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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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118 神の試練 - 女神ヴィリエの海底神殿(6)

「な、なんだそれ!?」


 タラクトさんがびっくりして聞く。びっくりしたのは僕もだよ。ラクサさんもエリーゼも驚いている。

 なんだなんだゼルズさんたちもこっちにやってくる。


「えっと……これ僕が持ち歩いている本なんですけど、なんか表紙の裏……隙間? に魔法陣が描いてあって」


 僕だってこの模様発見したのが「63番ルート」に入ってからだからね。

 説明がうまくない。

 とりあえず革でできた表紙の裏に、描かれた紋様が光っているのを確認する。


「なんの魔法なの?」

「わからない……でも、ここになにか関係ありそう……だよね?」

「だよね、って聞かれてもあたしにはわからないわよ……」


 だよねー。僕もわからない。

 試してみよう。無駄なら無駄でいいし。


「なんだこの本?」

「『いち冒険家としての生き様』……だな。ベストセラーだ」

「そうなのか? 俺、読んだことねーぞ」

「これくらいは読んでおけ、ゼルズ」


 僕が魔法陣を描いていく横で、ラクサさんとゼルズさんがやりとりしている。

 ちなみにこの絵筆と布。

 一定時間なにも描かないと、描かれた内容が消えるようになってるみたいだ。


「この本を買うと魔法陣が描いてあるのか?」

「……さすがにそれはないんじゃないか? 俺が読んだものにはなかったはずだが。ただこの本は版によって内容が違ったりするようだから、そのせいかもしれない」

「ふうん……? 版が違うと魔法陣が描かれるのか?」

「……どうだろうな。俺も自分で言ってておかしい気がしてきた」

「しっかりしろよラクサ!」

「お前に言われるとは心外なんだが……」


 そうこう言っているうちに魔法陣が書き上がってきた。

 僕は――もう、これが「正解」なんだとすでに考えていた。

 だってさ。

 光が出始めてるんだよ……描いてる魔法陣からさ……。


「の、ノロット……」

「わかってる。僕もいろいろ言いたいことはあるけど、ちょっと待って。もうちょっとで書き終わるから」


 この本に魔法陣を描いた人間は「聖者フォルリアードの祭壇」に行ったってことだよね?

 でも、神の試練の場所や内容はこれまで誰も公開していない。

 あれ? でもさ、この遺跡の入口に冒険者の死体があったよね? ってことはあの人は「聖者フォルリアードの祭壇」を経てからここに来てるのかな?

 うーん……。

 わからん! もう!

 とりあえずこの遺跡を出たら、一回すべての情報を整理したいよ……。


「描き上がっ――」


 最後の文字を書き込んだところで僕は言いかけた。


 でも最後まで言葉は続かなかった。


 壁の一部に切れ目が入り、ぎい……と外側に開いたからだ。




 切れ目から外が見える。

 なんだか青空みたいに空が開けている。

 石畳。そびえる石柱。階段があって10段ほど上ることができる。


「行く……の? ノロット」

「そりゃあ、行くしかないよ。ここまで来たら」


 転移魔法とかじゃないし、しかも向こうが広々しているというのが新鮮だ。逆に言うと警戒心をかき立てられるんだよね……なんなんだろ、この趣向は。

 まあ、飛ばされるとまた謎の声に話しかけられたりしそうだからそれよりはマシかな。

 次で最後の“部屋”――部屋? のはずだから、行かないという選択肢はない。


『残り時間、196分』


 まだ時間制限はあるのか。っていうか一気に増えたなあ。

 さっきのところで残り20分を切ってたはずだから、最後の“部屋”は180分か。


「行こう」


 僕が先頭に立って、次にエリーゼ、ストームゲート組が続く。

 目の前にあった10段ほどの階段を登っていく。


「……ん?」


 円形の場所だ。直径が100メートルくらいの。

 足下は正確に切られた正方形の石材パネル。

 円周上を等間隔に立っている石柱が12本。

 左右の方向にそれぞれ金色の扉が見えた。僕らが入ってきたのと同じように、階段がついている。ちょうど120度の間隔で扉が設置されている。


 でも、僕が気になったのはそこじゃない。

 広間の中央にいたんだ。


 純白の布を纏い、黒光りする胸当てをつけた男。

 腰には幅広の剣を吊っている。

 すらりとした体型で、明るい茶色の髪の毛は短い。

 あごはがっしりしているけど涼しげなブルーアイのせいで好青年に見える。



「いやほんと驚いた」



 第一声が、それ。

 僕はその声が――転移の途中に聞こえてきた「あの声」だとすぐにわかった。

 手にしたなにかをなくしてしまったかのようなそぶりで、彼は自分の手をさすっている。


 僕らは歩いていく。

 まあ、歩いていくしかないよね。

 彼との距離が10メートルくらいのところで、止まった。


「ごめんごめん。君があの“部屋”を抜けられるとは思ってなくて……」


 年齢は20台だろうか。若くも見えるし結構年を取っているようにも見える。


「あの……あなたは?」


 全員の疑問を僕が代表して聞いた。


「ん……僕? 僕が、誰か、って? あっはははは」


 ……え? これ笑われるとこ?


 わけがわからないできょとんとしていると、彼はすぐに真面目な顔をした。


「ごめんごめん。そういうふうに聞かれるのなんて、ずいぶんなかったからさ」

「え……と、どういうことでしょう?」

「『僕がここでなにをしているのか?』という質問については簡単に答えが出るよ。僕はね、ここの最後の試練……試練、になるのかな? まあ、管理人……という言い方も違うよな。うーん。ここに来たの、君たちが初めてだからなにも考えてなかった」

「僕らが最初なんですか!? ここは『女神ヴィリエの海底神殿』ですよね!?」


 当たり前かもしれない。

 だって存在自体が知られていなかったんだし。

 ああ……神の試練に挑んだ冒険者は過去にいたわけか。入口で亡くなっていた人もいたし……ただあの人は――少なくとも3人で挑んでるはずだから、あの人たちはここまでは来られなかったってことか。


「女神ヴィリエ……」


 僕の言葉に、


「女神ヴィリエ! あっはははは! 女神ヴィリエ!」


 また笑い出した。

 なんだこの人。怖い。


「あはははははは! あー……あ、ごめんごめん、ひとりで大笑いしてて。変だよね?」


 ごめんごめんが口癖なのかな。

 変ですよ。


「君たちとおしゃべりしてもいいんだけど、ここから出たら忘れてしまうから、話してもしょうがないかなっていう気はしてる」

「……それは、この“部屋”の挑戦に失敗したら忘れてしまうっていうことですよね?」

「ああ、うん。そうそう。話を続けてもいいけど、どうしよう?」

「ちなみにクリアの条件はなんなの?」


 エリーゼが口を挟む。


「ん……?」


 ふと、男はエリーゼを見て首をかしげる。


「まあ、簡単だよ。僕と戦うんだ」


 やっぱり。

 そんな気はしてた。


「殺す……とかそういうのじゃないですよね?」

「もちろん! だって君たちは外に飛ばされるだけだし」

「えっと、そうじゃなくて……その、あなたが」

「あ、うんうん。勝利条件は、僕に“傷ひとつでもつけられたら”君たちの勝ちだよ」

「はあ!?」


 僕らはみんな声を上げる。


「き、傷ひとつですか?」

「そうだよ?」

「身体のどこでも?」

「そうだよ?」


 けろっとした顔で言われる。

 それってめちゃくちゃ……簡単すぎない?


「ああ、ごめんごめん。説明がもうひとつあったね。君たちは『知識』のところから出てきたよね。だから――僕の盾がなくなった」

「盾もない……んですか?」

「君たちががんばった、正当な権利だから胸を張っていいよ!」


 男は晴れがましい顔で言う。いや、がんばったのは僕たちのほうだけど……。

 っていうかここのクリア条件、簡単すぎない?

 むしろ怪しくない?


 ……そんなふうに思ってしまう時点で僕は疑心暗鬼なんだろうか。


「さて、どうする? 戦う? 話す?」


 また、の質問だ。


「えーっと……戦ったあとに話すことはできますか?」

「できないよ」


 ありゃ。


「だって君たちは外に出るもの。あ、君に『もう来るな』と言った記憶も消去するようにするね。君、ここまで来られたものね」


 え?

 いや、僕の質問は「僕らが勝利したあとに話を聞けるか」ってことだったんだけど……。


 ……もしかしてこの人、僕らに負けない前提で話してる?


 不意に、僕の皮膚に鳥肌が立った。

 この人の目に、一点の曇りもないからだ。

 どうやったらこれほど澄んだ目ができるんだろう。

 ただ単に自分の実力を勘違いしている、というわけじゃない。

 だったら――どうなんだ?

 とんでもない実力者……まさか。仮にそうだとしても、「傷ひとつ」でいいだなんて条件、どうかしている。


 ……こんな好条件を取り消される前に、クリアした方がいい。

 そうだよ。

 絶対にそうだ。


 僕は心に湧いた不安を理屈で押し込めた。


「わかりました。――戦います」


 彼は、にっこりと笑った。


「ちなみに君……少年、名前は?」

「ノロットです」

「ん、ノロットくんか。……なるほどねえ」


 なにが「なるほど」なのかはわからない。

 そういう疑問は全部、戦ったあとに聞いてやる。


 金属音が聞こえる。エリーゼたちが剣を抜き、レノさんがクロスボウを構える。戦闘準備は完了した。


「誇りに思いなさい、僕と戦えることを……って言っても忘れちゃうんだよね。残念だなあ」

「行きます!」


 僕らは走り出す。

 近接武器を装備しているエリーゼ、ゼルズさん、タラクトさん、ラクサさんは直接男に殺到する。


 僕とレノさんは同士討ちを避けるために左右へと散る。


 6対1だ。

 傷ひとつなんて一瞬で終わる。


 ――なのに。

 あくまでもさわやかに、彼は言った。


「僕と戦った、なんて酒場で言ったら人気者になれると思うんだけどね。こう見えても僕、『勇者オライエ』とか言われてるくらいだし」


 彼の右手が剣を引き抜いた瞬間――世界が割れるほどの衝撃がほとばしった。

 タラクトさんが真っ二つになって、光の粒子とともに消えた。

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