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夢の後に  作者: 中島 遼
36/61

瞬間移動5

「っ!」

 最初に顔に当たったのは布団。

 そしてそのあとに来たのは背中に重い衝撃。

「ぐえっ」

 痛みにのけぞり、布団に顔を埋める。

「あいてて……」

 だが、背中の重みが不意になくなったことに驚いて高津が寝ころんだまま振り向くと、彼と同じように驚愕した表情の村山と目があった。

「……って、て?」

 とりあえず言葉を出すと、茫然とした表情の相手も何か言いたげに口を二三度開け閉めする。

 高津はようやくの事で立ち上がったが、膝に力が入らずにしゃがみこむ。

「おい、大丈夫か?」

「……う、うん」

 そっと助け起こされ、慣れた手つきで手早くベッドに寝かされる。

「どこか痛むか?」

 高津は強ばる口を無理に動かした。

「いや、疲れただけ」

 そうして村山が目の裏をみたり、脈をとったりするに任せた。

 目眩自身は軽い立ちくらみ程度だったが、全身に倦怠感を感じて高津は目を閉じる。

「一応、お前をお前の家に送り届けるという命題は計画通り達成したようなんだけど」

 重い瞼を強いて開けると、周りを見回す村山が見えた。

「ひどいよ」

 机に上った後、村山に床にたたき落とされるところだったのを思い出して高津は膨れた。

「心臓マヒで死んだらどうする気だったの?」

「それよりは顔面打撲の可能性の方が高かった」

 この手の話で勝負しても勝ち目はないと思い、高津はとりあえず当面の問題に立ち返ることにする。

「でさ、それと何で村山さんがここにいるのさ?」

「そこなんだが」

 彼は気弱そうな顔で高津を見下ろす。

「俺にもわからん」

「はあ?」

「お前が床に落ちる瞬間、テレポテーションせずに頭から激突したらまずいと思って、手を伸ばして肩を掴んだところまでは覚えてるんだが」

「……ひょっとして、一緒についてきちゃったとか」

「それしか考えられないのは確かだ」

 彼は腕組みを解いた。

「という訳で、もう一度、窓から飛び降りてもらえないだろうか」

 高津は仕方なしに半身を起こそうとしたが、あまりの倦怠感に再び布団に突っ伏す。

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫だとは思うんだけど」

 少し荒い息を吐き、高津は村山を見上げた。

「何か部活でブレイクなしで三十分間ダッシュさせられた後みたいにだるい」

「本当に疲労感だけなんだな?」

「うん。別にどっかが痛いとかそういうのはない。ただ、疲れてるだけ。多分、萌が熱線放った後のあの感じがこれじゃないかな」

「……ってことは、今はテレポテーションは無理?」

「ごめん、この状態で飛び降りても、地面に激突するだけのような気がする」

「短時間には二回が限界ってことか。それとも荷物があると駄目なのかな」

 村山は考え込んだ。

「……困ったな」

「何が?」

「家にどうやって帰ろうかと思って」

「タクシー呼ぼうか」

「お前の家の人にばれないように部屋を出るって課題がある」

 高津は頷く。

「廊下を通るときには、俺が何とか誤魔化すよ」

「そんなにふらふらでは歩くの、大変だろ?」

「……萌の経験から考えて、あと十分ぐらいすれば立つぐらいは何とか」

 村山はさらに困った顔をした。

「実は、もっと大変なことがある」

「お金なら貸すよ?」

 村山は自分の足下に目を移す。

「……裸足なんだ、俺」

 高津は思わず吹きだした。

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