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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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104 再び青海溝(1)

 セルメンディーナと僕は、「青海溝」に散らばっている可能性があるプライアパーティーメンバーを探してもらうべく、タレイドさん宛てで手紙をしたためた。正式に冒険者協会に「依頼」という形式を取ったんだ。判明しているすべてのルートの踏破を、冒険者へ依頼する。その過程で転移したメンバーがいたら保護する。報酬はすべてセルメンディーナが支払うと言った。

 時間的には……ギリギリだけどね。飲み水を持っていれば生存率はかなり高いと思うんだけど。

 それと、海上の探索だ。漁船に依頼して、いつもより広範囲に移動してもらう。それにかかる費用も負担するとセルメンディーナは言った。


「とりあえず……今、できることはこのくらいですか。ありがとうございます、ノロットさん。ストームゲートから来ているあの方は、ノロットさんと親しいのでしょう?」

「タレイドさんはすぐに動いてくれると思います。僕はあの人にいくつか貸しがありますからね」


 タラクトさんの石化を治癒したり、タラクトさんたちを遺跡に連れていったり、「黄金の煉獄門」を踏破したりね。

 全部タラクトさんがらみな気がするし、いろいろ貸しは返してもらったりしてはいたけども。


「でも、“ここ”だけは僕らが行かなければいけません」


 そう、「63番ルート」だ。この遺跡を踏破できるパーティーは他にないだろう。

 そしてその先にある「女神ヴィリエの海底神殿」の3つの扉までは行っておきたい。そこに転移させられているメンバーもいるかもしれないから。


 さて……僕の手元には「63番ルート」の地図の複製がある。

 これは以前潜ったときに作製したのをたまたま取っておいただけ。

 で、プライアのことはもちろんそうなんだけど、僕にはもうひとつ気になることがある――ゲオルグだ。

 僕は念のため、昨晩、ゲオルグが泊まっていたホテルへと向かった。セバスチャンに会うために。結論から言うと、セバスチャンはいた。


 ――ゲオルグ様はまだ戻っておられません。


 そう、丁寧に言うだけだった。その目は、ゲオルグが必ず戻ることを信じて疑わない目だった。

 確かにあのマジックアイテム……雪豹の幻影(スノー・ファントム)はぶっ壊れ性能だもんな。発動させるとその者の姿、気配を遮断し、ニオイをなくす。足音にさえ気をつければ誰にも気づかれないという優れもの。

 ただ、それが通用するのは「63番ルート」まで。「女神ヴィリエの海底神殿」で通用したのかどうかは気になるところだ。


 あとプライアたちは「豊穣の女神に殉ずる」ルートを選んだわけだけど、ゲオルグは残り2つのうちどちらを選んだのか、あるいは選んでいないのかもわからない。プライアたちより先に選んだということはないと思う。いかに姿が見えなくても、もしもゲオルグが先行してれば扉に起きた変化でセルメンディーナも気がついたはずだから。

 まあ、今ある情報から推測しているに過ぎないんだけどね。


「ノロット? みんな進んでるよ?」

「あ、うん。今行くよエリーゼ」


 僕はエリーゼと並んで歩き出す。ここは「29番ルート」だ。途中で分岐があって「63番ルート」へとつながる。

 後ろにはリンゴが、大きな荷物を背負っている。


「なに考えてたのよ。難しい顔して」

「あ、えーと……いろいろと、かな?」

「あー。確かにね。この海底炭鉱のこととかね」

「? エリーゼは海底炭鉱のどこに注目してるの?」

「そもそも『海底神殿』はどこにあったのか……どこが入口だったのか」


 鋭いところを突いている、と僕は思った。


「そうなんだよね、グレイトフォールが再発見されたのは300年前。海底炭鉱として活動していたのは1000年以上前……ここに残っている失われし技術(ロストテクノロジー)。なんか変なんだよな」

「変、とはなんでしょうか。ご主人様」


 リンゴが口を挟んでくる。会話に加わりたくて仕方なかったような顔だ。


「前にセルメンディーナさんにも聞いたんだけど、1000年以上前、ここで働いていた炭鉱夫たちはどこに消えたんだろう? これほどの立派な設備……というか機械を残して」

「以前の説明は、確か炭鉱が尽きたからいなくなった、ということで、どこに消えたかは資料にないということでしたね」

「うん。利益がないから去ったというのはわかるんだけど、だったら機械は残していかないよね? 売り払ったっていいんだし。それにこれほど大きな炭鉱を、記録から抹消することなんてできるのかな」

「記録から抹消されたのですか?」

「300年前に再発見されるまで誰も知らなかったんだ。700年間、誰からも注目を集めなかった。それは『抹消』と言って差し支えないと思う」

「……ご主人様、推測ですが申し上げてもよろしいですか」

「もちろん。僕だって推測に推測を重ねているだけだから」

「なんらかの事故で、炭鉱を『放棄』せざるを得なくなったのでは」

「ん? もうちょっと詳しく」

「たとえばモンスターです。モンスターが出現し、炭鉱を急に閉じなければならなかった」

「いい線行ってるかもしれない。でも、違うかな」

「違いますか?」

「ふふん、違うわよ、オートマトン」


 得意げな顔でエリーゼが言うので、リンゴの表情が険しくなる。

 あのね、お願いだからここでケンカとか止めてね?


「それだとノロットの言っていた『記録抹消』の説明がつかないわ。むしろ、モンスターを討伐する方向で行動したはず。より『記録が残る』方向へ」

「しかし、もともと閉山するはずだった炭鉱ならば問題ないのでは?」

「そんな閉山間際を見計らったタイミングでモンスターが出てくるかな~?」

「チッ」

「舌打ちしちゃって。ぷぷっ」

「そういうあなたの推測はどうなのですか?」

「えっ!? あたし? あ、あたしは――ほら、剣を振るのが仕事だから。考えるのはノロットに任せる」

「ふっ。なるほど。脳が軽いぶん動きも機敏になるというわけですね。あなたにぴったり」

「は? 自分の推測が外れたからってあたしに当たらないでくれる?」

「推測を立てられない人になにを言われても悔しくありませんわ」

「お? やんのか?」

「お望みとあれば?」

「ストォォォップ! 待って、待って! 止めなさい、ほら、みんな見てる!」


 ケンカを始めそうなリンゴとエリーゼを、好奇の視線で見つめるペパロニたち。


「まったくもう……僕に恥かかせないでよ」

「ごめん……」

「申し訳ありません」


 僕に恥かかせないで、なんて言い方したくないんだけど、これがいちばん効くんだよね、このふたりには。


「で、リーダー。リーダーはどう考えてるんだ? この海底炭鉱の真相」


 タラクトさんが言う。僕らの会話を後ろで聞いていたらしい。


「……突拍子もない考えなんですけど」

「おお、いいね。突拍子もない推測。俺は好きだよ」


 タラクトさんだけじゃない。みんなが歩きながら聞き耳を立てている。

 僕は小さくため息をつきつつ、言った。



「女神が、創らせたんじゃないかと思います。この巨大な海底迷路を……」



 え? という顔の冒険者たち。

 僕は言葉を補った。


 考えれば考えるほど、不自然なんだ。

 炭鉱図というおおざっぱな地図が掲示されている。

 難易度別に「ルート」がある。

 どこにどんな設計図があるか、とかご丁寧にルートの最奥には次のルートにつながる情報がある。

 親切すぎる。

 わざとらしく残っている機械は「海底炭鉱」としてのディテールを表現しているだけで、意味はない。さっきも説明したとおり、お金になる機械なら持ち去るはずだからだ。


 女神が創らせたと思えば、いろいろと納得できる。

 目的は神の試練に至る冒険者を「養成」すること。

 ルートを踏破していくことで冒険者として強くなる。

 そして最後の「63番ルート」を踏破できるほどの冒険者なら神の試練に挑んでもいいだろう、と。


「なるほど……」


 タラクトさん含め、みんな僕の説明を聞いて唸ってしまった。いやいや、僕はダイヤモンドグレードとかなってるけど、実態は駈け出しの冒険者ですから。そんなにね? 真剣にね? 受け止めないでくださいよ?

 僕の推測で、自分でも変だなって思うところはあるんだ。まるで女神に明確な「意志」があるみたいな感じがするから……そもそも神の試練ってなんなんだろうとか、僕はまったく答えを持っていない。

 今もバッグに入れている「いち冒険家としての生き様」の本にも、軽く神の試練について触れられているだけだ。そう言えば正確にはなんて書いてあったっけ……あとで読み直してみよう。


「おっ、分岐だ!」


 先頭を行くペパロニは「30番ルート」と「63番ルート」との分岐を発見する。

 さて、頭を使う時間はここまで、ってところか。


「それじゃあ、一度フォーメーションを決めましょうか」


 僕はソイ、ペパロニ、ミートンを集めて作戦会議をした。


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