101 意外な再会
グレイトフォールの通貨単位ゴルドのことをすっかり忘れていたので99,100話を修正しました。話の本筋には関係ありません……。
翌朝、僕らは宿に置いていくもの、持っていくものを分けてホテルを出た。ちなみにお金は冒険者協会が預かってくれる。預け賃は取られるけど、大金だからね。
「青海溝」へ運んでくれる海中列車の停車場に向かうと、僕らはいちばん最初だった。
次に来たのがミートンのパーティー。罠師でしかも男ばかり6人らしい。みんなぼさぼさの髪の毛なんだけど……罠を使うのにぼさぼさの髪の毛はなにか必要なんだろうか? 背の高さはまちまちなのに、奇妙な一体感がある。
その次がペパロニのパーティー。ペパロニは左右に2本ずつのショートソードを吊っていた。4刀流……なわけないよね? 変わった戦い方をしそうだ。
ペパロニのパーティーは男女混合の9人パーティーで、大盾2名、近接攻撃が3名、ローグ1名、弓が1名に魔法使いが2名というバランス型だ。なんだかプライアパーティーを思い出す。ひょっとしたらリスペクトしているのかもしれない。
最後はソイ率いる魔法使いパーティーで、7名。偏ってるなあ。まあ、ウチが言えることじゃないんだけどね。
ソイは僕のところにやってくると革袋に入った魔法弾丸を渡してくれた。化粧で隠しているけど目の下にくまがある。
「……徹夜したわよ。もうこんな割りに合わない仕事やらないからね! 今日明日は魔力切れで動けないからそっちもよろしく!」
と言っていた。そんなに大変なのか……分割してお願いすればよかったかも。
「全員そろったようですね」
そこへ、グレイトフォール冒険者協会の会長がやってきた。協会職員を10名ほど引き連れて。その中には武装した衛兵みたいなのもいる。なんだか物々しい。
僕らだけでなく、ミートンたち他の冒険者も会長を警戒する。
「皆さんにはプライア様の救出に行っていただきますが……その前にお伝えしなければならないことがあります」
「もったいつけないで言えよ」
ペパロニが苛ついたように言うと、会長はにたりと笑った——僕に向けて。
「ノロット様。ダイヤモンドグレードの適格審査を行う関係で、審査が終了するまであなた様は冒険者協会の発する任務を一切受けることができなくなりました。また、協会が管轄する遺跡——『青海溝』にももちろん、入場することを許可できません」
「……え?」
「なに言ってんだ、会長!」
「それじゃあノロットさんに救出に行くなと言っているようなものじゃないか」
ペパロニとミートンが声を上げる。
「そのとおりです。ノロット様には町に残っていただきます。よろしいですね?」
会長の後ろから、武装した兵士が4人出てくる。
リンゴとエリーゼが戦闘態勢に移行する——。
「待ちたまえ」
そこへ、渋い男の声が聞こえてきた。
「冒険者ノロットの適格審査請求は、無効となった」
全員の視線がそちらへ向く。
声の主は——。
「え……?」
僕の知っている人物だった。
ストームゲート冒険者協会専務理事の、タレイドさんだった。背後には、フードを目深にかぶった人と、複数の人々——シンディを含む——が続いている。
会長が眉をひそめる。
「あなたは……ストームゲートの? なにを言われるのですか。各協会の会長が請求すれば受理の前、請求時点で効力を発揮します」
「そのとおりです。ですから、グレイトフォールの会長職は空席になったということです。不肖、私が臨時でグレイトフォール冒険者協会も見るよう、本部から指令を受けました」
「はあ? あるわけがない——」
タレイドさんが1枚の紙を差し出す。それを手にした会長は、目を通して——顔が青ざめていく。
本物……なの? でもどうして?
「あなたが陰でこそこそ行動していたことはすべて本部に報告済みです。これまでの規約違反すれすれ……あるいは一歩程度踏み越えたぶんについては本部もお目こぼしをしてきた。それはグレイトフォールの利益率が高かったからでしょう。しかし、今回のことはいただけない」
タレイドさんが右手を挙げた。
背後にいたフードのひとつが、取られる。
「セルメンディーナさん!」
「セルメンディーナ様!?」
「おお!」
「ご無事で」
僕らの声が上がる。セルメンディーナは以前「63番ルート」にいっしょに潜ったときよりはるかにやつれていた。だけれど、それでもエルフらしい美貌と意志の強い瞳はそのままだった。
「1つは彼女、エルフでありダイヤモンドグレード冒険者プライアとともに行動していたセルメンディーナ氏を軟禁したこと。2つ目は冒険者プライアや冒険者ノロット、それに冒険者ゲオルグが発見した『63番ルート』最奥にあった『新たな遺跡』について秘匿したこと——」
タレイドさんから引き継いで、セルメンディーナが口を開いた。
「『女神ヴィリエの海底神殿』……『神の試練』の存在を公開しなかったことです。私は、プライア様の意志のとおりここに公開したいと思います」
神の試練。
それは神話やおとぎ話の存在だと、ふつうの冒険者は思っている。
名前だけウワサのように広まり、存在はどこにもない。
それが、「ある」というのだから。
唖然とした冒険者たちの間から、ざわつきが漏れ始め、それは次第に大きくなっていく。
「これ、ウチが第一報ですから! 今朝の朝刊で出ますよ!!」
シンディが声を上げると、彼女の周囲にいた人たちが拍手する。どうやらグレイトフォールタイムズの人たちは間に合ってくれたみたいだ。「新聞買って行きてえ!」「バカ、お前字を読めないだろ」なんていう冒険者の声も聞こえてくる(主にペパロニパーティー内)。
セルメンディーナの救出。それの記事化。
僕としてはせめて会長が動けないようになって、セルメンディーナから情報が得られればそれでよかった。
タレイドさんが来たのは完全に予想外だったよ。タレイドさんは、こっちを見てぱちりとウインクなんかしてる。おじさんにしてはお茶目だ。
「くっ——」
「おっと会長、どこに逃げる気だ?」
走り出そうとした会長をぐるり囲むペパロニたち。動きは洗練されている。プライアパーティーと比べたら劣るのかと思っていたけど、そんなこと考えてすみません。ちゃんど訓練されてますね。
こうなると衛兵が4人いてどうにかなるものではない。僕を捕縛するために持ってきたのであろう、縄で、逆に会長が縛られることになった。
「びっくりした? びっくりしたよな? いやあついに君をびっくりさせることができた」
にこにこしながらタレイドさんが僕のところへやってくる。
そう言えばタレイドさんて、目玉が飛び出るほどに僕らのことで驚いていたっけ。僕がダイヤモンドグレードのノロットだと知って驚いて、金色のカエルが魔剣士モラだと知って驚いて。
タレイドさんは、プライアが遺跡から戻らず、僕だけ戻ってきたという記事を読んでから「おかしい」と感じていたらしい。それから冒険者協会の横のつながりで情報を集めた。協会は、組合魔法で独自のネットワークを築いているのでかなり情報の伝達が早い。するとグレイトフォールの協会はなんだかきな臭いことを知り、本部からの勅命もあって会長の身辺を調査するべくグレイトフォールにやってきたのだそうだ。そこで、セルメンディーナを探しているグレイトフォールタイムズの記者たちと遭遇。協力してセルメンディーナを救出した——。
「これだけじゃないぞ。おーい!」
タレイドさんは後ろを振り向いた。
やってきたのは4人の冒険者——。
「あ……ラクサさん! タラクトさん、ゼルズさん、それにレノさんも!」
「黄金の煉獄門」を攻略したときの4人だ。
「どうして彼らも、という顔をしているね。そりゃ簡単さ。いくらなんでも今回の調査にはいろいろと妨害がないわけがなかった。だから腕の立つ冒険者を連れて行く必要があった、と。ははは、君がピンチだと知ったら報酬なんか要らないから連れて行けとまで言われたよ! で、私の任務はもう終わったから、彼らは今、フリーの冒険者というわけだ」
「……リーダー、久しぶりだな。大きくなったようだ」
ラクサさんがにっこりと笑ってくれる。ああ、ラクサさん、僕に解錠の初歩を教えてくれた先輩。そんな人に「大きくなった」と言われてうれしくならないわけが……。
「そうか? あまり変わらねえようだが」
「ゼルズさん……誰に命を救われたか覚えてます?」
「す、すまん……」
僕がじろりとにらむと素直に頭を下げた。
「そういうわけで、救出作戦に俺たちも参加するよ。それにしても伝説級の次は神の試練とはなあ」
「タラクトさん……ありがとうございます」
「リーダーの足引っ張らないかだけ心配だけどな」
「そんなことないです。レノさんのクロスボウ、期待してますよ」
4人が加わってくれるなら心強い。
というか、ストームゲートを離れたらもう二度と会えないんじゃ——とか思ってたのに。
「……ノロット様」
盛り上がっている僕のところへ、やってきたのはセルメンディーナだった。
この町でもきっての有名人とだけあって、全員の視線が彼女に注がれる。
セルメンディーナは僕の前で——ひざまずいた。
「お願いです……プライア様を助けるために私も連れて行ってください。プライア様を助けるためでしたら、この命、あなた様の好きなように利用してくださって構いません」
シンディの目が輝くのが視界の隅で見えた。これ……とんでもない記事を書かれるわ……。




