眷族に、そして炎竜との出会い
俺は大鎌を肩に担いで細剣を帯刀しているリアナの後をついていった。
俺はリアナの護衛だが今回はリアナ一人の場合を想定しているので俺は手出しできない。
修行ではなく、本当にリアナが危険になった時のために俺はついてきてる。
だが、適役の軍人が端からこの森に待機しているから本当に奇襲に遭うこともないだろ。
来ていたとしても俺達がこの森に入る前に見つかって捕まっているだろうし、捕まってなかったらリアナをこの森に入れないだろうからな。
そんなことを考えていると
カサカサ……
少し先の場所から衣服と葉が擦れる音がした。
このまま進めば奇襲に遭うだろう。
リアナは気付いてないようだったが、これはリアナの修行なのでその事は教えない。
そして音がした場所をリアナが通ろうとした瞬間、
「覚悟!」
予想通りリアナは奇襲を受けた。
もう終わりだな。俺はそう思ったが結果は違った。
奇襲を受けたリアナは落ち着いていて、適役の攻撃を少しだけ動いて回避した。
「っ!」
適役も驚いているようだ
リアナは敵か動揺している隙に細剣を抜いて適役の左胸に向けた。
「………降参」
適役は両手を上げてそう言った。
リアナが細剣を鞘に納めると適役も自分の剣を鞘に納めた。
「では、私は先に戻っています」
「ありがとうございました」
適役が帰っていくのを見届けると俺はリアナに質問した。
「気付いていたのか?」
「はい」
気付いていたんだ、予想以上にリアナって強いのか?。
「何で気付いたんだ?」
「少し物音が聞こえて。最初は勘違いだと思いましたが貴方が少し先の方を見ていたので」
自信はなかったが俺で確信した訳かて
「なるほどね、でもそれって良いのか?」
「何がです?」
「俺で確信したってことは、俺が手伝ったことにならないのか?」
「……多分良いんじゃないですか?」
「まぁリアナが良いって言うんだったら良いけど」
そんな会話をしていると小川に出た。
「少しここで休憩しましょうか」
「そうだな」
大鎌を木に立て掛けてから俺は小川に行った。
「ふー……」
リアナはタオルを小川の水で濡らして顔を拭いていた。
俺はあまり汗をかいていないが暑かったので水が飲めるか確認してから飲んだ。
「何をしているのです?」
「水を飲んでる」
「水を?飲んでも大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ」
リアナは水を手で掬うと恐る恐る口に含んだ。
「ん、……ふぅ、冷たくて美味しいですわ。私、小川の水を飲むのは初めてでした」
「そうか。良かったな、良い経験出来て」
「はい」
その後少し会話をして休憩していると背後から、
ガサガサッ
音がした。しかも奇襲にしては大きい音が。
「?」
リアナも気付いて後ろを向いた。
だんだん音が大きくなってきた。そしてその音の正体が森から出てきた。
『なっ!』
リアナだけじゃなく俺も驚いた。何せ森から出てきたのは、
「なんでヴァンズランド軍がここに?」
ヴァンズランドの軍隊はリアナの質問に答えず、逆に質問してきた。
「お前がリアナ・ターシャだな?」
「そうですが何か?」
「死んでもらう」
リーダーらしき奴の声でそいつの後ろにいた奴等が襲ってきた。
「リアナ、ちょっと借りるぞ」
「え?」
俺の大鎌は取りに行けないので、リアナの細剣を借りると先頭の喉に突き刺した。
「!?」
同じく襲ってきた奴等が動揺している隙に次々と突き刺していった。
細剣は斬ることは出来なくないが細くて軽いので突き刺す方が戦いやすい。
「全員下がれ!」
半分ほど殺したところでリーダーらしき奴が叫んだ。というかあいつがリーダーだよな?
「貴様、何者だ?」
俺の事だよな?
「俺の事か?」
「それ以外に何がある」
だよね。
「俺はリアナの護衛兼眷族、ラスティ。少将だ」
「ラスティ……【死神】と同じ名前か」
本人だけどね。
「そして貴様、今眷族と言ったな?」
「言ったな」
「何故ヴァンズランドを裏切った?」
「別に裏切った訳じゃないけど」
「なら何故悪魔の眷族になっている?」
「それは……」
やべぇ、何も考えてなかった。
「あー…えーと……そう!おれ俺は吸血鬼だから血を吸おうとしたらリアナだったんだ!」
「はぁ?」
苦しすぎるだろ俺!あっちも怪しんでるし。
「確かに吸血鬼は最低でも一週間に一度は吸血しないと衰弱してしまうが……何故そいつの近くにいたんだ?」
俺は超人だから三ヶ月に一度で良いけどね。
「俺は旅をしていてな、最初は仲間もいたが途中で別れてしまったんだ。だからロストドライブに着いたときに誰かに吸血させて貰おうとしたんだけど、白昼堂々と表通りで吸血するわけにはいかなかったから裏道りで人を探していたときに見つけたのが、お忍びで街に出ていたリアナだったんだ。だけど俺はそれを知らずに襲って吸血したから眷族になったわけ。ちなみにその後リアナだとわかって謝ったら、護衛になるなら許すと言われてたから護衛になった。そう言うことだから、わかった?」
「あ、あぁ」
全部嘘だけど。しかしよくこれだけの嘘を一瞬で考えて早口で言えたな、我ながら見事だ。
「だが、それを証明出来るものは?」
リーダーがまだ聞いてくるよ。なんでそんなに気になるの?
「なんでそんなに気になるんだ?」
「自ら眷族になった者なら殺すが、仕方なく眷族になった者なら助けるからだ」
「なるほどね、それで証明だっけ?これじゃダメ?」
そう言うと俺は吸血鬼な特徴である吸血のための犬歯を出した。
「確かに……だがその犬歯が偽物の可能性がある。そこの女を吸血してみろ」
「なっ!?」
リアナを吸血しろって……そんなことをしたら本当に眷族になってしまう。どうしよ?
リアナを見てみるとリアナも理解出来たらしく困った顔で俺を見ていた。
俺は相手に聞こえないように小声でリアナに話し掛けた。
「リアナどうする?」
「どうするって……どうしましょ?」
「吸血するべき?」
「そんなことしたら本当に眷族になりますよ!?」
「わかってるけど、それしか方法無いし」
「おい!何をしている?早くしろ」
苛立った様子でリーダーが叫んできた。
「なんで吸血しなくちゃいけないんだ?」
「さっきも言っただろう。眷族吸血鬼だと証明するためだ。吸血鬼の犬歯で噛まれた者は血は出るが傷はできない。それに眷族なのだから血を吸っても問題ないだろ?」
確かにその通りだけど……
「……わかった。やってやるよ」
「ラスティ!?」
「やっとか」
リアナは驚いていたが、それ以外にどうしようもない事を悟ると静かになった。
俺はリアナに抱きついて、首に犬歯を当て血を吸う前にリアナに聞いた。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……」
口ではそう言うが、身体は震えていた。
「じゃあやるぞ」
「はい……」
ガブッ
「っ!……」
リアナは一瞬痛がったがすぐに大人しくなった。
血を吸い終わり、リアナを放すとリアナが倒れそうになったので慌てて抱き抱えた。
これで俺はリアナの眷族か。
「これでどうだ」
「あぁわかった、ちゃんと証明したな。でお前はヴァンズランドに戻る気はあるか?」
「先までの行動見てそう思う?」
「思わないな」
「ならそういうことだよ」
「なるほど」
「で、どうする?まだ戦うか?」
「いや、止めておこう。俺ならお前に勝てるが他の奴では無理だ」
「お前でも無理だ」
「いや、勝てる。絶対に」
「何故そう言える?」
「それは……」
リーダーは少し考えてから答えた。
「いずれバレることだし良いか」
「早く教えろ」
「あぁ教えてやる、それは俺が超人だからだ。」
「……は?」
どういうこと?超人?こいつが?
「お前の名は?」
「俺の名はアルガ。【炎竜】アルガだ」
【炎竜】アルガ……こいつがそうなのか……。
「俺はこの作戦では手を出すなと言われているのでな」
「なるほど、だから撤退するのか?」
「そうだ」
「なら早くしろ」
「あぁ。撤退!!」
アルガの一言で他の奴等が一斉に撤退していった。
「ではまた会おう。ラスティ少将」
「俺は会いたくないが」
「そうか」
「そうだ」
そう言うとアルガも撤退していった。
「ふー……大丈夫か?リアナ」
「ええ。でも貴方は良いのですか?」
「何が?」
「私の……眷族になって」
「別に」
「え?」
「成り行きでなったとは言え別にお前の事は嫌いじゃないから問題ない」
「そ、そうなのですか?」
「そうだよ、だから気にするな
「………はい」
俺はリアナの頭を撫でた。
リアナは驚いていたが嫌がってはいなかった。
そうしていると森から先生が走って来た。
「大丈夫でしたかお二人とも!?」
「ええ。ラスティのお陰で」
「はぁ……それは何よりです。とりあえず城に戻りましょう」
「わかりましたわ。行きましょうラスティ」
「おう」
そして俺達は城に向かって歩き出した。
その道中いろんな事を考えていた。
この森で俺はリアナの眷族になり、【炎竜】アルガに出会った。
これからの護衛生活、波乱がありそうだ。