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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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100 グレイトフォールタイムズの手腕

「ふう……疲れたぁ」


 僕はホテルの一室に入るとそのままベッドに突っ伏した。


「お疲れ様でした。ご主人様。お加減はいかがですか? 青い顔をされていましたが」

「あ、ああ……あのソイさんの部屋がさ、香水臭くて気持ち悪くて……」


 あれはきつかった。


「……とりあえず目的は大体達成できたよね?」

「はい。よろしいかと存じます」

「よかった……」


 リンゴが買い込んできた食料をどさどさと下ろしている。

 エリーゼは大剣の手入れを始めていた。


 結構な金額を使ってしまった。あちこちの通貨に両替しているから手数料もバカにならないんだよね。

「黄金の煉獄門」の報酬のうち、残っているのは半分を切っている。グレイトフォールの通貨に換算すると、だいたい2000万ゴルドほどだ。

 ミートンさんの反応を見る限り、ソイさんの要求はかなり高めだったようだけどそれでも27万ゴルド程度なら払ったほうがいい。


「それにしても……モラってやっぱりモラだったんだなあ……」


 当然のように使ってたけど、魔法弾丸。あれが上級魔法だったことも僕は知らなかったし、モラの刻んだ紋様が特殊なものだとも知らなかった。樹海都市パラディーゾからの移動中にずっと弾丸の紋様刻み続けた甲斐はあったかもね。

 もちろん使い捨ての弾丸に2000ゴルド使うのは高い気がするけど……この部屋だって1泊1万ゴルドなんだから、5発分だ。それでも、モラがいないぶんの戦力は確保しなくちゃいけない。

 モラがいろいろと規格外の存在だったということを今さら再認識したよ。まあ、伝説級遺跡「魔剣士モラの翡翠回廊」を創った張本人なんだよな。


「で、さ。ノロットはやっぱりプライアさんの救出に行きたいわけ?」


 刃の油を拭き取りながらエリーゼが聞いてくる。


「ダメです。あまりに危険です」


 とリンゴ。


「……ふたりから見て今日会った救出パーティーはどうだと思う?」

「プライアさんのパーティーと比べると見劣りするけど、3パーティーあるしいいんじゃない?」

「わたくしはどれほど強いパーティーといっしょであっても、モラ様との約束がありますから賛成できません」


 グレイトフォールに来るまでに僕らが話していたこと。

 とりあえず「神の試練」の入口まで案内するかどうか。

 リンゴは「神の試練」に入ることは論外だというスタンスで、これについてはエリーゼも猛反対していた。


 でもなあ……僕らが行かないとして、今日会った3パーティーでプライアのところまで行けるのかというとかなり疑問だ。


「僕としては……とりあえず『63番ルート』の最奥まで行くというのでいいんじゃないかと思うんだけど」

「ノロット様。その場合、わたくしたち以外のパーティーから死人が出る可能性が高いと思われます。それでもよろしいのですか?」


 うぐっ。そう言われるときついな……。

 明らかに戦力として足りていない人が来るのなら、死亡確率は上がる。

 わかっていて連れていっていいのか、ってことだよね。彼らはきっと「ダイヤモンドグレード」の僕らを頼りにしているはずだし。


「なに言ってんのよ。冒険者になったんだから死ぬことだって覚悟してるでしょう。そんなのあたしたちが気にすることじゃないわ」


 エリーゼが言うことも正論だ。問題は、僕がそれを受け入れられるかどうかなんだよね。


「……王海竜がいたら帰る。これでどうかな」

「…………」

「あたしはいいと思うけど?」


 リンゴは納得したくないという顔だったけど、


「モラだって僕らが単独で挑むなっていう意味で約束したはずだよ。これだけの大人数なら大丈夫だろ?」

「……ノロット様がそう決意されているのであれば、わたくしはなにも言えません」

「リンゴ、怒らないで」

「怒っていません」

「怒ってる」

「怒っていません」


 口をへの字にしてそっぽを向いている。珍しい。リンゴのこんな顔、初めて見た。


「……ノロット様、なにをニヤニヤしているのですか」

「ありがとう、リンゴ。心配してくれて」

「…………ずるいです、ノロット様。そんなことを言われたらわたくしはなにも言えなくなります」


 ともかくリンゴも、多少は納得してくれたみたいだ。


「あとは『女神ヴィリエの海底神殿』なんだよな……」

「まさかとは思いますが、ノロット様……隙あらば入ってみようだなんて思っていませんよね?」

「ちょっとのぞくくらいならいいよね?」

「そうやってずるずると行く気でしょう。ダメです」

「えぇーっ。そんなの生殺しじゃないか!」


 ダメらしい。


「あとはセルメンディーナさんなんだよな……シンディはうまくやってるかな」


 僕らがグレイトフォールに着いて早々、冒険者協会に連れて行かれた一方で、シンディはグレイトフォールタイムズの本社に戻ったはずだ。

 実はグレイトフォールに来る船中で、新聞を数紙読んだところ、セルメンディーナが「保護」という名目で表舞台に出てきていないことはわかっていた。

 だからシンディには別行動で、そっちを探ってもらっているのだ。


「おっ、誰か来た」


 来客だった——それはまさにシンディだった。


「いやー、怒濤の一日でしたよ! ノロットさんたちはどうでしたか?」

「にこにこだね? いいネタつかんだ?」

「ええ、それはもう! ……って、ノロットさん、なんで鼻をひくつかせているんですか?」


 うん、今日は特に粗相をしていないようだ。


「なんでもないよ?」

「なんでにっこり微笑むんですか!? ノロットさん、なにか失礼なことしたでしょう!」

「そんなことよりなにがあったか教えてよ。セルメンディーナさん見つけた?」

「ノロットさんこそ教えてください。冒険者協会はどうでしたか? 冒険者認定証剥奪されました?」


 僕は協会の会議室であったことを伝える。シンディはしっかりメモを取っている。


「ふむふむ……では参加パーティーはソイ、ミートン、ペパロニの3パーティーですね。まあ他の記者もこれはつかんでいるでしょうけど、豪華な顔ぶれですね」

「そ、そうなの?」


 僕からすると頼りなく見えたんだけど……まあ、プライアたちと比べたらそれも酷か。


「それでシンディのほうは?」

「はい。事前の予測通りでした。セルメンディーナ様は隔離されていて誰も近づけない。場所の特定も困難で、まだどの新聞社も探り当ててないみたいです」

「そうか……」

「ただし弊社をのぞく」

「え?」

「いやー! 編集長を見くびってました! 見つけてましたよ、セルメンディーナ様!」

「おお!」

「まだコンタクトは取れてないですけど、場所はばっちりです! 今、行動部隊を集めています。あとは任せてください」


 それは朗報だった。プライアを救出するにはいずれにせよ「神の試練」に関する情報が必要なのだ。

 ただセルメンディーナ自身が「神の試練」に関する情報を漏らしたのかどうなのかわかっていないし——そこにどんな意図が含まれているのかわからないので、僕も黙っている。


 僕はシンディといくつか打ち合わせをして、別れた。

 明日は早い。

 僕らは早々と寝る——一方で、シンディは今日は眠れないだろう。

 期待してますよ、人気の新聞記者さん。

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