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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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105 再び青海溝(2)


「63番ルート」を進む。

 パーティー間の連携はほとんどできないと考えておいたほうがいい。今まで僕は、タラクトさんとかプライアパーティーと潜った経験があるだけだ。

 タラクトさんは僕らのパーティーに入る形だったからお互いに「連携しよう」という意識があって行動できた。

 逆にプライアパーティーは完成されていたから、そこに手出しはせず、エリーゼとリンゴが独自で動いてもらう形だった。


 今回はさらに大所帯だ。

 ヘタに連携しようとしたら、絶対魔法の誤爆や罠の誤動作につながる。

 だから、役割は明確に分けることにした。


・基本はペパロニパーティーと僕のパーティーが戦う。1戦ごとにスイッチする。明確に複数のモンスターの塊に区別できる場合は、それぞれのパーティーが塊ごとに受け持つ。

・距離がある場合に限って、ソイパーティーが魔法を撃ち込む。

・動きののろいサウザンハンズにはミートンパーティーが罠をしかける。

・シーゴーレムは僕のパーティーが受け持つ。

・王海竜を見たら逃げる。


 最後のほうがかなり……ね、無理があるかもしれないけどね。

 でも王海竜は潮が入っているところにしかいられないのは間違いなさいと思うから、とりあえず気をつけるべきは最奥の手前、巨大な空間だろう。僕らが以前戦った場所だね。

 で、シーゴーレムは特殊なモンスターだから、しばらくは僕らが戦ったほうがいいと思った。ぞろぞろと大量に出てくることもないので。


「さて、おいでなすったぜえ?」


 ペパロニのうれしそうな声。

 最初に出てきたのはエルダーバットが2匹だ。あれ、コウモリだから「2頭」かな? ま、いいか。


「よっしゃ! そんじゃ俺らが――」

「モンスターは一通り、僕らが倒すようにしますね」

「えっ……」


 叱られた子犬みたいな目でペパロニが見てくる。この人もアレですか、エリーゼ、リンゴに連なる戦闘民族ですかね。


「エルダーバットとの戦闘経験、あります?」

「ねえな。だけどよ、誰にだって初めてがあるんだ。それが今日このときだ、ってだけだ」

「かっこいいこと言わなくて大丈夫です。僕らは初めてじゃないんで、先に戦ってみせますね」

「えっ……」


 だから。

 叱られた子犬みたいな目、止めて。


 すでにリンゴとエリーゼが走り出していた。

 うーん、相変わらずでかいコウモリだ。しかもケモノ臭すごい。ずいぶん前から接近はわかってた。

 ソイたちは今日は魔力回復のためにお休みなので、魔法は撃ち込んでいない。


「ゼルズさんたちも、とりあえず見学で」

「だ、大丈夫なのかよ? ふたりだけで。あのモンスター、あれでも伝説級遺跡にしかいないモンスターなんだろ?」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ!」

「そうなんだ……『63番ルート』にしかいないとは聞いていましたが、よそでもそうなんですね……」


 ゼルズさんが焦った声で言うけど、僕らはすでに戦ったことがあるし、どう見ても「でかくて硬いコウモリ」という評価は覆らない気がする。


「初めて見るよ! 罠は無理だね!」

「ふむ……あの大きさ、魔法を当てるにはいいですが」


 ミートンやソイたちもじっと観察している。彼らも初めて見るようだ。

 前回僕らがここに来たとき――エリーゼの初撃はかわされ、リンゴが蹴り落としたのをエリーゼが叩くことで倒したっけ。

 あれからこちらの装備も充実した。どんな戦いになるか――。


「――聖者フォルリアードよ、我が声を聞け。我が歩む道は茨の道なれど、導かれし道なり。立ちこめる前途の暗雲を切り裂く、光を授けよ――」


 ……は?

 エリーゼさん、なんですかその聞き覚えのない詠唱は?


 詠唱が終わると同時に、エリーゼの身体が淡く白色に輝く。

 すると彼女の姿がかき消えた。


「あああああぁぁぁぁぁあああああ――――」


 エリーゼが跳んだ――。

 リンゴの跳躍くらいでしか見たことがない、とんでもない高さ。


 振り切った大剣の太刀筋を、僕は見えなかった。

 エルダーバットに当たったのかどうかもわからなかった。

 でも、エルダーバットから大量の血が噴き出した。巨大コウモリは墜落し、びくんびくんと痙攣している。

 そしてその返り血すら浴びず、エリーゼはすでに離れたところに立っていた。


「ふっ」


 一方のリンゴは、前回と同じような形だった。

 エルダーバットに跳躍。蹴り。

 ただ、以前は蹴られて吹っ飛んでいったエルダーバットは……吹っ飛ばなかった。

 蹴られたところの肉が、ゴッソリ消し飛んだ。

 蹴りの衝撃で。

 一度の跳躍で3発の蹴りを放ったリンゴは、あちこちが欠けたエルダーバットとともに地面に着陸する。


 エリーゼとリンゴがこっちを見た。


「さ、行こっか」

「先を進みましょう、ご主人様」


 ちょっと待てぇーい!




 唖然として硬直したペパロニたちの意識を取り戻してから、僕はエリーゼとリンゴに向き直った。


「エリーゼ今の……なに?」

「なに、って? ああ、剣? やっぱり魔法の保護がいいみたい。切れ味抜群ってやつ?」

「違う。全然違う。詠唱だよ!」

「ああ、身体強化の魔法か」

「ああ、身体強化の魔法かじゃないよ! なにさらっと言ってんの。僕聞いてないよ、治癒魔法以外も使えるなんて!」

「肉体に作用する魔法だから、治癒魔法に近いものがあるって聞いたよ」

「へぇ……じゃなくて! いつの間に!」

「ん、こっちに来る途中で?」


 僕が必死に魔法弾丸を造っていたときか……。エリーゼはエリーゼで努力していたんだな。


「……パラディーゾで、悪魔に歯が立たなかったからね」


 ぽつりとエリーゼはつぶやいた。

 あの敗戦が、こたえたんだろうか。


「リンゴは? さっきの蹴りはなに?」

「装備品を強化したおかげです。ご主人様に許可いただいてよかったです」

「…………」

「なんでしょう?」


 リンゴがきょとんとした顔をしている。

 ……なんか怪しい。パラディーゾに行く前に僕らは装備品を鍛えたけど、それだけだろうか? なんか隠してない?


「い、今のはなんだ?」


 ペパロニが呆然として聞いてきた。

 やっぱり彼らから見ても、今の戦いぶりは異常だったみたいだ。


「とりあえず……先に進みましょうか。このふたりはちょっと異常なんで……」




 次にエルダーバットが1匹だけで現れたとき、ペパロニたちが戦闘に挑んだ。

 先に言っておくと、僕らが悪かったかもしれない。というかリンゴとエリーゼが。ふたりが圧勝してしまったせいで、ペパロニたちはエルダーバットを侮っていた部分がある。


「ぬおっ!?」


 だから、エルダーバットの突撃で盾の人は吹っ飛んだ。

 フォーメーションが崩れる。

 それでもペパロニは真横からエルダーバットに突撃。二刀流で斬りつける。


「なっ!?」


 ぎぃぎぃん、と、金属でも斬りつけたような音が響く。

 そうなんだよね、エルダーバットの体表ってめっちゃ硬いんだよね。


「…………」

「どうしましたか、ご主人様」

「なに、ノロット?」


 リンゴとエリーゼは軽々やって見せたけどさ……。

 ともかく、ペパロニパーティーは崩れそうになりながらもなんとか持ちこたえていた。

 ひとりが腕に傷を負ったけれど、炎の魔法が直撃するとエルダーバットの動きが鈍くなる。

 そこへ、一気に袋だたきだ。

 火傷した体表は柔らかくなるようで、エルダーバットの血が噴き出る。

 ようやく――討伐に成功した。


「はっ、はぁ、はぁっ……」


 肩で荒く息をしているペパロニ。返り血でなんかすごいことになってる。怖い。っていうか臭い。


「お、おかしいだろ! 俺たちが全員がかりでこんなに苦労してるんだぞ!? なんなんだよそのふたりは! あっさり倒しやがって!」


 ペパロニが叫んだ。

 僕も、うちのふたりはおかしいと思います。

 ……いちばんおかしいヤツは、今このパーティーにいませんが……。

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