2連撃目 ~難攻不落の要塞龍~
Gmelody。
それは私のハンターネームだ。
そして今私の視線の先には、和古龍種の中でも“難攻不落の要塞龍”と呼ばれた【ホウジョウ】が凛々しく月を見ていた。
「────よしっ、」
和古龍の表ボスで高い攻撃力と広範囲の連撃、極めつけは高い防御力。
飛竜では無いため飛ばないが、class.A帯の奴等がなめくさって挑もうものならば咆哮だけで殺される。
攻撃力や範囲ですら全モンスター中で5位以内に入るが、防御力に至ってはトップだ。
本当にトップだ、大事な事だから2回言ったけれどガチで硬い。
classS以上の武器じゃないと外甲が硬すぎてまず刃が入らないし、弓矢とかの矢なんてはじかれてしまう。
最大の特徴はその大きな体に不釣り合いな素早さだ。
ホウジョウ特設の【難攻不落の巨城】ステージには北条家の小田原城をモチーフにした城があるのだが…そこに避難する事も出来る。
まあ、その城はとんだ初見殺しなのだが。
その城に入って、確か…30秒以上だったかな?天守閣にいるとホウジョウが城の外壁を猛スピードで登ってくる。
そこで狙い済まされて咆哮打たれて終わりだ。
それを初見でやられた時は流石に殺意が湧いたよ、ゲーム制作者に。
まあ倒したことがない相手ではない。
油断しなければ倒せるし、もう既に私のモンスターファームにホウジョウはいる。
だから20回以上は最低でも戦っている。
「戦国要塞龍ホウジョウの捕獲、開始します。」
少し息を整えて、バラバラッと“とある道具”を落とした。
そして────崖から飛び降りる。
背中に触れる瞬間にジャンプ攻撃モーションを繰り出す。
弓矢のジャンプ攻撃は相手の上空へと飛び上がり、その後モンスターの背中へと着地出来るものだからとても重宝している。
遥か高くに上がった自分の体は、軽く感じた。
ハンターってハントしてる時こんな感じなんだなぁ。
まだ実感が湧いてないし、夢かもしれない…当たり前だけど下手なことして骨折とかだけは嫌だ。
拡散矢を連射して身体全体を標的とする。
ギィッと弓が音を立ててしなり、そしてまた発射をする。
弓矢とガンの違いは、属性があるかないかだ。
ガンは単純に弾丸を発射するだけだから属性付与こそはないけれど、
だからこそどんな敵でも大体は戦える。
弓矢の場合だと弓事態に属性が付与されているから幾つも弓矢をつけらなければいけないんだけれど、
でもその分弱点属性などでの追加ダメージが狙えるってわけ。
相手の背中から地面へと飛び降りる。
私の装備の追加効果のおかげだからか、失敗せずに済んだ。
しかし…私がこれだけやっても微動打にしないその姿は勇ましく感じる。
全く動かないし、目の前に着地した私を下目に見ている。
値踏みをされているかのような視線だ。
堂々とした王者の風格とやらなのだろうか、難攻不落の要塞龍なんて二つ名は伊達じゃない。
妖気を含んだ金色の瞳と視線が合えば、吸い込まれそうになるほどの美しさだ。
こんなにも大きく、勇ましいのにも関わらず繊細でいて美しい。
「…とっとと捕獲させていただきますよ。」
『ならば、それを壊さずに美しく捕獲するのがハンターの仕事でしょう?』
なんて言葉をゲーム内の捕獲専門ハンターが言ってたっけ。
「壊しはしませんよ、」
矢を夜空に向かって打ち上げた。
それを見たモンスターがようやく攻撃を仕掛けてきた。
この、ホウジョウというモンスターはこのゲームがリリースされてから強過ぎると会社に連絡が多数寄せられるほどの強さだったため、スロースターターに改善されたのだ。
「スロースターターきれたか…」
取り敢えずは捕獲しなければ。
このゲームの捕獲手段は3つある。
一つ目は
・トラップと瞬時作動鉄格子で捕まえる。
これはトラップを仕掛けて、動けなくなっているところにアイテムの瞬時作動鉄格子を出すというもの。
一番コストパフォーマンスはいいから7割ぐらいのハンターはこれでやってるんじゃないだろうか。
まあSSになるとトラップ破壊されることが多々あるからclassが上がると使わなくなる手法だ。
二つ目
・捕獲石を使って効果を武器につける。
これは捕獲石という能力のアイテムが必要で、一番成功しやすいけれどやる人が一番少ない。
1割程度しかやってないと思う、下手したらそれ未満だ。
何せコストパフォーマンスが悪い。
捕獲石っていうのは本当に稀に出るレアアイテムだし、ぶっちゃけ売った方が結構金になる。
しかもこれは私にはできない、何故なら捕獲石は斬撃武器限定だから。
私はやったことすらない。
斬撃系統の武器を使っている人でもこれをやっている人は少ない。
三つ目
・天聖 捕獲手裏を使う。
これはまさに今私がやろうとしていることだ。
こちらは遠距離武器限定だから使っているって言うのもあるし、コストパフォーマンスはトラップ&瞬時作動鉄格子よりは少しだけ悪いけれど、捕獲石なんかと比べたら遥かにいい。
使い方は敵の全体が見渡せる場所から捕獲手裏を落とす。
それを7本中4本モンスターの体に当てればほぼ成功と言っていい。運だけどね。
そしたら弾丸か矢を空に打ち上げる。
これで作動するんだけど、これが結構めんどくさくて15分後に発動するのだ。
ゲームで15分ということは多分ゲームの中ならば倍以上かかると思っていいだろう。
それに、エリア移動してしまうと捕獲手裏の効果はなくなるのでずっと戦っていなければならない。
強い相手を捕獲する時にはそれなりの度胸が必要なわけだ。
まあ、30分程度ならば逃げ回っていればすぐな時もある。
取り敢えずは時間稼ぎだ。
右足の踏みつけ攻撃と、その衝撃をジャンプで交わしつつの攻撃。
目をつぶせれば一番楽なのだけれど…捕獲は手数が少ないほうがいい。
サイドステップやバックステップを駆使して攻撃を避けつつ麻痺矢を打ち続ける。
体が感覚的に基本動作は覚えてくれているようでとてもありがたい。
ホウジョウは体が大きい分、麻痺になるまでに時間がかかる。
また、発射しようとした時だった。
フルチャージでの発射をするためにチャージをしていると、いきなり電気で作られた球体が周りに出現した。
(あ、これやばい)
そう思った時には遅く、球体は全て私の元へと向かい、飛んできている。
これって確か、3発で死ぬやつだ。
チャージ途中の矢を発射して武器をしまう。そして全力で走る。
追尾型だから、私の体力と球体のエネルギー…切れた方が負け。
エリア移動をしてしまうと捕獲手裏がなかった事にされるからエリア移動はできない…というかまずこのステージはエリアが一つしかないステージなため逃げるもクソもへったくれもない。
スタミナゲージがどんどん減っていく。
球体もエネルギーを使い続けて小さくなっていく。
息が上がる、加速しなければ追いつかれる。
────ドォン…ッ…!!!!
音が聞こえた方を向くと、踏みつけ攻撃をしたようで衝撃波がこちらへと来ている。
「えぇっ?!?」
球体に意識を持っていかれすぎて反応が遅れていたため、真正面から衝撃波を受けることとなった。
その強い衝撃によって体は宙へと打ち上げられる。
「っ…ぃ゛……」
強すぎる風圧や衝撃に体が持っていかれた。
よりによってホウジョウの衝撃波攻撃の追加効果は鱗撃と麻痺…。
地面へと叩きつけられた体は追加効果とあまりの痛さで起き上がれない。
鱗撃という効果はモンスターが魔力を使って発動する術のようなもので、鋭い龍鱗を衝撃波と共に飛ばしてくるというものだ。
ゲームでは慣れてたから、避けられていたけど…自分がやるとなると避けるなんて無理だ。
「い…ぁ゛ぃ゛……」
球体のエネルギーが尽きたのが何よりの救いだった。
先ほど打ち上げられた時に弓を手放してしまったから、とにかく武器を手に取るところからまた始めなきゃ、
麻痺が切れるのを待つ……。
腕と足の防具はボロボロになり、装備していないも同然だ。
足の防具なんて龍鱗が突き刺さっていて装備しない方がいい。
「…捕獲手裏……まだな、の……」
やっとの思いで立ち上がり、弓を拾い上げると…目の前にホウジョウが、いる。
これは死んだな。
ゲームの世界ならばコンティニューさせてくれないだろうか?させてくれないだろうなぁ……
なんだ?
ホウジョウの口元に空気が流れて行ってる…。
これは、ブレスのチャージか。
ホウジョウのブレス、“獅子奮迅の息吹”はうざいぐらい長い。
長くて攻撃力もそこそこ高いため、とても吹かれると困るのだが…!
急いでキャンセルにかかりたいけどきっと無理だろう。
ダメージを全然与えられてないからダウンもなにもとれないし、1人じゃ削りきれない。
こうなったら、
壊れかけていた足の装備を脱ぎ捨てて全力疾走で離れる、それが今出来ることだ。
脱ごうとすると刃を立てる龍鱗がクソみたいに痛い。
普通のハンターならば基本装備ブーツなどを中に履いているから別にそのまんまでも走れる。
けれど、ホウジョウの龍鱗は基本装備ブーツを突き破り、私の足へと刺さっていた。
「こんなん…死ぬよりかましだよね。」
腕の装備はまだ使えるからとっておこう。
そして、私は足の装備を、捨てた。
さあてと…全力疾走の時間だ。
息を思い切り吹き出して走り出す。
大きめの弓が重い、でも流石にこれを捨てたらそれこそ待っているのは死だけだろう。
城の死角へと行ければ8割程度の確率でブレスは避けられる、しかし残りの2割を引いてしまうことも勿論あるのだ、油断なんて出来ない。
城の死角へと入る────
爆撃矢をチャージしながらブレスが吹かれるのを待つ。
心臓がバクバク言ってる、足が震えてる。
怖いって、体が脳に訴えかけてる。
「…っ…助けて……」
class.SSのハンターが言う言葉じゃ無いのかもしれないけどさ、怖いもんは怖いんだよ────
一向に聞こえてこないブレス音を不審に思い始めたのはこの世界の時間で10分後だった。
確かにホウジョウのブレスはチャージに時間がかかるのだが流石にここまではかからないし、いつもならこちらへと向かってくるはずなのに来ない。
「……行く、か」
こうなってしまった以上行かなければ意味は無い。
それに捕獲手裏の作動時間がよくわかっていない今、そういう意味でも向かわなければいけないと思う。
痛む足と重い腰を上げた。
走りながらホウジョウのいるであろう方向へ向かう。
もちろん矢はもうフルチャージしてある。
城の影になっている曲がり角を曲がったあたりにいるのだろうか?
でもそうだとしたらあの太い鳴き声が聞こえない。
不思議というか、不審すぎる…。
曲がり角を曲がってもホウジョウはおらず、こうなってくると最初の位置にまだいる、という事しか考えられなかった。
(なんでだろうか…いるはずなんだけどなあ)
仲間がいれば、こんなに苦労しなかったなぁ…そういえば。
初期位置へと行くと、そこにはどっしりと構えたホウジョウがいた。
こんな行動パターン初めてだ…。
と思った瞬間────
「……ぁぁぁあなぁあぁあでええぇえぇええっ!!!!!!」
いつも聞いてた声がする。
聞き慣れた、バドミントン馬鹿の声がする…!!
咄嗟に空を見上げると、飛竜種の和古龍…あれは…“ヒデヨシ”だ。
【天下統一の光軌跡龍】……。
あれがパートナーモンスターの奴は、あいつしかいない…!
ヒデヨシにまたがっているのは、蓮だ!
「かなでええぇえぇっ!!!!離れてー!!!!」
そう言うとヒデヨシの口元が神々しく金色に光り始めた。
あれは、最高攻撃力と命中率を誇るヒデヨシのブレス技、“誇り高き天下統一の喝采”…これを食らわせたらホウジョウは確実に弱まる。
大人しくバックステップで距離を取ると、ヒデヨシの口元に大きな魔法陣が何重にもなり、出現した。
その2秒ほど後から吹かれた巨大なヒデヨシのブレスは見事にホウジョウの背中を捉えた。
ブレスと共に光の気弾が全て命中していく様はまるで流星群みたいだ。
ダメージがとてつもなく大きかったのかホウジョウが悲鳴にモニタ声を上げ、ダウンする。
これは、チャンスだ。
チャージしていた爆撃矢を空へと放ち、捕獲手裏の時間をできるだけ早めようとした。
しかしヒデヨシが滑空してきているのが見えたのだ。
ヒデヨシがグルッと空中で一回転すると、親友が大鎌を出しながらホウジョウの背中へと乗ったのだ。
「待って!捕獲なの!!!」
「だいじょーぶ!!!!」
そう言うと蓮が取り出したのは、捕獲石だ。
石を大鎌の刃部分へと付ける────
初めて見る、捕獲石の力。
大鎌の刃の部分に触れた捕獲石は静かに光りだした。
少し濃い赤紫色の光が禍々しいほどに光を放って…そして、消えた。
え?…なんてあっけないのだろう。
あれが、超レアアイテムとは到底思えない。
そう考えているうちにも蓮はその捕獲石の効力が乗り移った鎌をホウジョウの背中に向けて何度か切りつけた。
ホウジョウは崩れ落ち、静かに眠りについた。
まさに雪崩のように崩れた身体が倒れた衝撃でステージが揺れる。
その大きな身体は、まさに要塞だ。
そして、あの大きな鎌を軽々と使いこなした蓮はニッコリと笑いながらこちらを向いた。
「おわ、った……」
足の力が抜けて、崩れ落ちるかのように地面にへたりこんだ。
すると、ホウジョウの背中から下りてきた蓮がこちらへとかけてくるのが見える。
「奏っ!!!!」
「……あり…がとう、蓮…」
声が震える。
呼吸も上手くできないし、疲労感も激しい。
「傷が…」
覗き込んで来た顔は明らかに焦っているようで、ガチャガチャとバッグから何かを差し出してきた。
それは、小瓶でうっすらと緑がかっている液体が入っている。
色的に…回復用の薬だろうか?
もう体力が限界にほど近くなっていたため、味が少し心配だが少量を口に含んだ。
あまりの苦さとえぐさに吐き出しそうになった。
なんだこの青汁に雑草混ぜたみたいな味は…、
割と本気で雑草を食べたような酷い青臭さとえぐみが舌を殺しにかかってる。
そして草などの独特の苦味が後から来た。これじゃまるで毒物だ。
しかし、半分開きかけた口元を蓮が勢いよく手で塞いだ。
塞ぐ時の勢いが良すぎて歯に腕装備の鉄の部分が当たり「っ゛ん゛っ!!??!?」と意味のわからないうめき声が喉から出た。
「…っ……!!!!ご、ごめんっ…!!。」
苦い、苦すぎる。
良薬は口に苦しとはこの事なんだろうな。
蓮、お前の笑いをこらえた表情もなかなかの苦さだぞ。
文末に(憤怒)付けるぞ。
必死の思いで飲み込んだが、喉付近にえぐみが溜まって気持ち悪い。
「それ、全部飲んで?回復しないよ?」
半笑いの蓮に言われたがその顔で言われてもイラッと感しか出てこないだろう。
「ま、じか……」
全部飲んで?という言葉に思わず溜息が漏れたが、蓮が用意してくれたんだから飲まないわけにも行かない。
一気に液体を煽ると、舌の感覚が麻痺する程には苦かった。
しかし、先程までの疲労感などは軽くなったため回復したんだろう。
「蓮は、なんでここに?」
一番の疑問だ。
「ヒデヨシ使ってきたんだよ」
「交通手段の疑問じゃなくてだね。」
天然かっと心の中でツッコミを入れたが蓮は確かに天然だった。
「あ、あぁそっちね。
なんかね?俺が道化龍ピエロット倒したら、ヒデヨシが背中に乗せてくれて…ここに来たの。」
「なるほどね…。」
ヒデヨシと蓮が寄り添っているのを見ると、本当にパートナーだなぁと思ってしまう。
そんな姿が、少し大人びて見えた。
呆然とヒデヨシを見ていると、蓮が何かに気づいた素振りを見せてから、その方向を指した。
「奏、あれ…」
その方向へと視線を向けると、真っ白な光がそこには存在していた。
「なに、あれ…」
「あれさ…あれをヒデヨシに乗って、通ったらホウジョウの特設ステージの上空に来たんだよ、俺。」
「えっ……、つまりは瞬間移動してきたってこと?」
「いや、違うくてどっちかというと違う空間を通って近道したって感じだと思う。」
「じゃあ、あれに入れば…」
「圭人や昌辰と合流できる、かな?」
互いの視線が合った。
きっと同じことでも考えたんだろう。
「行こう!」
「うん!」
ヒデヨシに蓮が何かを告げたようで、ヒデヨシは空高く舞い上がり何処かへと行ってしまった。
誇り高き天下統一の喝采…まさにかっこいい和古龍だ。
走りながら2人でその光の中へと飛び込む────
視界に広がったのは真っ白な空間だ。けれど何か光を感じる。
足の痛みなんて我慢すればきっとどうにかなるだろう…。
どうか、離れた2人の元へと繋がっていますように。