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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第1章 トレジャーハントには調査と仲間が必要(凶暴なメイドを含む)
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9 彼女は台無し

「ふ~~~~~~……」


 食事が終わって部屋に戻る。

 どさりとベッドに横たわる。


「なんでェ、もうへばってんのかィ。明日ァ公文書館行くんだろォ。今日のうちに買い込んだ本を読むぞ」


 しょりしょりと果実を食べているモラは、とっくに元気になっていた。

 心配して損した……おっと、いやいや、全然心配なんてしてなかった。してなかったよ?


「わかってます、わかってますよ。読みますよ」

「ではご主人様、お茶を煎れましょうか?」


 リンゴは女性ものの服を着ていた——女性ものと言っていいのかどうか。

 黒一色のワンピースはふくらはぎまである。

 首からかけている清潔感のある白エプロン。

 頭には髪をまとめるキャップをつけている――メイドだ。

 リンゴが煎れてくれたお茶はすばらしく香りがよかった。


 それから僕らは本を読んだ。

 3冊あるので、僕とリンゴとモラで回し読みだ。


 うん……モラもね、本を読めるんだよね。

 想像つくかい?

 カエルが本を読んでいるんだ。

 一段高いところに鎮座したカエルが、見下ろしたところに本を広げている。


 しゅばっ。ぺとん。ぺらぁっ。しゅばっ。ぺとん。ぺらぁっ。


 これ、なんの音かわかる?

 ページをね、めくるんだ。ベロで。カエルのベロ。びよーんって伸びてページにひっつくと、めくる。その音。


「舌が乾いていけねェや」


 なんてぼやいていた。


 さて、本を読んだ結果だけど――僕らは、「黄金の煉獄門」について基礎的な知識を身につけることができた。

 まず全体的なデータ。

 ストームゲートより北西、15キロメートルのところに位置している。ずいぶん近いね。

 できたのはおよそ260年ほど前――268年という説が有力――だと言われている。

 観光馬車も1日に1便運行している。

「黄金の煉獄門」の正式名称は「ストームゲート遺跡群内第8番遺跡」であるという。


 さて、ここからが本題だけれど……。


「名前の由来は、“入口”が黄金に輝いているから――ってのがすごいね」

「左様ですね、ご主人様。触れようとすると毒霧に呪いが噴出するというのもふるっています」

「ふるってるかどうかはわからないけど……黄金の光は純金ってわけじゃないんだろうね。魔法かな?」

 モラに視線を向けると、

(じっ)中八九、魔法だな。複数の魔法を混ぜると黄金色になることがある」

「…………」

「なんでェ、ノロット。こっち見て」

 モラの身体も金色なんだよなぁ……。

「入口は2本の柱があるきりなんだって。門とは言いながら、敷地を示す門柱みたいな感じかな」

「ふゥむ。柱と柱の間に入ると、景色が一変するてェあるな」


 だだっ広い砂漠の真ん中に、柱が2本立っているのを僕は想像した。

 しかしこの柱がくせ者で、その2本を結ぶ線上を通ると――その先は違う場所につながっているというのだ。


「空間転移の魔法だよね、絶対」

「ふゥむ……ありゃァ、めっぽう難しィンだがなァ……」

「そうなの?」

「使うだけなら上級魔法程度の難易度だが、物体に付与して発動し続けるなんざァあまり聞いたことがねェや。考えてもみろィ。ンなことが可能ならホエールシップも馬車も要らねェだろォ」

「あ、そうだね。都市間の交通手段はもっとシンプルになる」


 その黄金の柱の間を通るとどこにつながっているのか――。

 “屋内”に出るという。

 暗い、石造りの通路に出る。背中を向いている方へ戻るとまた砂漠に戻るらしい。

 石造りの通路は、大広間につながっている。そこには煉獄を模した様々なオブジェがあるとか。


「出現するモンスターはアンデッド、悪魔系が多いってあったね」

「全10階層の遺跡だそうですわ」

「それは眉唾だと思うんだよね……」

「どうしてでございますか?」

「だって、全10階層だってわかってるならそれは踏破したも当然でしょ? 実際、今までの踏破記録は3階層までとも5階層までともあって、バラバラだ」

「なるほど、さすがはご主人様!」


 そんな簡単にわかることで褒められましても。


「おィ、ノロット。お前ェ、この――遺跡を造ったと言われてるジ=ル=ゾーイとかいう宗教家を知ってるか?」

「聞いたことないね……」


「黄金の煉獄門」は、創造主の名前が遺っている。ジ=ル=ゾーイという名前で、ストームゲートとは縁もゆかりもない地域で宗教を興していたとか。

 ストームゲートにはジ=ル=ゾーイの興した宗教は跡形も残っていない。


 治療院にもあった女神像は民衆を救うと言われているヴィリエ神だ。

 ヴィリエ神はこの大陸で広く信仰されていて、僕が話しているこの言葉も女神の名前を取ってヴィリエ語という。

 アンデッド系モンスターを使役する「暗黒魔法」の使用は“厳禁”である。


「わたくし、その名を耳にしたことがありますわ」


 するとリンゴが言った。


「え!? ほんと!?」

「はい。ジ=ル=ゾーイという“愚か者”の伝説ですが……」

「……愚か者?」

「ええ……名の違う人物でしょうか?」

(おせ)ェてくんなィ。聞いてみねェと判断つかねェ」

「左様ですか。では短いですが――」


 リンゴは背筋をすっと伸ばし(もともとキレイに伸びていたんだけどね)、目をうっすらと閉じた。過去を、思い出すように……。



  ジ=ル=ゾーイは死人を使った。

  そのため町の人に嫌われた。

  ジ=ル=ゾーイは死こそ幸せだと唱えた。

  そのため町の人に狂人と扱われた。

  ジ=ル=ゾーイは山の奥に籠もった。

  そのため町の人は彼を忘れた。


  ……町に疫病が訪れた。

  ジ=ル=ゾーイは山から現れた。

  ……町の人の多くが死んだ。

  ジ=ル=ゾーイは信者が増えたと喜んだ。

  ……彼とともに、死者たちが町から去った。

  ジ=ル=ゾーイは歌を残した。



 短い、話だった。

 おとぎ話のようでもあり童謡のようでもある。

 童謡にしたら不気味だけどね。


「……それで終わりかィ?」

「はい、モラ様」

「その話は有名なのかィ?」

「どうでしょうか……わたくしもなぜこのような話を覚えているのか、誰が教えてくれたのかも判然としません」

 かすかにリンゴの表情が陰った。

 過去がないリンゴ。でも、知識はある。もどかしいよね……。


「ノロットは知らねェか?」

「初耳」

「そォか。そんなら――ちったァ“リンゴの昔”が知れたじゃねェか」

「え? どうしてでございますか、モラ様」

「ここにいる誰も知らねェような昔話ならよ、『お前ェさんの故郷がジ=ル=ゾーイの故郷に近いところにある』か――あるいは、『お前ェさんはかつて各地の昔話を調べるような仕事をしている人間のそばにいた』か。そのどっちかだ」

「な、なるほど――でも待って。『昔話を調べるような仕事』ってどんな仕事?」

「ンなこと知るかィ」


 だよねー。


「とにもかくにも明日だ、明日。冒険者協会に寄ってから公文書館に行くぞ。それから寺院にも寄ったほうがいい」

「ジ=ル=ゾーイの伝説を知っている人がいないか調べに?」

「おォよ。ノロットにしちゃァ冴えてるじゃねェか」


 ふふん。

 これでもトレジャーハンターだからね!


「よっしゃァ、寝るぞ!」

「そうだね。もう遅いや」

「では明かりを消しましょう」

「ぐー」

「あら。モラ様はもうおやすみですね」

「モラは寝るの早いから……」


 そうして僕は明日に――明日からの調査に、思いを馳せてベッドに入った。




 ……ベッドに、入ったんだ。


「リンゴ……僕のベッドに入らないでね?」

「はい。ご主人様の許可も得ず勝手に入るような真似はいたしません」

「昨日してたよね? しかも裸だったよね?」

「ご主人様がお望みかと。性欲の強いご主人様が……」

「強くないから。あれはウソだから。頬を赤らめなくていいから」

「欲望を解放したいときはいつでもお申し付けください!」

「声が大きいから。……あの、リンゴ?」

「はい」

「なんでベッド脇に立っているの?」

「ご主人様をいつまでも見守っているためです」

「怖いから。僕の顔なんて見なくていいから」

「な、なにを仰います……見ているだけで、わたくしは……とろけるような幸せを味わえる……んっ」

「なに太ももこすり合わせてもじもじしてんの!?」


 こういうのさえなければリンゴほどの美人……オートマトンだけど、美人を前に僕はドキドキしたかもしれないけど、いろいろ台無しだ。

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