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夢の後に  作者: 中島 遼
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対策会議4

「おいっ」

 みどりんの言葉にはっとなり、萌は慌てて手の熱を下げるように努力した。

 一瞬、細川に対して強い殺気をほとばしらせてしまったのだろう。

(大丈夫)

 逃げおおせたものの携帯を落としたとかで、電話ができないのかもしれない。

(私は悲観しちゃだめ)

 丹田に力を入れ、萌は前方を見据える。

「いずれにしても、村山さんはまだ山にいるか、あるいは細川と一緒にいるはず」

「逃げ出すことができたとして、殺人事件の容疑者にしないようなアリバイもいるよな」

「……その時間に山にいなかったことにする必要、か」

 萌が暁に視線を移すと、彼はじっと高津を見つめていた。

 そのまなざしの強さが示すもの。

 岩岳からテレポテーションで二人が高津の自室に戻った時、高津はしばらく昏倒し、意識を失っていたという。

 その間暁は騒ぎもしないで、高津に言われた通りにずっと村山に思念を送り続けていた。

 高津が目覚めてからも、彼が自転車に乗れるほど体力が復活するまでの間、暁はじっと耐えていた。

(暁はわかってる)

 村山を救うことができるのが唯一高津だけであることを。

「暁、ジュースを飲みなさい。チョコレートも食べて」

「でも……」

「村山さんを助けるときに、お腹空いたから力が出なかった、なんて言い訳、しないで欲しいの」

「わかった」

 暁はジュースを飲み干し、チョコレートを口に入れた。

「あたしのも飲んでいいよ。喉、乾いてるんでしょう?」

「ありがと」

 萌もチョコレートを取り、包みを剥がして口に入れる。

 そうすると少し落ち着いた。

(……村山さんも、だからチョコが好きなのかな?)

 それ以上考えると辛くなるので、萌はあえてみどりんを凝視する。

「村山さんは瀬尾さんからの電話を受けて、暁が行方不明だと知ったのよね」

「ああ」

「もし、暁の失踪が誘拐ではなかったなら、普通は手分けして探しに行こうとするはず」

 みどりんが懐疑的な眼差しを演出するためか、触手の先に一つだけ目玉を出した。

「どこに?」

「そりゃ、暁がいそうな場所でしょ」

「例えば?」

 萌がうーんとうなると、暁がこちらを見た。

「僕、おじさんの家に一度一人で言ってみたいって言ったことあるよ」

「決まりね」

「だが、それなら涼は車で探しに行こうとしないか?」

「あ」

 またまた思考の壁だ。

「車で行きにくい場所とかはどうだ?」

「じゃ、それで村山さんは歩いて暁を迎えに行った」

「馬鹿かお前は」

 みどりんが触手の先の目玉を膨らませた。

「どこにいるか、こっちに向かってるかどうかもわかんないのに、迎えには行かないだろう。テレパスってばらす気か?」

「やめて、目玉が膨れるの気持ち悪い」

 言いながらも、萌はみどりんの言葉を認める。

(……だったら、迷いそうなところを念のために探してみるとか)

 みどりんが残念そうに目玉を収縮させた。

「で、涼が歩いて暁を迎えに行ったってのが駄目となると……」

「むしろ、村山さんの方に迎えが来た、って感じ?」

 それは現実そのままなのだが……

 萌は頭に浮かんだ考えを消そうとした。

 でないと、辛さのあまり心臓が止まりそうになる。

「おい、そのことなんだが」

 しかし、みどりんが萌の考えを引き継いで言葉に出そうとした。

「やめて、みどりん」

「目的、忘れんなよ?」

 萌は再び腹に力を入れた。

「わかった。言ってみてよ」

「やつらに掴まったとしたら、涼はただじゃすまない。掴まってなかったとしても、山の中を装備なしにほっつき回ってたら、お前も経験あるだろうがぼろぼろになる」

「それで?」

「架空の人間が涼を連れて行ったことにするのさ」

 暁が首をかしげた。

「みどりんは何を話してるの?」

 萌もこの会話の行きつく先に気づいていたので、暁の方をじっとみる。

「村山さんは多分、怪我して帰ってくる」

 びくりとし、うつむいた子供の肩に、萌は手を載せる。

「でも、それを赤尾や細川とは何の関係もない怪我だって言わないと、村山さんが殺人犯人にされちゃうかもしれない」

 暁はさらに震えた。

「どうしたらいいの?」

「暁に嘘をついてもらわないといけないかも」

「……なんて?」

「暁は一人で村山さんの家に歩いて行こうとしたけど、遠くて無理だった。それで北の山を越える最中にヒッチハイクしたの」

「ヒッチハイクって何?」

「知らない車にお願いして、一緒に乗せていってもらうことよ」

「そんな怖いことできないよ」

「でも、疲れて動けなくなったから、仕方なしに暁はそれをやった。ところがその車の知らないおじさんが暴力団とか悪い人で、暁は掴まっちゃったの」

 暁は目をこらしてこちらを見つめた。

「それで?」

「親切そうに、どこに行きたいのかって聞くから、暁は村山さんの名前を出した」

 みどりんが言葉を止めた萌の代わりに触手を二本上に挙げる。

「そしたら悪い奴らは病院まで行って、暁を帰して欲しければお金をよこせって言った訳だ。涼は明らかに金持ちだし、強請ったらお金ぐらいぽんと払いそうなタイプだろ?」

「みどりん、言葉は選んでちょうだい」

 触手の先に、馬鹿にしたように大きな目玉が現れる。

「暁が辛いのはわかってる。だが、今、一番辛いのが涼なら、暁はそれぐらい我慢すべきだ」

 泣きそうな顔で暁は頷く。

「……それで?」

「それでだな、涼は奴らに脅されて病院帰りに車に乗せられた」

 みどりんの目玉がこちらを向いたので、萌は言葉を継ぐ。

「そしてどっかわからない場所で暁に会って、暁を逃がしたのはいいけど、村山さんだけまたどっかに連れて行かれちゃった……とか?」

「どっかわからない場所、ってのはどこだ?」

「そこが問題なのよね……」

「いっそ、その辺りは涼に任せちまえば? あいつなら適当に辻褄会わせるだろうからさ」

 みどりんがそう言った時だった。

 高津が痙攣でもしたように身体をびくっと震わせた。

「圭ちゃん?」

 高津は目を見開き、そして起きあがろうとして再び倒れた。

「急がないと」

「え?」

「村山さんが危ない」

 ぞくりとしたものが身体を這い登る。

「萌の言うとおりだ。夕貴がっ! 夕貴を……」

 萌は携帯を取った。

「おい、まだプランは完全に練れてないぜ?」

 みどりんが止めたが、萌は電話をプッシュする。

「時間がないみたい。優先順位はこっちが先よ」

 萌は瀬尾に電話した。

 暁を迎えに来てもらうために。

 夕貴を連れてきてもらうために。

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