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夢の後に  作者: 中島 遼
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岩岳2

「圭介っ、聞こえるかっ!」

 突然の声に高津は跳び上がる。

「ずっと、聴いていたよ、どうなってんのか全然わかんないけど」

「助けてくれ」

「ええっ?」

 落ち着いた村山の声とは相反する台詞に高津は動揺する。

「このままでは暁と俺は岩岳で殺される、あの役行者の祠の裏にいて、今にも銃で撃たれそうになって……」

 具体的な場所名を聞き、高津の目標はさらにはっきりした。

「手を出してっ!」

 以前、村山の書斎に飛び込んだときと同様に、高津は目の前のそれをただ掴む。

「っ!」

 しっかりと掴まれた手に、高津は涙が出そうになった。

「村山さ……」

「しっ」

 村山は高津の手を握ったまま、前に走った。

 状況がわからないので高津も一緒に走る。

 そこは細い道だった。

 暗いのでわからないが、右手の方に崖らしい岩壁がある。

 そこでようやく村山は手を離し、走る速度を緩めた。

(え!)

 いきなり重い塊が村山から手渡される。

「暁、しっかり圭介に掴まってろよ」

 ぎゅうっとしがみついてきた子供を、思わず高津は抱きしめ返した。

「あ、暁っ!」

「圭兄ちゃんっ」

 と、村山が高津の肩を掴んだ。

「お前、今までどこにいた?」

「せ、瀬尾さんから連絡を受けて、暁の新しい家に向かう途中で……」

「誰かに見られなかったろうな?」

「それは大丈夫だと思う。」

「ならいい、じゃあもう一つ聞くが、それまでは何をしてた?」

 一体どういうつもりか、村山は立て続けに質問してきた。

 高津の緊張をほぐすつもりなのか。

「え、一応受験勉強……」

「何だ、てっきりあのベッドでぐうすかと寝てるんだと思った」

 少し高津は焦る。今、そんな話をしている場合ではないだろうに。

「そんな話はいいから……」

「いや、そこが今回のキーポイントだ

「え?」

「当ててやろう、お前の今日の布団カバーは青のペンギン柄だろ?」

「何でペンギン?」

「いや、そんな気がしたから。そうじゃないのか?」

「今日のは緑の縞々で……」

「そうか」

 と、その途端、彼は足をすくわれた。

「う、うわああっ!」

 明らかにそこは崖で、そのまま高津は下に落下し……

「ぐうっ!」

 ばふっと言う感触は以前と同じ……

「け、圭兄ちゃんっ!」

 下敷きになっている暁を見て、慌てて高津は横に避け、そのまま立ち上がろうとしたが、足に力が入らずにそのままベッドに倒れ込む。

 前回と同じように酷い疲労感に気が遠くなりそうだ。

「ね、圭兄ちゃん、ここ、どこ?」

 再び暁の不安げな声がしたので、布団に頭をもたせかけていた彼は強いて顔を上げた。

「ひょっとして、これって」

 廊下から漏れる光に浮かぶ布団を見つめ、暁は再び呟く。

「緑のシマシマ?」

「うん」

「圭兄ちゃんの部屋?」

「……うん」

「おじさんは?」

 怯えた声に、高津は霞む目で暁を見る。

「……来なかった」

 正確には高津が一度に運べるのが一人だと知っているから、そこに残ったのだ。

「だって、そんな……」

 ぼんやりとした光の中、暁は端から見てもわかるほど震えた。

 そうして高津に抱きつく。

「迎えに行ってくれるんだよね?」

「うん」

 それだけのスタミナが戻るのは、経験からすると翌日だったが、そんなことを言っている場合ではない。

「暁、お前はとにかく呼びかけてくれ。そして、村山さんが諦めないように言って」

 暁はしっかりと頷き、泣きそうな顔で宙を見上げる。

 心の中で声を張り上げているのだろう。

(俺も何とか復活しなきゃ)

 腕も持ち上がらないほどくたびれていたが、それでも高津はポケットから携帯を取り出す。

 そうして村山に発信する。

 だが、電話は繋がらない。電波の届かない所にいるか電源が入っていないという女の声に、高津はぎりぎりと奥歯を噛んだ。

(畜生!)

 村山は最初からそのつもりで高津を呼んだのか。

「絶対、助けるから」

 激しい胸騒ぎはピークに来ていた。

 あの日の暗い瞳に向かって拳を握る。

「絶対に、逃がさない」

 額から汗が流れた。

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