七
窓を開け、マリヤは手を伸ばした。青く晴れ渡った空から舞い降りるのは生成りの色をした小さな鳥だ。マリヤの手を目指して、すいと降りる。
細い指先と小鳥の嘴が触れ合った途端、鳥は小さな巻紙へと姿を変えた。誰の魔法かということは、マリヤにはその瞬間に分かっていた。紙に染みついた気配が教えるのだ。念のためと掴んだ紙に閉じた瞼を当てると、紅玉のような美しい色が彼女の暗い視野に現れる。その鮮やかな紅色はマリヤも知る魔女の、やはり夫と同じ色をした瞳だった。
ふと目を開ける間際、星が流れたような気がして、彼女はもう一度紙に目を当てようか思案した。結局止めたのは、気のせいだとは思えなかったからだ。彼女がそれを見紛うはずがなかった。
開かれる小さな巻紙はたった一行、文字が書きつけてある。フェルエーイから見ては王都とその近郊領を超えた向こう、東方領の山脈に城を持っていた、癒し手と名高い魔女の名だった。それだけが書かれた文というのは、魔女本人が死ぬ前に記す、自らの訃報だった。
マリヤは目を細めて、巻紙に敬愛の接吻をした。
「……死んだのね、あの優しい魔女は。羨ましいこと」
いつの日か自分もこれを書く日が来るだろうか。マリヤは考え、満ち足りた気分になる。愛する竜から貰った一生を終えたその時はきっと、とても幸福に違いないのだ。
日々は確かに、ゆっくりとでも流れている。フェルエーイが身を置くカトナ――ルドイエから名を変え長いこの大国が亡びるのと、自分が死ぬのと、どちらが早いか。愚にもつかぬことを考えながら、魔女は笑った。
Ⅰ 偉大なるマリヤ 了