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3連撃目 ~雪原に咲く、一輪の猛華~

“雪華妖精スノーフィリア”

 クリスタルの様に輝く氷の羽に、細く真っ白な手足…そして周りをたゆたう雪風に靡く白銀の長い髪の毛には結晶が散りばめられたかのようにキラキラと輝いている。

 その美しさの裏には龍が見え隠れしており、軽い気持ちで挑んだハンターを全て薙ぎ払うその姿こそ雪華妖精の名にふさわしい。


 そんな事がモンスター事典に書かれていたのを思い出したが、今の俺からしたらこいつはただの殺人兵器だ。

 美しさの欠片なんて、一片も無い。


『クォオォオウッッ!!!』

 耳がつんざかれるほどの甲高い声と共に吹かれたブレスを盾でガードする。

“回避行動をしても、追っかけてくるからガードした方がいいよ。”

 蓮があの日、教えてくれたことだった。

 タイミングは確かに良かったはずなのだが…酷使しすぎた盾はビキッと言う音を立ててヒビが入った。

「あっ…!?」

 唐突な事に声が思わず漏れた。

 攻撃は防げたけど盾は使えてもあと1回……!


 ブレスを吹き終えたスノーフィリアの身体が光り始めた。

(ドラゴニック…タイプ…!)

 キャンセル、キャンセルしなきゃ。

 おもむろに走り出して無防備な相手を攻撃するも、キャンセルが出来ない。

 攻撃は確かに当たってるのに微動打にしないスノーフィリアを見ていると、自分の弱さが痛感できた。


(3人は、簡単にキャンセルしてたのに…)


 奏とか、蓮はほんの数撃でキャンセルしていたから、簡単な事だと思っていた時期もあったっけ。

 このまんまじゃドラゴニックタイプになられてブレス当てられて終わりだ。

 俺が負けない方法は一つだけ……攻撃をし続けるしかないんだ。

 弱点属性じゃない武器を持って、氷属耐久力が1の装備で、俺は何やってんだよ。


 光が更に大きくなる。

 もう、ドラゴニックタイプになられてしまう…。

 相手の目が白から赤へと変わるその様子が斬撃を繰り出している俺にも見えた。

 もう夕暮れになっているのか、真っ赤な日の光と相まって眩しい。


 タイプ変化した瞬間に来る光の衝撃波をかわすために、後ろへと下がった。


 その時、不意に首を上げると白い穴が見えたんだ。

 スノーフィリアの頭の上に発生しているその穴は、ブラックホール…ホワイトホールを連想させる感じだ。

 あれも、攻撃なのか?

 でもあんなのはゲームではなかったはずなのに…。


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』


 鈍い叫び声と、鮮血のエフェクトがスノーフィリアの頭から上がったのを聞いて、我に戻った。

 タイプ変化がキャンセルされ、大きな身体が崩れ落ちて堕落した。


 いきなりのことにびっくりしたがタイプ変化がキャンセルされたことによって安心感が湧いてきた。

 剣を強く握り直す。


 行かなきゃ…!

 今行かなければ俺は倒せない!!


 俺が相手に近寄って剣を振り押した時だった。

「昌辰っ!」

「しょうたぁああぁあ!!!」

「はぎっ!!?」

 スノーフィリアの影から皆が出てきたんだ。

「み、皆!!」

 見た事のある装備を身につけてる!

 蓮と圭人はスノーフィリアを仕留めにかかり、奏がこちらへと駆け寄ってきた。


「昌辰!」

「奏…」

「はいこれ、回復剤飲んで?私達があいつ(スノーフィリア)倒すから昌辰は違うエリアで待ってて」

 ガチャガチャと音を立てながら小瓶を俺に押し付けて、真っ直ぐな眼差しで俺を見る。

 しかし、その言葉は何回も聞いたことがあった。一番嫌いで、一番言われたくない言葉。

「いや、でも」

「いいから!!」

 俺の言葉を遮るように怒鳴った奏は、すごい剣幕でそれだけでたじろいだ。


「……わかったよ、」

 俺は大人しく違うエリアへと向かうことにした。

 承諾したそぶりを見せると、奏は背を向けてスノーフィリアへと向かった。


 その時にわかった。


 足に怪我してる。

 走る度に奏の足から血が吹き出してる……圭人も頭装備が無い、肩の装備も壊れてる。

 蓮も息切れが激しくなってて疲労度が目に見えてわかる。


“俺は、あんな仲間を戦わせるのか。”

 自分の考えが脳内に浮かんだ。

 でも、奏が逃げろって言ってたし、


“お前、逃げてばっかりだから勝てねえんだよ”


 昔圭人に言われた言葉を思い出す。

 喧嘩した時に言われた言葉だった気がする。

 あの時は正論を言われて、イラつきをぶつける場所がなくて圭人を初めて殴った。


 後ろに倒れた圭人を見た時…俺は、また怖くなって逃げ出した。


 その時のことはお互いに引きずらないようにしてきてたけど、己の弱さへの印象はずっと残ってる。

 そうか、逃げてたらダメージ与えられないもんな。

 与えられるもんは、全部与えなきゃ。


 そう思ったなら、早く行動に移せ。

 緑色の液体を一気に喉元に押し込むと味も感じないほどに素早く飲み込んだ。

 喉がえぐみで死にそうだ。

 でも、今の俺なら倒せる気がする。

足の先から爪の先までに有り余っている何かが───俺を動かしてる!


「蓮っ!!」

「昌辰!?」

「その鎌、振り上げて!!!」

 狙うはスノーフィリアの頭部。

 あわよくばそれと同時のジャンプ攻撃で羽まで壊す。

「昌辰!逃げてろって…!」

「下がれ!はぎ!!!」

 3人の怒鳴り声が響く。

 でも、今ここで俺が逃げてたら

「俺が逃げてたらっ…皆死んじゃう!!!」

「…っ!!」

 蓮が勢いを使って大鎌を振り上げる。

 タイミングを合わせて刃の先端に乗り、一瞬だけ力を加えて踏み込む…!


 鎌の力も使ったため空高く打ち上げられた身体は、見事にスノーフィリアの上にいる。

「────っらぁ!!!!」

 剥ぎ取り用ナイフをスノーフィリアの頭に深く刺しこむと、悶絶したかのように体を縮こまらせた。

(次は羽っ…!!)

 ナイフをさらに深く刺すために、既に刺さっていた持ち手の部分を踏んでジャンプ攻撃に入る。

 剣を抜いて、氷の羽目掛けて振り下ろすとまるで金属音のような高い音と何かが割るようなうるさい音が耳へと響いた。


 羽が砕け散り、結晶が地面へと虚しく落ちる。


 背後に着地し振り返れば、拡散矢を使って攻撃している奏が見えた。

 同じく圭人と蓮もトドメを刺しにかかっている。


(ラストスパートだ…)

 剣を一心不乱に振り回した。

 初めて、俺も一緒に戦ってるんだって思えた。


 そして、圭人の弾激がスノーフィリアの肩に撃ち込まれた時────

『クォオォオォウォオォゥ…ッ……!!』

 そんな叫び声とともに、スノーフィリアの姿がまるで解ける雪のように消え去った。

 スノーフィリア……消えたその瞬間こそは綺麗だ。そう、たしかに綺麗だった。

 でも、魔法はつらいからもう使わないでくれ。


「おい!お前よくやったなぁ!」

「昌辰すごかったよー!」

「おおお、ありがとう!!」

 1人だと倒せなかったのに、4人だと倒せたって言うのが何よりも嬉しい。

「皆無茶しすぎなんだよ!」

「俺は無茶なんてしてないしぃー」

「俺もしてないし~」

「頭装備が無くて肩装備壊れてる状態で戦ってて無茶してないとかありえないだろ!?蓮だって顔色悪すぎ!」

 近くで見ると更に詳しくわかるその惨状は酷い。

 圭人は頭から血流れてるし、蓮は今にも倒れそうな顔色の悪さだ。


「…奏?」

 一向にこちらへと来ない奏を呼ぶと、ふらつきながらこちらへと寄ってきた。

「……っおつ、かれ」

 俯いていた顔を上げることなく、膝から崩れ落ちる身体。

 その言葉とともに崩れた奏の身体は、重力に沿って地面へと倒れかけた。

 間一髪の所で圭人の腕が支えたから助かったが、見るからにつらそうな顔からは誰よりも多く攻撃をしていた疲労が見えた。

「奏…熱がある、体があっつい。」

「早く帰ろう。このエリアからなら…キャンプ、近い…」

 一気に疲れが押し寄せたのか、蓮は限界みたいだ。

「うん、行こう…。」


 回復剤を飲んでも蓮の体調はよくならなかった。

 つらそうな顔を見てると奏のように担いであげたいが、俺と圭人では蓮よりも背が低く逆に無理をさせてしまうから担げなかった。


 圭人に話を聞きながら進んでいたが、キャンプについたのは日が暮れてからだった。

 その時には俺と圭人の体力も無くなっていた、何故なら蓮は気を失っていて俺が担いでいたし圭人も奏を担いでいたからだ。


「…迎えの、ホオス車来るまで……待たなきゃ…」

「そう、だな…」

 2人を設置されているテントの中に寝かせて、俺らは外で火を焚いていた。

 夜空は綺麗だったけど疲れているせいで、ぼやけてよく見えなかった。

「あー…昌辰、これ」

 圭人が大きなバッグから、大きな葉に包まれた生肉のようなものを取り出した。

「……何の肉?」

「んー、アルフティスの」

「お前何殺してんだよ…」

 アルフティスと言えば草食系のモンスターで、攻撃されても仕返しはしてこないしただひたすら草をむさぼり食ってるだけの大食い草食だった。

「焼けば食えるだろ?」

「いや、そうだけどさ……」

 明らかに引いてる俺を無視して焚き火に焼べる圭人の横顔は、何処か違うような気がしたんだ。



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