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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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119 神の試練 - 女神ヴィリエの海底神殿(7)

 勇者オライエ――その名ははるか昔より伝わっている。

 悪魔による地上界への大進行。これを食い止めた人物だとか。

 ただその存在を証明するようなものは現存しておらず、名前と伝説だけが現代にも残っている。


 ――魔の国の住人が、天の加護を受けし我らが大地を侵略した。

 ――我らと魔の国の住人との戦いは600日続いた。

 ――我らは倒れ、傷つき、息絶え、大地には絶望が満ちた。

 ――しかし天より遣われし勇者オライエが魔の国の住人を討った。

 ――大地には光が戻り、影は去った。


 こんな感じの内容だ。

 でも神の試練として「勇者オライエの石碑」というものがある“らしい”となっているのに、実際には誰も見たことがない。

 唯一、勇者オライエを祀っているヴィンデルマイア公国――西方の、とても小さな国――がこの言い伝えを残しているけれど、そこには「石碑」なんてものはなく、公国も存在を否定している。


 それが、僕の知っている「勇者オライエ」に関する知識のすべて。

 おそらくほとんどの冒険者も僕と同じ程度しか知らないだろう。




「タラクトさんっ……!?」


 一撃で消えたタラクトさんを見て僕らは思わず足を止める。


「――戦闘に挑む以上、負けることも常に頭のどこかに置いておかなければいけないよ」

「!?」


 僕の目の前に現れたオライエが剣を振りかぶっている。

 早い。

 瞬間移動したのかと思えるほどに。

 剣の刀身は白く輝いていて、どんな刃なのかまったく見えない。


「――ッ」


 僕は横っ飛びに飛ぶ。床が割れる。振り下ろされた剣からほとばしる波動が僕の身体にまとわりつく――。


「命じる。爆炎弾丸(フレイムバレット)よ、起動せよ」


 まずい、と感じた。僕は足下に魔法弾丸を撃ち込む。

 爆風とともに波動も吹っ飛ぶ。ただ、もちろん僕自身も煽られて10メートルくらい転がった。


「いいセンスだ」


 笑うオライエの表情はさわやかだ。

 やっぱり、なにかあの剣には秘密が――あるよな。あるに決まってるよな。あんな剣、見たことないもの。


「てめええっ、タラクトを!!」


 ゼルズさんが横薙ぎに振るう大剣を、オライエは剣で受け止める。鈍くて重い金属音。

 あのゼルズさんの、鉄塊みたいな剣を片手で受け止めた……。


「……ここだ!」


 その隙に忍び寄ったラクサさんが死角からダガーの一撃を放つ。

 剣は使えない。

 刃が当たる――。


「!」


 またも、金属音。

 オライエは――左手でつまんだ。

 ダガーを、ちょんとつまんだんだ。

 でもそれで金属音が鳴るって変じゃないか?


「この程度じゃ、合格点はあげられない」


 フッ、と姿が消える。

 さらに追撃をしようとしていたエリーゼの背後に立つオライエ。


「後ろ!! エリーゼ!!」

「――わかってるって!」


 くるりと反転したエリーゼの剣がオライエの首に迫る。

 すごい。

 エリーゼはオライエの動きが見えていたんだろうか。


 でもオライエもよく見ている。

 上半身を反ることで剣をかわしていく。


 ッキィン。


 ん、また金属音?

 剣は当たらなかったのに?


「な、なんで……」


 かわされたことに、なのか、エリーゼが驚愕の表情を浮かべる。


「いい剣だね。腕もいい。魔法による強化を十分に活かしている――剣先から真空状態が生まれ、さらに切れ味が増している」

「だったらどうして斬れてないの!?」

「どうしてだろうねえ」


 言いながら、飛来したクロスボウの矢をつまんで受け止めるオライエ。


 むちゃくちゃだ。

 悪魔と対峙したときのような絶望感や恐怖感はない。

 むしろ、その辺にいる冒険者と変わらない。

 にもかかわらず――強さが桁違い。


 本物なの?

 勇者オライエが……生きていた?


 わからない。ここは「女神ヴィリエ」の神殿のはずなのに、どうしてオライエが……。


「……集中しろッ、リーダー!」

「!」


 ラクサさんの叱責で我に返る。


「タラクトは転移させられただけだ! 死んだとは決まってない!」

「は、はいっ」


 そうだ、僕がしなければいけないのは――倒すこと。

 目の前の相手が勇者なのかはわからないけど、倒すしかない。


「うおおおおお!」

「せええいっ!」


 ゼルズさんとエリーゼがオライエに向かう。


「いや、いや、言ったでしょ? 転移させただけだよ? 死なないよ?」


 剣をかわしたりいなしたりしながらオライエが言う。


「信用できません……ねっ!」


 僕もパチンコの弾丸を飛ばすけど、紙一重のところでオライエはかわす。


「え、ええ? ここのところ数回飛ばしてるけど、知ってるよね?」

「だから信用できないんですよ。間違えて海に転移させたりしているじゃないですか」

「――――なんだって?」


 オライエの姿がかき消えた。


「ノロット後ろ!」

「そんなことは、ないはずだ」


 僕の背後からオライエの声がして、僕も振り返る。

 驚いた顔をしている。困惑している、という感じだろうか。


「……そんなことが、起きてるんですよ。僕らがウソを吐いたってしょうがないでしょ」

「でも……うぅん……」

「地殻変動が起きたことを知っていますか」

「えっ?」

「海底炭鉱のルートも、そのせいで狂いが出ているみたいです。だから転移先の座標がずれてるんじゃないか、って」

「…………」


 みるみるオライエの表情が険しくなる。

 すると彼は上空を見上げて――叫んだ。



「――ルシア!! 今すぐ転移魔法を調べろ! 才ある冒険者の命を奪うことになってたら、いかに君とて僕は許さないからな!!」



 唖然とするのは、今度は僕らのほうだった。

 ルシア――この流れで行くと、魔神ルシア? モラとか魔法使いたちがよく詠唱で口にする、あの名前? 言語にもある「古代ルシア語」とも言われるあのルシア?


 それにもうひとつ――。

 この戦いは、というより、この試練全体が……監視されている?

 誰に?


 ……神に?


「すまなかったな、僕が最初に斬った相手は……」

「タラクトさんですか」

「そうか、タラクトというのか。彼は…………転移されている。海底炭鉱の入口にいるようだ」

「…………」


 え?


「ちょ、ちょっと待ってください。わかるんですか? タラクトさんがどこにいるのか?」

「調べさせた。きょろきょろしたあとに首をかしげているそうだ。そして、近くにいた冒険者に話しかけているという。そしてあっという間に溶け込んだ」


 もうね。タラクトさんがそういうふうにやっている姿が目に浮かぶ。


「……タラクトらしい」

「あいつならやってそうだなあ」

「マジタラクト」


 ストームゲート組も納得のタラクトさん。


「『豊穣の女神に殉ずる』の扉に進んだ者たちは……2人を転移させ……1人はわからないが、もう1人は…………猫の亜人か? 試練の間にいるようだね」


 ニャアさんのことか。


「転移先不明の1人が、海に転移したという人間か」

「エルフです」

「ほう」

「無事に……いや、無事じゃなかったですけど、保護されてます」

「……そうか」


 よかった。冒険者組合に探索依頼をかけたのが無駄になっちゃうけど、それでも全員無事なほうがマシだ。

 プライアは慎重に進んでるってことなのかな。どんな話し合いをしたのかはわからないけど。


「他に数回転移させた男は、今も試練の間にいる」


 ゲオルグのことだろう。


「転移させたのは以上だ。すべての転移魔法を確認させるよ。よい情報をもたらしてくれたね、ありがとう」

「感謝の代わりに、ここを合格にしてくれませんか?」

「面白い冗談だ。そうすると苦労するのは君たちのほうだよ?」


 ……ん? どういうこと?

 ここを合格すると……苦労する?

 考えられるのは――僕みたいに、実力もないのに踏破したという実績ができてしまうってことかな?


「さて――今話したぶんの時間は巻き戻して、最初からやり直しと行こう……まあ、面倒だしオマケしてキリよく」


『残り時間、180分』


「後顧の憂いはない。全力でかかってきなさい」


 勇者オライエは不敵に笑う。

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