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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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106 再び青海溝(3)

 それでもペパロニたちも、さすがは経験を積んでいるパーティーだ。

 一度戦ったエルダーバットなら、時間はかかるものの確実に倒せるようにすぐになった。


 次に出てきたのはサウザンハンズだ。

 触手お化け。しかも触手が肌色っぽいのが気持ち悪いんだよね。

 あと……ニオイ。


「ご主人様」

「ら、らいひょうぶ」


 僕は鼻をつまんでいた。もうやばい。すでに臭い。吐き気すごい。まだサウザンハンズとの距離は50メートルくらいあるのに。


「じゃ、こいつはぼくらに任せてよ」


 言ったのはミートンだ。


「おねらいひてもいいれすか?」

「あ、う、うん……どうしたんですか、ノロットさん」

「ご主人様はサウザンハンズのニオイで」

「そう……なの?」


 いまいち釈然としないような顔だったけど、ミートンはうなずいた。

 サウザンハンズの触手はびよんと伸びる。射程距離は5メートルくらいだ。でもって直撃するとかなりの破壊力がある。

 接近して戦わないなら魔法を叩き込むのが早いけど今日はソイパーティーは休憩だ……僕の魔法弾丸に魔力を込めたせいで。


 ミートンたちは罠師だという。どんな戦い方なのか興味があったんだよね。

 みんな、腰くらいまでのショートマントを羽織っている。薄手だけどちゃんとした刺繍で、かなり軽そうだ。

 背中には小さなバックパックを背負っていて、そこに罠の仕掛けが入っているみたいだ。


「敵の動きは遅いよ。誘引してきっちり爆殺しよう」

「あい」

「おけ」


 なんかさらっとミートンが物騒な言葉を口にした気がした。

 その間に僕はなるべく距離を取らせてもらう。臭いんだよね……。


 いちばん背の高い罠師がサウザンハンズに近づいていく。その距離……10メートル、9、8、7……それ以上は危ない――。


「あっ」


 サウザンハンズが、まるで事前察知をさせない動きで触手をムチのように繰り出す。

 だけど罠師はひょいとバックステップでかわした。


「ピョンタはウチのパーティーでいちばん素早いんだ。あれくらいの攻撃ならかわす。元々よそのパーティーでローグをやっていたんだけど、ぼくが引き抜いたんだよね」

「そうなんですか……ってミートンさん、こんなところにいていいんですか」

「指示は出したし、設置もそろそろ終わるんで、もうやることないですよ」


 のろのろとした動きだったサウザンハンズは、ピョンタが簡単に攻撃をかわしたことで怒ったのか、速度を1.5倍くらいにアップさせる。

 とはいえ、それでも小さい子どもが走る程度だけど。


 罠を設置していたらしいメンバーはすでに引き上げている。

 ……罠、設置したんだよね? どこにあるんだか全然わからない。ふつうに、岩盤の露出した地面なんだけど。

 ピョンタは、罠が仕掛けてある場所をするりと走り抜ける。


「えっ、え? あそこって罠が」

「ありますよ。罠はある程度広範囲に反応するようにしかけてありますけど、ピンポイントで踏んで大丈夫な場所があるんです。そこを踏めば罠は作動しない」


 簡単そうにミートンが説明してくれるけど……ただの地面にしか見えない。

 ほんとうに罠があるんだろうか――と思っていると。


 ドゴォォォン!!


 突如火柱が上がってサウザンハンズを包み込む。

 罠、あった。あったんだ……。

 びよんびよんとサウザンハンズは触手を振り回す。一撃じゃ倒しきれなかった。


「おいおい、ミートンてめえどうする気だよ! 暴れてっぞ! 近づけねえ!」


 ペパロニの言葉にミートンが、


「ちっ……こうなったら矢でも撃ち込んで」

「生半可な矢じゃ通用しねえよ。俺たちがエルダーバットと戦ってたの見てたろ」

「あれは君たちの殲滅力が低かったのでは?」

「あ? てめえだって殺しきれてねえだろ」

「それはッ」

「はいはいはいはいもう止めー!」


 仲間割れに発展しそうなペパロニとミートンの間に僕が入る。


「ケンカしている場合じゃない、そうでしょ?」

「それはそうですけど……」

「だ、だけどな、あいつをどうすんだよ」


 ふふふ。ここでようやく僕の出番ですよ。

 ソイたちに魔力を詰め込んでもらった魔法弾丸が火を噴く!


「リーダー、ここは俺たちにやらせてくれ」


 ……え? ラクサさん、え?


「おっしゃ、敵が手負いってのは面白くねえが、ここで俺たちの実力も見せておかなきゃな」

「グレイトフォールの冒険者には負けないよ?」

「……って言っても俺が矢を撃つだけなんじゃないの……?」


 ゼルズさんとタラクトさんとレノさんが口々に言う。


「……近づいてくる。一瞬、向こうに気を逸らす」

「わかった。――タラクト、レノ、準備しとけ」


 ラクサさんとゼルズさんが駈けだした。僕の出番が……。


「大丈夫なのか?」


 ペパロニが聞いてくる。大丈夫……かどうかは、わからない……。

 不安な思いで見ていると、


「うぇっ!? ラクサさん!?」


 ラクサさんは真っ直ぐにサウザンハンズに突っ込んでいく。

 当然サウザンハンズもラクサさんに気づいている。火柱はほとんど鎮火し、ゆったりとこちらに迫っている。

 かなりダメージを与えているけど、瀕死までは行っていない。

 魔物は射程距離までじっと待っている。

 一歩踏み込む――瞬間、触手が伸びる。

 一方でラクサさんの速度が、3段階くらい速くなった。


 その瞬間、僕は目を疑った。

 触手と入れ替わるように跳んだんだ――ラクサさんが。

 反対側に着地するや、振り返りざまにダガーを振るう。サウザンハンズの触手が一本、斬り飛ばされる。

 サウザンハンズはラクサさんに向けて触手を伸ばすけれど、そのときにはラクサさんも距離を取っている。


「おおおおおおおおおッ!!」


 そこへ踏み込んだのがゼルズさんだ。

 相変わらずのデカイ大剣。鉄板みたいなもの。

 敵の射程距離外ぎりぎりからの大振りが触手の4本を斬り飛ばす。根元から落としたわけではないけど、サウザンハンズの体液が飛び散る。

 もともと敵との距離の取り方はゼルズさんはすばらしかったけど、その感覚は初見の敵が相手でも発揮できるみたいだ。

 ゼルズさんは大剣の勢いをそのまま利用するように、横へごろごろごろっと転がった。


「いいぞ!!」


 レノさんへと声を飛ばす――。


「はあっ!?」


 そのレノさんを見て、僕は思わず声が出た。

 な、なんだ、あの弓……。

 レノさんって確かクロスボウだったよね……えーと、これも同じクロスボウ、ではあるかもしれないんだけど。

 矢が、70センチくらいある。

 太さも親指くらいだ。

 当然そんなに大きな矢を飛ばすならクロスボウ自体も巨大化する。

 弦を引くのに、クロスボウを両足でがっちり固定して、両腕で引かなければならないほど。

 さらに――たぶん、あれは魔法だ。魔法で強化されている。クロスボウ自体が緑色の光を放っている。

 タラクトさんがレノさんの後ろで、彼の身体をガッチリ固定している。


射撃(ファイア)!!」


 レノさんの声とともに発せられた矢は、さっきの罠と同じくらいの轟音とともに射出された。

 射出、なんて軽いもんじゃない。

 暴発だ。

 反動でレノさんの上半身が反り返り、タラクトさんが必死で押さえる。

 周囲に風圧をまき散らした矢はサウザンハンズに突き刺さるや胴体に風穴を開けて反対側へと飛んでいく。どこまで飛んでいったのか見えないほどに。

 反対側にいたラクサさんはすでに射線上から待避していた。


 どしゃっ。


 サウザンハンズが絶命した。

 これには……ミートンたちグレイトフォールの冒険者だけでなく、僕も、リンゴも、エリーゼも、固まった。




「すごかったですね、あの武器。いつの間に造ったんですか」


 その日の夜、僕らはそれなりに広い場所を選んで野営した。

 夕飯に焼いた肉や魚を食べる。こういうものが食べられるのは今日まで。明日以降は日持ちがするものが中心になるからね。

 ペパロニ、ミートン、ソイとそれぞれパーティーごとにばらけている。

 僕は、タラクトさんたちといっしょだ。セルメンディーナも僕らのところにいる。


「『黄金の煉獄門』で戦ってから……戦闘力不足を感じてね」


 照れながらレノさんが言うと、タラクトさんが、


「だいぶお金はかかったけど、造ってよかったな。組み立てて使うもので、遺跡にも持ち運べるようにしたんだ。……まあ、ぶっつけ本番みたいなところもあったけど」

「でしょうね。僕らがストームゲートを出てからそこまで長い時間は経ってませんし。それにグレイトフォールまでの移動を考えたらできたてほやほやってところでしょ」

「正解。さすがリーダー。でもダメだったらいつもどおりのクロスボウを使うはずだったんだ」

「これな」


 レノさんがバッグから使い込まれたクロスボウを見せてくれた。

 それにしても、すごいな。戦力向上のために徹底してる。

 そう思っているのは僕だけじゃなくて、ペパロニやミートン、ソイもそうだったようで、ちらちらとこちらをうかがっている気配があった。


「……『黄金の煉獄門』がデビュー戦になるはずだったんだけどな」


 ぽつりとゼルズさんがつぶやいたのを聞いて、僕は今さらながらに思い出した。


「そうだ……そうじゃないですか。みなさんは『黄金の煉獄門』でパーティーメンバーを……」


 アンデッドになってしまった仲間を、ちゃんと埋葬したいと言っていた。


「ああ。そのために造ったんだが」

「どうしてこんなところに」

「……しょうがねえだろ。お前が――リーダーが、ピンチかもしれねえってんだから。死んじまったあいつらは、いつまででも待ってくれる。でも……生きてるリーダーに恩を返せるのは今しかねえって思ってな」


 ゼルズさんがそっぽを向いた。

 僕のことをリーダーと呼んでくれる。それは、「黄金の煉獄門」でそうだったから、ということではなくて……たぶん心から思ってくれて。


「ありがとうございます。来てもらえて、うれしかったです」


 僕が素直にお礼を言うと、タラクトさんたちは笑顔を見せた。


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