わたくしは……」

「リンゴはやたら似てる。エリーゼも」

「そうなの。そのせいで話しかけられるのよ」


 なるほど。テラス席が目立つせいかと思ったけど、地上を歩く人たちがこっちを指差してなにか話してるのがちらほら見える。

 レストラン内からも視線を感じる。


「……お店、出る?」

「どこに行っても同じよ。あたし、ここ3軒目だから。入るたびに支配人が出てきていちばんいい席に案内されるの。で、全部お店のおごり」

「うへ……」


 そこまでされると逆に恐縮しちゃうよな。

 お店からしたら「こんな有名人が来店してます!」という宣伝効果があるからいいのかな?

 はっ。

 もしかして……。

 グレイトフォール・タイムズって影響力あるのか!? 僕、シンディのこと結構ひどい扱いをしてきたという自覚はあるんだけど。


 竜種の亜人であるドラゴニュートが僕のお茶を運んできた。

 優雅な手つきで僕のカップにお茶を注いでから、


「失礼ですが、ノロット様でいらっしゃいますか?」


 キラキラした目で聞かれた。


「あ、はい……」

「やはり。恐縮の極みではございますが、できましたら色紙にサインをいただければ幸甚でございます。支配人がノロット様の大ファンで」

「…………」


 レストラン内部へと視線を向けると、仕立てのよいスーツを着た支配人らしき初老の男性が、胸の前で両手を握りしめてこちらを凝視している。

 ……どうして? 僕、極力目立たないようにしたはずだよね?「プライアを遺跡に置き去りにした悪人」からいきなり「有名人」に変わっている。


「えっと……まあ、サインはいいんですけども……」

「おお、ありがとうございます!」


 背中から魔法のように色紙と羽ペンが出てくる。

 適当に、ノロット、と書いてからドラゴニュートのウェイターに返してやる。


「あのー、どうして僕? ここはプライアさんとか、神の試練を発見したゲオルグさんのほうが有名でしょう?」

「はい。そのお二方も有名でございますが、最近特に人気があるのはやはりノロット様でないかと」


 だからなんで?

 人気なかったよね? 犯罪者扱いだったよね?

 全然意味がわからない。


「ご存じありませんか? それは――おっと、こちらにありますね」


 人差し指まで鱗がついているウェイターは、エリーゼが持っていたグレイトフォール・タイムズの一箇所を指差す。


「ん? えーと……『連載・ノロットの冒険譚』……執筆者、シンディ…………」

「はい! この連載が始まってから、私どもも従業員みんなで回し読みをするようになりまして。プライア様が戻られないことは気がかりでしたが、ノロット様の責任かどうかはいささか懐疑的ではございました。なにせ、それ以上に連載の内容ですよ! いやはや、面白い限りです。リンキンでの新しい遺跡の発見。パラディーゾでの悪魔との戦い。それにお仲間である美女おふたりが争っているところ――」

「ちょっと待ったぁ!」

「聞き捨てなりません!」


 エリーゼとリンゴが食いついた。


「今の話を聞くと、あたしとこのオートマトンのことも細かく載ってるってわけ!?」

「はい。美女とはいかほどか、と思っておりましたが……いやはや、確かにおふたりを前にしたら美女という言葉以外出てきませんね」

「ま、まあ、それほどでもあるけどね!」

「なにを納得しているのですか。あの亜人記者は次に会ったら痛い目に遭わせなければなりませんね」


 リンゴが冷静にキレている。


「……ナメてたね。新聞記者が、僕らにくっついてくるっていうことを……」

「プライバシーを晒してくれたことを後悔させてやりましょう」

「そうね。あたしがノロットの恋人だってちゃんと書いてくれれば、話しかけてくるバカも減るだろうし」

「は? なにを血迷っているのですか?」

「は? 事実を事実と書かせてなにが悪いの?」

「おお、これが記事で読んだ美女の対決ですか!」


 ウェイターが喜ぶと、


「…………」

「…………」


 完全に意気消沈してふたりは矛を収めた。

 あ、これ、ケンカ防止に効くかも。いやいや、冷静になれよ僕。そのためにあれこれ勝手に書かれるのはイヤだよ。

 外でいろんな大事な話はできないな、これはもう。

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