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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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120 神の試練 - 女神ヴィリエの海底神殿(8)

「っぐ!」

「ゼルズさん!!」

「……俺の、ことはいい……もし会うことができたら、故郷に残してきた妻と子に……」

「あははは。冗談を言えるなら元気ってことだよ」


 ゼルズさんの腹に刺さった白い刃をぐりぐりっとやると、ゼルズさんは光の粒子になって消えた。

 オライエが強すぎる。

 ……というより、転移事故による死、という恐怖が遠のき僕らの緊張感がなくなったせいだ。

 攻撃はこれまで以上にうまくいかなくなって、傷が増えた。ラクサさんは左腕がないし、エリーゼは血みどろだし、僕とレノさんも逃げ回ってぼろぼろだ。

 で、ゼルズさんも倒れた。


『残り時間、159分』


 戦闘が再度始まって20分程度で僕らは瀕死だった。


「せえい!」

「うん、君の太刀筋はいいね」

「上から目線の男は大嫌いなのよ!」

「あはは。ごめんごめん」


 エリーゼがオライエに褒められている。化け物に褒められるということはエリーゼもいよいよ化け物クラスなんだろうか……と、そうじゃなかった。そんなこと考えてる場合じゃない。僕も緊張感がきれてる。よくない傾向だ。


「……リーダー」


 ラクサさんが結構近くに来ていた。


「こっちを見ないで。話を聞いてくれ――」


 ラクサさんはひととおり、彼の考えていることを僕に伝えた。そして離れていき、レノさんの元へ。血をだいぶ流している。つらそうだ。たぶん斬り飛ばされた腕も戻るんだろうけど……戻るよね? 死んだと思ったら転移するくらいなんだから、腕くらい戻るよね?

 それにしたところで痛いのは変わりない。


 僕はラクサさんの考え、作戦を反芻する。

 大丈夫そうだ。

 というより、もうそれくらいしか考えられない。


「きゃあっ!?」


 つばぜり合いで吹っ飛ばされたエリーゼへ、オライエが踏み込んでいく――。


「命じる。爆炎弾丸(フレイムバレット)よ、起動せよ」

「……声を出さなきゃいけないというのは、不便だよね?」


 エリーゼとオライエの中間地点に着弾した魔法弾丸だったけれど、すでにオライエは跳躍して離れている。

 エリーゼだけが爆風に煽られて転げる。

 ごめん、エリーゼ。

 でも――。


「命じる。地殻弾丸(クラストバレット)よ、起動せよ」


 ――それも策のひとつ。


 跳躍したオライエの周囲に、飛ばした魔法弾丸は3つ。

 3方向を囲むように、せり上がる岩壁。


「でええええい!!」

「温い」


 立ち上がったエリーゼが、着地したオライエに斬り掛かる。でもオライエは簡単にそれをはねのける。

 僕が彼の周囲3方向に立てた壁が気になっているみたいで、そこから離れようとしているんだ。


「……なにが狙い――」


 言いかけたオライエの背後、上空から飛びかかったのはラクサさんだ。


「っぐ!」


 振り下ろされたかかと落とし。

 しかしオライエはたやすくその脚を斬って捨てる。


 ラクサさんはしかし、痛みをこらえて――右手に握りしめたダガーを。


 放り捨てた。


 そしてオライエに抱きつく。


「……今だ!!」


「命じる! 酷寒弾丸(ブリザードバレット)よ、起動せよ!」


 僕が手にしていた魔法弾丸は、今発射できる最大量の5つ。

 放たれた弾丸は、青色の光を発しながらオライエへ。


「……なるほど、捨て身の攻撃で相手を食い止め、そこへ魔法を撃ち込む、と――」


 オライエはすぐに僕らの作戦を、見抜く。


「まだ、温い」


 自分に当たりそうな弾丸を剣の一振りで弾く。

 剣のリーチよりもかなり遠いところなのに、3発の弾丸が真っ二つになった。

 魔法が発生する前の弾丸は、斬られればそれで終わりだ。


「足止めもこれで終わり――」


 でもね。

 狙いは、そこじゃない。


 そのうちのひとつが地面に達する――チリッと石材パネルを削って跳ねる。

 到達したのはオライエの足下。


「!」


 発生する氷塊がオライエとラクサさんの足を包み込む。


「ぬう! ――邪魔だ!」

「ぐふっ」


 鋭い肘打ちが、オライエを背後から抱きすくめるラクサさんの脇腹にめり込む。

 そこまでだった。ラクサさんが光の粒になって消える。


 それも、織り込み済みだ。

 ラクサさんは片腕しかなくなり、やられるのを覚悟で足止め役を買って出た。


 もうひとつ目的がある。

 これだけ時間が稼げれば――詠唱の時間くらいは得られる。

 オライエの正面にやってきたのはエリーゼ。

 淡く白い輝きは身体強化の魔法だ。エリーゼは、これまでをはるかに上回る速度でオライエに斬り掛かる。


「せええええい!」


 それを、オライエは剣で受ける。


「重いが、いい太刀筋だな……ここまでの連撃は、予測していなかったよ……!」

「あら、そう? まだまだこんなものじゃないわよ?」

「強がりを……なに!?」


 オライエはきっと見ていただろう、エリーゼの後ろにいた僕が、パチンコを構えていることを。

 手にした弾丸は殺傷力に特化したダマスカス製弾丸。

 浮き上がった波のような模様が美しい――3発しか持っていない特注品だ。


 放たれた弾丸。

 オライエは、エリーゼの剣を受け止めたまま。

 僕が撃った射線は、エリーゼの横をすり抜けてオライエの腹部へと――。


「――おっと」

「!?」


 ぱしん、と左手で受け止められた。

 親指と人差し指の2本で。


「危なかった――これが、魔法弾丸だったりしたら傷くらいつけられたかも……」


 言いかけたオライエはなにかに気づく。


「……なんで、魔法弾丸ではないんだ……?」


 僕は確信した。


 勝った、と。


「いっけえええええええええ!!」


 オライエの背後、壁に穴があけた。

 レノさんが巨大クロスボウから放った70センチほどの矢は、壁を崩すということはなく――小さな穴だけをあけたんだ。

 それほどの速度。それほどの威力。

 がらあきだったオライエの背中。


 矢が、腹部に突き刺さった。


 突き抜け、15センチくらいがこちらに飛び出た。

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