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1連撃目 ~合わさり織り成す百獣の王~

“グォウァ……ッ…”

 なにかの声が聞こえる。

 人とはかけ離れたような、太い声で目が冴えた。


「い、てぇ…っ…」

 鈍い痛みに耐えながら上半身を起こすと、ずっしりとした重みが体にのしかかった。

 軽く周りを見渡しても昌辰の姿は無い。

「しょうたっ…!!」

 探しに行かなきゃ。

 必死の思いで立ち上がると、自分の変化に気づく。

「おも、い……っえ!?」

 黒と青のコントラストが綺麗な、見た事のある鎧を着ているのだ。

 鎧、もとい防具だが。

「これ、俺の防具…」

 俺がダブルガンナー使いになってからずっと使い続けている防具だ。

「どういうこと、だ…?」

 確かに防具は重いが機動力があり、通気性も良い。何よりも動きやすくて最適だ。


 まさか、と思い腰付近を見ると使い古したかのような俺のガンがそこにはあった。

 あまりの精巧さに、息を飲む。

「すげぇっ…Dead(デッド)Limit(リミット)Operation(オペレーション)のアレンジ版…」

 手に取ってみると、ズッシリとした感覚、しかし片手で持てるような重さだ。

「…やべぇっ…超楽しい!」

 ここは、あの4人でやっていたゲームの中なのでは!?


 ゲームの様にやってみようと思い標準を合わせる。

 すると、視界が軽くだけれど遠くまで見えるようになった。

 俺の装備しているアクセサリーの魔導片眼鏡(まどうかためがね)のおかげだ。

「おおっ、この機能まで」

 ぐるりとそのまま周りを見渡す。

 遠くまで良く見えるようになる魔導片眼鏡のおかげで狙撃も出来る。


 ここがあのいつもやっているゲームの中だとしたら、このステージは多分【旧王城庭園 森林】だろう。

 古びてコケや蔦が生い茂っている石造りの城に、背の高い木々達からして間違いないかな。

「だったら、ここはエリアKだから…」

 全エリアLまであるが旧王城の中に入れるのはエリアKだったためすぐにわかる。

(これ、クエストかな。だったらクエスト確認出来るかな…)

 防具の腰元についている小さな小物入れの中を探ると、紙のような感覚を見つけた。

 引っ張りだしてみればそれは見事にクエスト依頼の紙だ。

 そこには、クエスト受注者という欄に俺のハンターネーム、“KATE(ケイト)”と書かれている。

「んー…?

【“合”わさり織り“成”す 百獣の王…旧王城に降臨!】…って」

 と書かれている紙には報酬等しか書かれておらず、肝心なモンスターの名前などは一切記していない。

「道化獣…?んなの居たっけぇ…?」

 もしかしたらC.classクエか?

 だとしたらやったのはだいぶ前になっちゃうし、覚えていないだけか…?

「…まあ、この装備なら平気かな。」

 実際この装備はA.classの装備だし、CとかB.classのモンスターの攻撃なんかならば全然喰らわない装備だ。

 取り敢えず探索はしないといけないし、探索をしたい為エリアを移動することにした。


 隣のエリアJに来ると見た事のある大きな体が視界に入った。


 いきなりの事で焦ったが、こちらには気付いていないようで多少の観察の時間を取れる。

 獅子のような体、牙や爪…そしてサソリのような尾…。

「…まさか……っ」

 冷や汗が頬をつたう。

 あれは、俺が初めてクエスト失敗したモンスター…。


「合成獣類の、スコルプレオ………」


 体が緊張して一気に固まるのがわかったし、負け続けた時の記憶がある這い上がってくる。

 嫌な思い出すぎて今の俺の顔は苦虫をかみ潰したような顔になってるかもしれない…!!

 それぐらいこのモンスターにはいい思い出がないんだよ。


 ……この距離ならば、攻撃は当たるけれども発砲する勇気など到底俺にはない…無いというか体が固まっててなんにもできないし。

 やばい、これはどうすれば……。


 5分程度の長考の末、一つの回答にたどり着いたわけで、というかそれにしかたどり着かなかった。

 その回答は、やるしかないってこと。

 そうだ俺がやるしかないんだよ、考えて見ちゃうと…。

 俺がこの世界に来てるならば、きっと昌辰だって来てるはず。

 下手したら違うエリアにいるだけかもしれないし、もしかしたら違うクエストに飛ばされたのかもしれない。

 ただの根拠のない予想だけれど、でもだったら俺が早く行かないと意味がないしまずい。とてもまずい。


 やらなきゃ、いけない。


 ガンを左右につけているホルダーから取り出して片手で装填をする。

 ヒュッと息を吐くと、鼓動が早まっているのを感じたんだ。

 ゲーム内なら、身体能力も上がってるはず────

 そう信じて、両手にガンを握った。


 覚悟を決めろ。

 自分を信じろ。


 スコープ機能で頭を狙い、発砲。

 見事に当たったのかこちらを向いた。

『グォウァアァアァアアァァアッ!!!!』

 けたたましい咆哮がエリア内に反響する。

 うるせぇ…!


 攻撃しなければいけない。攻撃を3発入れた後に回避行動を…!回避行動出来るかな…。

 やばい、頭の中が沸騰しそうなぐらいの焦りが俺を襲ってる。

 迫り来るモンスター、未知への恐怖、そしてその一寸ずれた場所には死が待ち構えているのだろう。


「俺はまだ!死なない!!」


 前転を駆使した回避行動は成功。

 あとはジャンプ攻撃と特殊攻撃…!

 体の中にプログラムされたかのように動けるし、体もなにか軽く感じる。

 次に来る攻撃は自分自身が嫌という程このモンスターと戦ってきたから覚えてる。


(確か、右脚なぎ払いの次は…噛み付きか飛びつき…)


 と記憶を頼りにやっていけば簡単。

 左脚なぎ払いが来た時にジャンプ攻撃モーションをすれば、出された脚を台にしてモンスターの上空へと行ける。

 それにガンナー、ダブルガンナーのジャンプ攻撃モーションは上空から相手に向けての連射。

 ダブルガンナーでこの武器ならば最大30発は打ち込めたはずだ。


「はぁっ……はぁ…っ……」


 楽しい。

 こんなドキドキ感何年ぶりだろう。

 未知への恐怖と戦いながら未知への探究心が疼く感じ…!

 息は切れてるし、スタミナも減ってる感覚がわかる。

 そんな探究心が吉と出て、予期せぬ良い結果が目の前に提示された時の感じだこれ…

 一度だけこの感覚は味わった事がある、そう────


「スコルプレオ…お前を倒した時だぁ!!!!」


 左脚なぎ払いが繰り出されたのと同時にジャンプ攻撃モーションをすれば、俺の体が中へと舞って見事にモンスターの背中が一望できてる!


「…おぉ…っ!!?」

 連射をすれば血飛沫のエフェクトがそこら中に見えた。

 きちんと当たってる!!!!

 着地までちゃんとに決めれば、あとは特殊攻撃モーションだけだ。


「…っいっでぇ!!!!」

 しかし着地には見事に失敗。

 顔面から地面にダイブしたため、ヘルムの前部分に顎をぶつけた。

 頭の次に付いた掌は地面との摩擦によってヒリヒリしている。

 顎を打ったため頭がクラクラとする。

 すると、それを見計らったように尾で攻撃を仕掛けてくる…!


 立ち上がった瞬間に尾が当たる。

 体をほんの少し右へと少らしたから首元への直撃は免れたけれど…肩と頭を守っていたヘルムに大きな尾がヒットし、音を立てて壊れる。

 尾が触れた部分がジュワッ…!!と言って溶けだすのを見て、悪寒が走ったんだ。

 それだけでも今の俺にとっては大ダメージなのに、あまりにも衝撃が強すぎて後ろへと吹っ飛ばされる。


「ぐ…っ……邪魔くせぇっ…!」

 少々手荒だが使い物にならなくなったヘルムをその場に投げ捨て、モンスターの方を向くと、大きく振りかぶった右足が俺のことを狙っていた。


グオォオオオォオオァアアァァア!!


 緊急回避じゃ間に合わない、そう踏んだ俺は、バックステップで避けるが風圧で後ろへと飛ばされた。

 これまで感じた事すらないような痛みが全身を駆け抜ける。

 後ろへと吹っ飛ばされたことでエリアの木に背中を打ち付けたのだ、肺が潰れたって表現なみに痛い。

 頭も打ち付けたため、後頭部に鈍い痛みがじんわりと滲む。

 ヘルムを外したことを心の底から後悔したが、後悔先に立たず…だ。


「…っお゛ぇ……っ…」

 喉元から這い上がってきた鉄臭い液体が口の中に広がる。

 不味い、と思ってまとめて口から飛ばし出すと赤黒い血が旧王城の石造りにへばりついた。


 classC帯ならとか、classB帯ならとか…そんなの関係ねぇ、攻撃が当たると激痛だ。

 体力ゲージとかが見えないから自分の限界がわからない。

 今の俺の体力てどれだけなの?

 ゲームなんかじゃない、この痛みは本物なんだ…きっと。

 架空の世界なんかじゃない。言うなればここは異世界だろう。


 しかし、そんな満身創痍になりかけた俺の視界に

Party(パーティ)Mode(モード)!!FULLCHARGE(フルチャージ)!!】と光り始めたガンが見えた。


 ダブルガンナーのPartyModeはモンスターの動きを×0.25まで減速させる。

 15秒間リロード無しでの連射が可能になり、1発の攻撃力も×1.80倍になるというものだった。


 てかこれどうやって発動するんだ。

 わかんねぇよ、ゲーム機ならLボタン押せば発動できたけどどうするんだよ。

 思い出せってことか?なんだ?

 思い出したけど使用キャラが叫んでるだけだぞあれ────────


 叫べってこと?


「…くそ恥ずかしいわそんなもん」

 流石に恥ずかしすぎる。

 叫びながらなんて万が一近くに奏や蓮、昌辰がいたらどうする、俺一生笑われるぞ、おもに昌辰に。


 まあ、こうなったらヤケクソだ。

 死ぬよりも叫んで生きたい。


「デッドリミットオペレーション!!

Partymode!!!!」


 そう言うと周りが暗くなり敵の動きがスローモーションにかかったようになる。

「これで、勝つ。」

 無我夢中で撃った。

 弱点の額に標準を合わせて連射する…そうすれば勝てる相手だからってのもあるけどそれが一番楽だし。

 しかし実際戦ってみると相手の迫力は凄まじいな。

 ただ銃声が響く15秒間。

 俺の中が空っぽになるような、その時間は気分のいいものではないな。


 そして、終わる────15秒


 等速で動き出したモンスターは一定ダメージ量を超えて仰け反った。

 仰け反り時に来る攻撃は回転尻尾払いだったから、ジャンプ攻撃モーションを使って確実にダメージを与えていけばもう勝ちだ。

 次こそは失敗しない、要はタイミングだ。

 20回以上挑んだ時に習得した上級者向け技だったなぁ確か…

 尻尾を使ってのジャンプ攻撃はなかなかタイミングが難しいとされていて、未だにできないclassSもいるだかいないだか。


 初めて出来た上級者向け技だった。


 ネットで調べた時に本当に驚いたんだよ。

 いつの間にか自分がその上級者向け技を習得していたら誰でも驚くでしょ?


 尻尾払いが来る。

(ここだっ…!!)

 尾を一瞬だけ踏んでまた空中へと飛ぶ。

 背中ががら空きだ、面白い程に邪魔をするものがない。

 リロード済の弾丸をこれでもかと打ち付ける。


 後は、着地…だけ!

 迫り来る地面を見るとさっきの事がフラッシュバックして来る。

 失敗すれば、俺は確実にまた攻撃を食らって死ぬ。

 着地を下手に失敗しても足をくじいて逃げられなくなるだろう。

 足を付くタイミングさえ、しっかりとしていれば…!!


(ここ、だっ)


 地面へと足をつけると自分の体の衝撃がでかくて少し痺れたが、きちんと着地できた。


 スコルプレオを見ると、雄叫びを上げて倒れていた。

 これは、勝ったのか。

 心の底から嬉しさがにじみ出てくる感覚がたまらなく気持ちいい。

 スコルプレオは動かなくなった。


 …そういえば、初めて挑んだ時はclass昇格試験だったっけ。

 俺自身、元からこういうゲームが得意だった。

 負けないだろうなんて考えてたし、それまでのクエストでも死んだ事なんて無かった。

 だから、『また楽勝だろ』なんて考えで挑んだらボロボロで負けたな。

 何回も、何回も、お前に負けたな。

 他のモンスターに勝てなくなるとお前のクエストに行って装備を揃えた。


「あっ…そうか。

『君達の大切な記憶を引っ張りだしていこう。』って…。

まさか、この事?」

 咄嗟に口に出した言葉に反応するかのように、スコルプレオが動いた。

「えっ…!?」

 まさか、死んだふり!?

 でも死んだふりをするモンスターじゃないし…。

 またガンを取り出し、て────


“ガゥゥ……”

 モンスターは唐突に近づいてきて大きな(たてがみ)を使って俺の頬に擦り寄った。


「え、えっ…」

 なにこれ、なんなの。

 おもいだせってことなの?なんなの?

 思い出せ…思い出せ自分…!!

 ギュッと目を瞑ると視界が真っ暗なはずなのに閃光が走った。

 何かが脳内から引っ張りだされたみたいな激しい感覚に目の前がバチバチってはじけた。


「…お前、か」

 思い出した。

 こいつは俺の初めてのパートナーモンスターだったんだ…

 名前は…レオーネ、だった気がする。

 class.C昇格試験で、勝てないからって何十回って行っていたら…パートナーモンスターになったんだ。

 あのゲームは20回以上、同じクエストに行くとそこから5%の確率でそのモンスターがパートナーになるってシステムがある。

 回を重ねればその確率は上がる、最高確率は120回行って50%…だったかな。


 初めてのパートナーで、嬉しくてA昇格試験まで使っていたのに────


 あぁ、そうだ。

 俺がこいつを、捨てたんだ。


 A.classモンスターを手に入れて、パートナーをこいつから変えて…モンスターファームからも逃がして────


「お前、レオーネ…か?」

 他のスコルプレオと比べたら全然サイズも小さい。

 体力も低いし、攻撃範囲も勿論大きくないから小さい。

 けれど俺は使ってた、クエストに行って、Partymodeの時は呼び出してた絶対。

 頬擦りをして来たから、きっとレオーネなのか…

「レオーネ…お前、また会えたなぁ」

 こんな世界に来たからこそ、会えた。

「お前…っ……でかくなったなぁ…」

 懐かしい、懐かしい。

 この感覚は何なんだろう。

 スコルプレオを初めて倒せた時とは全く違う、でもそれよりも温かく…優しい感覚。


「ごめんなぁっ…!!レオーネ…!!!!」


 気が付けば温かい感情は、俺の頬を静かに伝っていたのかもしれない。

 冷や汗なんてものとはかけ離れたそれを、優しく拭ったのはレオーネだった。


「レオーネ…お願いだ…っ……。

もう、誰も傷つけたくない…お前のことも、仲間も…」

 目の前のclassと強さに溺れた俺が悪かったのかもしれない。


「俺の仲間の場所に、連れて行って。」

 白い光が俺とレオーネの目の前に現れた。

 この光の奥に何があるのか。

 この先に俺の友人がいるのか。

 そんなのわからないけれど、行動しないとなんにも始まらないんだ。

「レオーネ…行こうぜっ…!!」


 光の中へと飛び込んだ────お願いだから、友人の元へ…連れて行って。

 



【“合”わさり織り“成す” 百獣の王!旧王城に降臨!】

クエスト内容の確認。

*必須条件

・合成獣種 スコルプレオの討伐。


*追加報酬条件

・合成獣種 スコルプレオのパートナー化。



【class.Aa HunterKATE,Questclear

 ……Congratulation!!】

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