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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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114 神の試練 - 女神ヴィリエの海底神殿(2)

「聞いた?」

「聞こえた」


 僕がエリーゼに聞くと、彼女もうんうんとうなずく。


「残り59分で、ここを踏破しろってこと?」

「ノロットが聞いた話を考えれば外よりも流れる時間が早いんでしょ? 実際にはもっと早い……65分ちょいとか?」

「いや、さすがにそれはないんじゃないかな。1分ごとカウントしてるなら、もう58分の声が聞こえてこないとおかしいし。それに、僕らは現状把握とかで1分くらいはかかってるから、たぶんここの“部屋”を抜けるのに与えられた1時間ってことだと思う。1時間経っても抜けられなければ、外に転移させられる……のかな?」


 1時間経過で、外は10時間経過してるってことか?

 タラクトさんも口を開く。


「“部屋”を抜ける、ってことは他にも“部屋”があるのか? まさか1時間で神の試練がおしまいってことはないよな」

「それはわかりません。ひょっとしたらめちゃくちゃ難易度が高いのかもしれませんし。大体、1回の挑戦で冒険者が独占的に利用するわけですよね、ここ。外では10時間経過するわけですから、何度も何度も挑戦していたらあっという間に月日が過ぎます。……とはいえ複数“部屋”があると考えたほうが無難ではないかという気がしますけど」


『残り時間、58分』


「おしゃべりしているのはあと、ってわけか」

「そのようですね。行動しましょう」

「でもなにをすればいいわけ?」


 エリーゼが聞いてくる。もちろん僕だってわからない。

 その間にもラクサさんが本棚の本を引き抜いていた。


「……まったく読めない。見たことのない言語だ」

「見せろ、ラクサ」」


 タラクトさんを始め、僕らは本の周りに集まる。


「読めないな」

「全然わからねえ――っつっても俺はそもそもヴィリエ語しかダメだったわ!」

「俺もさっぱり」

「あたしもわからないわ。ノロットは?」


 僕も、読めなかった。

 ヴィリエ古語でもなければ古代ルシア語でもない。あー、くそっ、こういうときに金色のカエルがいてくれたら……あ、もう人間に戻ってたっけ。なんか思い返すイメージがカエルなんだよな。

 モラのことは置いておいて。

 でも、この文字……見たことあるような気がする。どこだっけ……?


 本棚に並ぶ背表紙をざっと眺める。

 もちろん背表紙の文字も読めない。

 きっちり装丁されているけど、経年劣化でぼろぼろだ。時間の経過が外と比べて1/10だとしても、1000年前に造られたものなら100年は経っていることになる。実際はもっと古いだろうから、本だって状態が悪くなるよな。


『残り時間、57分』


 あー……これはヤバイですわ。焦りますわ。


「……なあ、タラクト。読める本を探すか?」

「背表紙だけばーっと見ていく感じか? これだけ本があると時間の無駄な気がするが……」

「前進しようぜ!」

「なんの手がかりもなく前へ行こうとするゼルズって、すげーよな……」


 ストームゲート組がわいわい話している。この人たちはマイペースだな。

 でも、


「うん、進みましょう」

「……え?」

「リーダー?」

「おっ、さすがリーダー、話わかるじゃねえか!」

「リーダーがゼルズに毒されている……」

「えーっと、なにも考えてないわけじゃないですよ? ただここにいてもしょうがないです。まずは全体を把握したい。そもそも“部屋”を抜ける方法自体が提示されてないんで、本を見てもしょうがないですよ」


「知識に挑む」っていうんだからなにかのクイズなのかなって思ってたけど、「本を読め」ってのは意味合いが違うよね。

 どこかに謎があって、その謎を解くのに必要な情報が本に書かれているっていうんならわかるんだけど。


「……前に進んで、大丈夫なの?」


 エリーゼが心配そうに言う。プライアたちが受けた攻撃のことを言っているんだろう。


「僕もそこは不安だけど、行くしかない。大体、本が読めないんだし」

「それもそうね」


『残り時間、56分』


 ああ、もう、1分ごとに言われるとほんと焦る!

 ともかく僕らは慎重に歩を進めた。本棚に沿って歩いていく。タラクトさんとラクサさんが左右に分かれて本棚の背表紙を見ていく――念のため、だ。

 途中、本棚が途切れている場所があった。そこは本の山があって、崩れている。

 壁も崩れていてわずかに奥へと続いているけど、そこも本で埋まっている。奥は岩盤が露出していた。


「なによこれ」

「さあ……」


 僕は崩れた山の、1冊の本を手にとって見る。うん、読めない。その辺にぽいと下ろした。

 さて、前へ進まないと。


 ……ざざっ。


「?」


 背後で音がした。振り返るけど――なにもない。

 きょとんとした顔のレノさんがいるだけだった。


「どうした、リーダー」

「今、なにか音が……足下のほうからしませんでした?」

「したか? 俺、なんか蹴ったかな?」


 本を蹴ったのかな?


『残り時間、53分』


 ま、いいか。先へ進もう。


「……行き止まり?」


 と思ったらすぐに行き止まりだった。行き止まりも本棚だ。

 でも目についたのは、本棚に立てかけるようにハシゴがあったことだ。

 そしてハシゴは天井まで続いていて――。


「ノロット。あれ、2階だよね?」

「2階だね……」


 きれいに四角く切られた天井。

 ハシゴはそこを突き抜けて、上に伸びている。

 見上げると、2階にも本棚があった。


 もちろん、登ってみた。


『残り時間、50分』


「2階に上っても時間経過は変わらないです」


 僕は首を出して1階にいるメンバーに言う。


「2階はどんな感じなの?」

「本棚だね……見た感じ、同じ。読めない本ばっかり。通路が続いてる」

「1階と同じなのか」

「そうだね。ただ、残念なお知らせがある」


 僕は小さくため息をついた。


「ハシゴが他にもある」




 ハシゴは2本あった。

 その2本を伝っていくと、3階にたどりつく。3階も似たような曲がりくねった通路。ハシゴはどちらを登ってもたいして変わりがないように見えた。


「……またハシゴ」

「とりあえずいちばん上まで行ってみましょう」


 結果。

 7階までありました。

 7階も同じような通路と本棚があるだけだった。

 本はもちろん読めない。


『残り時間、38分』


「どうしよ、ノロット」


 僕とエリーゼは7階にいた。

 タラクトさんたちは手分けして、なにかないかを探っている。


「やっぱり……本、なのか? それしか考えられないよな。なにか特別な本がどこかにあるとか……」

「探してみる?」

「うん。僕は1階下りるから、エリーゼはここをお願い」

「オッケー」


 僕は6階に下りる。本棚を眺めていく。手当たり次第に本を引き抜く。やっぱり読めない本ばかりだ。


「…………」


 本、と言っても、ここまで文字しかないのは珍しいな。

 たとえば本ってのはさ、挿絵があったりするものもあるじゃない? もちろん挿絵があるほうが稀なんだけど、僕が引き抜いた50冊くらいは全部挿絵がない。

 あと、挿絵だけじゃなくて、紋章とかもないんだよ。

 どこかの貴族が書いたものなら家の紋章が必ず入っている。

 でも僕はひとつも見ていない。

 偶然だろうか?

 いや……。


「……偶然なんて、ひとつもない気がする」


 単なる直感だ。でも、ここが「神の試練」というのであれば、神が手を入れているのだ。すべてに意味がある。そう考えるべき——。


「え!?」


 そのとき僕はとんでもないものを見た。

 僕が引き抜いた50冊の本。

 それらは適当に床に積んでおいたんだけど……それらが浮いたんだ。バサバサバサッと音を立てて本棚に挟まっていく。

 元の位置に。


「元の位置……? もしかしたら本の並びになにか意味が!?」


『残り時間、27分』


 もう30分を切っている。

 僕は本棚を見回す。

 雑多に並んでいるようにしか見えない。背の高さや幅は不揃いで、複数巻でそろうような本もない。色もちぐはぐだ。基本的には革をなめした色だけれど、ものによっては赤や緑に着色されている。

 でも、ここになにか意味があるとしたら?

 たとえば——女神ヴィリエの教えに関するなにか。

 ヴィリエと言えば治癒魔法。エリーゼがなにか知っている? でも、さすがにエリーゼだって気づいていたら教えてくれるよな。ダメ元で聞いてみようか。


「ぎゃはははは! なんだこれ」


 と思ってたら5階から声が聞こえてきた。ハシゴのために空いた穴から僕が首をひょこんと突き出すと、ゼルズさんがゲラゲラ笑っていた。


「どうしました?」

「お? おお、リーダーか。いやさ、これが面白くってよ」


 ゼルズさんが指差したのは本が浮いているところだ。


「ああ……それですか。時間が経つと本棚に戻るんですよね」

「え? そうなのか?」

「……え?」

「俺が言ってるのは、あそこだよ」


 それは、本棚が途切れ、崩れているところ。

 本がばらばらに積まれている場所だ。


「さっき蹴っ飛ばしたらよ、すげえ本がふっとんでさ」

「……いや、そんな子どもみたいなことしないでくださいよ……」

「いやいや面白いのはそっからだって。本がひとりでに戻ってったんだ! 山が元に戻ったもんだから驚いてよー」

「…………」

「リーダー? ……え、俺なんかやべえことした?」


 本が、戻った?

 本棚に戻るのは当然だ……と、僕は思っていた。本の並びに意味があるのなら。

 でも、本が崩れている場所も戻った?

 そうか、さっき音がしたと思って振り返ったらレノさんがいたのは——本が戻っていく音だったのか?

 ということは元に戻るような魔法が働いているってことか? あんな、崩れた場所でさえも?


「試してみよう」


 僕は走った。6階の、崩れた場所——1箇所だけあった。パチンコを取り出す。剝き出しの岩壁に向かう。


「おーい、どうしたんだよ。リーダー……リーダー!?」

「命じる。爆炎弾丸(フレイムバレット)よ、起動せよ」


 至近距離からの一撃。岩壁がえぐれて爆風とともに砂塵が舞い上がる。


「な、なにやってんだよ!? 本をぶっ壊すなんて」

「いやいや……ゼルズさんだって蹴っ飛ばしてたでしょ? それに僕が狙ったのは壁です」

「壁?」


 何事かと、エリーゼや、タラクトさんたちも集まってくる。

 それからきっかり5分後。


「……やっぱり」


 驚くみんなとは別に、僕は自分の仮説が正しいことを知った。

 岩壁は——破片が集まって、元の通り修復されたんだ。




「どういうことなの!?」

「説明する時間はない。とりあえずみんなにお願いがある」


 僕は紙と筆記具を配る。


『残り時間、18分』


「簡単でいいです。各フロアのマッピングをお願いします。通路の形状、崩れた岩壁の位置、ハシゴの位置、それだけです」

「でも、ノロット——」

「お願い! 今は動いて、時間がないから! エリーゼは7階、ラクサさんが1階、タラクトさんが2階、レノさんが3階、ゼルズさんが4階、僕が5階と6階をやるから! 急いで!!」


 僕の迫力に押されてみんな動き出す。僕も6階の略図を書いて、5階に移る。5階もさっさと終わらせると、エリーゼが下りてきて、ゼルズさん、レノさん、タラクトさん、ラクサさんがやってきた。


『残り時間、12分』


「集まったけど、これが?」


 僕は6枚の紙を並べる。想像していた以上に、うねっている。6人がバラバラにマッピングしたので縮尺がまちまちだ。それは頭で補うしかない。


『残り時間、10分』


「ノロット、10分しかないよ!」

「お願い。ちょっと静かに」


 僕はもう1枚紙を出してそれぞれの通路を重ねていく。ハシゴの位置を合わせてずれないように。


「……ん? これは……もしかして」


 ラクサさんは気づいたようだった。

 書き上げた僕は、もう確信していた。


「文字……です」




『残り時間、3分』


 走り出しながら僕は言う。


「スクロールやマジックアイテムを発動するために必要な文字です! 通路そのものが文字の一部になっていたんです。これはかなり特殊なもので、僕もあまり見たことはないんですが——特に治癒魔法のスクロールに使われている文字です」


 ハシゴを飛び降りる。

 そして次のハシゴに向かう。


「本棚の本は、おそらく誰も読めない文字だったんです。オリジナル文字ですよ。どこかで見たことがあるって思ったんです——」

「あ、それは俺も思った!」

「でしょう? タラクトさん、僕らは似たものを書き写してましたからね」

「え……」

「『黄金の煉獄門』で」


 そう。

 ジ=ル=ゾーイが勝手に作った文字。ただあれは既存の言語を置換しただけ。こっちの文字は、誰かに読ませる気もない適当に作られた文字だ。

 紋章や挿絵がない、そのことすらヒントだったんだ。「内容を推測しても意味がない」ということを示していた。


「本棚に本が戻ること。本棚だけでなく、崩れた場所にも本が戻ることを知って、僕は仮説を立てました。『本ではなく、通路そのものや崩れた箇所に意味があるのでは?』ということです。だから岩壁を破壊しました。結果は皆さんも見ましたよね? 崩れた場所も文字の一部だったということです」


『残り時間、2分』


「リーダー、時間がないぞ! どこに行くんだ!?」

「もう着きます」


 僕らは2階から1階に降り立った。


「スクロールなどに刻まれた、魔法を起動するための文字は古代ルシア語がほとんどなんですけど、魔法の種類によって特殊な文字を使うことがあります」


 弾丸に文字を刻みまくった僕だから気づけた、と言えるかもしれない。


「で、この通路の文字は——不完全なんです」


 1階の、ある本棚の前に立つ。


「本来なら、この先に通路が伸びていないといけない——エリーゼ!」

「あいあい。ぶった切ればいいのね!」


 エリーゼが背負った大剣を解き放つ。

 一閃すると、刺さった本ごと書棚は真っ二つになり、崩壊した。


『残り時間、1分』


 僕らの前には通路があった。

 そしてその通路は5メートルほどで終わっており——金色の光沢を持った扉がたたずんでいた。


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