性転換
城に戻り俺はリアナと先生と一緒に謁見の間にいた。
俺達の他に謁見の間にいるのは、バーダッツと王様だけだ。
ここで何をしているのかと言うと、先のことをバーダッツと王様に説明していたところだ。
先生の話によると、最初にリアナを奇襲した兵が城の前で待っていても誰も来ないことを不思議に思って森に戻ると、そこで仲間の死体を見つけたそうだ。
慌てて森の出口で俺達を待っていた先生の所へ行き、その事を話してそれぞれの行動をした。
先生は俺達を探して、兵は仲間の遺体回収をしたらしい。
そして先生は俺達を見つけて城に戻り、兵も先程帰ってきた。
「なるほど、そう言うことが有りながら良く無事に帰ってきた」
「はい、全てラスティのお陰です」
「そうか。ラスティ、護衛初日にこんなことがあってしまって、すまないな。だがリアナをよくぞ守ってくれた、礼を言うぞ」
「いいえ、これが俺の仕事なので」
王様は俺に礼を言ってきたが、次には渋い顔をしていた。
「しかし、ヴァンズランドに【炎竜】アルガが居るとは」
そうだった、森の中で会った敵部隊のリーダーが【炎竜】アルガだったのだ。
そしていずれバレることと言っていた。つまり、
「【炎竜】が今後本格的に戦争にヴァンズランド側として参加すると言うことですね」
バーダッツの言葉に皆も頷く。
「だが、それはまだ後回しでも良い。今目の前にある問題は二つ」
そう王様が言った。二つ?
「まず一つはレスタ・フォリスの部隊だが……」
レスタ・フォリスとは先生のことだ。そして先生の部隊は……。
「お前と一人を除いて全滅してしまったな
「……はい、すいませんでした」
「いや、お前は悪くない。気にするな」
先程帰ってきた兵と先生以外は全員殺されてしまっていた。
「新しく兵を補充するとしても全員新兵になってしまうが、良いか?」
「致し方ありません」
「ふむ、では生き残ったその兵の階級は?」
「一等兵です」
「ではその者を連れてこい」
数分後。
「只今参りました。カタル・ニース一等兵です」
「良い」
カタルは敬礼を止め直立した。
「今回は良くやってくれた。その功績を称え、貴様を少尉にまたレスタ・フォリス隊副隊長に命じる」
「………」
「返事はどうした?」
「あ、はい!ありがとうございます!!」
カタルは最初は言葉を失っていたが、バーダッツに言われ慌てて返事をした。
でも言葉を失うのもわかる。一等兵から少尉だものな。
この国の軍の階級は次のようになっている。
軍最高指揮官
大将
中将
少将
大佐
中佐
少佐
大尉
中尉
少尉
曹長
軍曹
伍長
兵長
一等兵
二等兵
となっている。
確かにすごいな六階級特進。
ちなみに先生は少佐である。
「下がって良い」
「失礼しました」
カタルは部屋を出ていった。
「では二つ目の問題だが」
そういえば二つ目の問題ってなんだ?
「ラスティの眷族化だ」
「へ?」
それって何か問題?
「仕方がなかったとは言え、眷族になってしまった限り一生リアナの護衛をしてもらうぞ」
は?
「それってどういう意味ですか?」
「は?」
「え?」
なんか俺以外が不思議な顔をしていた。
「そうか、そう言えばお前はヴァンズランド出身だったな」
「ええ、まぁ」
「なら知らなくても仕方ない」
何を?
「説明して貰えますか?」
「勿論だとも」
眷族になることに何かあるのかな?
「眷族に於ける問題は寿命についてだ。眷族の寿命は絶対主より長くはならない」
「何故です?」
「主が死ねば眷族も死ぬからだ」
マジで?
「更に眷族は一ヶ月主より半径一キロメートル離れると死ぬ」
理不尽だ……。
「だから先程お前は一生リアナの護衛をしてもらうと言ったのだ」
なるほどね。リアナが死ねば俺も死ぬし、離れても死ぬ。だから一生リアナの護衛をするしかないってことか。
俺が少し黙っているとリアナが申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさいラスティ、私の為に眷族になってしまって……」
「別にいいよ」
「……本当にごめんなさい」
「いや、だから……」
リアナは俺が無理をして気を使っていると思っているらしい。本心なのに。
「リアナは気にしなくていいよ」
「でも……」
「俺は寧ろこれで良かったと思ってるし」
「え?」
リアナだけじゃなく他の皆も驚いてる。
「俺は超人になってから生きる意味を待たず、ただ放浪と旅をしていた」
「…………」
「でも眷族となった今、リアナ一生を守る。と言う生きる意味を得た。だから俺はリアナの眷族になったことを心から喜ぶよ」
俺の言葉を聞いてリアナは少し顔を赤くしていた。そんなに恥ずかしいこと言ったかな?
すると王様が愉快そうに笑った。
「ははは!そうか、なるほどな。生きる意味を得たか。ならラスティよ、もう一度頼む。一生リアナの護衛をして貰えるか?」
「招致しました」
「良し。ではリアナも良いな?」
「………………はい」
リアナは少し恥ずかしそうだったが、俺が一生リアナの護衛をする事を認めてくれた。
リアナはチラチラと俺の方を向いて来るが、目が合うとすぐに俯いてしまった。
その反応が可愛らしくて、俺も少し頬が緩んだ。
だが、王様の次の言葉で緩んだ頬が固まった。
「では、今日からラスティとリアナは同じ部屋で生活せよ」
『はぁ!?』
王様の発言に俺とリアナだけでなく、バーダッツと先生も驚いた。
「お父様!何でですの?」
「だって護衛だし、一ヶ月半径一キロメートル以上離れると死ぬし、同じ部屋の方が良いじゃないかと思ってな」
「それでも同じ部屋の必要は無いのでは?」
「違う部屋に居てその間にリアナが襲われたらどうする?」
「それは……今まで危惧していたことですが……」
「だろう?しかしラスティが同じ部屋に居れば安心だ」
リアナとバーダッツが抗議するが、王様に説き伏せられてしまった。
「ラスティも問題無いな?」
「俺は問題……無いことも無いですが大丈夫です。しかしリアナの男性恐怖症はどうするんですか?」
「それは……」
王様は黙ってしまった。
王様が黙って数分後、妙案を思い付いた顔をした。
「そうだラスティ、女装しろ」
「数分考えて出た答えがそれ!?」
「国王様、それはちょっと無理があるのでは?」
「そうかな?」
「そうです」
レスタが最もな意見を出すがバーダッツは違った。
「良いのでは?」
「だろう?」
「バーダッツ!?」
なんとバーダッツはこの案に賛成らしい。
「なんでだよバーダッツ!」
「姫の安全のためだ」
「それはそうたけど……」
もうちょっと他の案は無いのか!?
「ではラスティ、早速女装しろ」
「嫌ですよ!」
「我が儘言うな」
「これ我が儘なの?」
何か理不尽だ……。
するとリアナが、
「ラスティも嫌がってますし、女装はさせなくても良いのでは?」
「しかしリアナよ、お前は大丈夫なのか?」
「いいえ……でもラスティが女装しなくても一緒に生活出来る方法があります」
「本当かリアナ!」
そんな方法があるのか!良かった…女装させられなくて…。
「それはどんな方法だ?」
「それは―――」
それは?
「―――性転換魔法です」
……………………………。
「…………………はい?」
あまりの驚きに思考が飛んだ。
「姫、それはどう言うことで?」
レスタが質問した。
「この前部屋で魔導書を読んでいたときに見つけたのです。その魔法を見て私は思いました。これで男性恐怖症を克服出来るのでは?と」
なるほどね……確かに良い案だけど、
「でもリアナ。その魔法使えるの?」
使えなくては意味がない。というか使えないでくれ!!
「使えますよ」
……。マジ?
「ならそれで良いか……ラスティも良いな?」
王様が俺の了承を求めるが、その前に……。
「リアナ、聞きたいことがある」
「何でしょう?」
「その魔法はいつでも解けるか?」
「はい」
「その魔法は何か他に影響は無いか?」
「はい」
「良し……」
いつでも解けて他に影響が無いのなら良いか。
「わかった。じゃあリアナ、その魔法掛けて」
「わかりました」
リアナが術式を編んでいく。
リアナはかなり術式を編むのが早い。結構複雑に見えるけど、もう半分編み終わっていた。
そして、
「出来ましたわ。さぁラスティ、準備は良いですか?」
「おう」
「では行きますよ」
リアナが術式に魔力を流し、詠唱した。
詠唱が終わると術式から光が出て俺を包んだ。
そして俺を包んでいた光が消えると、
「……あ、成功しましたわ!」
リアナが俺を見てそう言った。
俺も気になって自分の身体を見ると、
「うわぁ……」
下を見ようとすると大きく膨らんだ胸が邪魔で見えなかった。そして思わず出した声も明らかに高くなっていた。
どうやら俺は……本当に女になったようだ……。