接触2
……と、
「!」
突然、彼の家から百メートルほど離れた処にある宅地の塀の側から、街灯に照らされて青ざめたように見える赤尾が駆け寄ってきた。
「助けてくれ」
「何だと?」
「あんたが来てくれないと、子供が殺される」
「……子供?」
瞬時、身体が冷えた。
「瀬尾暁だ。彼が細川に捕まった」
「!」
村山は首筋に意識を残しながら、ポケットの携帯を取りだした。
そして、瀬尾の家にかける。
しかし誰も出ない。
「深崎に騙された。あいつは前から細川についていたのに、俺たちの仲間の振りして一緒に行動してた」
村山は眉をひそめた。
その可能性については考慮したことがある。
しかし依頼した興信所の報告では、特に細川と深崎がコンタクトを取っている様子はないということだったので積極的に疑うことはしなかった。
「……だから細川には俺たちの行動は筒抜けだったんだ」
村山は赤尾を無視して瀬尾の携帯にかけた。
「もしもし」
「先生っ!」
相手の声が震えている。
「暁の声がしたんですね? それで電話を?」
村山は唾を飲み込む。
「……暁に、何が」
はっと息を呑み込む声がした。
「先生は今どこにいらっしゃるの? そして、何故こちらに電話を?」
「俺は家に帰る途中で赤尾さんに会って、暁が行方不明と聞いたんです」
「じゃ、あの子が無事かどうかは……」
何かを言いかけた瀬尾は途中で言葉を切った。
「夕貴は何か暁から聞いてますか?」
「ただ泣くばかりで何も」
夕貴が泣くなどただごとではない。
「瀬尾さん、警察には?」
「言ってません。後藤さんが少し待つようにとおっしゃって」
「後藤?」
赤尾を見ると、彼が頷いたので村山は腹を決めた。
「夕貴を決して側から離さずに。できれば高津に連絡を取ってください、あいつはきっと役に立つから」
「先生は?」
「赤尾さんが話があるみたいなんで、それを聞いてからまた連絡します」
携帯を切って赤尾を見ると、彼はもう一度頷いた。
「事実だったろ?」
「何があった?」
彼のシフト表では今日の下校時見張り当番は後藤だった。
元々、高津が深崎を何となくうさん臭がっていたため、彼が内勤の会社員であることを理由にシフトには入れてない。
「後藤が今日、社内の会議で本社だったんで、深崎に交代を頼んだらしい。そしたらあいつはガキを連れて細川のところに連れて行ったんだ」
ということは下校中の一瞬。
暁が村山にSOSを発信するとしたら……
(……くそ)
その時間は検査でX線の通らない部屋にいたことを思い出す。
「誘拐が夕方なら、どうして今頃それを俺に教える? それに深崎が裏切ったとしてどうしてそれをお前が知ることができる?」
赤尾はこちらを伺うような目で見てから、道を歩き出した。
「……子供を返して欲しければ、あんたを連れてくるようにと連絡があったんだ」
「俺を? いつ?」
「誘拐されてすぐ。ただ、騒ぎを大きくしないようにあんたが普通に病院を出るのを待てと言う指示だった。だから俺はこんなところに何時間も突っ立ってなきゃならなかった訳さ」
「夕貴については何も言っていないな?」
「ああ。そこが不思議ではあるんだが、指定はあんただけだ」
赤尾は道を曲がった。
「どうする? 行くか?」
村山は肩をすくめた。
「どこに行くかを聞いてから決めることにするよ」
赤尾は数歩歩き、停まっていた車の側でこちらを振り返る。
「俺も行き先は知らない。この車にあんたと一緒に乗るようにと指示されている」
車種、年式全てに見覚えのあるダークグレーのワゴン車の後部座席を赤尾が開けると、車内にオレンジのライトがついた。
運転席に座っていた男がこちらを無表情に見つめる。
(……深崎、か)
思えばこの男は村山の前で、ほとんど口を効いたことがなかった。
後藤や赤尾と話をしていてもあまり彼の話題はでなかったので、人柄については興信所のデータをそのまま信用した。
高校、大学と特に問題もなく、普通に卒業している。
会社での勤務態度は真面目であり、誰かとトラブルを起こしたこともない。




